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デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2023 #7 タレントエコシステムの解放
従来型の雇用の区別をなくすことで、真のタレントエコシステムへアクセス可能となり、それによってクリティカルスキルと従業員の可能性を引き出せる
様々なタイプの人々が、様々なニーズを持ちながら様々な方法で価値を発揮できる、真のタレントエコシステム実現のためには、人々の価値発揮を支援できるような、一貫した人材戦略、プロセス、システム、および施策が必要である。
組織は、価値が高く戦略的に重要なスキルや活動に関し非従来型の従業員にますます依存するようになっています。しかし、組織の労働戦略や取り組みは依然として従来型の従業員向けに設計されています。ビジネスのアジリティとスケーラビリティの向上、人材へのアクセス方法の拡大、労働者の生産性とパフォーマンスの向上など、労働力全体を最大限に引き出すには、包括的で境界のないタレントエコシステムを形成する必要があります。このエコシステムでは、様々なタイプの人々が、様々なニーズを持ちながら様々な方法で価値を発揮しているのです。エコシステム実現のためには、人々の価値発揮を支援できるような、一貫した人材戦略、プロセス、システム、および施策が必要です。
労働力の再定義は、パンデミックのかなり前から始まっていました。しかしながら、人材不足と従来のワークモデルへの依存により、組織が求める重要な人材の採用に苦労していることから、再定義の動きはさらに加速しています。また労働者は、非従来型の雇用モデルがもたらす、柔軟なワークバランスをより求めるようになっています。
派遣労働者は既に総労働人口のかなりの部分(複数の研究によると30%近く)を占めています。1また、調査対象となった労働者の半数以上 (55%) は、キャリアを通じて雇用モデルを既に切り替えているか、切り替える可能性が高いと答えており、従来のフルタイムの仕事と、正規の仕事以外の社内での機会 (おそらくタレントマーケットプレイス経由)や 、フリーランス/ギグワークとを流動的に行き来しています。2
この変化は、以下のような傾向によって促進されています。
- 労働者の交渉力の上昇 あらゆる種類の労働者が、どのように、どこで (そして誰のために)働くかといった決定の手綱を持ちつつあります。
- 人材不足 組織は必要な人材の採用に苦労しており、あらゆる形で人材を獲得しようとしています。
- アジリティの必要性 今日の組織は、方向性を素早く変え、それに応じて人材を調整できることが求められています。
- 世代の傾向 若い世代では仕事とキャリアに対する見方が異なり、自分たちが必ずしも一つの組織のために長期間フルタイムで働く必要があるとは考えていません。
- デジタル技術と新たな職場のあり方の台頭 テクノロジーの進歩により、人々はいつでも、どこでも、どのような働き方でも生産的に働くことが可能になっています。
- スキルベースの組織への移行 先進的な組織は、仕事や肩書きからスキルに重点を移しています。これは、従業員の雇用状況に関わらず、提供するスキルを重視するエコシステムの考え方と一致しています。
これらの考え方を採用する組織は増えつつあるものの、タレントエコシステムの価値を完全に引き出すには至っていません。タレントエコシステムの価値を高めるためには、エコシステム全体でより高い帰属意識とエコシステム全体を通した一貫したエクスペリエンスを創出することが必要です。現在、非従来型の労働者は部外者として扱われることが多いため、通常は組織の要員計画に含まれず、人材開発の対象でもありません。また、彼らのビジネスへの貢献が正しく認識されず、これらは生産性と個人のエンゲージメントに影響を及ぼしています。真のタレントエコシステムにおいて、組織は考え方、文化、人材戦略および実行、プラットフォームやデータへのアクセスを変えていく必要があります。
非従来型の労働者を組織の戦力に変え、組織のカルチャーに溶け込ませるためのより良い方法を模索することで、組織は成長に必要な重要なスキルを持つ人材を獲得しやすくなるでしょう。また、組織が市場の変化に応じて組織の規模を拡大・縮小し、より迅速に注力領域を変えられるようになることで、その人材の可能性を最大限に引き出すこともできます。このことは、デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査のデータによって確認されており、タレントエコシステムを最適化するための上位2位の要因は、タレントエコシステムにおける現在のニーズを満たすための能力 (46%) と、将来に必要な俊敏性(アジリティ)を提供する能力 (36%) であることが明らかになっています。
トレンドに当てはまるシグナル
- ビジネス戦略を実行するために重要となるスキルを持つ人材の獲得に苦労している
- 従来型と非従来型の従業員で構成されるチームの士気とエンゲージメントについて懸念を抱いていたり、懸念を抱く声を聞いたりしている
非従来的な労働者向けのデータやコラボレーションツール、およびワークシステムへのアクセス問題が、生産性に悪影響を及ぼしている
レディネス・ギャップ
デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査によると、ビジネスリーダーの84%が、組織内外の増えゆく労働力に対しインクルーシブにリーダーシップを取っていくことの重要性を認識しています。しかし、万全な準備ができていると考えているのは僅か16%で、レディネスのスコアの中で最も低くなっています。
図1 タレントエコシステムのレディネス・ギャップ
※クリックまたはタップして拡大表示できます
従来、組織は、従来の人材モデルやポリシーに微調整や一時策を施し、適応しようとしてきました。しかし現在において、それらの応急処置はもはや十分ではなく、根本的な変革が必要な段階となっています。デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査によると、タレントエコシステムを解放する上での障壁の上位2位は、カルチャーを変える必要性 (27%) と働き方を変える必要性 (26%) でした。
新しいあり姿とは
タレントエコシステムの考え方を取り入れる:今後は、(未来の従業員を含む)すべての従業員プールを境界のないエコシステムとして捉える必要があります。つまり、あらゆるタイプの従業員を、ビジネスにとって大きな価値があり不可欠なものとして扱う必要があるのです。これには、非従来型の従業員を明確に人材戦略や要員計画に組み込むだけでなく、すべての従業員(フルタイム/パートタイム、リモート/対面を問わず)を組織のカルチャー に溶け込ませることも含みます。組織に貢献するすべての人は、組織のコアバリューを反映し、自分がカルチャーの一部であると感じられるようにすることなのです。興味深いことに、MIT Sloan Management Reviewとデロイトのデータによると、組織やシステムレベルでは見過ごされているにもかかわらず、グロ-バルマネージャーの大多数 (93%) が既に社外を含む労働者を彼らの労働力の一部と考えており、これはマネージャー達がタレントエコシステムの考え方を既に取り入れていると考えられます。 3
スキルベースのアプローチを取る:「“ジョブ”の終焉への先導」の章で述べたように、何世紀にもわたって続いてきた、秩序だっていて厳密に定義された仕事や役職を基盤としたワークフォースモデルからシフトする先進的な組織が増えています。彼らは伝統的なモデルから、スキル、能力、興味を中心とした新しいスキルベースのアプローチを採用しているのです。このアプローチは、職種や役職ではなく、成し遂げるべき仕事とそれを実行するために必要なスキルに焦点を当てた、タレントエコシステムの概念に完全に一致するものです。
オープンなワークフォース・プラットフォームを構築する:従来型の労働者と非従来型の労働者でまったく異なるアプローチとプラットフォームにするのではなく、あらゆるタイプの労働者の可能性を最大限に引き出せるような、タレントエコシステム全体でより高い一貫性を持ったアプローチを採用します。具体的には、以下のようなアプローチです。
- すべての人に対してオープンである:あらゆるタイプの労働者のそれぞれが出す価値や貢献、およびそれぞれのニーズと好みを認識し、受け入れる人材戦略と要員計画を策定します。
- 戦略と即座に一体化するものになっている:エコシステムのプラットフォームは、変化する仕事や顧客のニーズに柔軟に適応するために、ビジネス戦略と一体化されている必要があります。
これらのあり姿は、すべての労働者を同じように扱うべきだということではありません。異なったタイプの労働者は、異なるニーズを持ち、異なったやり方で価値に貢献し、異なるトレードオフを選択します。例えば、従来のフルタイムの従業員は、通常、1つの雇用主に対する献身的な労働、時間的拘束、忠誠心と引き換えに、完全な福利厚生や雇用の安定性の向上などの恩恵を受けます。一方、少ない恩恵の代わりに、より高い時給やフレキシビリティの向上を望む労働者もいます。求める人材を惹きつけ、活用するには、そうした個人の好みを尊重することが重要です。
ディレクションからオーケストレーションへの転換:組織とマネージャーがワークフォース・エコシステムの中で動いていけるようにするには、新たなマネジメントプラクティスが求められます。これは、従来の指示・統制するアプローチから、機能横断的な連携・協働や外部の労働者を社内メンバーと同様に利活用するアプローチにシフトするということです。今日、外部からの労働者は、人事、調達、技術、事業開発など、多くの異なる部署と関わるようになっていますが、これらの部署は外部の労働者向けのプロセスや慣行について相互に情報伝達ができていないことがしばしばです。今後は、コーポレート部門とビジネス部門のリーダーが協力して、包括的なタレントエコシステムについて意識的かつ体系的に考えていく必要があります。このような新たなシステムを築くには、組織によるタレントエコシステムの調整を支えていくためのマネジメントプラクティス、テクノロジー、インテグレーション、リーダーシップの根本的な変更が必要とされるでしょう。 4
先進的企業による取り組み
- 米国のある宗教系ヘルスケア団体は、ヘルスケア人材に関するコンソーシアムの設立を試みています。このコンソーシアムでは、参加者間での人材プールの共有や人材の育成を行い、参加団体のブランディングや、ヘルスケア業界における人材不足や人材に関する課題の解決に寄与しようとしています。これはまた、コンソーシアム内での柔軟な人材配置を創出し、参加団体の労働者にとってもより多くのキャリア機会を持つことに繋がります。
- 2つの企業が合併したある大手メディアでは、異なる2つの事業と人材の調和を目指し、ワークフォース・エコシステムのパラダイムを変革しつつあります。従来の人材統合アプローチでは従業員を第一に考えていましたが、このメディアはあえて人材統合において、まず外部からの労働者を優先し、それから従来の従業員に 「ズームイン」 しました。このアプローチの転換により、組織は重点分野と重複分野をより細かく特定し、将来の統合された組織に向けた適切な成長戦略を実現できると思われます。
- ノヴァルティスは、ピープル・アンド・オーガニゼーション部門の指揮のもと、10万人を超える社内労働者と5万人の社外労働者の管理を統合し、シームレスなオペレーションと包括的な人材戦略を実施しています。この統合された仕組みにより、管理職者たちは、特定のビジネスニーズおよびスキルやスピード感、コストの実現可能性もふまえて内部と外部の労働者の望ましいバランスについて計画的に考えることができるようになるでしょう。5
- ユニリーバには全世界で15万人以上の社員がいますが、消費財企業として周縁を含んだ労働者(従業員、サードパーティ、代理店など)の数は300万人と見られています。ユニリーバの経営陣は、従業員に加えて外部労働者のスキルアップの前提条件として、外部労働力に関するデータと洞察をデジタル化し、より柔軟で機動的な労働力の創出に取り組んでいます。6
- M&T Bankは、西部ニューヨーク地域 (WNY) の失業と不完全雇用の問題に取り組むため、地域の非営利団体、地方自治体、教育機関の連合と提携し、地域のメンバーにニーズの高いスキルに関するトレーニングを提供しています。 7 WNY Tech Skillsイニシアチブは、データ分析、UXデザイン、ソフトウェアエンジニアリングなどのスキルの無料コースを提供し、地域内の経済的安定と健康を促進し、地域すべての企業が利用できるより広範なタレントエコシステムを構築することを目的としています。
- ニューメキシコ州メシラ・バレー地域の自治体と非営利団体は、地域全体で増加する人材開発に関する課題に取り組んでいます。ラスクルーセス商工会議所と非営利団体であるThe Bridge of Southern New Mexicoは、この地域で独立したタレントエコシステムの連合を設立するため、政府、民間産業、高等教育期間、コミュニティのリーダーとのサミットを主催しました。サミットでは、特に労働者の交渉力が増加していることをふまえ、地元の人材の採用、育成、雇用維持に関する戦略を議論の中心としました。このアプローチは、政府と民間企業が協力し、集団的な人材開発アプローチを構築するという、真のエコシステムの考え方を示しています。
今後の展望
組織は、従来のフルタイムの従業員を重視し、それ以外の従業員を 「その他」 として扱うという、狭義の 「労働力」 にしがみつくのではなく、より複雑ではあるが、戦略的に重要なスキルと経験を持ち高い価値を生み出す非従来型の労働者で構成されつつある現実社会の人材プールに合わせて、考え方と行動を適応させる必要があります。
エコシステムの考え方やオープンなワークフォース・プラットフォームなど、新たな人材に関するファンダメンタルの効果は、エコシステム内の現在および将来の労働者に対してだけではありません。このファンダメンタルは組織そのものにとっても非常に有用であり、より多くの優秀な人材を獲得できるようになります。さらに異なる優秀な人材の働きによりバリューを最大化できたり、ビジネスや市場のニーズの変化に応じて、規模を拡大縮小したり、フォーカスをシフトしたりする柔軟性を獲得することができます。デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査の回答者は、ワークフォース・エコシステムへのアプローチに舵を切っており、イノベーション、財務パフォーマンス、リテンションの増加や、リーダーシップパイプラインの強化に繋がったと報告しています。
Workdayのチーフ・ラーニング・オフィサーであるChris Ernst氏は、「エコシステムを活用することで、私たちのビジネスはよりインクルーシブで、機動的で、柔軟性をもってビジネスを成し遂げることができます。WorkdayではCareer Hubという仕組みがあり、従業員は自分のスキルや興味を共有することで、関連する人材や、ギグ、キュレーションされた学習コンテンツ、おすすめのジョブといった情報を得ることができ、キャリアに役立てることができます。2,100人以上の社員 (従業員の約12%) がギグに参加しています。これらギグは実際に有機的に機能しており、小規模で短期的なギグから、ビジネス上の課題解決につながる数カ月のギグへと迅速に拡大したものもありました。」と述べています。
組織は数十年にわたって優秀な人材の獲得に取り組んできましたが、常に従来の会社という境界のあるワークフォースモデルを念頭に施策を検討していました。エコシステムの考え方とオープンなワークフォース・プラットフォームにより、これらの伝統的な境界線は取り除かれ、リーダーは労働形態に関係なく、すべての労働者の働きを最大化することができるようになるのです。
脚注
- MBO Partners, The contingent labor imperative: How agile enterprises succeed in a modern workforce model, August 2022.
- Sue Cantrell, Michael Griffiths, Robin Jones, and Julie Hiipakka, The skills-based organization: A new operating model for work and the workforce, Deloitte Insights, September 8, 2022.
- Elizabeth J. Altman, David Kiron, Robin Jones, and Jeff Schwartz, “Orchestrating workforce ecosystems: Strategically managing work across and beyond organizational boundaries,” MIT Sloan Management Review, May 17, 2022.
- Ibid.
- Ibid.
- Ibid.
- Greg Pokriki, “Buffalo’s Tech Academy and how it benefits other companies,” Invest: BuffaloNiagra, November 17, 2021; M&T Bank, “Regional coalition announces ‘WNY Tech Skills Initiative’ to accelerate economic recovery, provide community with access to technology training,” press release, December 16, 2020.
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