挑戦するスタートアップの未来を変える!大企業との事業提携を生み出すプラットフォームMorning Pitchの世界

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  • 永石 和恵 デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 Morning Pitch運営統括

この記事の概要

  • 日本の経済成長のキープレーヤーはスタートアップ
  • 2024年3月にスタートアップイベント「デロイト トーマツ イノベーションサミット 2024/アントレプレナーサミット・ジャパン」を開催
  • スタートアップを10年以上支援し続けるデロイト トーマツ ベンチャーサポートの永石和恵がこれまでの10年とこれからについて語る
  • スタートアップの民主化を進め、大企業らと連携をしていくことで日本の経済成長に変化が起きると解説する

2024年1月15日にドイツ連邦統計庁が23年通年の名目GDPの暫定値を前年比6.3%増の4兆1211億ユーロと公表し、日本は名目国内総生産(GDP)でドイツに抜かれ、世界4位に転落する可能性があると複数メディアが報じた。これは日本の少子高齢化が進み、生産年齢人口が縮小していることも要因の一つとして挙げられる。

生産年齢人口が縮小している中では、人口が増加していた戦後から高度経済成長期とは異なる成長戦略が求められる。経済産業省では変革のキープレーヤーとしてスタートアップを名指ししている*1。開業率やユニコーン企業の数は米国や欧州に比べ低い水準で推移しているとし、同省は戦後の創業期に次ぐ第二の創業ブームを実現するエコシステム創出を目指している。

2024年3月、スタートアップイベントを開催

デロイト トーマツはこの春、日本のスタートアップを盛り上げる「デロイト トーマツ イノベーションサミット 2024/アントレプレナーサミット・ジャパン」を開催する。これは急成長スタートアップによるピッチや大企業とのマッチングセッション、外部有識者・オピニオンリーダーを招いた講演、さらにはTechnology Fast 50 2023 Japanの授賞式などを含む大規模イベントだ。

「これまで別で行ってきたスタートアップ支援施策なども、このサミットの中に組み込まれて規模は年々大きくなってきています。私達が担当するMorning Pitch Special Editionも昨年の2023年からサミット内で行われています」

そう話すのはデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)の永石和恵Morning Pitch運営統括だ。昨年2023年で10周年を迎えたというMorning Pitchを永石は、直近約7年間一度も欠かすことなく運営し続け、このプラットフォームの責任者として育ててきている。

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 Morning Pitch運営統括 / 永石 和恵

「2013年1月から始まったMorning Pitchはスタートアップと大企業の事業提携を生み出すことを目的とした国内最大級のマッチングプラットフォームです。毎週木曜の早朝に、私たちが設定したトレンドテーマに沿ったスタートアップが、アライアンスやファイナンスニーズを投げかけるピッチを行い、それを大企業や金融機関、VC、メディア、官公庁の方々が聞くといった内容で、登壇後にIPOしたスタートアップは81社にのぼります」

Morning Pitchとは

これまでに1500以上のスタートアップを見てきた永石だが、実は当初はMorning Pitchにオーディエンスとして参加していたという。

「2015年に大手インターネット広告代理店で人事を担当していた際に、社内新規事業プログラムの立ち上げを行っていました。その時にイノベーショントレンドやスタートアップの事業をサーチするためにMorning Pitchに参加しました」

永石は新卒でスタートアップに入社し、人事を担当。創業社長や経営陣とともに、チャレンジしていく人を間近で見続けてきたという。「新卒入社の会社が当時の史上最年少記録で上場を果たし、次の大手ネット広告代理店では新しくチャレンジする人を増やしたいと思っていました」と話す。人事領域で、採用・育成業務の他、社内新規事業を通してイントレプレナーを生み出す施策に携わった。一つの会社に所属し、人事という立場だとチャレンジする人を増やす数も限られてしまう。そんな永石に声をかけたのが、DTVSの斎藤祐馬代表取締役社長だ。

斎藤は公認会計士でもあり、スタートアップが会計士と関わる前に消えていってしまうケースが多いことを憂いていた。日本では時価総額トップ10や100の企業の顔ぶれがほとんど変わっていない。しかし、アメリカや中国では30年前にはなかった企業が上位にいる。今までにない会社が誕生し成長していくことが原動力となり、社会全体が成長している。そこで斎藤は日本でもスタートアップをさまざまな側面で支援しようとDTVSでのスタートアップ支援を推進し、Morning Pitchを立ち上げた。

「私も社会を変えようとチャレンジをする人たちをオーディエンスのころから見てきましたし、一つの会社の中にとどまらない広範囲な支援ができるDTVSで支援をしたいと願うようになっていました」

永石は自身の最初のキャリアがスタートアップだったことを振り返る。「最初の企業は上場前メンバーとして、当時の私の経験値に見合わない重要な役割やミッションを持たせてもらい、端から見たら大変そうに見えたかもしれませんが、新しいテクノロジーで社会を変えようとしている取り組みに参加できることは私にとっては魅力的でした。あのような場をもっとたくさん作り出したいと考えています。つまり、頑張っている人がちゃんと報われる仕組みを作り出したい」

多くのスタートアップが志し半ばに消えていくのを見てきた永石だからこそ、その言葉には力がある。彼女の思いはMorning Pitchで形となり、多くのスタートアップに機会を与えている。その一つの事例を次に紹介しよう。

「Morning Pitch Special Edition」の参加で投資家と出会い、出資につながった

「デロイト トーマツ イノベーションサミット 2024/アントレプレナーサミット・ジャパン」で行われるMorning Pitch Special Editionは毎週行われているMorning Pitchとは異なるという。

「通常のMorning Pitchはモビリティや大企業発ベンチャーなどテーマを決めて、それに沿った5社のスタートアップがピッチを行います。Special Editionは『課題解決の社会的意義や革新性』などの五つの審査基準を設け、その年の優秀者を発表する仕組みになっています」

2023年、Special Editionでオーディエンス賞を受賞した株式会社ファーメンステーション酒井里奈代表取締役は「今回、投資家にも出会え、出資にもつながりました。Morning Pitchには感謝しかありません」と話す。同社は独自の発酵技術で未利用資源を再生・循環させる社会を構築する研究開発型スタートアップだ。

DTVS代表取締役社長の斎藤 祐馬と、株式会社ファーメンステーション代表取締役の酒井里奈氏

酒井氏はMorning Pitchは、スタートアップにとっても学びが多いと話す。

「Morning PitchにはDTVSが最初に行うテーマ概観プレゼンというのがあります。これがすごくいい!具体的には今回のPitchを行うスタートアップを取り巻く環境や最新トレンドなどを解説してくれるんですね。それを受けたような形でスタートアップはピッチができる。これは他のピッチイベントにはありません」

テーマ概観プレゼンによって、オーディエンスは全体の状況をつかむことができ、その上でスタートアップのピッチを聞くのでキャッチアップがしやすい。またスタートアップ側にも次のようなメリットがあるという。

「スタートアップのプレゼンは自分にとっていい話をするのが当たり前。そして、どうしても自分たちの取り組みにフォーカスするので近視眼的になりがちです。デロイト トーマツのコンサルタントの方々のテーマ概観プレゼンによって、自分たちの『今の』立ち位置をあらためて知れたり、再発見につながったりもするんです」

Morning Pitchでも、Morning Pitch Special Editionでも、DTVSがスタートアップのピッチをさまざまな形で支援するという。酒井氏が続ける。

「ただ場所を提供するだけではなく、テーマを決めてピッチができるスタートアップをリサーチして、私たちのような企業を見つけてきてくれることはもちろん、ピッチ前には永石さんや齋藤代表をはじめとするDTVSのチームや、テーマ概観プレゼンを行うDTVSの方々と事前にピッチの内容や資料を見てもらいフィードバックをいただけたりもします」

酒井氏は「これだけの方々に対してアポをとらず、概観から自社のサービスについての話を聞いてもらえる機会はない」とMorning Pitchの魅力を教えてくれた。

スタートアップだけでなく大企業のイノベーターなども支援をすることで変革を目指す

「DTVSではスタートアップだけが台頭すれば世界が変わるとは思っていません。スタートアップ、大企業のイノベーター、官公庁のイノベーターが三位一体となって挑戦者とともに未来を切り拓く仕組みが必要だと考えています」

永石はMorning Pitchの役割はスタートアップを勝たせると同時に、大企業のイノベーターを支援することであると教えてくれた。

「酒井さんのような優れたスタートアップをテーマごとに見ていくことで大企業・VC・官公庁の方々はイノベーションに求められる現在地をキャッチアップできます。いま必要な課題に対してチャレンジするのがスタートアップですから、スタートアップを追っていくことは現在、イノベーションが求められる課題を見つけることにもつながります。三者を支援することで、社会全体にイノベーションの後押しができるということに意義を感じています」

オーディエンス側も「DTVSが紹介するスタートアップなら安心できる」と感じてくれているという。これは10年の活動を経て得た信頼といえる。そのため、スタートアップのピッチ後は多くの具体的なお問い合わせをもらうという。

国内スタートアップの投資額は、DTVSがMorning Pitchを始めた2013年から比べてこの10年で10倍に成長。2022年は8774億円にのぼる*1。日本政府はこれをさらに加速させ、投資額を5年で10倍を目指そうとしている。

「これは私の体感値ではありますが、スタートアップのサービスを私たちが初めて知ってから、一般の方々に広まるまでに5年くらいのギャップがあると思っています」

今では認知度も上がり、一般的によく利用されるようになったサービスも、まだ水面下で苦節しながら外部連携を図るなどチャレンジし続ける創業メンバーの様子を永石は見てきている。

「だからこそ、私たちは『スタートアップの民主化』を目指しています。これまで日本のスタートアップの創業期は限られた人たちだけが知っているものでした。これからは、創業期間から大企業をはじめ多くの方々に知ってもらい、当初からたくさんの人たちと接点を持ってもらいたい。そうすれば、チャレンジする人たちを当初から支援でき、飛躍の機会も増加するはず」

これまで日本のスタートアップで成長した会社は自力で出資を取り付け、多くの人の目に触れる機会を生み出してきた。彼らの力に任せきるのではなく、できることを支援し、成長の機会を早期に創り出し、成功へと導いていくというわけだ。

2024年3月に開催される、「デロイト トーマツ イノベーションサミット 2024/アントレプレナーサミット・ジャパン」でも永石らMoring Pitch事務局と外部審査員が選出した優れたスタートアップファイナリストの7社のピッチがデロイト トーマツのコンサルタントによるテーマ概観と共に見られる。日本のスタートアップ、そして社会課題の「今」をキャッチアップできる絶好の機会となりそうだ。

  1. *1 「スタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速する」(2023年7月、経済産業省

※本ページの情報は掲載時点のものです。

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