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デロイト トーマツ 金融ビジネスセミナー2023

激動の時代 – 金融サービスの新たな機会と課題

デロイト トーマツ グループは、「激動の時代 – 金融サービスの新たな機会と課題」をテーマに掲げ、今年で9回目となる「デロイト トーマツ 金融ビジネスセミナー2023」を2月14日に開催しました。

本セミナーでは、金融におけるWeb3のポテンシャルについての紹介のほか、金融領域のオープンイノベーション、気候変動の次に注目されているTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)について、インパクトと繋がりがもたらすリスクマネーの循環、サイバーレジリエンスの実現に向けた要諦などが紹介され、経済安全保障における金融の役割と課題なども議論されました。以下に、講演内容のサマリーをご紹介します。

The New FS Growth Calculus

デロイト グローバル
金融インダストリー グローバル リーダー DC Principal Neal Baumann

パンデミック発生前の金融市場では、成長に課題はあるものの、個別のテーマや成長トレンドを捉えることができていた。しかしコロナ禍により課題が増幅、複雑化し経営の舵取りも難しくなっている。持続可能な成長を促すためには、個別に課題やリスクを捉えるだけでなく、それらがどのように関連しているのか、1つの要素を解決するだけでなく相互作用する微積分の様に見ていく必要がある。

その中でもまず重要なのが「顧客」だ。顧客を増やし、社会から求められる環境対応や持続可能性とのバランスも取りながら顧客の利益を確保、しっかりとケアすることで結果として組織や業界の成長に繋げることができる。

また、人材市場での差別化も重要だ。特に日本は高齢化社会においての雇用課題がある。持続可能な成長を果たすには、この「人材」問題を克服する必要がある。

その他デジタルツールや最新のテクノロジーを駆使し、組織やオペレーションのレジリエンス、変化に対する適応能力を高め、機敏性もつけていく事が大切である。これらのハーモニーを奏でるオーケストラの様に動かしていくべきだろう。

Neal Baumann

金融におけるWeb3のポテンシャル

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 
スマートファイナンス / ブロックチェーン領域リーダー パートナー 赤星 弘樹

メタバースやWeb3が注目を集めている。本セッションでは、これらの技術が金融機関に与える影響やビジネス拡大の機会について紹介された。

Web3とは、ブロックチェーンサービスを利用してデータの保有や管理を可能にする新しい世界観のこと。暗号資産や分散型金融(DeFi)、NFTなどのサービスが有名だ。従来のWeb 1.0、Web 2.0では、データはプラットフォーマーが一括して管理しており、ユーザーに所有の概念はなかった。Web3では、パブリック型ブロックチェーンなどを活用し、グローバルな共通データベースを構築し、個人や企業がデータを共有することでデータの所有を主張できる。Web3はポテンシャルが高い反面、注意点もある。

キーワードは、①関連規制の整備、②既存企業の参入、③マス向けのサービス開発の拡大だ。

暗号資産は、大手取引所の倒産などの問題があったが、国内市場では規制やガバナンスが厳格で影響は最小限に抑えられた。NFTもバブル期が過ぎ、実用的に使われるようになっている。Web3とは別の技術であるメタバースも、市場が拡大する中で、アイテムの管理や決済などでWeb3との相性がいいとされている。

日本政府は、Web3、DAO、NFTなどを成長戦略の柱として検討している。企業の投資も増え、サービス提供も進んでいる。Web3の利用が今後さらに勢いを増していく可能性が高く、海外ではDAOをつかった保険に必要な機能を提供するスタートアップが登場している。日本でも金融機関や地方創生などの領域でWeb3が活用される可能性が高い。

一方、世界的には規制強化や整備も進んでいる。それらの規制を理解しつつ、NFTの活用や、ウォレットを安全に管理・流通させるためのインフラを構築・推進する必要がある。デロイト トーマツ グループもデジタル庁のWeb3.0研究会で調査・とりまとめを務め、クリエイターエコノミーを創出すべく、NFTマーケットの構築を開始している。官民の健全な発展に貢献できるよう活動を続けていく。

赤星 弘樹

金融領域のオープンイノベーション

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 
グローバル&インダストリー事業部事業部長 シニアマネジャー 大平 貴久

本セッションでは、オープンイノベーションの変革、今後の展望、拡大領域、金融業界での実例などが紹介された。

オープンイノベーションとはイノベーション創出手段の1つ。企業が外部の知見や技術を取り入れ、新しい価値を生み出す取り組みだ。成果の効果測定が難しいという課題はあるが、注意点を抑えてうまく活用すれば、売り上げアップやコスト削減に効果を発揮する。

2015年頃、日本では、これまで金融機関がワンストップで提供してきたサービスを分解し、特定の分野に特化したスタートアップが登場し始めた。ユーザーのニーズを解消するサービスが次々と生まれている。大企業とフィンテックベンチャーが協業して新たなビジネスモデルを構築する動きが活発化し、シームレスなサービスを提供する企業も増えている。

こういったサービスが増える中、「今後、金融機関には何の機能が残るのか」が注目されている。

サービストレンドやテクノロジーによって引き起こされる金融の変化は、世界中で共通している。そのため、国内外のマーケット情報を収集し、日本の規制と照らし合わせながら、どのようなサービスが実現できるかを分析することが重要である。また、コーポレートベンチャーキャピタルの立ち上げや、ベンチャー企業との協業も重要なポイントだ。オープンイノベーションという方法に頼らず、自社内で新しい事業を開発する方法や、オープンイノベーションプラットフォームを活用する方法もある。

スタートアップが行っているのは一点突破型のサービスを提供することが多い。バリューチェーンの特定部分に特化する傾向があるため、適切なプレイヤーをコーディネートする存在が必要となる。その役割を金融機関がサポートしながらバリューチェーンを組み上げていく必要がある。

大平 貴久

気候変動の次に注目されているイシュー:TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)について

有限責任監査法人トーマツ 
FSIリスクアドバイザリー マネージングディレクター 森 滋彦

Deloitte Australia
Asia Pacific & Global Nature Lead, Director Guy Williams

本セッションでは、①国際動向とTNFDの概要、②金融機関におけるTNFD初期対応のイメージ、③金融機関の取り組み事例が語られた。

現在、あらゆる分野やあらゆる地域において、ビジネスが「自然」に依存していることが分かっている。つまり、自然が破壊されればビジネスも破壊されることになる。

TNFDはオープンイノベーションのプロセスによって作られ、現在テストパイロット版を公開している(3月にはバージョン0.4がリリース予定)。これには、様々なセクターやサブセクター、技術的なガイダンスが取り込まれ、企業や機関が「自然」をどのようにマッピングし、管理することができるかを理解するのに役立つ。

TCFDとTNFDのフレームワークは、ガバナンス、戦略、リスクとインパクトの管理、指標と目標などが共通しているが、TNFDのフレームワークにはダブルマテリアリティの視点や地域性の考慮のほか、ステークホルダーエンゲージメントに関する項目が追加されている。TNFDは、単にリスクを管理するための予防ではなく、新しい市場、財務インセンティブ、自然管理に伴う新しい評価などを企業に促すためにも活用できる。TNFDの理解を深めることは、行動プランへの第一歩となりえる。

自然資本は企業活動に広範な影響があり、自然資本の喪失は企業の破綻と繋がるため、金融機関も無関係ではなく、自然資本への対応が必要だ。気候変動では温室効果ガス削減が目標だが、自然資本では土壌、淡水、海水など、それぞれの領域で指標と目標が設定される予定であり複雑かつ多様だ。このような状況のもと、金融には、バーゼル等で国際的な協調を過去に実施してきたことから、自然資本のコントロール分野でも国際的な貢献が期待されている。

2023年9月のTNFD文書最終化までは自然資本の複雑性に鑑み十分な初期対応が必要であり、予め金融機関は重要リスクの特定と方針策定が必要だ。重要なリスクを特定した後は、対象セクターで自然資本に関する様々なテーマから一般的なテーマを選んだ後、それを具体的にどう実行するかは、さらにテーマを掘り下げて地域の影響など考慮して方針や対応策を策定する必要がある。

重要性の特定では、通常、インパクトの大きさと発生確率の双方を考慮する。インパクトの大きさは、財務的なインパクトを定量化することが望ましいが、自然資本に関する定量化は容易ではなく定性的な評価も許容されている。発生確率はシナリオ分析に基づくが自然資本のシナリオは開発中であり今後の議論を待つ必要がある。

日本の金融機関でもアセットマネジメント業界が先行する形でTNFDに関する開示を進めているケースもある。各金融機関は、自然資本取組対応の必要性、国際社会からの期待、複雑かつ重層的な対応の必要性、および機会としての側面に十分留意しながら、早期の検討を行う必要がある。

森 滋彦
Guy Williams

インパクトと繋がりがもたらすリスクマネーの循環

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 金融事業副部長・パートナー 早竹 裕士

本セッションでは、投資の循環活性化を目的として金融機関が解決すべき問題を「教育」「ライフサイエンス」「パブリック」の事例を交えて紹介。①リスクマネーや金融機関の投資・融資の活性化、②新しい資金需要の生み出し、③成果ベースのリターンなどがポイントとなる。

現在、国内需要が低下している中で金融機関は重要な役割を果たすことが求められている。オープンイノベーションなどの手段を活用しつつ、バリューチェーンを設計し、資金需要を創出する取り組みが注目されている。そこで注目されているのがソーシャルインパクトボンドだ。

この30年、家計の預金は増え続けているが、家計への貸し出しはあまり変化していない。同様に、企業も預金が増加しているのに貸し出しは減少している。米国では無形資産への投資が進んでいるが、日本では進んでいないため事業成長担保権を導入するなどの検討がなされている。つまり、金融機関を媒介した資金サイクルが上手く回っていないのだ。その原因は、将来への不安や投資への抵抗感と考えられる。

投資家の不安を解放するビジネスをデザインすることで、こういった課題を解決することもできる。そのショーケースとして、いくつかの事例が紹介された。

ヘルスケア×金融の事例では、ベンチャーや患者団体、政府や行政機関への働きかけを通じ、製薬・創薬の促進や創薬イノベーションの支援が紹介された。

初期の資金調達において、IT系や金融系などの分野と比較すると、ライフサイエンスはファイナンスの支援が得にくいとされている。研究期間が長く、成功率が低いためだ。このため、ライフサイエンス分野のベンチャー企業に資金を提供するのは難しい。このような状況から、デロイト トーマツ グループのような橋渡し役が必要になっている。

パブリック×金融については、まちづくりソーシャルインパクトボンドの事例が紹介された。無形資産である「まちの賑わい」を評価する事例だ。ソーシャルインパクトボンドのスキームでは、民間事業者がリスクを押し付けられず、資金提供者も成果に基づく支払いを受けることができる。

日本のソーシャルインパクトボンドでは、成果に応じた支払いよりも、必要経費の支払いが大きくなるように設計されたものが多い。こういった評価指標を設定するときは、ロジックモデルを作成する必要がある。最終的には、価値向上を目指すことができるが、これだけでは測定が難しく、時間がかかりすぎるという課題がある。そのため、定量的な指標を工夫する必要がある。

また、中央集権的な管理体制やステークホルダーが多いため、透明性の欠如が起きやすいという課題もある。これらについては、Web3時代のソーシャルインパクトボンドへと移行していく必要があるだろう。

早竹 裕士

サイバーレジリエンスの実現に向けた要諦

デロイト トーマツ サイバー合同会社
金融インダストリー パートナー 野見山 雅史

金融機関においては、攻めの戦略だけでなく、守りの戦略も不可欠な要素だ。現在、サイバー攻撃の脅威は日増しに増加し、あらゆるビジネスに深刻な打撃を与えている。今後金融機関がデジタルトランスフォーメーションを推進するうえでは、サイバーセキュリティ対策は「守り」に止まらず、「攻め」を実現するためのイネーブラーといえる。本セッションでは、そのような状況において、レジリエンスを実現するためのポイントを紹介した。

これまでのサイバーセキュリティは情報漏洩の脅威が注目されていたが、昨今は「事業継続」の脅威が高まり、オペレーショナルレジリエンス対応においても不可欠な要素となっている。

具体的にはランサムウェアによるサイバー攻撃が増加している。多くの企業や組織が被害を受け、バックアップデータも暗号化され復旧が困難になるケースも発生している。ランサムウェア攻撃に起因し、海外のエネルギー企業が事業停止しエネルギー供給に影響が出るケース、国内上場企業でシステム停止により四半期報告書提出が遅延するケース、国内金融機関でオンライン取引システムが停止し、サービスの長期停止およびシステムのリプレースに至るケース等が発生している。サイバー攻撃によって深刻なダメージを受ける可能性は避けることが難しいため、リカバリー能力を強化することが重要となっている。

金融庁が公開している「金融分野におけるサイバーセキュリティに関する取り組み方針」でも、サイバーレジリエンスの強化について言及されている。金融機関ではすでに多くの対策が施されているが、リカバリー能力の強化は対策が進んでいない領域といえる。バックアップデータの保護、リカバリテスト、訓練などが必要になっている。海外の金融機関ではオペレーショナルレジリエンスの規制が先行していることもあり、これらの取り組みが進んでいることから、日本の金融機関は大きく遅れをとっている状況である。

今後、取り組みを進めていくためには、重要業務およびそれを支えるシステムやデータを特定し、保護およびリカバリー能力を強化する必要がある。デロイト トーマツ グループは、これらの取り組みに関する支援を行っている。

野見山 雅史

経済安全保障における金融の役割と課題

デロイト トーマツ グループ
上級顧問 佐々木 清隆

現在、ロシアによるウクライナ侵攻から1年経過したが解決が見えず、また我が国を取り巻く安全保障環境も激変した。本セッションでは経済安全保障における金融の役割と課題を検討する。

金融を取り巻く環境が大きく変わってきた。90年代から金融ビジネスのグローバル化と金融機関等プレーヤーのグローバル化が進み、日本の金融機関も本格的に海外展開を開始した。2010年以降、デジタル化によってグローバル化がさらに進んだ半面、米中摩擦や安全保障を巡る懸念も高まり、加えてコロナ禍での物理的なロックダウン等で、世界の分断化(フラグメンテーション)が生じている。この中で、金融機能として本来の目的である社会課題の解決や経済や企業の成長のほか、「武器としての役割」も重視されるようになっている。

「武器としての金融」という考え方は、1990年代からのマネーロンダリング対策(AML)が典型である。当初は「麻薬撲滅」や「組織犯罪対策」の議論から始まったが、2001年の米国同時テロ以降、テロ資金対策(CFT)や大量破壊兵器の保有に関する拡散金融対策(CPF)も追加された。さらに経済安全保障の中での金融の役割も議論されている。

金融規制監督は金融システムの健全性と安定性を確保することが主目的だが、金融機関のサイバーセキュリティ対策や第三者委託先管理等では既に経済安全保障の視点が盛り込まれている。昨年成立した経済安全保障推進法では、金融機関は電力や通信等と並ぶ基幹インフラの一つとしてITシステムの強靭性の確保が求められている。金融機関のITシステムは従来から金融庁のモニタリングの対象であり大きな問題はないと思われるが、例えばシステムのベンダー等に経済安全保障上問題がないか等について追加的な検討が必要となり、その点では金融庁と国家安全保障局との連携が必要になる。

2001年米国同時多発テロ事件後のテロリスト等に対する金融制裁と現在のロシア等に対する金融制裁では取り巻く環境が激変している。まず、デジタル化の進展により暗号資産等金融制裁の尻抜けになるような取引等が増加している。またESGやサステナビリティの議論の進展により、従来のように政府から示された経済制裁対象リストに沿った金融制裁を行うだけではなく、自社のステークホルダーに広く配慮してリスクベースでの対応が求められる。

ロシアに対する経済制裁に伴う新たなリスクにも注意する必要がある。エネルギー・食糧価格の上昇、金利の上昇に伴う市場リスク、信用リスクのほか、将来的にドルの地位が低下することが懸念される。さらに世界の分断の加速により金融取引のパターンが変化し、リスクの所在、波及経路などを把握するのが困難になる可能性がある。

金融機関に期待されているのは、内外環境変化の中でのビジネスモデルの再検討である。デジタル化、コロナ禍、インフレ、ウクライナ危機などの変化を踏まえて持続可能なビジネスモデルと経営戦略を考える必要がある。またビジネスモデルが変わると、リスクの種類や度合いも変化する。信用リスク、市場リスク等の財務関連リスクだけでなく、経済安全保障等非財務のリスク管理が重要になってくる。

佐々木 清隆
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