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グループ通算制度の重要ポイント(第2回)グループ通算制度開始・加入の取扱い

月刊誌『会計情報』2023年1月号

デロイト トーマツ税理士法人 公認会計士・税理士 大野 久子

はじめに

令和2年度税制改正により、連結納税制度について抜本的な見直しが行われ、令和4年4月1日以後開始事業年度についてグループ通算制度として改組されることになった。会計情報2022年12月号では、グループ通算制度の重要ポイント(第1回)として基本的な仕組みと損益通算を取り上げたが、本稿では、(第2回)として、グループ通算制度開始・加入の取扱いについて解説する。

連結納税制度の適用を開始する場合、又は子法人が新たに加わる場合には、一定の場合を除き、保有資産の時価評価や繰越欠損金の切捨てが行われていたが、これらの対象になるかどうかの判定について、グループ通算制度では組織再編税制の考え方が取り入れられることになり、制度が大きく変更されることになった。

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2. 開始の手続き

(1) 承認申請

グループ通算制度の適用を受けようとするときは、親法人及び全ての完全支配関係のある子法人の連名で承認申請書を国税庁長官あてに提出し、その通算制度適用の承認(以下「通算承認」)を受けることが必要である(法法64の9①)。

その提出期限は、適用を開始しようとする事業年度の開始の日の3か月前の日までとなっている(法法64の9②)。

国税庁長官は、その親法人に対し承認の処分を通知することとされており、その場合には、子法人についても承認の処分があったものとみなされる(法法64の9④)。なお、適用を開始しようとする事業年度の開始の日前日までに承認又は却下の処分が無かっときは、その開始の日において通算承認があったものとみなされる(法法64の9⑤)。

(2)  新設親法人の特例

親法人の設立事業年度又はその翌事業年度からグループ通算制度の適用を開始しようとするときは、承認申請期限の特例が設けられており、以下が承認申請期限となる(法法64の9⑦)。

  • 設立事業年度から開始するとき:設立事業年度開始の日から起算して1か月を経過する日と、設立事業年度終了の日から起算して2か月前の日とのいずれか早い日
  • 設立事業年度の翌事業年度から開始するとき:設立事業年度終了の日と翌事業年度終了の日から起算して2か月前の日とのいずれか早い日

 

3. 加入の手続き

(1) 子法人加入の届出

内国法人について通算親法人による完全支配関係が生じた場合には、その加入子法人は通算子法人として通算グループに加入する。この場合、当該通算子法人について、その完全支配関係が生じた日に通算承認があったものとみなされる(法法64の9⑪)。

そのため、改めて当該加入子法人についての承認申請を行う必要はないが、加入後遅滞なく、通算親法人が届出書を提出することが必要である(法令131の12③)。

(2) 加入時期の特例

通算親法人との間に完全支配関係が生じた場合、その加入子法人は、原則として、完全支配関係発生日の前日までで事業年度を区切り、完全支配関係発生日からグループ通算制度に参加することになる(法法14④一、③)。

ただし、加入子法人が事業年度の中途において通算親法人との間に完全支配関係を有することになった場合には、加入時期の特例が設けられており、一定の書類を提出した場合には、完全支配関係発生日の前日においては事業年度を区切らず、完全支配関係発生日の前日の属する月次決算期間の末日又は会計期間の末日までの期間を加入子法人の事業年度とし、その末日の翌日からグループ通算制度に参加することができる(法法14⑧)。

連結納税制度においても、加入日の前日の属する月次決算期間の末日までで区切る特例は存在したが、グループ通算制度への改組に伴い、会計期間の末日までとする特例が追加されている。

当該特例を適用するためには、仮に当該特例の適用がないものとした場合に加入日前日の属する事業年度に係る確定申告書の提出期限となる日までに一定の書類を提出することが必要である。

なお、当該一定の書類を提出した場合に、完全支配関係発生日の前日の属する月次決算期間の末日又は会計期間の末日まで、通算親法人による完全支配関係が継続しない場合には、その子法人については通算承認は生じない(法法14⑧二)。

 

4. 制度適用開始・加入時の時価評価・欠損金等の取扱いの概要

連結納税制度の適用を開始する場合、又は子法人が新たに加わる場合、納税単位が変わるため、参加する法人はその直前に保有資産の時価評価を行って含み損益を清算し(時価評価課税)、繰越欠損金の切捨てを行うこととされていた。

ただし、連結親法人にとっては納税義務者であることに変更はないことから、上記の時価評価課税・欠損金切捨ての対象外とされ、連結納税に持ち込んだ繰越欠損金は「非特定連結欠損金」として、連結グループ全体の連結所得から控除できることとされていた。

また、子法人についても、一定の要件を満たす特定連結子法人(グループ内新設子法人、適格株式交換等完全子法人など)については、時価評価課税・欠損金切捨ての対象外とされていた(ただし持ち込んだ繰越欠損金についてはその法人の個別所得を上限に控除される「特定連結欠損金」になる)。

グループ通算制度においては、開始・加入時の時価評価課税・欠損金切捨ての対象について、組織再編税制の考え方を取り入れることにより、その対象が縮小された。すなわち、従来は主に100%保有化した手法により時価評価課税・欠損金切捨ての有無が判断されていたのに対し、グループ通算制度においては、時価評価課税については適格組織再編と同等の要件を満たしているかどうか等により判定され、欠損金切捨てについても、支配関係が5年超継続しているか、共同事業性があるかどうか等により判断されることになる。この変更により、従来は株式買取りにより100%保有化した場合には必ず時価評価課税・欠損金切捨ての対象となっていたものが、要件を満たせば対象外になり得ることになった。

ただし、親法人については、連結納税制度においては納税義務者として特別扱いされていたのに対し、グループ通算制度への移行により基本的に子法人と同列に扱われることになった、すなわち、時価評価課税・欠損金切捨ての対象外になるためには一定の要件を満たすことが必要になるほか、繰越欠損金を持ち込めた場合にも特定欠損金とされ、親法人の所得を上限に控除をすることになった(SRLYルール(注))。

(注)欠損金の繰越控除を自己の所得の範囲内に限定するルールをSRLYルール(Separate Return Limitation Year Rule)と呼ぶ。

 

5. 制度適用開始時の時価評価・欠損金等の切捨て

制度適用開始時の保有資産の時価評価及び含み損益・開始前欠損金の制限の対象と内容は次の図のとおりである。

グループ通算制度開始における時価評価・欠損金の取扱い

(1)  親法人による完全支配関係継続が見込まれていない場合

まず、親法人による完全支配関係(親法人を判定する場合はいずれかの子法人との間の完全支配関係)の継続が見込まれているかどうかを判定する。見込まれていない場合には時価評価対象法人となり、具体的な取扱いは次のとおりとなる。

■ 開始直前事業年度において、時価評価資産の評価損益を計上する(法法64の11①)
■ 開始前の繰越欠損金は切り捨てられ、通算制度開始後に損金算入することはできない(法法57⑥)

(2) 時価評価対象外法人について、親法人との支配関係が5年超である場合

次に、(1)の判定で時価評価対象外法人とされた法人について、親法人との支配関係(親法人を判定する場合にはいずれかの子法人との間の支配関係)が5年超であるかを判定する(法法57⑧、法令112の2③一)。なお、親法人や当該法人等が5年内設立法人である場合には、その設立日等から支配関係があるかどうか等で判定することとされている(法令112の2③二)。

そして、5年超の判定となった場合には、以下の取扱いとなる。

■ 開始時の時価評価については対象外
■ 開始前の繰越欠損金の切捨てはなく、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
■ 開始後にも特に含み損使用の制限等なし

(3) 時価評価対象外法人について、共同事業性がある場合

次に、(2)の判定で支配関係5年以下とされた法人については、共同事業性の有無を判定する(法法57⑧)。

次のイ~ハの要件又はイとニの要件に該当する場合には、共同事業性ありと判定される(法令112の2④)。

イ) 通算前事業(当該法人又はその完全支配関係がある法人の通算承認日前に行う事業のうちのいずれかの主要な事業)と親法人事業(親法人又はその完全支配関係がある法人の通算承認日前に行う事業のうちのいずれかの事業)との事業関連性要件
ロ) イの各事業の事業規模比5倍以内要件
ハ) 通算前事業の事業規模拡大2倍以内要件
ニ) 通算前事業を行う法人の特定役員継続要件

共同事業性ありの判定になった場合には、(2)の支配関係5年超の法人と同じ取扱いとなる。

■ 開始時の時価評価については対象外
■ 開始前の繰越欠損金の切捨てはなく、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
■ 開始後にも特に含み損使用の制限等なし

(4) 時価評価対象外法人で、支配関係5年以内、共同事業性なしで、支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合

(3)で共同事業性なしとの判定になると、繰越欠損金・含み損の通算制度開始後の使用について、何らかの制限を受けることになる。

まず、支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合には、次の取扱いとなる。

■ 開始時の時価評価については対象外
■ 支配関係発生前に生じた繰越欠損金及び特定資産譲渡等損失から成る繰越欠損金は切捨て(法法57⑧)
■ 開始後の特定資産譲渡等損失につき損金不算入(支配関係発生から5年経過日と開始から3年経過日とのいずれか早い日までの制限)(法法64の14①)

なお、減価償却費の額の割合が30%を超え、多額に償却費の額が生ずる事業年度に該当する場合には、以下の取扱いとなる。

■ 開始時の時価評価については対象外
■ 支配関係発生前に生じた繰越欠損金及び特定資産譲渡等損失から成る繰越欠損金は切捨て(法法57⑧)
■ 開始後の特定資産譲渡等損失につき損金不算入かつ、開始後欠損金につき損益通算の対象外とされた上で、特定欠損金とされる(支配関係発生から5年経過日と開始から3年経過日とのいずれか早い日までの制限)(法法64の6③)

(5)  時価評価対象外法人で、支配関係5年以内、共同事業性なしで、支配関係発生日以後に新たな事業を開始していない場合

(4)の新たな事業を開始した場合に該当しない場合には、開始時の時価評価や繰越欠損金の切捨てはないが、開始後に実現した一定の含み損について損益通算の対象外とされる制限が課される。

■ 開始時の時価評価については対象外
■ 開始前の繰越欠損金の切捨てはなく、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
■ 開始後に特定資産譲渡等損失に計上され、これが欠損金を構成した場合には、損益通算の対象外とされた上で、特定欠損金とされる(支配関係発生から5年経過日と開始から3年経過日とのいずれか早い日までの制限)(法法64の6①②)

なお、減価償却費の額の割合が30%を超え、多額に償却費の額が生ずる事業年度に該当する場合には、以下の取扱いとなる。

■ 開始時の時価評価については対象外
■ 開始前の繰越欠損金の切捨てはなく、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
■ 開始後の欠損金につき損益通算の対象外とされた上で、特定欠損金とされる(支配関係発生から5年経過日と開始から3年経過日とのいずれか早い日までの制限)(法法64の6③)

 

6. 子法人加入時の時価評価・欠損金の切捨て等

次に、通算グループに子法人が加入する場合についての保有資産の時価評価及び含み損益・加入前欠損金の制限の対象と内容は次の図のとおりである。

通算グループ加入における時価評価・欠損金の取扱い

(1) 時価評価対象になるかどうか

まず、新たに通算グループに加入した子法人が以下のいずれかに該当するかどうかを検討し、該当する場合には時価評価対象外法人となる(法法64の12①、法令131の16③④)。

■ 通算グループ内新設法人
■ 適格株式交換等により加入した株式交換等完全子法人
■ 適格組織再編成と同等の要件に該当する場合

A)完全支配関係発生直前に通算親法人による支配関係がある法人で次の全てに該当するもの
 ・通算親法人による完全支配関係の継続要件
 ・当該法人の従業者継続要件
 ・当該法人の主要事業継続要件
 ・非適格株式交換等により加入した株式交換等完全子法人については、対価要件以外の適格要件(法法2十二の十七イ~ハ)のいずれかを満たすこと

B)完全支配関係発生直前に通算親法人による支配関係がない法人で次の全てに該当するもの

 ・通算親法人による完全支配関係の継続要件
 ・子法人事業(当該法人又はその完全支配関係のある他の法人の完全支配関係発生日前に行う事業のうちのいずれかの主要な事業)と親法人事業(通算グループ内のいずれかの法人が完全支配関係発生日前に行う事業のうちのいずれかの事業)との事業関連性要件
 ・上記各事業の事業規模比5倍以内要件又は子法人事業を行う法人の特定役員継続要件
 ・当該法人の従業者継続要件
 ・当該法人の主要事業及び子法人事業の継続要件
 ・非適格株式交換等により加入した株式交換等完全子法人については、対価要件以外の適格要件(法法2十二の十七イ~ハ)のいずれかを満たすこと

これらに該当しない場合には、時価評価対象法人となる。具体的な取扱いは次のとおりである。

■ 加入直前事業年度において、時価評価資産の評価損益を計上する(法法64の12①)
■ 加入前の繰越欠損金は切り捨てられ、通算制度加入後に損金算入することはできない(法法57⑥)

(2) 時価評価対象外法人について、通算親法人との支配関係が5年超である場合

次に、(1)の判定で時価評価対象外法人とされた法人について、通算親法人との支配関係が5年超であるかを判定する(法法57⑧)。通算親法人との支配関係が5年超である場合には、以下の取扱いとなる。

■ 加入時の時価評価については対象外
■ 加入前の繰越欠損金の切捨てはなく、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
■ 加入後にも特に含み損使用の制限等なし

(3) 時価評価対象外法人について、共同事業性がある場合

次に、(2)の判定で通算親法人との支配関係が5年以下となった法人については、共同事業性の有無を判定する(法法57⑧)。

次の要件の全てに該当する場合には、共同事業性ありと判定される(法令112の2④)。

■ 次のイ~ハの要件又はイとニの要件に該当するもの

イ)通算前事業(当該法人又はその完全支配関係がある法人が通算承認日前に行う事業のうちのいずれかの主要な事業)と親法人事業(通算親法人又はその完全支配関係がある法人の通算承認日前に行う事業のうちのいずれかの事業)との事業関連性要件
ロ)イの各事業の事業規模比5倍以内要件
ハ)通算前事業の事業規模拡大2倍以内要件
ニ)通算前事業を行う法人の特定役員継続要件

■ 加入の直前に通算親法人との支配関係がない法人で上記(1)B) 適格組織再編成と同等の要件に該当するもの
■ 株式交換等により加入した株式交換等完全子法人で共同で事業を行うための適格株式交換等の要件のうち対価要件以外の要件に該当するもの

共同事業性ありの判定になった場合には、(2)の支配関係5年超の法人と同じ取扱いとなる。

■ 加入時の時価評価については対象外
■ 加入前の繰越欠損金の切捨てはなく、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
■ 加入後にも特に含み損使用の制限等なし

(4) 時価評価対象外法人で、支配関係5年以内、共同事業性なしで、支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合

(3) で共同事業性なしとの判定になると、繰越欠損金・含み損の通算制度加入後の使用について、何らかの制限を受けることになる。

まず、支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合には、次の取扱いとなる。

■ 加入時の時価評価については対象外
■ 支配関係発生前に生じた繰越欠損金及び特定資産譲渡等損失から成る繰越欠損金は切捨て(法法57⑧)
■ 加入後の特定資産譲渡等損失につき損金不算入(支配関係発生から5年経過日と加入から3年経過日とのいずれか早い日までの制限)(法法64の14①)

(5) 時価評価対象外法人で、支配関係5年以内、共同事業性なしで、支配関係発生日以後に新たな事業を開始していない場合

(4) の新たな事業を開始した場合に該当しない場合には、加入時の時価評価や繰越欠損金の切捨ては無いが、加入後に実現した含み損について損益通算の対象外とされる制限が課される。

■ 加入時の時価評価については対象外
■ 加入前の繰越欠損金の切捨てはなく、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
■ 加入後に特定資産譲渡等損失に計上され、これが欠損金を構成した場合には、損益通算の対象外とされた上で、特定欠損金とされる(支配関係発生から5年経過日と加入から3年経過日といずれか早い日までの制限)(法法64の6①②、64の7②三)

なお、減価償却費の額の割合が30%を超える場合には、以下の取扱いとなる。

■ 加入時の時価評価については対象外
■ 加入前の繰越欠損金の切捨てはなく、特定欠損金とされる(法法64の7②一)
■ 加入後の欠損金につき損益通算の対象外とされた上で、特定欠損金とされる(支配関係発生から5年経過日と加入から3年経過日とのいずれか早い日までの制限)(法法64の6③、64の7②三)

 

7. 完全支配関係の継続が見込まれない子法人株式の時価評価

グループ通算制度の適用開始又は通算グループへの加入をする子法人で、通算親法人との間に完全支配関係の継続が見込まれないものの株式については、租税回避防止等の観点から、株主において時価評価により開始又は加入直前の事業年度に評価損益を計上することとされている(損益通算をせずに2か月以内に通算グループから離脱する法人を除く)(法法64の11②、64の12②、法令131の15⑤、①八、131の16⑥、①六)。

以 上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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