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【連載企画】教えて!デロイトさん!(第12回)

多様な働き方の実現と個人が個性や能力を発揮できる組織づくり

多職種でチームを構成し、患者・利用者をサポートする医療・福祉の現場においては、互いを尊重し合い、個人が能力を十分に発揮できる環境が重要であり、そのためには仕組みの導入だけでなく風土の醸成が必要です。どのように風土醸成に取り組んでいくか、直面しやすい問題についてお答えしていきたいと思います。

多様な働き方の実現においては、制度整備のみならず制度を活用できる風土が重要である。

相談者:

当院では職員の多様性(働き方・背景など)を受け入れ、個性や能力を発揮できる組織づくりに力を入れています。そのための施策の一つとして、育児事由での時短勤務や所定時間外勤務免除などを導入しています。それでも、女性医師の退職理由は、出産・育児と仕事との両立が困難であることが多くを占めています。何か良い方法はないでしょうか。

デロイト:

ご相談ありがとうございます。時短勤務や所定時間外勤務免除などの制度は整備されているとのことですが、制度の利用状況や制度の利用について、職員の方からはどのような声が挙がっていますか。

相談者:

制度の利用はそこまで多くはありませんが、毎年新規の制度利用申請者がいます。制度利用者からは、制度を利用することでキャリアを諦めることなく、当院で長く勤務できているなど前向きな意見を聞くことがあります。ですが、制度利用者の周囲の方からは、時短勤務者の分をカバーしなくてはならず大変だとの声を聞くこともあります。

デロイト:

制度利用について、利用者の周囲からそうした声が寄せられているのは、制度の利用において課題があるかもしれませんね。現場から先ほどのような意見が寄せられた際には、どのように対応されていますか。

相談者:

現場でタスクシフトなどを行って調整できないか検討していただいたり、必要であれば、採用計画の相談に応じたりしています。また、当院として多様な働き方の実現や、医師や職員が活躍できるように施策を展開していること、組織の変革のためにご協力いただきたい旨もお伝えしています。

デロイト:

今実施されているように、具体的な解決策を見出すとともに、制度を利用する方をサポートすることは意義がありますし、組織が推し進める多様な働き方の推進につながることを伝えることは大切ですね。対応された後の状況についてフォローアップをしていくと、より良いと思います。

現在は、利用者からは前向きな声が聞かれているとのことでしたが、制度利用者の意見も聞き、多様な働き方を実現する施策もアップデートされると、より貴院の課題に対応した施策となり、制度の活用や多様な働き方の実現、延いては医師や職員の方の長期の活躍につながると思います。

そのほかにも、制度利用者の悩みとして、制度を利用しているにもかかわらず、希望する働き方ができていない、という話をよく聞きます。支援する側が制度の内容を認識していなかったり、対応できる体制になっていなかったりと、支援する側の改善点もありますが、支援を希望する側は、自己開示をして、仕事と家庭のどちらのことについても、自分がどのような状況にあるかを周囲と共有する努力をしていただく必要があると思います。例えば、同じく育児をしている方でも、サポートしてほしい内容は一人ひとり異なりますよね。支援を希望する側が状況を伝えていかなければ、支援する側と支援を希望する側とで認識の違いが生まれ、不満にもつながります。支援を希望する方が、プライベートの状況も含めて自己開示し、周囲とのコミュニケーションを深めることで、支援をする側もサポートしやすくなります。

自己開示においては、チームや部門で自己開示しやすい雰囲気があることが大切です。もし、チームや組織で自己開示しやすい雰囲気が十分でないという場合には、上位者の方から自己開示していただくとともに、相手への関心を示すことで、自己開示しやすい雰囲気が生まれると思います。ここのポイントは、上位者の方からご自身の行動や態度を変えていくということです。

前例が少ない場合でも周囲の理解が多様な働き方を進めていく。

相談者:

最近では、男性から育休を取りたいとの相談も増えてきましたが、取得事例そのものがまだまだ少ないですし、取得しても短期間というケースがほとんどです。

デロイト:

確かに、男性の育休取得はまだまだ少ないのが実態ですね。「令和4年度 雇用均等基本調査」では、女性の育休取得率は80.2%となっていますが、男性の育休取得率は17.13%です。普段の仕事の状況を考えると男性の育休取得は難しいと感じられるかもしれません。しかし、育休の場合は、急な休職とは異なり、妊娠期間中に育休に向けて準備期間を確保することができます。育休取得を希望している方には、ぜひ早めに相談いただくように周知すると良いですね。

また、配偶者の懐妊についての報告や育休の相談を受けた際には、相談を受けた方から相談者へ育休取得について話題を提示できるとより良いですね。男性の育休取得事例が少ない組織では、育休取得希望者が躊躇したり、男性は育休を取得できないという思い込みから、取得を諦めたりすることもあるようです。相談を受けた方から、育休を希望する男性の方へ育休取得を促す発言をすることで、育休取得を希望する男性医師・職員の方も安心して相談できますし、育休取得事例が増えていけば、組織全体で多様な働き方を認めることにつながると思います。

このほかにも、制度内容や事務手続の流れをまとめたマニュアルがあると情報にアクセスしやすくなりますし、もし育休を取得された男性の医師や職員の方がいらっしゃれば、体験談を共有し、より男性が育休を取得しやすい雰囲気を作ることができます。育休取得希望者と支援する側、双方の育休取得に対するハードルを下げることが重要です。

相談者:

相談を受けた方から育休取得を促すことは効果がありそうですね。男性の育休取得が広まれば、育児事由での多様な働き方が浸透していきそうだと思いました。

家庭と仕事の両立支援から一人ひとりの多様性を受け入れ、それぞれが個性や能力を発揮できる組織づくりへつなげていく。

相談者:

職員の多様性(働き方・背景など)を受け入れ、それぞれが個性や能力を発揮できる組織づくりをより推進していくためには、どのようにアプローチしていけばよいでしょうか。

デロイト:

今回ご相談いただいた育児事由での時短勤務や所定時間外勤務免除など、多様な働き方の支援から始めるのはどうでしょうか。妊娠・出産を機に、これまでと同じように働くことは困難ですし、出産後も、仕事中心の生活というわけにはいきません。そうした違いを受け入れ、一緒に働いていけるように制度を整え、風土を醸成していくことは、多様性を認めてお互いを尊重することの第一歩だと思います。

そこからさらに互いを尊重し、一人ひとりが個性や能力を存分に発揮できる組織になっていくためには、①貴院が目指す姿が明確に言語化されていて、②その実現に向かって組織の責任者が責任をもって関与し、③多様性を受け入れる仕組みや一人ひとりが能力を発揮できる環境を整備し、④仕組みが機能する風土づくりが重要だと考えます。すでに取り組まれている点もあるかもしれませんが、もしまだ浸透度合いが低いのであれば、目指す姿の解像度を上げ、経営層にもしっかりと関与いただくことから始めてはどうでしょうか。仕組みづくりと風土醸成を進めて組織全体に広がれば、現場で勤務されている医師や職員の方々の意識や行動の変化につながっていくと思います。

相談者:

当院が目指す姿が、まだ医師や職員全体に認知されていないと思いますので、是非、経営層を巻き込んで周知することから取り組んでいきたいと思います。

デロイト:

多職種が患者や利用者をサポートする医療や福祉の現場においては、お互いを認め、尊重し合う風土があり、多様なバックグラウンドを持つ方が活躍できれば、サービスの質の向上に直結するのではないかと思います。

患者や利用者の状況、ニーズも多様化しています。そのときに、サポートする医療・福祉の現場の人材が同質の人材で構成されていると、新しい方策は生まれにくいかもしれません。多様な人材で構成されている組織は、様々な状況に対してあらゆる方向から解決策を見出し、サービスの質の向上にもつなげることができます。貴院が目指す姿の実現に向けて、ぜひ取り組んでみてください。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2023/12

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