四半期レビュー基準の期中レビュー基準への改訂、東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューへの実務対応(基準確定後更新) ブックマークが追加されました
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四半期レビュー基準の期中レビュー基準への改訂、東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューへの実務対応(基準確定後更新)
月刊誌『会計情報』2024年6月号
公認会計士・米国公認会計士 津曲 秀一郎
目次
- 1. 期中レビュー基準の改訂内容
- 2. レ基報第1号の改正内容と新設されたレ基報第2号の内容
- 3. 新設された東証ガイダンスの内容
- 4. 保証実2400及び保証実2400Q&Aの内容
- 5. 従来の四半期レビューと対比した、期中レビューの実務対応上の留意点
本誌2024年4月号(Vol.572)(以下「4月号」という)において、「四半期レビュー基準の期中レビュー基準への改訂、東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューへの実務対応」と題し、各基準・指針等の公開草案の内容、東京証券取引所1(以下「東証」という)の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等の期中レビュー(以下「東証短信レビュー」という)の制度の概要及び想定される実務対応について解説を行った。その後2024年3月27日に企業会計審議会から「四半期レビュー基準の期中レビュー基準への改訂に係る意見書」(以下、「意見書」という)が公表され、翌日には日本公認会計士協会(以下「JICPA」という)の指針等も確定公表されるとともに、東証においても有価証券上場規程等の改正が公表された。
本稿では、各基準・指針等の公開草案から確定公表の内容を踏まえ、4月号の内容を更新し、一部については記載を追加している。なお、紙面の都合上一部については記載を省略しているので、必要に応じて4月号を参照されたい。内容面での更新及び追加の主な内容は以下のとおりである。
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期中レビュー基準及びJICPAの報告書・実務指針・実務ガイダンスは、2024年4月1日以後開始する会計期間に係る期中財務諸表の期中レビューから適用され2、事業年度の途中からでも適用となることに留意する必要がある。3
一連の改訂及び改正並びに実務指針等の新設により、レビューに係る基準等の体系は以下の【図1】のようになる。
1. 期中レビュー基準の改訂内容
(1)期中レビュー基準のねらい
企業会計審議会は、意見書の「一 経緯」において、「四半期レビュー基準について、改正後の金融商品取引法における中間財務諸表に対するレビューに加えて、四半期開示義務が廃止された後の四半期決算短信におけるレビューも含め、年度の監査人が行う期中レビューの全てに共通するものとする方向で改訂の検討を進める」こととしたとしている。
その結果、「二 主な改訂点とその考え方」に記載のとおり、「期中財務諸表の種類や結論の表明の形式を異にするレビューも含め、年度の財務諸表の監査を実施する監査人が行う期中レビューの全てに共通するものとして、四半期レビュー基準の名称を期中レビュー基準に改める」こととされている。
四半期レビュー基準は、改正前の金商法に基づき、一般に公正妥当と認められる四半期財務諸表の作成基準に準拠した四半期財務諸表に対する適正性の結論表明のみを対象として記載されていた。これに対し、意見書では、期中レビューの目的の改訂として、「監査基準の枠組みとの整合性にも十分配意し、かつ、現行の四半期レビュー基準の趣旨を踏まえ、改正後の金融商品取引法における中間財務諸表に対するレビューのような一般目的の期中財務諸表を対象とした適正性に関する結論の表明を基本としつつ、一般目的の期中財務諸表又は特別目的の期中財務諸表を対象とした準拠性に関する結論の表明が可能であることを明確にした」としている。また、「期中財務諸表を構成する貸借対照表等の個別の財務表や個別の財務諸表項目等に対する期中レビューの結論を表明する場合についても、期中レビュー基準が適用される」としている。この結果、期中レビュー基準が対象とする期中財務報告の範囲は拡大している。
なお、意見書の「三 不正リスク対応基準との関係」では、不正リスク対応基準は期中レビューに適用されないこと、不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況を識別した場合等には、必要に応じて、期中レビュー基準に従って追加的手続を実施することになるとされているが、監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書にも類似の内容が四半期レビューについて述べられており、新たな対応を求めるものではないと解される。
このように、期中レビュー基準が年度の監査人が行う期中レビューの全てに共通する基準となった。これを受けてJICPAは「期中レビュー基準」を実務に適用するに当たって必要となる実務の指針として、金商法の要請で実施する期中レビュー及び金商法の要請以外で実施する期中レビューに適用する二つの報告書(レ基報第1号及びレ基報第2号)を公表している。
(2)一般目的/特別目的、適正性/準拠性の区分
4月号において、一般目的/特別目的、適正性/準拠性の結論の形式及び相互関係について説明している。内容については、4月号の本項を参照されたい。
(3)適正性の結論と準拠性の結論の保証水準
4月号において、適正性の結論と準拠性の結論の保証水準について、「いずれも限定的保証業務であり、保証水準に違いはない」という点に関してその根拠を論じている。内容については、4月号の本項を参照されたい。なお、4月号の本項で示した保証業務リスクの定義に関する参照規定は、レ基報第2号第15項(2)に変更されている。
(4)その他の期中レビュー基準関係の改訂内容
監査に関する品質管理基準が期中レビューに準用できるように、同基準の第十六における「四半期レビュー」を「期中レビュー」に置き換える改訂が行われている。
期中レビュー基準における実施基準は、四半期レビュー基準から大きな改訂は行われておらず、四半期レビュー基準で求められていた四半期レビュー手続が、期中レビュー基準でも同様に期中レビュー手続として適用されることになると考えられる。
期中レビュー基準における報告基準について、準拠性及び特別目的における期中レビュー報告書の記載に関する改訂内容は以下の通りである。
- 監査人が準拠性に関する結論を表明する場合の報告形式として、作成された期中財務諸表が、当該期中財務諸表の作成に当たって適用された会計の基準に準拠して作成されていないと信じさせる事項が全ての重要な点において認められなかったかどうかについての結論を表明する(第三報告基準1)。
- 特別目的の期中財務諸表に対する期中レビュー報告書には、会計の基準、期中財務諸表の作成の目的及び想定される主な利用者の範囲を記載するとともに、期中財務諸表は特別の利用目的に適合した会計の基準に準拠して作成されており、他の目的には適合しないことがある旨を記載する。
- 期中レビュー報告書が特定の者のみによる利用を想定しており、当該期中レビュー報告書に配布又は利用の制限を付すことが適切であると考える場合には、その旨を記載する(第三報告基準14)。
2. レ基報第1号の改正内容と新設されたレ基報第2号の内容
(1)レ基報第1号とレ基報第2号の異同
JICPAは「『期中レビュー基準』を実務に適用するに当たって必要となる指針として、金商法の要請で実施する期中レビュー又は金商法の要請以外で実施する期中レビューに適用する、次の二つの報告書を公表する」(東証ガイダンスQ2)とし、レ基報第1号とレ基報第2号を公表している。2つの報告書の目的と内容について異同は以下の通りである。
(2)レ基報第1号の改正内容
レ基報第1号は、金商法に基づく中間財務諸表等の期中レビューを対象とした実務の指針である。四基報の内容から、用語の変更(四半期レビュー→期中レビュー、四半期財務諸表→中間財務諸表、前会計期間→前事業年度)、第1及び第3四半期レビューが無くなったことによる所要の調整、期中レビュー基準への参照の変更の調整、要求事項と適用指針に分けた記載など新起草方針に従った調整などが行われている。しかし、四基報から大きな改正は行われておらず、四基報で求められていた四半期レビュー手続が、原則としてレ基報第1号でも同様に期中レビュー手続として適用されることになると考えられる。
なお、期中会計期間が属する連結会計年度の監査において、改正前の監基報600を適用している場合は、レ基報第1号が参照する監基報600の規定は、改正前の規定を参考にする。
(3)新設されたレ基報第2号の起草方針と概要
期中レビュー基準改訂前は年度の監査人が期中財務諸表のレビュー業務を任意で実施する場合には、保証実2400が適用されている。レ基報第2号は、金商法に基づく中間財務諸表等の期中レビュー以外の、年度の監査人が行う期中レビューに適用する実務の指針であり、東証短信レビューにはレ基報第2号が適用される。
JICPA「期中レビュー基準報告書第1号(改正四半期レビュー基準報告書第1号)及び期中レビュー基準報告書第2号の概要」4.に基づいて以下説明を行う。
レ基報第2号は、国際監査・保証基準審議会の国際レビュー業務基準第2410号「事業体の独立監査人が実施する期中財務情報のレビュー」(以下「ISRE2410」という)を基礎としている。ただし、ISRE2410は2008年2月以降改訂がなされていないため、レ基報第2号では、要求事項と適用指針に区分する等の修正を実施している。
レ基報第2号は期中レビュー基準の実務の指針であるため、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められた場合の期中レビュー手続や期中レビュー報告書の記載事項など、期中レビュー基準で規定されている内容を盛り込んでいる。また、レ基報第2号は保証実2400の要求事項を取り込んでいるが、適用指針等の詳細は取り込んでおらず、品質管理基準を参照することとしている。これは、年度の監査人は独立性を含む職業倫理に関する規定及び品質管理の基準を遵守していると考えられるためである。
なお、レビュー業務を実施する者は保証実2400では「業務実施者」とされているが、レ基報第2号では「監査人」が使用されている。
(4)期中レビュー契約の新規の締結又は更新時(依頼時)の留意点
期中レビュー契約の新規の締結又は更新にあたっては、監査人は、財務報告の枠組みが受入可能であるかどうかを判断する(特別目的の期中財務情報の場合は、期中財務諸表の作成目的と想定利用者を理解することを含む)必要がある。また、適用される財務報告の枠組みに準拠して期中財務諸表を適正に表示すること(準拠性の枠組みの場合は期中財務諸表を作成すること)について、経営者が責任を有することを認識し理解していることについて経営者の合意を得ることとされている(レ基報第2号第32項)。さらに、期中レビュー契約書又は適切な形式の合意書により、適用される財務報告の枠組み、期中レビュー業務の目的及び範囲、並びに期中レビュー報告書の想定される様式及び内容について記載することとされている(同第39項)。
(5)期中レビュー手続及び期中レビュー報告書
レ基報第2号には、期中レビュー基準、保証実2400やISRE2410の内容が盛り込まれた。その結果明示された期中レビュー手続に関する規定としては、例えば以下が挙げられる。
- 内部統制の理解(レ基報第2号第50項及び第52項)
- 年度監査における内部統制を含む企業及び企業環境の理解の期中レビューにおける更新及び期中財務諸表の作成に係る内部統制の理解(同A30項)
- 内部統制を含む企業及び企業環境の理解を活用した期中レビュー手続の実施対象となる特定の事象、取引若しくはアサーションの識別(同A31項)
- 構成単位の監査人が関与した期中財務諸表等の重要性及び構成単位の監査人の品質管理の状況等に基づく信頼性の程度を勘案して、構成単位の監査人の実施した期中レビュー等の結果を利用する程度及び方法を決定すること(同63項)
ただし、これらについては四半期レビュー基準及び四基報に規定されていた内容であり、四半期レビューと同様の手法により任意の期中財務諸表のレビューを監査と一体的に効果的・効率的に実施されていたものと考えられ、年度の監査人が実施するレビューの実務に大きな変化をもたらすものではないと考えられる。
期中レビュー報告書については、期中レビュー基準の報告基準に従ったものとなっている。【図3】のとおり、保証実2400に基づくレビュー報告書では結論が下方に記載されていたものが、レ基報第2号における期中レビュー報告書では、先頭に「監査人の結論」として記載され、監査人の結論の根拠の記載、経営者の責任の記載内容の充実、監査役等の責任の記載、監査人の責任の記載内容の充実といった対応がされている。また、改正前の保証実2400では継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に関する重要な不確実性が認められることについて、強調事項区分に記載することとしていたが、レ基報第2号では「継続企業の前提に関する重要な不確実性」区分に記載することとされている。
3. 新設された東証ガイダンスの内容
(1)東証ガイダンス設定の経緯
東証は、金商法改正に伴う四半期開示の見直しを受けて有価証券上場制度を見直し、上場規程に定める四半期財務諸表等について、適正表示の枠組み及び準拠性の枠組みのいずれかを適用して作成することとしている。また、当該四半期財務諸表等に対するレビューについては原則任意とし、レビューを行う場合は、年度の監査人が行い、企業会計審議会及びJICPAの実務の指針に基づく期中レビューを求めることとしている。JICPAでは「上場規程に定める四半期財務諸表等に適用される財務報告の枠組み及び期中レビューに関して理解が必要と思われる事項について、会員の参考に資するためにQ&A形式によって解説を提供」(東証ガイダンスはじめに4)するものとして、東証ガイダンスを設定したとしている。
(2)第1・第3四半期財務諸表等の財務報告の枠組み(Q1)
第1・第3四半期財務諸表等は、「有価証券上場規程等に基づき、企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」及び財務諸表等規則に準拠して作成」されることになり、東証の四半期財務諸表等の作成基準(以下「作成基準」という)は、「確立された透明性のあるプロセス(広範囲の利害関係者の見解についての検討を含む。)に従って策定しているため、受け入れ可能な一般目的の財務報告の枠組みとなる」ことが示されている。
また、作成基準第4条第1項では、「企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」及び財務諸表等規則に準拠して作成することが要求」されていることから、同第4条第1項(指定国際会計基準等の場合は第5条第1項から第4項)は適正表示の枠組みとなることが示されている。
一方で、「同第4条第2項では、同第1項の記載の一部の省略が認められており、適正表示を達成するための追加情報の開示も省略できるとされている」ことなどから、同第4条第2項(指定国際会計基準等の場合は第5条第5項)を適用する場合は、準拠性の枠組みとなることが示されている。
「適正表示の枠組み又は準拠性の枠組みのいずれにより作成するかは、期中レビュー契約の新規の締結又は更新時に確認する」ことが示されている。
(3)東証短信レビューに適用するレビュー基準等(Q2)
東証短信レビューを実施する場合に適用される基準や実務の指針は、期中レビュー基準及びレ基報第2号であることが示されている。
(4)適正性に関する結論と準拠性に関する結論を表明する場合の期中レビュー手続(Q3)
適正性に関する結論を表明する場合と、準拠性に関する結論を表明する場合での、期中レビュー手続の違いについての解説である。「適用された会計基準に準拠しているかどうかに関して必要な質と量の証拠を入手する必要がある。これは、適正性に関する結論を表明する場合であっても、準拠性に関する結論を表明する場合であっても同様であるため、限定的保証を提供するための期中レビュー手続に違いはない。」とされている。
一方で、「適正表示の枠組みに比して、準拠性の枠組みにおける財務諸表等の開示量が少ない場合には、開示の検討に関する作業量は減少すると考えられる。また、適正性に関する結論を表明するに当たっては、追加情報の記載の必要性を検討するなど、財務諸表が全体として適切に表示されているかという観点があるが、準拠性に関する結論を表明する場合はその観点がないため、当該観点からの検討に対応する作業量は減少することが考えられる」とされている。
なお、「開示の省略が認められる準拠性の枠組みの場合、任意で開示された項目についても、準拠性のレビューの対象となることに留意する」とされている。このため、作成基準第4条第2項を適用したが、会社が重要な後発事象について任意で開示した場合には、監査人は期中レビュー報告書に強調事項を記載するかどうかについても検討する。
(5)期中レビューが義務付けられる場合の留意点(Q4)
東証の有価証券上場規程施行規則第405条第2項における義務付け要件を掲載した上で、以下について監査人の留意点として示されている。
- 東証短信レビューの義務付け要件に該当するか、また、義務の対象となる第1・第3四半期財務諸表等については、会社に適時に確認する。
- 東証短信レビューが義務付けられることとなった場合は、十分なレビュー時間・期間を確保すべく、会社と事前に協議する。
- レビューが義務付けられる場合、レビュー義務付け要件の判明時期と義務付け開始時期のスケジュールが短くなることが想定されるため、適時・適切なコミュニケーションが特に重要になる。
なお、東証が把握している期中レビューの義務付け要件該当会社一覧が東証のホームページに掲載されている。
(6)後発事象についての手続(Q5)
第1・第3四半期財務諸表等について、重要な後発事象の注記の省略が可能である(その場合は準拠性の枠組みとなる)。
監査人が期中レビューを実施する場合には、後発事象の手続として、「財務報告の枠組みにかかわらず、監査人は、期中財務諸表において修正又は開示すべき後発事象があるかどうかについて、経営者に質問しなければならない(「期中レビュー基準」第二実施基準9参照)」とされている。また、適正表示の枠組みでは四半期財務諸表等に注記されるべき開示後発事象が発生した場合に、準拠性の枠組みにおいて注記がされていなくても、「基本的には質問以外の手続を追加で実施することは求められていない」とされている。
なお、「開示後発事象が注記されないことによって、財務諸表の利用者の誤解を招くと監査人が判断するような極めてまれな状況においては、その原因となっている事項を経営者と協議し、必要に応じて、期中レビュー報告書において、その他の事項として追記するかを検討することが考えられる(レ基報第2号のA77項参照)」とされている。極めてまれな事象の例として「会社が存続できなくなるような状況に陥っているが、会社が当該状況を開示後発事象として注記していないことが、監査人が財務諸表の利用者の誤解を招くと判断するような状況」が挙げられている。
(7)継続企業の前提に関して実施する手続の留意点(Q6)
改正前の金商法における四半期開示では、四半期財務諸表等規則ガイドライン21において、継続企業の前提に関する注記の記載方法が示されているが、金商法の四半期報告制度の廃止により、四半期財務諸表等規則ガイドラインが廃止されることになる。作成基準において、継続企業の前提に関する注記の記載方法は、中間財務諸表の開示内容を定めている改正後の財務諸表等規則第149条の規定及び財務諸表等規則ガイドライン149の取扱いを準用することとされており、読替え規定が入っている。
監査人の期中レビュー手続においては、「経営者が行った評価の検討に当たっては、経営者の評価期間と同じ期間を対象とし、経営者の評価期間は、適用される財務報告の枠組みで要求される期間又は法令に規定される期間となる」(レ基報第2号第58項)とされている。金商法に基づく中間財務諸表等に対する期中レビュー及び東証短信レビューの場合において、少なくとも求められる経営者が行った評価の期間及び対応策の対象期間並びに期中レビュー手続の概要は以下のとおりであると考えられる。
(8)訂正第1・第3四半期財務諸表等に対する期中レビューに関する留意点(Q7)
【図6】の②の場合、訂正後の期中レビューは任意で実施可能とされているが、「訂正内容の重要性を考慮し、財務諸表利用者の訂正前の四半期財務諸表等に対する結論への依拠を防止することが必要と判断する場合には、訂正後の四半期財務諸表に対する期中レビューを実施することが望ましい」とされている5。なお、当該状況においては時間的余裕も少ないと考えられるため、監査人は早期に会社と訂正レビューの実施について協議することが重要であると考えられる。
【図6】の③の場合、訂正後の期中レビューが義務付けられているが、「半期報告書の中間財務諸表等を訂正する場合における取扱いに準じて、レビューを受けないことも考えられる」とされている。これは、決算短信・四半期決算短信作成要領等4.(2)に基づく記載であるが、金商法第193条の2第1項第3号及び財務諸表等の監査証明に関する内閣府令第1条の3に規定する「監査証明を受けなくても公益又は投資者保護に欠けることがないものとして内閣府令で定めるところにより内閣総理大臣の承認を受けた場合」における判断を想定して対応することが考えられる。
(9)期中レビュー契約を締結していない場合(Q8(1))
期中レビュー契約を締結していない場合には、「監査人は四半期財務諸表等の内容を検討する義務を負わないが、四半期財務諸表等において虚偽表示又はその他の記載内容の誤りの存在等明らかに間違った開示の事実を把握した場合には、経営者等に対して当該虚偽表示等の存在を通知することが推奨される。また、年度の監査等におけるリスク評価に与える影響を検討する」とされている。
当該誤りが、監査の過程で発見され、監査人が、職業的専門家としての判断において財務報告プロセスに対する監査役等による監視にとって重要と判断したその他の事項(監査基準報告書260「監査役等とのコミュニケーション」の第14項(6))に該当する場合には、監査役等とのコミュニケーションが必要となると考えられる。
なお、年度監査品質の維持の観点からの会社とのコミュニケーションについては、後掲5.(1)にて説明する。
(10)比較情報への対応(Q8(2))
東証決算短信レビューは、原則として任意であるため、比較情報に対するレビューが実施されていない場合は、「監査人は期中レビュー報告書のその他の事項の区分にその旨を記載する」(レ基報第2号第133項)とされている。
4. 保証実2400及び保証実2400Q&Aの内容
(1)保証実2400の改正内容
改正前の保証実2400は、四半期レビュー以外のレビュー業務に幅広く適用されていた。一連の改正により、年度の監査人が行う期中レビュー業務は期中レビュー基準とレ基報第1号又はレ基報第2号が適用されることとなり、保証実2400はこれらを除く全ての財務諸表又は財務表を対象としたレビュー業務に適用可能とされることとなる。
レビュー報告書について、継続企業を前提として財務諸表を作成することが適切であるが重要な不確実性が認められる場合において、財務諸表における注記が適切な場合は、改正前は強調事項区分を設けて必要な記載を行っていたが、改正後は「継続企業の前提に関する重要な不確実性」という区分に記載を行うこととされている。ただし、それ以外のレビュー報告書の記載方法の変更は行われておらず、従来通り結論を下方に記載する様式が適用される。
改正された監基報600において、構成単位における作業の範囲から、構成単位の重要性の基準値に基づく構成単位の財務情報のレビューが除外された(監基報600第A131項)ことから、保証実2400からもグループ監査における構成単位の財務情報のレビューに関する規定が削除されている。
(2)保証実2400Q&Aの改正内容
保証実2400の改正内容に沿う形で見直しが行われている。また、改正済みの品質管理基準報告書第1号に沿う形で、レビュー業務を実施する監査事務所に求められる品質管理の内容の改正が行われている。
5. 従来の四半期レビューと対比した、期中レビューの実務対応上の留意点
(1)東証短信レビューを実施しない場合
上場企業に関し、義務レビューの要件に該当しない状況において、任意レビューの提供に至らない場合、監査人が監査業務の過程で四半期財務諸表において虚偽表示又はその他の記載内容の誤りの存在等明らかに間違った開示の事実を把握した場合の対応は、3.(9)に記載のとおりである。
東証ガイダンスQ8(1)では、「東証短信レビューの契約を締結していない場合においても、年度監査品質の維持の観点から、第1・第3四半期決算のタイミングで、会社の状況や変化を把握するために会社(経営者、監査役等)と十分にコミュニケーションを行うことが考えられる。例えば、会計上・監査上の論点を先送りすることなく適時に検討することや、会社に対し、相談事項や確認事項等について早めに討議する等の依頼を行うことなどが考えられる。」としている。
特に第1四半期においては、会計基準の変更の対応等検討すべき論点が多くなる傾向にあるため、監査人が東証短信レビューを実施している場合はその過程で、追加的な手続として、論点を検討し、四半期財務諸表に適切に反映されていることを確認することが、財務報告の信頼性確保にとって有効であると考えられる。一方、東証短信レビュー業務を実施しない場合でも、監査の一環で、期首から適用すべき会計処理等について、適時に会社とコミュニケーションを行うことは重要であり、第1・第3四半期決算の前後での適時・適切な監査上の対応の意義をふまえ、必要な監査時間を適切に見積ることが重要であると考えられる。
なお、JICPAの「第1・第3四半期決算短信に添付される四半期財務諸表等に対する期中レビュー契約を締結しない場合の留意事項(お知らせ)」においては、被監査会社が期中レビュー契約の締結の要否を検討する際に、第1・第3四半期財務諸表等に対する期中レビュー契約の締結は行わず、期中レビュー報告書の発行も求めないものの、期中レビュー手続を実施してほしいという要望が生じる場合については、「期中レビューの結論表明を目的とする期中レビュー手続に該当するような手続は実施できない」、「被監査会社に対して四半期財務諸表等に対する『保証』を付していると誤解させるような文書を提出してはならない」、「期中レビューを実施したものと誤認され、また、期中レビューが実施されたと誤解されるような情報(例えば、四半期決算短信のサマリー情報においてレビューを実施した旨を記載するなど)を公表又は口外しないように被監査会社と十分に対話する」ことなどが留意点として示されている。
(2)適用する財務報告の枠組みの確認
四半期レビューでは、我が国において一般に公正妥当と認められる四半期連結財務諸表の作成基準や国際会計基準第34号「期中財務報告」等に準拠した適正表示の枠組みの下で適正性に関する結論表明が行われていた。改正後は、金商法の下での中間財務諸表の期中レビューは適正表示の枠組みを対象とする一方、東証短信レビューでは準拠性に関するレビューが基本とされている(JICPA「東京証券取引所『四半期開示の見直しに関する実務の方針』の公表について(お知らせ)」冒頭)。
また制度レビュー以外では、期中財務諸表を構成する貸借対照表等の個別の財務表や個別の財務諸表項目等に対して、年度の監査人が期中レビューの結論を表明する場合について、期中レビュー基準が適用されることとなる。このため、期中財務報告の枠組みとレビューの種類が多様化することとなる。
本稿2.(4)及び3.(2)とも関連するが、期中レビュー契約の新規の締結又は更新(被監査会社の期中レビューの依頼)にあたっては、財務報告の枠組み及び期中レビュー報告書の形式について、会社と監査人が十分検討、協議することに留意すべきと考えられる。
(3)期中レビュー時間の確保と実施時期
決算短信・四半期決算短信作成要領等1.(2)①によれば、通期及び第2四半期(中間期)とは異なり、有価証券報告書や半期報告書などの法定開示に対する速報としての位置づけではないことを踏まえ、第1・第3四半期決算短信は決算発表の早期化の要請の対象とされていない。上場会社は、決算の内容が定まったときに、その内容を直ちに開示することが義務付けられているが、半期報告書の法定提出期限に準じて、各四半期終了後45日以内に開示することを原則とする、とされている。「決算の内容が定まったとき」の考え方については、任意でレビューを受ける場合は、開示時期をレビューが完了する前とするか、それともレビューが完了次第とするか、上場会社において判断することとされている(前者の場合、レビュー完了後に改めてレビュー報告書を添付した第1・第3四半期決算短信の開示が必要となる)。
これを受け、東証ガイダンスのQ4解説(2)でも、「制度改正後に関しては、速報性のみならず開示の充実も図られていることから、開示時期は様々なパターンが想定される。これに伴い、決算スケジュール及び東証短信レビュースケジュールも様々となることが想定されるため、会社と事前に協議し、十分なレビュー時間・期間を確保することが、財務諸表の信頼性を高めるために不可欠な要素であると考えられる」とされている。
なお、レビュー時間については、適正表示の枠組みに比して、準拠性の枠組みにおける財務諸表等の開示量が少ない場合には、開示の検討に関する作業量は減少すると考えられるとされている(本稿3.(4))。四半期会計基準で定められていた注記のうち、準拠性の枠組み(作成基準第4条第2項)において記載が求められていない注記としては、連結・持分法適用範囲の重要な変更、収益の分解情報、1株当たり情報、配当に関する事項、営業収益費用の季節的変動、重要な企業結合等、重要な後発事象、企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に判断するために重要なその他の事項(金融商品関係の注記6等)が挙げられるが、適正表示を達成するために必要となる可能性のある追加情報の注記を含め、注記対象となる取引・事象が存在しないため、第1・第3四半期財務諸表では注記されていない場合が多くみられた。このため、四半期レビューから準拠性の枠組みによる期中レビューに移行した場合、監査人の作業量の減少度合いは限定的となる場合が多いと考えられる。
(4)重要性の基準値
重要性の基準値は、期中レビューにおいて、手続の立案及び当該手続から得た結果の評価に適用するために決定される(レ基報第2号第48項)。
東証短信レビューは、年度の財務諸表の監査を前提として実施されるものであるため、年度の財務諸表の数値を用いて期中レビュー業務における重要性を決定する(レ基報第2号A28項)、すなわち、金商法の期中レビューと同様に年度の財務諸表の監査に係る重要性の基準値を期中レビューにおいても適用することが合理的である(レ基報第1号第14項)と考えられる。また、期中会計期間の実績数値が通年のものよりも小さいことなどにより、期中レビューに係る重要性の基準値を年度の財務諸表の監査に係る重要性の基準値よりも小さくする場合もあり得る(レ基報第1号第14項)ものと考えられるが、少なくとも、年度の財務諸表の監査に係る重要性の基準値を上限とする(レ基報第1号第14項及びレ基報第2号A32項)ことに留意する。
(5)東証短信レビューにおける監査人の通読の対象となるその他の記載内容
東証短信レビューにおいて、四半期決算短信のうち、四半期財務諸表及び期中レビュー報告書以外の部分(サマリー情報と経営成績等の概況等)が、原則として監査人の通読の対象となると考えられる。また、会社が四半期決算短信を二段階で開示(レビュー完了前に決算短信を先行して開示し(一段階目)、レビュー完了後に四半期決算短信の全文を開示(二段階目)する場合、通読の対象となるその他の記載内容は期中レビュー報告書が添付される二段階目であると考えられる。
(6)東証短信レビューにおける期中レビュー報告書の添付方法
期中レビュー報告書についてはレビュー対象となった四半期財務諸表等とともに東証のTDnetで提出される。その際に利用者の誤解を防ぐために、EDINETの場合と同様の欄外記載(期中レビュー報告書の原本は別途保管している旨、XBRLデータ及びHTMLデータは期中レビューの対象に含まれていない旨)を行うことが考えられるとしている(JICPA「EDINET及びTDnetで提出する期中レビュー報告書の欄外記載について(お知らせ)」。なお、監査人は、EDINETで提出される監査報告書等と同様に、TDnetで提出される期中レビュー報告書について、提出前及び提出後に期中レビュー報告書の原本と記載内容の同一性が確保されていることを確かめることが適切であると考えられる。
(7)東証短信レビューにおける英文期中レビュー報告書
東証が公表した「プライム市場における英文開示の拡充に向けた上場制度の整備の概要」(2024年2月26日)7では、「決算情報については、日本語での開示の一部又は概要を英文開示することで足りるものとしていることに加え、英文開示は日本語の開示の参考訳と位置付けていることから、英語の四半期財務諸表等に対する監査人の期中レビューは必要ありません。なお、仮に海外投資家のニーズ等も踏まえ、英語の期中レビュー報告書が必要と判断する場合には、監査人とも相談の上、対応をご検討ください。」とされている。
この点、会社が独自に日本語の期中レビュー報告書を英語に直訳する場合であっても、監査人は期中財務諸表及びその期中レビュー報告書について翻訳に誤りがないか検討を実施することや、日本語で発行されたものの英語等への直訳である旨を付記すること等の対応が望ましいと考えられる(監査基準報告書720周知文書第2号Ⅱ2参照)。また、監査事務所によっては監査報告書や期中レビュー報告書の翻訳の取扱いを監査契約書に定め、翻訳の検討に関する品質管理規定を定めている場合もあることから、監査人は監査事務所における取扱いを確認の上、会社の四半期決算短信の英訳方針と範囲を確認することが考えられる。
(8)非上場会社の留意点
特定事業会社以外の非上場会社は、金商法第24条の5第1項における第1号の半期報告書(中間会計基準等に準拠した第一種中間財務諸表について期中レビューを受け、中間決算日後45日以内の提出が求められる)の提出の選択が可能となる8 9。このため、選択した半期報告書によって、提出期限や保証の種類(期中レビュー又は中間監査)が異なるので、「会社と事前に十分協議することが望まれる」とされている(JICPA「四半期開示制度の見直しに関する留意点vol3~非上場会社編~」1.(1))。
なお、合理的な理由がない限り、選択した半期報告書は継続して提出することとされている(企業内容等開示ガイドライン24の5-2-3)。
6. おわりに
四半期レビューから期中レビューに名称が変わり、レビュー手続自体に大きな変更はないものの、東証短信レビューが原則任意とされたこと、財務報告の枠組みの選択の余地が生まれたこと、四半期開示のスケジュールが弾力化されたこと、非上場会社の半期報告書の種類の選択が可能になったことなどにより、期中レビューの実施前に会社と監査人が協議し、合意すべき事項が増えている。そのためには、会計基準や開示ルールだけでなく、期中レビュー基準及びJICPAの実務の指針や実務ガイダンス等の理解がこれまで以上に重要となってくるものと考える。本稿が参考になれば幸いである。
以上
- 東証の上場規程と同等の規則を定めている他の取引所等においても同様である(期中レビュー基準報告書第2号実務ガイダンス第1号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューに関するQ&A(実務ガイダンス)」(以下「東証ガイダンス」という)Ⅰはじめに)。
- 会計期間は、金商法に基づく期中レビューでは中間会計期間、東証短信レビューでは四半期会計期間となる。例えば、9月末決算会社は2024年6月末での第3四半期会計期間の四半期レビューは対象外となり、東証のレビュー義務付け要件に該当する場合又は任意レビューを選択する場合は改訂基準の下で期中レビューが実施される。なお、金商法の経過措置により、決算日が2023年12月31日から2024年3月30日までのいずれかの日である四半期報告書提出会社は、その翌日から開始する事業年度の開始から6か月経過後を中間会計期間として、新半期報告書の提出が必要となり(金商法改正法附則第3条第2条、金融庁「四半期報告書の提出に係る経過措置等について」)、金商法に基づく中間財務諸表の期中レビューが改訂基準の下で実施される(意見書四2)。
- JICPAより当面の監査契約書作成に当たっての留意事項として、「四半期開示の見直しに伴う監査及び四半期レビュー契約書への影響について」(2023年11月22日、2024年2月9日追加)が公表されている。期中レビュー基準改訂に対応した「監査及びレビュー等の契約書の作成例」が2024年4月12日に公表されている。
- 以下項3においてカギ括弧は、特に断りのない限り東証ガイダンスの各Qからの引用である。
- 監査基準報告書560「後発事象」の第14項において、経営者が財務諸表を訂正する場合には、監査人は訂正後の財務諸表に対する監査報告書を提出することとされている。
- 企業集団の事業運営にあたっての重要な項目であり、かつ、前年度末と比較して著しく変動している金融商品関係について注記を要するが、総資産の大部分を金融資産が占め、かつ総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業集団以外の企業集団においては、第1四半期及び第3四半期では注記を省略することができることとされていた(企業会計基準適用指針第 14 号 四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針第80項(3))。
- パブリックコメント募集終了日は2024年3月27日。なお日本語と同時の英文開示の義務化は2025年4月1日以後に開示するものから適用することが提案されている。
- 特定事業会社である非上場会社は、第2号(中間作成基準等に準拠した第2種中間財務諸表について中間監査を受け、中間決算日後60日以内の提出が求められる)の半期報告書の提出の選択が可能である。
- 非上場会社の改正後の金商法に基づく半期報告書の提出は、2024年4月1日以降開始事業年度に係る中間会計期間が初回となる(金商法改正法附則第3条第1項)。
本記事に関する留意事項
本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。