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アイデアの起点は、現場のニーズ

シリーズ 監査に進化を 第6回

Audit Innovationは、監査の現場をどう変え、監査品質の向上に対しどのような効果を及ぼしているのか。日々監査現場のリアルな声を聞きながら変革に向けた各種施策を推進するシニアマネジャー 植村達生とシニアスタッフ 織戸梨穂に、活動内容とその効果について聞いた。

 

── まずはお二人の仕事内容について教えてください。
 

植村:2007年にトーマツに入社し、主に商社や製造業の監査を担当しています。2014年からは、Audit Innovationの前進的な活動であった、財務・非財務データを様々な属性情報や外部データと組み合わせて分析・視覚化するAudit Analyticsの開発や導入に携わってきました。現在は監査業務も担いながら、トーマツ全体のイノベーションのマインド醸成およびイノベーションに関する仕組の開発・導入支援を担うAudit Innovation(AI)戦略グループでの業務に従事しています。

織戸:私は新卒で地方銀行に就職をしたのですが、会計士になる夢を諦めきれず、退職後2年間試験勉強をしたのち試験に合格、2019年トーマツへ入社しました。現在は、金融機関や食品メーカーなどを中心に、年間5社ほどの監査を担当しています。
 

── Audit Innovationによって、現場の監査というのはどのように変わるのでしょうか
 

植村:私が入社した当時、監査の方法は数十年前に確立された手法がベースとなって進められていたように思います。それが技術の進歩が急速に進み、2010年代になると、ビックデータと称される大量のデータからインサイトを得るデータサイエンスがビジネスにおいて活用されるようになり、トーマツでもこれら技術を監査品質の高度化に資するため活用していこうという機運が高まり、これまでの手法とはアプローチの異なるAudit Analyticsの導入がスタートしました。その後、上場会社の監査業務約800社を中心に活用されるようになり、現在はAI(人工知能:Artificial Intelligence)を使った不正検知などの取り組みも進んでいます。

データ分析技術の向上により、これまで作業量が膨大すぎて諦めていたデータの全量解析もできるようになり、異常点の発見も可能になりました。このように、技術の進歩を監査業務に取り入れることは、監査品質の高度化とアウトプットの高付加価値化に繋がり、大きな価値だと感じています。

有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー 公認会計士 植村達生

「会計士でなくてもできる仕事」は減らしていく

── 監査の現場では、Audit Innovationの推進によりどのようなメリットを享受していると感じていますか
 

織戸:例えば監査手続では、銀行や取引先に「確認状」という書面を送付して残高を確認する業務があるのですが、以前はこの確認状を送付する作業を会計士がやっていました。このような書面を封筒に入れてのり付けし、郵送するといった作業は、会計士でなくてもできます。また、確認状の返送をいただく方々にも、手作業をお願いすることになっていました。

そこで、こういった事務作業について、デジタル化と手作業を集中的に処理することで効率化することを目指し、トーマツはBalance Gatewayを開発しました。現在では、他の監査法人も利用するようなツールになっており、大きな価値につながっていると感じています。

また監査先企業との資料の受け渡しもDeloitte Connectというツールを導入することにより、効率化に大きく寄与していると感じています。以前は被監査会社に提供いただきたい資料をExcelでリスト化したうえで、受領状況やバージョン管理をしていました。また、やりとりはメールが主だったため、宛先間違いの防止のための確認作業、さらには添付するファイル容量などにも気を使う必要があり、作業を管理するだけで多くの工数がかかっていました。Deloitte Connectはこういった資料のやりとりに関連するタスクはもちろん、データ授受まですべてオンラインで管理することができるため、とても助かっています。

こういった新しいデジタルツールや施策を導入する際、被監査会社の方々にも従来のやり方を変えていただくことが必要になる場合もありますが、総じて導入に積極的な印象を覚えます。導入にあたり、新しいツールの使い方を理解いただかなければならないといったハードルもありますが、「今後の作業が、こんな風に変わり良くなるんですね」、と前向きに取り組んでいただくことができています。ツールの使い方など、個別に質問をいただくこともあるので、私自身もマニュアルを事前に読み込み、ツールの特徴を理解した上で対応しています。

有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 織戸梨穂
 

植村:Audit Innovationを推進する立場としては、変化をポジティブに受け止めていただけるのは、ありがたいですね。

Deloitte Connectはデロイト グローバルで開発されたツールで、国内導入時から利用推進リーダーを担当しています。導入当時は、まったく新しいツールということもあり、まずはDeloitte Connectというツールがある、どのようなことができるのかということを「知ってもらう」ところからはじめ、徐々に「使ってもらい」、慣れてきたらさらに高度な使い方を紹介する形で普及を進めました。2020年、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴いリモート業務が進んだことで、Deloitte Connectも一層普及し、内外のユーザーの皆様からその有用性に満足いただけていると感じています。

「ボトムアップ」×「トップダウン」でイノベーションを実現

── 植村さんが所属するAudit Innovation戦略グループについて、どんな活動をしているのか教えてください
 

植村:AI戦略グループは、監査業務も担っているメンバーを中心に構成されており、「ボトムアップ」と「トップダウン」ならびに「トーマツ全体におけるイノベーションマインドの醸成」といった気持ちへ働きかける取り組みの3つの軸で活動しています。

ボトムアップは、監査現場で日々直面する課題を踏まえ、「あったらいいな」を開発していく活動です。トップダウンは、こうして開発したツールを全国各地の事務所に広げていく活動で、Audit Innovation部が開発したツールや仕組みのほか、デロイト グローバルで推進しているツールや施策を普及させる活動です。また、マインドの醸成に向けた気持ちへの働きかけについては、イノベーションを実現するためには掛け声やテクニックだけでは十分ではなく、イノベーションに対する理解とポジティブに取り組む気持ちも重要であり、そのような機運の醸成に関する活動です。
 

── AI戦略グループは、どのくらいの規模の組織なのですか
 

植村:AI戦略グループには11のチームがあり、そのうちボトムアップでの活動を主にするチームが8つ、また、全体を横断した活動を行う3つのコアチームがあります。現在、約80名の体制で運営しています。

一方で、これら中心となるメンバーだけでなく、活動に興味がある方が集うオンラインコミュニティには1,000名以上の方が自主的に参加し、気づきの共有、ツールのより良い使い方、お悩み相談、などなど、日々コミュケーションがなされています。このように監査業務をより良くするために何ができるか、どうしていくべきか考えていく課題意識を常に持ち、多くの人が自らの意思で集まり、解決策を考えていくのはトーマツの文化だと感じます。

今後は、AI戦略の活動をいち早く理解してもらうため、入社まもない新人の方もメンバーとして参加してもらい、変化を加速していく予定です。
 

── 組織として、監査のイノベーションを推進していくという強い意思が感じられますね。
 

植村:はい。さらに施策を加速するため、現場発のアイデアを募集する、「Audit Innovationアイデア総選挙」というオンラインイベントを社内で実施しました。最終的に、20個ほどのアイデアに絞り込み、それらについて4日間かけてプレゼンテーションを行い、「いち早く実現してほしいアイデア」に投票してもらうという企画です。最終的には、約1,500名の社職員がイベントに参加してくれました。

織戸:「あっ、これは私も感じていた課題」だと思ったり、「なるほど、こんな視点があるのか」といった、目から鱗のような気づきを与えられたりするアイデアがたくさんあり、どのアイデアに投票するか悩んでしまいました。

植村:社職員からの投票結果と実現の可能性や優先順位を見極めながら、業務現場での活用に向け、開発等に取り組んでいます。すでに、いくつかのアイデアは実際に完成し、すでに皆さんに利用してもらっているものもあり、現場のアイデアは本当に凄い力を持っているなと感じています。

このように、グローバルやAI部で企画したツールの導入を進めるトップダウン形式、現場からのアイデアを活かすボトムアップ形式の両側面から変革を進めることで、ステークホルダーの期待にいち早く対応できると考えています。

未来の監査に向け、ビジョンをしっかり伝えていきたい

──Audit Innovationで監査の現場が大きく変化していく中、どんな目標をもっていますか
 

織戸:AIDCやツールの活用により事務作業はどんどん減り、会計士でなくてはできない専門的な業務に集中できるようになっています。これはありがたいことですが、一方で専門家としてのプレゼンスを発揮し、品質の高い業務を提供することがより求められるというプレッシャーも感じています。私の個人的な目標としては、何かひとつの分野の知識や経験を徹底的に磨き、高い専門性を持つ会計士になりたいと思っています。

植村:テクノロジーによって標準化・自動化される領域が増えるのは確かですね。一方で、複雑化する企業や社会環境に応じて、会計士の判断や分析が必要な領域は、確実に増えています。専門性を極めることは、プロフェッショナルである会計士に欠かせない条件ですね。
 

──AI戦略の取り組みを通じて、今後、どのようなイノベーションを実現していきたいですか。そのためには何が必要だと思いますか?
 

植村:企業を取り巻く環境が変わっていく中で、イノベーションにより実現していくことは、「監査の有効性を高める」、「監査の効率性を高める」、「監査の付加価値を高める」という3つのことだと思います。AI戦略の活動を通じて法人が目指す姿の実現に向けた戦略と現場の想いをしっかり繋ぎ、着実にステークホルダーの皆様に価値を届けきること、ならびに、トーマツで働く人たちがやりがいを持てるような環境整備につながる取り組みを進めていきたいと考えています。

我々が推進する活動は、常に進化していく事柄を扱います。変化を頓挫させず行い切るために、その過程をしっかりサポートし乗り越えていかなくてはなりません。AI戦略の活動を通じて会計士はこのように価値貢献していくというビジョンを、しっかりと伝えていきたいと思います。

 

 

※所属や業務内容は掲載時(2023年5月)のものです。
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