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【連載企画】教えて!デロイトさん!(第3回)
医療機関の組織・人事・労務について、デロイトさんが皆さんの疑問にお答えします。
これから1年間にわたって、組織・人事・労務の専門家であるデロイトさんが、日ごろ皆さまが業務に携わる中で生じる疑問に対して、Q&A形式でお答えしていきます。7月・8月・9月の3か月間は、今、多くの医療機関が着手されている「医師の働き方改革」についてです。是非ともご一読ください。
医師の働き方改革に取り組まなければ病院はどうなるのか
相談者:
はじめまして。私はとある地方の病院の事務部長です。当院では、今年から医師の働き方改革のプロジェクトを立ち上げ、医師の労働時間把握、タスクシフト等に取り組んでいますが、医師の関心が薄く活動が停滞しています。私の知人が勤務する病院は、働き方改革の旗振り役がおらず、医師の労働時間把握も進んでいないようです。事務部長としては医師の労働時間短縮により医師の健康管理を行う必要性は理解しているのですが、そもそも医師の働き方改革に取り組まなければ病院にどのような影響があるのかについて理解していないことに気がつきました。改めてその内容について教えて頂けますでしょうか。
デロイトさん:
ご相談ありがとうございます。プロジェクト推進に大変ご苦労されているようですね 。「医師の働き方改革に取り組まなければ病院にどのような影響があるのか」についてですが、大きくは労働法分野の法違反リスクとレピュテーションリスクの2つがあります。まず、労働法分野の法違反についてですが、2024年4月以降、医師の時間外・休日労働時間がA水準は年960時間超、B・C水準は年1860時間超となると罰則の対象となります。レピュテーションリスクは、法違反の状態が世間に広まった結果、病院の信用や評判が低下するリスクのことです。病院の運営においては、レピュテーションリスクが直接的に関係することが多く、医師・医療スタッフの採用や患者数に大きく影響する可能性があります。
労働法分野の法違反の罰則とは
相談者:
労働法分野の法違反、レピュテーションリスクがあることは分かりました。法違反の罰則について具体的に教えて頂けますか。
デロイトさん:
労働法分野の罰則は、行政罰が前提となります。行政罰の説明については少々専門的なので省略しますが、時間外労働・休日労働の違反による罰則は「懲役6か月以下、または罰金30万円以下」となります。ただし、法違反を犯した場合でもすぐに罰則が適用されるわけではありません。一般的には、労働基準監督署の労働基準監督官が事業場である病院等に「臨検監督」と呼ばれる立入調査や事情聴取、帳簿などの確認を行い、法違反が認められた場合は病院に是正を勧告します。すぐに是正がなされれば問題はありませんが、是正がなされなければ再度の立入調査が入り、、重大・悪質な事案の場合は送検・起訴に至ることがあります。是正勧告を受けた場合でも、早期に改善することが必要ですね。
レピュテーションリスクとは
相談者:
法違反の罰則について理解しました。レピュテーションリスクについても具体的に教えて頂けますか
デロイトさん:
はい。レピュテーションリスクは、病院の信用や評判が低下するリスクのことですが、信頼回復には時間がかかるため、法違反の常態化は回避しなければならないですね。現在は、SNS等を使った内部告発等もあり、病院内部の情報が世間に拡散されやすい環境にあります。信用を構築するには時間がかかりますが、信用を失うのは一瞬です。元に戻すのは本当に時間がかかるので、慎重に対応して頂きたいところです。
また、病院の信用や評判が低下すると、まず医師・医療スタッフの採用が困難になる可能性があります。昨今、病院の信用や評判をWEBの口コミサイト等で確認する求職者が増えていると思いますが、医師においては病院の信用や評判のほか、医師の働き方改革への取り組み状況が注目されています。ある民間調査機関のアンケート調査によると、9割近くの医師が病院を選ぶ際に「働き方改革への取り組み状況」を重視しているようです。病院が医師の働き方改革に消極的であると、ワークライフバランスを重視する医師や若手医師の確保が困難になるのではないでしょうか。
次に、病院の信用や評判が低下すると、不信感から患者の足が遠のき患者数減少に繋がる可能性があります。患者も病院の情報をホームページやSNS等で確認するケースが多くなっているため、少なからず患者数に影響すると思います。患者は病気を治したいと思って病院に行くわけですが、病院の選択肢があれば、医療の安全性の観点から法違反を放置し続ける病院は避けるようになるのではないでしょうか。
相談者:
レピュテーションリスクについて理解しました。考えると恐ろしいですね。
デロイトさん:
病院運営には様々なリスクがありますが、医師の働き方改革においてもしっかり取り組まなければリスクを抱え込んでしまうことをご理解頂ければと思います。
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/9
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