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バーチャル駐在員の実現における労務面の留意点

バーチャル駐在員 ~リモート勤務による新しい時代のグローバルアサインメント 第2回

グローバルモビリティ~法務~ 2021年6月

リモート勤務による新しいグローバルアサインメント(「バーチャル駐在員」)について、そのメリットや、実現に向けて検討すべき論点・ポイントを全3回の連載でご紹介しております。第1回ではバーチャル駐在員のメリットや実現に向けての課題を概観するとともに「ヒト・組織」の領域について解説しましたが、第2回となる本稿では、バーチャル駐在員の実現に向けて検討すべき法的問題のうち、特に労務面の検討課題について焦点を当てて論じてみます。

1. 従来の駐在員とバーチャル駐在員の違い

バーチャル駐在員の制度は、中長期にわたり、いわゆるバーチャル駐在員がその所在地国(下記の図では「A国」)から国境をまたいだ外国(同図の「B国」)の企業に対して労務提供し、当該企業が他国に所在する従業員に給与等の報酬を支払うというものです。

【バーチャル駐在員】

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これまでの駐在員は、物理的に労務提供先である企業の所在地国に転居して居住し、同国において同社のために労務を提供する形態をとるのが一般的でした。


【従来の駐在員】

このように、従業員の居住国と労務提供先企業の所在地国とが一致している場合、通常は適用される労働規制に疑義が生じることはなく、労務提供先企業の所在国に転居した駐在員には同国の労働法が適用されていました。

しかし、バーチャル駐在員の場合、従業員の居住国と労務提供先企業の所在地国とが異なるため、いずれの国の労働法が従業員に適用されるかという問題が生じ、容易に適用法が決まりません。そのため、バーチャル駐在員を導入するに当たっては、適用法について検討を行って遵守すべき法規制を確認し、必要に応じて社内ルールの変更などを行うことが求められます。

2. 一般的な労働法規の適用関係

労働法規といってもその内容は多岐にわたります。また、私法的な側面と公法的な側面とが並存しており、なかなか複雑です。日本法を例にとって、一般的な労働法規の適用関係を概観してみましょう。

日本法上、雇用関係は使用者と従業員との私的な契約(雇用契約)に基づき生じます。雇用契約においては様々な雇用条件が合意されますが、当事者間で合意した雇用条件がすべて有効となるとは限りません。例えば、労働基準法は使用者が遵守すべき最低限の雇用条件を規定していますし、労働契約法は懲戒や解雇の制限、安全配慮義務などを規定しており、これらの規定は当事者の合意の有無や合意の内容に関わらず適用されます。例えば、労働時間については原則として1日8時間、週40時間を超えることはできないとされ(労働基準法32条)、休日については使用者は少なくとも毎週1日又は4週間を通じて4日以上を与えなければならないとされており(同法35条)、契約でこれを超える労働時間あるいはこれより少ない休日について合意をしてもその効力は認められません。このような当事者間の合意に優先する法規は「強行法規」と呼ばれ、労働法規には多く見られます。これに対し、退職金の合意など支給の有無も含めて当事者間で自由に合意できる項目もあります。

 

労働条件や労働環境に直接関連するものではない義務を使用者に課す規制もあります。近年明確化された使用者に対する労働者の労働時間把握義務(労働安全衛生法66条の8の3)は、労働条件と直接の関係はありませんが、使用者が本来労働基準法上の労働時間規制を遵守するために労働時間の管理をする責務があることを踏まえ、使用者に課された義務です。

なお、労働基準監督官が労働基準法などの法律に基づいて工場や事務所などの事業場に立ち入り、機械・設備や帳簿などを検査して関係労働者の労働条件について確認を行うことがあります。また、一定の労働規制違反に対しては刑事罰が課されることもあり、労働法規は公法的側面も有しています。

適用法規の関係もシンプルで、日本国内に居住する従業員が、日本国内の使用者に労務を提供する場合、当事者間で適用法の合意がなければ日本の労働法が適用されますし、仮に他国法を準拠法とする合意があったとしても従業員は日本法の強行法規の適用を求めることができます(法の適用に関する通則法12条1項~3項)。

 

3. バーチャル駐在員に適用される法の検討と対応

バーチャル駐在員は、バーチャル駐在員の居住国と労務提供先企業の所在国とが異なります。

当事者間で適用法(準拠法)に関する合意がない場合は第三国の法適用の可能性はほぼないといってよく、いずれの国の労働法規が適用されるかについて検討をすることとなります。労働法規の適用原則については従業員の所在地の労働法が適用されるという考え方を採用する国や、労務提供地の労働法が適用されるという考え方を採用する国などがあり得るところであり、バーチャル駐在の当事国となる両国の労働法規の適用原則を踏まえていずれの国の法が適用されるかを検討することとなります。双方の国の立場から検討して一方の国の法が適用されることにすっきり落ち着く場合も考えられますが、場合によっては両国とも自国法が適用されるとか相手方国の法が適用されるという結論となる可能性もあるかもしれません。このような場合、とりわけ強行法規の適用可能性については慎重な検討を要するところでしょう。また、労務提供先企業にはその所在地国の公法的規制が課せられます。この規制のうち個々の従業員に対する対応を求めるものがある場合は、国境をまたいだ先の従業員(バーチャル駐在員)に対しても国内の従業員と同様の対応を行わなければならない可能性があるので注意が必要です。

また、当事者間で適用法規(準拠法)に関する合意がある場合は、合意したとおりの法規が有効に適用されるか否かの検討が必要となります。この際、合意外の国の強行法規の適用可能性について十分留意する必要があります。具体的には、日本にバーチャル駐在員が居住して外国(A国とします)の企業に労務を提供している場合において、使用者と従業員との間でA国の法律を適用法(準拠法)とする旨の合意した時、かかる合意が双方の国で尊重されるかどうか、原則として尊重されるとしても日本の強行法規が適用される可能性はあり得るのかについて検討することが必要になります。なお、適用法が最もシビアに争われるのは訴訟の場面であり、どの国で裁判が行われるかにより結論が異なる可能性もあります。万一訴訟となった場合の見通しを立てておくためにも適用法に関する合意をするに当たっては適用法規(準拠法)に加えて裁判管轄の合意もしておくことが望ましい対応です。
 

まとめ

バーチャル駐在員の制度は事実上普及しつつあるものの、制度としてこれを導入しているというよりは、なし崩し的に導入に至っているというケースが多いのではないかと思われます。その一因として、かかる制度の導入に関する法的検討がこれまで十分に行われてこなかったことが挙げられるかもしれません。しかし、コロナ禍を機にバーチャル駐在員の有用性と必要性が認識されつつあります。これに伴い、かかる制度の法的側面についての検討が進んでおり、今後は徐々に正式導入が進んでいくことが予想されます。

 

 

※本記事は、掲載日時点で有効な日本国あるいは当該国の税法令等に基づくものです。掲載日以降に法令等が変更される可能性がありますが、これに対応して本記事が更新されるものではない点につきご留意ください。

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