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医療分野におけるAIの活用について

医療分野におけるAIの活用と導入検討について

AI技術を医療分野に応用することを医療AIと呼んでいます。とりわけ画像診断支援領域の分野でその実用化が進んでおり、医療の質向上と業務効率化が期待されている中、2024年頃から医療文書作成の中で負担の高い「カルテ検索」や「文書の要約」という作業を生成AIで実現するソリューションも出てきています。本稿では、医療AIの導入についてのポイントを解説します。

はじめに~AIについて~

AIは、1950年代の第一次ブーム・1980年代の第二次ブームに続く、第三次ブームにあると言われ、自動車の自動運転技術など、生活のあらゆるところで実利用が始まっています。また、近年では、「GPT(Generative Pretrained Transformer)」が発表されて以降、現在に至るまで空前のAIブームとなっており、2020年代初頭、特に生成AIが一般に公開された2022年から第四次AIブームが始まったと捉える研究者もいます。AIの実用化の裏には、これまで人間の手で膨大なデータを分類・整理してコンピュータに入力していた作業をコンピュータが自動で処理(機械学習)することで、従来では処理できなかった規模の量のデータ(以下、「ビッグデータ」と言います)を収集・処理することができるようになったことに加え、ディープラーニングという技術によって、ビッグデータを基にコンピュータが自ら知識を定義する要素を発見・習得するようになったことが大きなきっかけとなっています。

医療AIとは

一般にAI技術を医療分野に応用することを医療AIと呼んでいます。厚生労働省の「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」や内閣府の「新AI戦略検討会議」ではAI開発を進めるべき重点6領域が挙げられています。

  1. ゲノム医療:AIを活用して患者の遺伝情報を解析し、個別化医療の推進を目指しており、遺伝子の変異や疾患リスクを特定し、最適な治療法や薬剤を提案することで、がんや希少疾患の早期発見・治療に貢献が可能と考えられています。AIが膨大なゲノムデータを効率的に解析することで、従来では困難だった疾患の解明や新しい治療法の開発が加速しています。
  2. 画像診断支援:AIは医療画像(X線、CT、MRIなど)を解析し、疾患の早期発見や診断の精度向上をサポートします。微細な病変や医師が見落としやすい病態を検出する能力に優れており、特にがんや脳卒中の診断でその効果が注目されています。また、診断作業を効率化することで、医師の負担軽減や医療現場の生産性向上にも寄与しています。
  3. 診断・治療支援:AIは患者の症状や検査結果を統合的に分析し、診断や治療方針の提案を支援します。例えば、問診データや検査値を基に疑われる疾患をリスト化し、医師が迅速かつ的確に判断を下すための材料をAIが提供します。また、AIは学習した膨大な臨床データを活用して、エビデンスに基づく治療提案を行うことにより、医療の効率化と診療の質の向上が期待されています。
  4. 医薬品開発:AIが分子データを解析して新しい薬の候補物質を見つけたり、臨床試験データを解析して副作用や有効性のパターンを特定したりすることが可能なため、従来数年かかっていた薬の開発期間が大幅に短縮され、成功率の向上も期待されています。
  5. 介護・認知症:介護分野では、AIが高齢者の見守りや認知症の早期発見を支援します。例えば、センサーやカメラを活用して高齢者の行動をモニタリングし、転倒や健康状態の異常を通知する仕組みや、認知症患者の会話や行動データを分析し、認知機能の低下を早期に発見することも可能となっています。
  6. 手術支援:AIは手術中にリアルタイムでデータを解析し、医師の判断をサポートします。例えば、内視鏡映像を解析して病変部位を強調表示したり、ロボット手術で臓器の動きを予測して精密な操作を補助したりすることにより、手術の安全性や成功率が向上や患者の合併症リスクの軽減が期待されます。

上記に記載した重点6領域の中で、現在医療AIで最も実用化が進んでいるのは、画像診断支援領域です。上記にあるように画像診断支援領域のAIは病巣の見落とし防止や読影精度の向上に加えて、読影時間を短くし、診断業務を効率化する効果も期待されています。このような画像診断AIは2022年度の診療報酬改定により保険適用されることになりました(画像診断加算3施設要件:関係学会の定める指針に基づいて、人工知能関連技術が活用された画像診断補助ソフトウェアの適切な安全管理を行っていること)。今後AIを用いた画像診断は医療分野にさらに普及すると考えています。

医療分野における生成AIの活用

近年、生成AIという言葉を耳にする機会が増えました。SNSや日常業務にも利用され始め、私たちの生活に身近な存在となりつつありますが、医療現場でも生成AIの応用が進んでいます。

特に注目されているのが、医療文書の要約と自動生成です。膨大なデータが蓄積される医療現場では、電子カルテや各種検査結果から正確で簡潔なサマリを作成することが欠かせませんが、その作業には大きな時間と労力がかかります。こうした課題を解決するのが生成AIです。

とある医療機関では退院サマリを作成するAIを搭載した部門システムを導入したところ、退院サマリを作成する時間が最大67%も削減した成果が挙げられています。また、電子カルテシステムベンダーが開発した独自の生成AIモデルでは、大学病院との実証実験で文書作成時間を半分に削減した成果が得られています。このような事例から、生成AIが医療の質の効率化に貢献していることが示されていると考えられます。投稿時点で部門システムベンダー及び電子カルテシステムベンダーが開発した生成AIツールは具体的に症状詳記や退院サマリといった文章生成が中心であり、いずれも医療文書作成の中で負担の高い「カルテ検索」や「文書の要約」という作業を生成AIで医療文書作成時間の短縮を図っています。

医療AIの導入に向けたポイント

医療現場におけるAI技術の導入は、診断精度の向上や業務効率化といった効果があると考えられますが、AIの導入にはいくつか認識しておくべきポイントがあります。

一つ目に、AIが提供する診断結果が医師の知識や経験と一致しない場合、それをどのように評価するのかという点です。もし万が一、AIの診断が誤っていた場合、その責任が誰に帰属するのかという点も課題がありますが、AIはあくまで支援ツールであり、判断の主体は医師にほかなりません。

二つ目に、AIが現場でスムーズに活用できるように事前に検討しておく必要がある点です。AIが現場でスムーズに既存の診療業務に統合される必要がありますが、現場で使用される部門システムを含む電子カルテシステムや医療機器と医療AIが連携していない場合、診療の流れが分断され、かえって業務効率が低下する可能性があります。

その他にも他の部門システムの導入と同様に、医療AIの導入時期(次期電子カルテシステムの更新のタイミングなのか、それとも医療AIを個別に調達するのか)や、医療AIを導入し効果的に利用できるよう病院全体で検討するための組織体を組成し検討するといったようなプロセスが発生しますので慎重に検討を進める必要があります。

最後に

2024年4月から開始された医師の働き方改革により、労働時間の短縮や生産性向上の実現に向け、医療従事者の労働環境や業務改革などが求められています。医療現場にAIを導入することで医療の質向上や業務効率化が図れる一方で、AIを使うことに伴う責任問題、現在の診療プロセスにあてはめ有効活用できるかといったような負担や課題をもたらします。医療現場へのAIの導入を検討するには、病院の医療情報システムの全体の更新と併せて検討する必要がある場合もありますので、医療AIの導入を検討されている医療機関の皆さまにおかれましては、是非お気軽にご相談ください。

執筆

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2025/1

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