最新動向/市場予測

国内主要都市宿泊市場動向シリーズ 第七回 ニセコ

北海道ニセコスノーリゾートの宿泊市場動向を概観し、冬季の集客のみならず閑散期の動向にも注目しました。

ニセコはその雪質や規模から世界的に高く評価されており、2031年度以降の北海道新幹線開通によりアクセスも大幅に向上します。近年では夏季に避暑や自然を楽しむために長期滞在する日本人客が増えており、閑散期対策としても注目されています。本稿では国内リゾート地の閑散期対策について、当社の知見を交えた提案を行っています。

外部環境の進展

ニセコエリアは、北海道道央西部にある日本有数のスノーリゾートだ。東を国立公園羊蹄山、北を国定公園ニセコアンヌプリといった山岳に囲まれた自然豊かなエリアで、4つのゲレンデにより構成されている。世界の主要スキー場と比較しても引けを取らず、その雪質、規模、多彩なコース構成などから世界的にも高く評価されている。全コースを堪能しようとすれば、1週間程度は滞在したい広大なスノーリゾートだ。

アクセス面では、2031年度以降に開通見込の北海道新幹線が倶知安駅-札幌駅間を約15分で、倶知安駅-東京駅間を約4時間半で結ぶ計画となっている。北海道新幹線開業後は新千歳空港より鉄道を利用し札幌駅経由にて約1時間で倶知安駅に行くことができるようになる。世界の主要スキー場が最寄りの空港より2時間以上要することと比較すれば、アクセスにも秀でたスノーリゾートとなるものと考えられる。また、車でも2027年度開通予定の後志自動車道の延伸により、札幌から倶知安まで約90分で到達可能になる見込みである。

ニセコ宿泊市場動向概観

観光入込客数が過去においては夏季の方が多い傾向にあったが、コロナ禍以降は冬季(2023年4月および2023年12~2024年3月の5カ月間)の客数が増加してきている。2023年度の夏季(2023年5月~11月の7カ月間)は1,624千人(月平均232千人)、冬季(2023年4月および2023年12~2024年3月の5カ月間)は1,880千人(月平均376千人)であり、冬季に集中するものの夏季にも一定程度の観光入込がある。

 

月別の観光入込客数を見ると、8月と1月にピークがあり、11月が最も少なくなる。2023年度は8月に340千人の入込、1月には573千人の入込を記録した。当社によるヒアリングによればスキー場周辺宿泊施設の年間平均稼働率は約60%前後と聞いており、年間を通じた収益力強化のためには夏季の稼働および販売単価の向上が求められる。近年では夏季に避暑や自然を楽しむために、本州都市部より月単位で滞在する日本人客が見られるようだ。

 

宿泊客延数は、コロナ禍以降は徐々に回復している。特に外国人宿泊客延数は、2023年度には2018年度を超え約740万人に達し、日本人も含めた年間宿泊客延数の半分を占めるようになった。なお、外国人の宿泊はほぼ冬季に集中しているものと推察している。

 

供給面では、新規ホテル開発に関して、建築コストの上昇や自治体の規制等により着工中止や延期が想定され、2028年までの5年間での確度の高い開発は合計1,000室強と予想している。インバウンドの引き続きの増加により需給バランスは大きくは崩れないと考えている。

 

リゾートにおける閑散期の取り組みについて

先にも述べたが、夏季に避暑や自然体験を目的とした日本人の長期滞在ニーズ(1カ月~3カ月程度)が現れてきているようだ。現地ヒアリングによれば、本州ナンバーのマイカーを持ち込みドライブしている様子も見られるとのことで、時間的・経済的に余裕のある層が滞在しているものと考えられる。

一般的にマウンテンリゾートにおいては、夏季の滞在を促すためにマウンテンバイクやジップラインなどアウトドアアクティビティを中心とした集客コンテンツを検討することが多い。アクティブに体を動かすことを目的とするような、例えばファミリーなどの客層には的を射たコンテンツとなるが、そのような客層は長くて3~4日程度の短期滞在であるケースが多く、宿泊施設ではチェックイン・チェックアウトや客室清掃などの頻度が多い割には消費単価も伸びないケースが多いものと思われる。

一方で先に触れた長期滞在する客層は宿泊施設でのフロント業務や清掃業務などは少なくなり、また滞在期間が長いほど消費単価は伸びると考えられる。リゾートにおける閑散期にはこのような長期滞在客をターゲットとすることも、ひとつの策ではないだろうか。

最近、当社に寄せられる相談でも、中長期滞在用の施設開発に関するものが多くなっている。その分野のソフト面での取り組みは、ちょうどリゾートでの長期滞在でも当てはまると思われ、筆者のアイデアベースとなるが下記のようなサービスを想起している。

  • 長期滞在客はゆったりとした時間軸で過ごすため、時間をかけて徐々に心身の緊張をほぐしていくウェルネスコンテンツの充実が求められる。さらに追求すれば地域医療機関との協力により、自然のなかでの健康維持や増進、そして健康回復や人間ドックなど、ヘルスツーリズムや医療ツーリズムの要素を加味することも可能だろう。
  • 長期滞在を前提とすれば、サービスアパートメントやホテルブランデッドレジデンスを参考に、滞在者同士やホテルスタッフとの親密なコミュニケーションを促す仕組みづくりがあってよいと思う。例えばワイン試飲会や星空観賞会、地域のお祭りに参加する等のイベント開催で滞在者同士のコミュニケーションを増やすこと、またコンシェルジュサービスとしては滞在客個々人の名前や家族構成などを把握したうえでの日々のサポートを想定している。コンシェルジュのこのような親身なサポートは、短期滞在のホテルでは難しく、長期滞在ならではのサービスとなり滞在客にとって大きな安心感とホテルブランドへの深い信頼につながると考えられる。

ニセコは今や日本を代表するリゾートとして世界的な集客力を有し、様々な客層を取り入れ成長している。冬季の集客力に注目は集まるが、夏季の滞在客の動きにも注目することで、今後の国内リゾートにおける閑散期対策の参考になるのではないだろうか。

(2025/1/)

【執筆者】
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー ホテルチーム
マネジャー 大堀 顕司

※上記の社名・役職・内容等は、掲載時点のものです。

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