人口減少下でも成長は可能―日本に必要なのは、発想の転換だ!
書籍「価値循環が日本を動かす」発売記念セッションレポート

デロイト トーマツ グループは2023年3月20日、日本が再び成長するための道筋を新たな視点から描いた書籍『価値循環が日本を動かす 人口減少を乗り越える新成長戦略』(日経BP)を刊行した。その発売を記念して、書籍の内容を紹介するセッションをデロイト トーマツ グループの所属メンバー向けに実施。
前半では、執筆のコアメンバーであるデロイト トーマツ グループ 執行役・デロイト トーマツ インスティチュート代表 の松江英夫と有限責任監査法人トーマツ マネージングディレクターの勝藤史郎が書籍の中心コンセプトである「価値循環」について解説。後半では、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー大川康宏がヘルスケア領域における価値循環について紹介した。

22世紀型成長モデル「価値循環」とは

日本の大きな社会課題のひとつである「人口減少」が進む中、日本が再度成長するためには何をすればいいのか。DTIが中心となってデロイト トーマツ グループが刊行した書籍『価値循環が日本を動かす 人口減少を乗り越える新成長戦略』(以下、本書)は、「価値循環」という新たなコンセプトをベースとして、そのシナリオを提示している。書籍発売記念セッションでは、まずデロイト トーマツ グループ執行役で本書の中心的執筆者でもある松江が、22世紀型の成長モデルである「価値循環」について説明した。

写真右:デロイト トーマツ グループ 執行役、デロイト トーマツ インスティチュート代表 / 松江 英夫
経営戦略・組織改革/M&A、経済政策が専門。フジテレビ『Live News α』コメンテーター、中央大学ビジネススクール客員教授、事業構想大学院大学客員教授、経済同友会幹事、国際戦略経営研究学会常任理事。
写真左:有限責任監査法人トーマツ マネージングディレクター / 勝藤 史郎
リスク管理戦略センターのマネージングディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。

本書では最初に、1990年代〜2010年代の「失われた30年」の課題を説明する。日本はこの30年の間に、生産年齢人口、総人口という2つの人口のピークアウトを経験している。ただし松江は「人口の減少そのものは、現在の経済にそれほど大きなインパクトを与えるわけではない」という。むしろ「人口減少によってこの先も経済の縮小が続く」という将来不安を人々が抱えていることにより、投資や消費が抑え込まれていると松江は指摘する。

そして日本が抱える「過去の供給過剰」と将来に向けた「需要不足」という構造的課題が重なり、人口増の局面で培ってきた日本の供給体制が温存されている一方、人口減少局面となり需要は減速している。このミスマッチが長期停滞を招いているのだ。

こういった課題を転換するため必要なことは、「人口減少下で新たな需要を生み出す」こと。これを可能にするコンセプトが「価値循環」だ。

「価値循環」とは何か。まず「循環」の部分を見ていこう。「循環」とは、取引頻度を増やす「回転」と付加価値を高める「蓄積」の両方を増やすことで需要を高めていく考え方だ。例えば企業で考えると、売上を増やすためには「価格」と「数量」を高める必要がある。人口が減る中で「数量」を増やすには、1人に提供する頻度を高めればいい。そしてそこで得られたデータをノウハウとして「蓄積」することで価値(価格)を上げていける。この「この2つのファクターをバラバラに上げていくのではなく、回転と蓄積として一連の流れで回していく、これが循環です」(松江)。例えば、世の中にあるサブスクリプションモデルの多くも、この循環の一例だ。

価値循環 = 4つのリソース循環 x 4つの機会

昨今注目されているサーキュラーエコノミー(循環経済)が、「モノ」の循環に焦点を当てた考え方である。これに対して、本書では、「循環」させる対象を、経済活動を構成する「ヒト」「モノ」「データ」「カネ」の4つのリソース(資源)に広げて考える。また、こうしたリソースの循環を「新たな需要」の創出につなげていく上では、将来にわたって市場として広がり得る機会に着目することが重要だ。そうした機会として、本書では「グローバル成長との連動」「リアル空間の活用・再発見」「仮想空間の拡大」「時間の蓄積が生み出す資産」という4つを提示している。

「ヒト」「モノ」「カネ」「データ」という4つのリソースを循環させ、それを4つの機会と掛け合わせることで新たな需要を創出すること、それを本書では「価値循環」と定義している。

人口が減れば需要も減るという従来の発想から転換し、「4つのリソース循環×4つの機会」の価値循環により、将来に向けた新たな需要を掘り起こす。これが供給過剰・需要不足という日本の構造的課題を根本的に解決していくことになる。「これを日本発の新たな成長モデルとしていくことを提言したい」と松江は意気込む。

将来に目を向けると、2050年には世界50カ国以上が人口ピークアウトし、2080年には世界人口もピークを迎えるという予測もある。今後、世界の多くの国が今の日本と同じ課題を抱えることになるのだ。つまり、日本は世界の他の国の人口減少を先取りする先進国なのだ。

「日本が人口減少を前提とした成長モデルを先取りして構築すれば、これからの世界の国々の進むべき方向性を指し示すことが可能になります。本書では、“失われた30年”を“始まりの30年にする”という発想の転換に立って、『価値循環』を22世紀型成長モデルとして提言しています」(松江)

供給重視から需要重視へ

さらに、これまでの一般的な成長戦略との違いについて、エコノミストである有限責任監査法人トーマツ マネージングディレクター・勝藤史郎が説明した。従来の成長戦略は「供給側(企業)の生産性向上」をテーマとしたものが多く、また需要が足りなければ政府主導で支えるという考え方が主流だった。

だが今回の価値循環モデルでは、過去の成長戦略の考え方を大きく転換している、と勝藤。供給ではなく、需要拡大による成長を目指すことが重要で、「その需要は政府主導ではなく、あくまでも民間主導で拡大していくという内容です」(勝藤)。

需要拡大による成長という発想の転換は、タイミング的にも今の時代に合っている。DXやデジタル化、仮想空間の発展、高齢者ニーズの高まりなどで、新しい需要が次々と生まれているからだ。

また「需要は具体的な数字で表すことができる」(勝藤)のもポイントだ。供給サイドの「生産性」という、明確に数値で測ることが難しい指標ではなく、「消費」や「投資」など、需要という具体的で明確な数値を目標としその成果を測ることが可能になる。

需要増にシフトした「価値循環モデル」を回すために、書籍では5つの重要領域(環境・エネルギー、モノづくり、ヘルスケア、観光、地域創生)において、「日本を動かす10の需要創出シナリオ」を提案している。

ヘルスケア領域の価値循環とは

ここで、具体的なシナリオとして、ヘルスケア領域における価値循環について、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー・大川康宏が、書籍内で取り上げた「“長寿”イノベーション・ハブ」と「コネクテッド・ヘルス」という2つのシナリオを説明した。

写真右:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー / 大川 康宏
ライフサイエンス&ヘルスケア業界に20年以上従事。製薬企業を中心に、医療機器企業、保険企業、製造業、テクノロジー企業を支援。イノベーションを通じた持続的成長をコンセプトとし、事業ビジョン、事業戦略、組織変革、R&D戦略、オペレーション変革、DXなどのプロジェクトを手掛ける。

高齢化を強みに変える「“長寿”イノベーション・ハブ」

「“長寿”イノベーション・ハブ」は日本の長寿社会を強みとして世界からリソースを呼び込み、グローバル規模で循環させていくシナリオだ。背景にあるのは、高齢化社会がもたらす「社会保障費の増大」「GDP成長の停滞」「医療者の供給不足」という3つの課題だ。個人の金融資産1700兆円のおよそ5割を60歳以上が保有していることも、経済停滞の隠れた要因の1つになっていると大川は指摘する。

一方、最先端の研究では老化のメカニズムが徐々に解明されてきており、老化は「抗うことができない生命の摂理」から「治療可能な病気」へと捉え方が変化しているという。

「今は健康な状態から10年ほどの闘病を経て寿命をまっとうする、というのが一般的な姿です。しかし老化防止研究が進み、健康なとき老化をコントロールすることで、100~120歳という健康寿命が実現できる可能性があります。今後大きなパラダイムシフトとして『健康寿命=寿命』となることが期待されます」と大川は語る。

では、具体的に老化研究を起点にどのような価値循環を起こすのか。大川は「起点となるのは、データの循環だ」という。日本は世界に先駆けて超高齢化社会に直面する。高齢化率が2025年には約30%、2060年には約40%に達すると考えられている日本は、言い換えれば老化に関連するビッグデータの宝庫だ。高齢者の遺伝子情報や医療データ、生活習慣や腸内フローラのデータなど、膨大なデータを集めることができ、老化研究にとっては世界に類を見ないような充実した環境になるはずだ。

その環境を呼び水として、世界中から老化のトップ研究者やビジネスパーソンを誘致し、日本に老化研究のイノベーション・ハブをつくることでヒトの循環を生み出すことができる。また老化防止薬や、エイジテックとしてスマートホームやアプリ、介護ロボットなどさまざまな製品・サービスが登場すれば、モノの循環も生まれる。こうした老化研究の進展によって健康長寿が延長されることによる社会保障費が削減でき、労働力や消費者人口の維持、イノベーション・ハブへの投資などによりカネの循環も生まれる。

「少子高齢化」という日本の課題は、発想を変えれば強みにもなると大川は説明する。

多様化するヘルスケアの課題を解決する「コネクテッド・ヘルス」

ヘルスケア領域のもうひとつのシナリオが「コネクテッド・ヘルス」だ。ヘルスケア領域には大きく3つの課題がある、と大川はいう。1つは病気になる前の「予防」領域で、ここには科学的なエビデンスが伴わない製品やサービスが多く存在し、生活者は自己責任で選択する必要があるが、何を選択していいか分からないという状況にある。もうひとつが、高齢者の多くが抱える慢性疾患にまつわる課題だ。ここでは早期介入や根治のための新たな治療法の開発、デジタル治療などのより安価な介入手段などを用意することで、治療効果を上げながら医療支出を削減していく必要がある。3つ目は患者の心理・社会的なサポートだ。病気にまつわる心理的なケアをしたり、社会生活をサポートしたりする製品・サービスの充実が求められている、と大川は指摘する。

「病気そのものを根治するイノベーティブな治療法に加え、足元では病気にまつわるさまざまなニーズを解消するサービスが求められているのが現状です。一般生活者自身が、健康増進や病気を予防するために、自分に適した製品やサービスが分からない、という点も課題です」(大川)。

そんな課題を解消するアイデアが「コネクテッド・ヘルス」だ。コネクテッド・ヘルスでは、まず生活者の健康状態が可視化され、そのデータを元に個人に最適なソリューションが提案される。個人にとっては、本当に自分に必要な製品・サービスだけを利用することができる。社会にとっても、現在発生しているムダを省くことで、投資効率が改善する。

「これまで個人の課題に対しては、単一の製品やサービスが提供されていました。これからはコネクテッド・ヘルスによって各プレイヤーが連携し、相互に補完しあうことで個人に最適なソリューションミックスを提供できるようになります」(大川)。さらに集まったデータを起点とすることで、次のR&Dを促すという循環も生まれる、と大川は話す。

「このようにいろいろな領域で価値循環を起こすことで、ヘルスケア産業そのものがさらに発展することができます。それが同時に健康長寿ウェルビーイングの実現にもつながると考えられます」(大川)。

写真左:モデレーターを務めた、デロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社 マネジャー / 川中 彩美

リーディングファームとして価値循環で日本を変えていく

セッションの最後にはデロイト トーマツ グループCEOの木村研一から、次のようなメッセージも寄せられた。

「日本は今、実態以上に悲観的な空気が支配しています。本当に日本はそんなに悪いのでしょうか。そんなとき、私たちは『価値循環』という言葉を見いだしました。発想や視点を変えることで日本はまだまだ成長が可能です。デトロイト トーマツはリーディングファームとして日本全体の経済成長に貢献すべく、日本を覆うこの空気を変えていきたいと考えています。ひとりひとりが自分ごととして、価値循環を創造してほしいと思います」

※本ページの情報は掲載時点のものです。

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