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中堅企業と共に歩む成長支援の新潮流
Financial Advisory Topics 第41回
中堅企業は地域経済の中核として成長が期待されている。政府も様々な政策を展開し、中堅企業の成長を加速させていく「中堅企業成長ビジョン」が策定された。デロイト トーマツも1,000人規模の専門家体制で、官民連携での中堅企業の全面的な成長支援を強化していく。
Ⅰ. 昨今の中堅企業政策
中堅企業の定義
2024年9月に施行された改正産業競争力強化法により、中小企業を除いた「従業員2,000人以下」の法人が「中堅企業者」と定義された。これまでは中小企業基本法に基づき、「従業員が一定以下」(例えば製造業・建設業・運輸業などの場合、300人以下)、あるいは「資本金・出資金3億円以下」の企業が中小企業と位置付けられ、これを上回る規模の法人が「大企業」と扱われていた。これら大企業と中小企業の間に「中堅企業」が新たに設けられ、約9,000社の該当企業が生まれた。この定義により、中堅企業は政策の対象として明確に位置づけられ、支援の枠組みが整備された。
中堅企業政策を重視する理由
なぜ政府は中堅企業を重視するのか。中堅企業は地域経済の中核的な存在であることが多く、国内投資・国内売上を拡大し、国内経済の成長に最も大きく貢献すると見られている。また、中堅企業は、海外拠点の事業を拡大しつつも、国内拠点での事業・投資も着実に拡大し、国内経済の成長に最も大きく貢献している。特に地方における良質な雇用の提供者としての役割が大きく、経営力の高い中堅企業による中小企業のM&Aを通じたグループ全体での生産性向上や賃上げを図る主体としても重要な役割を担っていることがわかる。
Ⅱ. 中堅企業成長ビジョン
政府は今後の中堅企業支援政策を軌道に乗せるため、中堅企業の役割や課題、官民で取り組むべき事項をまとめた「中堅企業成長ビジョン」(以下「ビジョン」)を策定した(令和7年2月21日公表)。ビジョンでは、中堅企業の特性を踏まえた日本経済の成長において期待される役割を整理し、中堅企業政策によって実現を目指す目標(KGI・KPI)の設定もなされた。さらに、主要な業種別の成長要因を分析し、成長パターンを類型化した上で、自律的成長を阻む、中堅企業固有の経営課題を解決するために官民で取り組むべき事項を整理している。本ビジョンは国家戦略として、経済産業省だけでなく国土交通省や農林水産省、総務省など各省庁と連携して作成されたものであり、今後は経済産業省にとどまらず各省庁で中堅企業をターゲットにした政策が展開されていくことが想定されている。
中堅企業の特性と期待される役割
中堅企業は、中小企業の規模を超え、成長とともに経営の高度化や商圏の拡大・事業の多角化といったビジネスの発展が見られる段階の企業群であり、以下の3つのポテンシャルを有している。
① 成長余力: 一定の資金や人材、技術、信用、ネットワーク等の経営資源を保有しており、更なる投資によって、その強みを異なる(特に、近接する)市場・地域や製品・分野に拡げていく成長余力を有している。
② 変化余力: 経営者の強いオーナーシップや外部資本の受入や若手への事業承継等によって経営方針の転換を図り、小回りを利かせて変化に柔軟に対応する充分な変化余力を有している。
③ 社会貢献余力: 地域・取引先(顧客・サプライヤー)・パートナーのネットワーク等の幅広い主体との深いリレーションを有しており、社会貢献活動を通じてブランド力を高め、事業活動の継続・強化に還元することができる社会貢献余力を有している。
これらの特性を活かし、中堅企業には以下の3つの役割が期待される。
① 更なる国内投資拡大: 高付加価値型の産業や機能を日本国内に残していくような、大胆な設備投資・研究開発投資・人材投資等に取り組むことが期待される。
② 良質な雇用の担い手: 各地域で賃金水準のプライスリーダーとなっている中堅企業による大胆な賃上げ、高待遇での人材確保、事業承継等に課題を有する中小企業の合併・集約を通じた成長分野への円滑な労働移動等が期待される。
③ 幅広い波及効果の創出: 各地域での域外販売額・域内仕入れ額の双方において高いシェアを有しており、その事業拡大は、取引先への波及を含めた幅広い波及効果をもたらすことから、成長の果実を自社に留まらず幅広い主体へ広げていくことが期待される。
中堅企業政策によって実現を目指す目標
KGI(重要目標達成指標)
中堅企業政策によって実現を目指す最終的な目標達成指標を付加価値と定義しており、中堅企業が生み出す付加価値の増大を通じ、政府全体の経済成長目標(2030年代以降も実質1%を安定的に上回る経済成長)の達成に繋げていく。「中堅企業成長ビジョン」では中堅企業について、日本全体の2030年以降の経済成長の目標の4倍(実質4%/年)以上の成長(付加価値の増加)を実現することをKGIとした。
KPI(重要達成度指標)
中堅企業による付加価値の増大は、①既存の中堅企業自身の省力化等の大規模投資による労働生産性向上等(内部効果)、②中堅企業が中小企業等をグループ化(M&A)することによる生産性向上効果(再分配効果)、③中小企業が中堅企業に成長する効果(参入効果)の3つの要素に分解することができる。各指標についてのKPI(重要達成度指標)は以下の通りである。
① 中堅企業の1,000者(約1割)以上が時間当たり労働生産性を平均10%/年以上向上
(現状、過去5年の時間当たり労働生産性の伸び率が10%以上/年の中堅企業数は471者)
② 中堅企業による毎年のM&A数を1,000件/年以上(約倍増)
(現状:中堅企業の過去5年の平均M&A 数は502件/年)
③ 中堅企業数をのべ2,000者以上(約2割)増加
(現状:中堅企業の直近年の純増数は88者/年)
今後の中堅企業政策では上記のKGI及びKPIと整合するよう、横断的施策や業種別・地域別に講じられる個別施策ごとの目標が設定され、施策の費用対効果も検証(EBPM)される方針である。
中堅企業固有の課題や成長経路
中堅企業は、事業内容も、活躍の舞台も国内から海外までと態様は様々であるがゆえに、成長の経路も大きく異なる。成長している中堅企業の実例に則して類型化を行い、課題を特定した上で、経営資源及び政策資源を集中的にあてがっていくことが有用となる。中堅企業が多く存在する主たる事業セグメントにおいて、成長パターンの組み合わせと課題の形は次のように整理できる。
① グローバル展開の成長パターンと課題
技術的優位を磨き続け、ニッチ分野を含む成長市場において、グローバルに製品を供給し、世界シェアを維持・拡大していくことを目指す。研究開発、生産能力増強のため、中小企業とは異なる大規模な投資が必要だが、大企業に比して投資余力・情報収集力が劣る。こうした大規模投資には中長期計画が不可欠だが、経営者の意思決定に係る組織基盤・成長意欲、経営企画・管理人材の不足も課題である。
② 内需主導型の成長パターンと課題
組織の大規模化により上昇する経営管理コストについて、システム統合・データ共有/活用等(DX)による高度化・コストダウンや、分社化・権限委譲等のグループ経営による管理体制強化を通じて収益力強化を目指す。M&Aによって事業拡大に必要な技術や販路を外部から調達することも有効な手段である。経営に必要な人材・ノウハウやM&A時の案件発掘・資本力・資金調達が不足することが多い。継続的なM&Aの実行に躊躇してしまうという課題が存在し、ファンドの資金供給規模も海外ファンドと比べると小さい。
中堅企業の自律的成長を阻害する課題と官民で取り組むべき事項
中堅企業の自律的成長環境に必要な、構成要素を(1)中堅企業の成長ビジョン・ガバナンス(2)伴走支援者のソフトインフラという2つに大別した上で、それぞれの課題と、それを解消するために官民で取り組むべき事項を整理する。最終的には、中堅企業が政府の支援策に依らずとも伴走支援者とともに価値創造の好循環を生み出す成長環境を整備していく。(2)については、企業の成長にかかる主要な経営課題である、①資金調達、②人材確保、③M&A、④イノベーション、⑤海外展開、⑥専門家活用、⑦GX・DXを取り上げる。
これらは、業種横断的な課題として集約したものであり、中小企業から中堅企業へと発展していく過程で経営課題は変容していくことから、この観点からも、以下のとおり、売上規模に応じた経営課題と打ち手を整理した。
中堅企業政策 (METI/経済産業省)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/chuuken/index.html)
Ⅲ. 中堅企業に求められる守りから攻めの姿勢
中堅企業への注目度がかつてなく高まり、「中堅企業成長ビジョン」が公表されたことにより、政府は成長意欲の高い企業への支援により力を入れることを明確にした。
これまでの弱者救済のための支援から、強者育成へ政策展開を拡げる転換期を迎えることとなり、成長志向型の中堅企業にとっては千載一遇のチャンスとなる。
補助金・助成金に加え、規制緩和・税制優遇・事業環境整備の他に、資金調達・人材確保・M&A・研究開発・海外展開など、幅広い支援が期待されている。個社向けの点の支援のみならず、中堅企業を核としたサプライチェーン強靭化や地域産業群の形成等に係る面的支援への期待もかかる。こうした政府の支援策を効果的に活用することで、より成長を加速化させることができる。
中堅企業成長ビジョンの重点6本柱をもとに、今後、中堅企業や支援団体等が活用可能な施策として打ち出されている主なものは以下の通りである(令和7年3月現在)。
中堅企業政策 (METI/経済産業省)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/chuuken/index.html)
一方で、多くの中堅企業は人材確保や海外展開などの重要性を認識しつつも、大企業に比べ経営資源や自力での対処には限界があり“自前主義からの脱却”が課題となっている。中堅企業の持続的な成長には、積極的に外部の伴走支援者を活用しながら、リスクをとった大胆な成長投資の実践が必要である。最終的には、政府の支援がなくとも、十分な成長環境が形成されることを目指している。
デロイト トーマツでは、具体的な政策化からプロジェクト組成を通じた現場実装、政策評価を通じたフィードバックまでを一気通貫で実施可能な体制を構築している。
その中で中堅企業の更なる成長を支援するため、総勢1,000人規模の体制を整えた。財務・会計、税務、リスクなどの専門家や技術、生命科学、政策分析などの知見を活用。国内約30拠点で経営・人材戦略やM&A(合併・買収)、資本政策などで助言や伴走支援に当たる。「官」「民」双方の論理を熟知した専門人材が、中堅企業を核とする地域活性化支援も視野に、政府や自治体、地方銀行、投資ファンドとの連携を強化し、官民連携を通じた中堅企業支援に中長期的に取り組んでいる。
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