現場の熱意が創り出す「監査の未来」(後編) ブックマークが追加されました
ナレッジ
現場の熱意が創り出す「監査の未来」(後編)
シリーズ 監査に進化を 第3回
時代に合わせた新しい監査法人のあり方を模索し、さまざまな施策を推し進めている有限責任監査法人トーマツ。
前編・後編の2回に分けてイノベーションを牽引する経営企画本部長・パートナーの惣田一弘が、現場で活躍する監査・保証事業本部シニアスタッフの河田翔吾、スタッフの永井美彩子に監査のやりがいや課題、そして未来の監査への熱い想いを聞いた。前編はこちら
複雑化する監査業務における、人財の有効活用
惣田:河田さんは、永井さんとは違う視点で、どのような課題を捉えていますか。
河田:監査業務が複雑化する中で、リスクアプローチ(虚偽表示や不正が発生しやすい等のリスクが高い事項に、重点的に監査資源である人員や時間等を充てること)における、人財配置の難しさを感じています。リスクアプローチに基づいて、リスクが高い業務にはその複雑度に応じて適切な人財を配置します。そのリスクを評価する際、リスクに対して保守的に見積もる傾向があると思っています。
監査資源の有効活用という視点から、財務諸表の重要な虚偽表示に繋がるリスクが高い項目とそうでない項目を、より的確に切り分けることが必要です。今後は、そういうリスクの切り分けをこれまで以上に適切に行う取り組みが、より重要になってくるのではないかと考えています。
惣田:社会の変化と同様に、あらゆる点で監査業務が複雑化しているというのは本当にそうですね。私が入社した頃の監査というと、PCを利用した作業は限定的で、企業が作成をした紙の書類・資料を検討することが主な監査業務の一つでした。それが今では、企業の会計システムの仕組みについて理解し、その統制内容を確認するといったように監査の対象となる情報は拡大し、内容も大きく変化してきています。
今後、それら対象がさらに多様化し、これまで以上に複雑化していくことは間違いないでしょう。近い将来、企業の社会的な課題への取り組みや人的資本といった財務諸表に数値で表れない部分を評価し、その価値を保証する役割を私たち会計士が担うことも想定されています。このように、我々が保証する範囲が拡大していく中で、何に焦点をあてて監査を進めていくかは、河田さんがいうように重要なポイントになってきます。
少し話が変わりますが、国立研究開発法人理化学研究所が実施し、日本公認会計士協会がその実施に協力した研究では、2030年に主査や補助者が行う一部の業務が、AI(人工知能)やロボットによって代替されるというデータがあります。
これを悲観的に捉える人もいるかもしれませんが、個人的には前向きな変化だと考えています。なぜなら、会計士が行わなくてもよい作業はAIやロボットなどに任せて、付加価値の高い業務にフォーカスできる時代がやってくるということだからです。
社会やステークホルダーがこれからの監査や保証業務に求めているのは、社会に対するプラスαの価値提言です。我々はその期待に応えるべく、常に瞬発力を持って対応していかなくてはなりません。だからこそ、デジタルの積極的な活用と適切な人材配置を通じて、新しい価値創造に会計士が集中できる環境を作っていくことが必要になってきます。
プラスαの価値を提供することがやりがいに
永井:「被監査会社における、財務諸表にとどまらない情報を保証する未来」というお話には、すごくワクワクします。これまで以上に私たち会計士の存在意義や価値が高まるという期待を感じました。
河田:監査のやりがいでいうと、新たな気づきを被監査会社に提供できることもそうですね。その会社では当たり前のことも、会社から独立した監査人の立場から評価することで、多くのことに気づくことができます。
例えば、財務数値の検証一つをとっても、単純に再計算の結果や外部証憑と整合しているかどうかだけでなく、計算プロセスや、その前提条件等にもフォーカスすることで、何らかの違和感を感じ取ることがあります。その違和感に対して、専門家としての知見を活かした示唆の提供をする機会も増えてきています。これからの監査の新しいあり方にも通じていると考えており、非常にやりがいを感じています。
惣田:社会や企業の変革が進み、これまで以上に会計士に期待される役割が増している今だからこそ、その変化を楽しみ、やりがいをもって監査という仕事に取り組んでもらいたいと考えています。
トップダウンとボトムアップの融合で改革を実現
河田:法人が「新しく変わろうとしている」というモーメンタムは、現場でもひしひしと感じています。一方で、若手の誰もがそれを受け止め自分事として捉えることができているかというと、人により温度差があると思います。これは、法人の想いを理解し受け止めるためのスピードが、人によってまちまちであることも一因だと思います。
上位職のメンバーが法人の想いをしっかりと受け止め、各職層のメンバーへつないでいくことが、「監査業務へのやりがい」を感じられる環境づくりにつながると感じています。
トーマツでは、組織的な変化へのフォローアップをサポートする動きが活発に行われています。組織による積極的なサポートと、多様な人財による現場発の活動が有機的に結合し拡大していくことで、現場のスタッフだけでなく、監査・保証事業本部全体にも大きな影響を及ぼし貢献できると思います。
惣田:河田さんが言う通り、新しいチャレンジには困難が伴います。しかし、これを乗り越えないと、我々の未来はありません。現場が感じる負担感については、丁寧な説明とサポートを行うことで、一緒に課題を乗り越えていきたいと考えています。
情報があふれる現代社会において、何が正しいかを保証する監査・保証業務のニーズが高まっているにも関わらず、会計・監査を学ぼうとする母集団が必ずしも増えていないという話も聞きます。このようなことは、個人的に非常に危機感を感じています。我々はもっと、会計・監査の仕事の魅力を伝えて、監査を担う人財の裾野を広げていかなくてはいけません。そのために、まず、現場のモチベーションややりがいを高め、この変化を共に乗り越えることが大事になってきます。
現場の声にしっかり耳を傾け、改革の実現に向けて丁寧な説明と、浸透に向けた工夫と調整を繰り返す。その積み重ねを通じて、全員が同じ方向を見て進めるようにしていきたいと思っています。
永井:新しいチャレンジに対して、それを推進するグループがすぐに立ち上がるのはトーマツの組織力の強さであり、文化なのではないでしょうか。シニアスタッフのみなさんを中心に、すぐに行動に移せるのは、実は、本質的なところは全員が同じ方向を向いているからだと思います。入社してから多くの時間が経っていない私たちにとってもとてもポジティブに感じ、自信になります。
惣田:河田さんに担当いただいているような、ボトムアップの活動は非常に重要です。事業部が進めるトップダウンの活動と現場発のボトムアップの活動、この両方を上手く融合させていきたいですね。
やりがいのある企業風土を醸成し、監査の社会的価値を高める
惣田:最後に、これからのお二人の目標をぜひ聞かせてください。
永井:私は、会計士として経験を積み重ね、被監査会社から頼られるプロフェッショナルになることが当面の目標です。将来的には、チームをリードし被監査会社に新しい価値を提供できるよう、成長したいです。
そして、トーマツの一員として、時代の変化に合わせて新しいことを学び・取り入れ、より良いサービスを提供していく姿勢を大切にしていきたいと思います。新しい施策に対する勉強会に積極的に参加するというのも、個人ができる行動のひとつです。私をはじめ、現場のスタッフがそのような行動を積み重ねることで、チームの、そしてトーマツ全体の雰囲気が活性化するのではないかと感じています。
河田:私の次の目標は、監査主査として業務に従事できるよう、監査業務と真摯に向き合うことです。そのうえで、5年、10年後には組織を横断して全体を俯瞰できる立場に立ち、直面する課題解決に向け邁進しながら、将来のあるべき監査を常に考えていきたいと思っています。
「未来の監査」がどんなものかは、まだわかりません。だからこそ、まずは目の前の課題と向き合い、その中から気がついたことの提言や、解決に向けた企画や開発、それら改善策を現場に根付かせる活動を通じて、未来に向けた一歩一歩を積み重ねていきたいです。その結果として、将来に向けた道筋が自分の中で明確になると嬉しいですし、トーマツ内では「未来監査のことなら、河田に聞けばいい」と言われるような存在になれるといいなと思います。
惣田:ステークホルダーの期待に応える監査法人であり続けるために、河田さんや永井さんのような個人の挑戦、そして法人としてのチャレンジを積み重ねていかなくてはならないと考えています。
さまざまな施策や取り組みを行っていますが、最終的にそれらを実行するのは人財です。みなさんと力を合わせ、会計士という職業や、監査という業務にやりがいを感じる企業風土や環境をつくっていき、社会から理想とされる法人、業界にしていきたいですね。本日は、ありがとうございました。
※所属や業務内容などはインタビュー当時(2022年8月)のものです。