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自治体の子育て支援充実は少子化時代を乗り切る鍵である

2016年に年間出生数が初めて100万人を割り込み、2022年に80万人を下回った。これは、毎年約3.4万人が消える勢いで少子化が加速していることを示しており、多くの自治体で少子化・人口減少対策は喫緊の課題となっている。自治体の維持・活性化には人口数の維持・増加が必須となるが、次世代への継承の観点から若い世代や子育て世帯の流入・定着促進がより重要と考えられ、子育て支援施策の充実が期待される。

はじめに

少子化対策と子育て支援に係る国の動向

「こどもまんなか社会」の実現に向け、令和5(2023)年4月1日に子ども基本法(2022年6月15日成立)が施行された。同時にこれまで内閣府、文部科学省、厚生労働省など複数の省庁にまたがっていた政策・支援を一元化し子どもと家庭の福祉や健康向上、少子化対策をシームレスで進めることを目的としてこども家庭庁が発足した。そして、2030年までが少子化トレンドを反転させるラストチャンスという認識のもと、令和5(2023)年6月13日に「こども未来戦略方針」において、少子化対策の推進により安心して子育てができる社会、分け隔てなく大切にされ、育まれ、笑顔で暮らせる社会の実現に向けてこども・子育て政策の基本的考え方が示された(「こども未来戦略方針」令和5年6月13日)。

少子化対策と子育て支援

少子化対策として、子育て支援施策の充実は密接に関係しており、子育て支援を充実させることで、若い世代や子育て世代の結婚や出産・育児に対する不安や負担が軽減され、少子化の要因の一つである「子どもを産み育てたいという希望と現実のギャップ」を縮める可能性がある(令和4年版少子化社会対策白書)。

自治体においては、平成27年4月にスタートした子ども・子育て支援新制度に伴い、子ども・子育て支援事業計画を策定し、5年ごとに計画を更新している。この事業計画は、子どもの保護者やその他子ども・子育て支援に係る当事者の意見を聴取して作成されており、住民の「希望と現実」のギャップを把握し、各種施策・事業計画に反映していくことが期待される。現在は第二期計画(令和2年度から令和6年度まで)が策定されており、次年度は計画の評価・見直しの重要な一年となる。

子育て支援策充実に向けて必要な視点

子育て支援施策の充実に向けて必要な視点が2つある。1つ目は、「ライフステージに沿った切れ目ない多様な支援策の展開」の視点で、これは子育て支援策の基盤となる「子ども・子育て支援事業計画」の事業見直しが重要となる。2つ目は、「地域における子育て環境づくり」の視点で、これは子育て支援にかかわる部局のみならず、自治体全体で取り組む独自施策の立案・実行するものである。

子育て支援施策の充実に向けた2つの視点

1.子ども・子育て支援事業計画の事業見直しによる支援策の拡充

こども政策の強化に関する関係省会議でとりまとめられた「こども・子育て政策の強化について(試案)」の中では、今後3年間で加速化して取り組むこども・子育て政策において、親の就業形態に関わらず、どのような家庭状況にあっても分け隔てなく、ライフステージに沿って切れ目なく支援を行い、多様な支援ニーズにはよりきめ細かい対応をしていくこと、すなわち「全ての子育て世帯を切れ目なく支援すること」が必要であるとされている(「こども・子育て政策の強化について(試案)」令和5年3月31日)。

これまで、自治体では保育所や幼稚園などの保育の受け皿の整備や子育て支援の充実、地域の子育て家庭を支援するための地域子ども・子育て支援事業の提供体制の確保等などを進めている。特に待機児童対策については、女性の就業促進により共働き家庭が増えてきている中で、働きながら育児をする家庭にとっては子どもを安心して預けられる環境整備として重要な施策の一つであった。令和4年4月1日時点では、待機児童数は2,944人で前年比2,690人の減少となり、待機児童のいる市区町村は前年から60減少して1,741市区町村のうち252となっている。

一方で、待機児童対策の課題が解決している自治体では、地域によっては定員割れが生じている保育所等があり、保育所等の維持・運営に課題が変化しているところもある。少子化・人口減少が著しい地域においては、保育所の統廃合等の検討が必要な状況が生じているところもある。

社会経済情勢が大きく変わる中、個々の自治体では地域の実情の変化を踏まえた柔軟な施策展開が求められる。したがって、子育て支援の充実に向けては、課題やニーズに対して、短期、中長期の両方の視点で対応を検討していくことが重要であり、短期的な課題解決後の先にある状態像をイメージしながら、次に起こりうる課題等を予測した事業計画を策定することが望まれる。令和6年度は第三期子ども・子育て支援事業計画の策定に向けて、既存事業の評価に加え、5年後、10年後の自治体の将来像を描きながら今後の事業展開を検討することで、子育て支援策のさらなる発展につながっていくと考える。

参考情報

効果的な少子化対策の推進には、政府の取組に加え、住民に身近な自治体が、地域の実情や課題に応じた取組を進めることが重要であることから、子ども家庭庁の令和6年度予算概算要求では、自治体こども計画策定支援事業の拡充、地域少子化対策重点推進交付金の拡充などが検討されおり、第三期子ども・子育て支援事業計画の策定の際に活用できる可能性がある。

(令和6年度予算概算要求の概要)
こども家庭庁「令和6年度予算概算要求の概要」(外部サイト)
 

2.独自施策の立案・実行による支援策の拡充

子育て支援施策の充実に向けて重要な2つ目の視点である「地域における子育て環境づくり」においては、妊産婦や子育て世帯において、日常生活の利便性(買い物や交通の利便性)、子どもが安心・安全に遊び過ごせる場所の有無(公園、レジャーやアクティビティ施設等)、教育環境、文化・芸術等の施設の有無、医療環境等のハード整備も含めた街づくりの要素が移住・定住の重要なポイントとなる。

生活環境も含めた子育てにやさしい街づくりの実現は、子ども・子育て支援事業計画による子育て支援施策の展開に加え、幅広い視点での独自の子育て支援策を検討する必要があるが、子育て支援に係る部局のみで検討が難しい場合は、他部局との連携・協同による支援策の検討も有用であると考える。

参考情報

横浜市「子育て世帯に優しい施策の検討に向けた調査等業務委託(令和4年度)」(外部サイト)

まとめ

少子化に歯止めをかけ、自治体を維持・活性化していくためには、次世代を担う若い世代や子育て世帯の流入・定着促進につながる施策展開が重要である。第三期の子ども・子育て支援事業計画策定に向けて既存の事業評価とともに、子育てにやさしい街づくりの視点での独自施策についても検討が進められると、自治体での子育て支援がより充実したものとなることが期待できる。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2023/11

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