着実に生成AIを活用し、成果を出すために
世界を席捲する生成AI(Generative AI)
MidJourney、Stable Diffusion、ChatGPT等に代表される生成AI(Generative AI)という強力かつ汎用的な人工知能の登場によって、世界中で多くの人々が予想したよりも早く創造力や想像力を必要とするスキルの自動化が始まっています。
世界中のメディアや人々の間で注目を集めており、ビジネスにおけるそのポテンシャルと影響をより詳しく見ていくことが、生成AIから企業価値を生み出すには重要です。
デロイト トーマツでは、生成AIの潜在的な利点と制約についてグローバルで調査・整理を行っています。これらの高度なAIをどこでどのように活用すべきかを判断する方法を紹介し、生成AIを導入する際にThe Age of With™という人とAIが協調して価値を作り出していく社会において、ビジネスリーダーが考慮すべき重要な論点を網羅した支援を行っています。
生成AIの躍進と今後
すべての産業において、公共サービスでの応用から気候変動への対応、ビジネス機能の変革に至るまで、AIをいかに活用し差別化を実現していくかは、企業や組織の関心事です(参考 「業界別AI活用のすゝめ」)。
実際に様々な業界やスキル分野で、AI技術による自動化が行われてきました。これまで想定されていたAI技術のロードマップでは、短期的には、AIは運用スキルの自動化で効果を発揮すると思われていました。しかし、生成AIの躍進によって、このロードマップは予期せぬ方向に進もうとしています。
2022年後半に、使いやすい生成AIチャットボットがリリースされ、すぐに多くの人がクリエイティブな分野でどのように使用できるかを試行錯誤しました。
コピーライティングから3D構造の生成、組織におけるビジネスプロセスの出力まで。日々のチャットボットの新たな活用方法が発見され、生成AIの可能性を幅広く考えるきっかけともなっています。そのため、創造力や想像力を必要とするスキルも、多くの人々が予想していたよりも早く自動化されるようになっています。さらに、これまで経済的に実現できなかった新しいサービスやビジネスモデルといった、より高次の機会への可能性も拓いています。
- 生成AIはこれからさらに発展していくでしょう。The Age of With™ (人とAIが協調する社会)とは、人間とAIが協力して、どちらか一方だけでは達成できないことを実現する社会です。生成AIは働き方の未来に影響を与え、日常生活のさまざまな側面で一般的なツールとなります。生成AIが使われていることがわかりやすいサービスもあるかもしれませんが、サービスの裏側に組み込まれて使用されることでその価値を発揮するケースも多いことでしょう。
生成AIの仕組み:従来のAIと生成AIの違い
生成AIがビジネスにどのような影響を与えるかを理解するためには、それが何であり、何ができるのか、そしてまだできないことは何かを理解する必要があります。
生成AIは、テキスト、コード、音声、画像、動画、作業手順書や業務プロセス設計書、さらにはタンパク質の3D構造等の形式で、機械が新しいコンテンツを作成するというAIの一分野です。いくつかの種類の生成AI技術がこの10年間で確立されてきましたが、容易にアクセスできるチャットインターフェースを用いた大規模言語モデル(LLM)が生成AIのブレークスルーをもたらしました。
通常、従来のAIモデルが構築される際、学習と呼ばれる工程でアルゴリズムに大量の入力/出力のサンプル(学習データ)を投入し、入力データからパターンを抽出し、期待される出力に関する結論を導き出します。
例えば、Eメールのスパムフィルターは、これらのパターンを使用してスパムメールに見られる特徴との類似性を特定し、スパムフォルダにメールを振り分けます。
AIモデルの高度化とともに、入力データは単純な数値の配列から高解像度の写真に至るまでその複雑さが増してきましたが、モデルの出力側は「スパム」か「スパムではない」、「猫」や「犬」、「予測価格 $17,000」といったカテゴリーや数値にほとんど限定されていました。そのため、AIアプリケーションは単一の目的のためのタスクしか実行できませんでした。
しかし、生成AIは状況を一変させました。生成AIにおいては、ユーザーの入力内容に応じて、画像や新たに書かれたテキストなど自由度と可変性が高いアウトプットが「生成」されるようになりました。このアウトプットは、考えられる正解がいつも一つ以上存在するという新たな興味深い結果をもたらしました。
生成AIで用いるモデルは通常大規模であり、リソースを多く消費します。これらのモデルは多機能であり、特定のタスクに合わせて調整が可能なため、基盤モデル(Foundation Models)と呼ばれています。(大規模言語モデルは基盤モデルの一種です。)
生成AI活用のリスクとリターン
一般的な生成AIや大規模言語モデルで使われるチャットボットには、リスクも伴います。チャットボットは人間の言い回しを模倣し表現に一貫性があるため、AIが人の言葉の意味を理解しているという印象を与えることがあり、チャットボットに人格を感じてしまう原因ともなります(ELIZA効果)。
さらに「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる現象にも注意が必要です。これは学習データに基づいていないにも関わらず、自信満々に見える生成AIの回答を指します。アート生成のようなアプリケーションでは、これは問題にはなりませんし、むしろ生成AIの望ましい「創造的」な機能であることさえあります。
しかし、コピーライティングやコンピューターコード生成等で活用する場合、ハルシネーションによって、全てが正しいとは完全に言い切れないようなアウトプットが出力されることもあり、生成AIの価値を損なうことがあります。
基盤モデルのカスタマイズにも工夫が必要です。現在の生成AIモデルは、モデル自体と入力プロンプトに基づいてアウトプットを生成します。企業が生成AIに独自のデータソースを追加したい場合は、(プロンプトエンジニアリングによる簡易的な手法以外では)現在のところ、コストのかかるモデルの再トレーニングやファインチューニングを行うことで、生成AIの内部モデルと統合していく必要があります。
他のAIモデルと同様に、基盤モデルは、学習データの潜在的なバイアスを再現し、差別的なアウトプットを出力することがあります。基盤モデルとはあくまでも言語モデル、画像モデル、音声モデルであり、正しい判断を下す知識モデルのようなものではありません。もちろん、人間のような理解力や推論能力は持ち合わせていません。そのため、信頼されるモデルとするために、適切なAIガバナンスが必要になります。
例えば、バイアスや不正確な情報の問題を軽減するための方法が開発される必要があります。そして、データの透明性や、モデルの結果を監視・評価するためのアプローチも必要です。また、ユーザーが提供された情報の信頼性を判断できるように、情報源やリファレンスを提供する方法を組み込むことも重要です。
デロイト トーマツは、Trustworthy AI™(英語ページ)やAIリスクチェーンモデルというフレームワークを提供しており、これにより、企業は生成AIを非常に高い品質で機能させ、多くの新しいユースケースを実現することが可能になります。
生成AIを使ってビジネス成果を上げる
生成AIから企業価値を生み出す方法として、2つのアプローチを考えることができます。
- 第一のアプローチでは、ChatGPTやStable Diffusionのような現在利用可能な生成AIモデルをそのまま使用し、チャット形式のテキストや画像生成ツールとして活用することです。
- 第二のアプローチは、生成AIを、自社のシステムや他の技術と統合してプロセスを自動化することです。例えば、既存の業務システムや会話型AIシステム(すなわち、チャットボットや音声ボット)によってワークフローを管理しつつ、信頼できるデータベースにより事実の正確性も確保しながら、生成AIによって人間レベルの自然なアウトプットを作成し、ユーザーとやりとりします。
これにより自動化された生成AIを搭載した業務システムやコンタクトセンターが実現します。最終的には、このような第二のアプローチが最も価値のあるものになると予想されます。
デロイト トーマツは、生成AIによってビジネス成果をどのように生みだすか、またその成果をどのように検証していくかの方法論(Digital Artifact Generation / Validation)を提供しており、企業におけるイノベーションリーダーがアイデアや生成AIのポテンシャルを活かす有益なユースケースに変えていくことを支援します。
この方法論のポイントは、生成AIを使用するところ以外の処理、特に人間の処理を必要とする箇所の設計と、生成AIからの出力を検証またはファクトチェックするための処理の設計の2つです。どれだけ人間の作業が必要であり、またどれぐらいユーザー自身が結果を検証するべきなのか、という2つの軸に基づいて分析をすることで効果的なユースケースの作成をサポートします。
生成AIから企業価値を生みだすには?
デロイト トーマツの生成AIプロジェクトからの洞察
活用方法をやみくもに探すだけでは、無作為なトライアルゆえに結果として期待していたリターンを得ることができないことも少なくありません。
生成AIを使ってビジネス成果を上げるには、戦略と、多様な分野のチームからの協力が大切です。さらに、生成AIのように急速に進歩・成熟している技術では、独力で前進する誘惑に陥らず、この分野の知見を持つパートナー企業、協力企業、第三者組織からの支援と知識を求めることも重要です。
現在の生成AIを活用したプロジェクト固有の複雑さは、AIのライフサイクル管理を困難なものにする可能性があり、ゆえに専門家チームとのコラボレーションが意味を持ちます。多様な分野の専門家と連携することによって、企業価値を生み出すことができます。これには以下のようなものが含まれます:
企業のビジネスリーダーは、生成AIがもたらす熱狂の渦中にあっても冷静な判断と着実なアクションを行うべきでしょう。デロイト トーマツの分析とプロジェクト経験に基づき、私たちは次のようなアプローチをお勧めします。
- 生成AIの戦略を策定し、それを企業の既存のAI戦略と統合・調和させる。
従来のAIを活用した組織に必要な原則は、生成AIの活用においても適用されます(例:収集された企業データへのアクセスコントロール、AIガバナンスの実施、AI人材を活用するためのプロセス変革等)。このような急速に進化する技術では、独力で進む誘惑に陥らず、この分野で活動するパートナーや第三者組織からの支援と知識を求めることが重要です。 - 生成AIを実現する基盤技術や生成AIの現在の能力と限界を理解する。
AIの使用、リスク、能力について従業員への研修を実施し、トレーニングを通じて基本的な知識を確立する。また、技術の進歩やビジネスリスク、ビジネスオポチュニティに対する影響を継続的にモニタリングしていくことも重要です。 - 専門知識を持つ多様な分野のチームを集め、潜在的なユースケースについて創造的に考える。
ビジネスリーダー、技術リーダー、クリエイターが外部の専門家と協力し、価値あるアプリケーションを特定しつつ、事業リスクやサイバーリスク、適用される法律や規制への対応も検討することで、実効力のある生成AIの展開を計画することができます。 - デロイト トーマツのビジネス成果創出のための方法論(Digital Artifact Generation/Validation)を活用して、生成AIが貴社のバリューチェーンにどのような影響を与えるかを特定する。
基本的な生産性向上のための活用法から、新しい差別化されたサービスやビジネスモデル等の高次の機会まで、デジタル化の段階的推進を実現します。 - 独自データの収集と整備を行う。
これは貴社独自のユースケースを生みだすために重要であり、企業の競争優位性や差別化を実現します。貴社が持つデータを使用して、生成AIモデルに特定の業界や市場に関するインサイトを持たせることができます。 - デロイト トーマツのTrustworthy AI™(信頼できるAI)原則に基づいてユースケースを評価する。
バイアスや誤情報、帰属、透明性、および生成AIからの影響に対する企業の説明責任を含む様々な課題に対処する必要があります。Trustworthy AI™は、技術が持続可能で倫理的な方法で使用され、その結果が正確で公正であることを確認するための基本原則を提供します。これらの原則に沿ってユースケースを評価することで、生成 AIの導入が企業と顧客にとって安全で価値あるものとなります。
目的地へたどり着くには、信頼できるパートナーを見つける
生成AIのビジネス活用には、生成AIに関するより深い理解が必要であることが見えてきたかと思います。これには、基礎技術の詳細からビジネスや業界の将来に関する洞察まで幅広く含みます。戦略的意義だけではなく、リスクとそのコントロール、信頼性の担保とガバナンスという多様な側面を検討することが重要です。
生成AIがもたらす可能性は、これまでのAI技術をはるかに超えるものであり、様々な産業や生活の側面で活用されることでしょう。しかし、それらのモデルを適切に活用し、リスクを最小限に抑えるためには、企業のリーダーや利用者がその限界と潜在的な問題を理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。
生成AIを用い、価値を生み出していくためのパートナーとして、私たちデロイト トーマツがいます。私たちは、世界中の組織やAI専門家と協働し、スタートアップやベンダー企業を含むAIエコシステムと連携しながら、クライアントとともにその未来に向けて前進していきます。
- 生成AI活用にはカバーすべきトピックは多く、議論はまだまだつきません。デロイト トーマツは、The Age of With™ という人とAIが協調する時代における、よきパートナーとして、生成AIの活用を支援します。
デロイト トーマツの生成AI活用支援サービス
デロイト トーマツグ ループは、生成AI(Generative AI)の普及と発展に伴い、企業が変革的な技術を適切に活用して競争力を向上させるための支援を続けていくことを目指し、「生成AI活用支援サービス」の提供を開始しました。
「生成AI活用支援サービス」は、デロイト トーマツ グループ横断のAIエキスパート連携組織である Deloitte AI Institute を中核として、コンサルティング、監査・アシュアランス、税務、法務、リスクアドバイザリー、フィナンシャルアドバイザリーの各プロフェッショナルが連携し、また、国内外のAI専門家とのネットワークも活かして、貴社における生成AIの戦略的活用とガバナンスの実現を支援します。