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政策動向 健診データ利活用の最前線

 ―日本はヘルスケアデータの夢を見るか― 

我が国のヘルスケアデータの利活用については、2017年1月にデータヘルス改革推進本部が厚生労働省に設置され、具体的な検討が進められてきました。さらに、2018年7月には、「データヘルス改革で実現するサービスと工程表」、2020年7月には「データヘルス集中改革プラン」が公表され、データの利活用により実現を目指すサービス内容やスケジュールが示されるなど、政府のヘルスケアデータの利活用に向けた動きは加速しています。ヘルスケアデータの中には、皆さんが毎年受診している健康診断のデータも含まれていますが、健診データが利活用されることで、どのような未来が実現するのでしょうか。今回は、健診データの利活用に関する事例を紹介するとともに、健診データの利活用に関する政策動向や将来像、課題について解説します。

1.はじめに

―ある日、あなたのスマートフォンに、自治体の保健センターからこんなメッセージが届いた。
「あなたには胃がんの疑いがあります。なるべく早く医療機関で受診してください」
私が胃がん?何も症状がないけれど、本当に?
あなたは不安を抱えながら、最寄りの医療機関を受診した。検査後の診察で、担当の医師から次のような説明があった。
「初期の胃がんです。ただ、発見が非常に早かったので内視鏡で少し切り取るだけで簡単に治療できますよ。何も心配いりません」
あなたはホッと胸をなでおろしながら、治療に関する説明を引き続き受けた―

健診(以下、検診も含む)データ等を利活用することで、近い将来、このような未来がやってくるかもしれません。
現在、官民を問わず健診や医療のデータの収集・利活用する動きが進んでおり、医療データは電子カルテデータやレセプトデータを中心に、治療や研究領域に利活用されることが期待されています。一方で、健診データについては、予防や生活習慣病の重症化予防など、健康増進に関する領域での活用が期待されています。


今回は、健診データに関する利活用の事例や、政策動向および課題について紹介します。


 

2.健診の概要とデータの利活用例

まず、健診(健康診査・健康診断)及び検診について簡単に説明します。健診は、実施の根拠となる法律により分類することができます。(図1)

健診を受ける人のライフステージごとに整理すると下記の3つに分けることができます。

  •  乳幼児期・学童期・学生期:乳幼児健診、学校健診
  •  就労期:就労時健診、定期健診、特殊健診、妊婦検診、特定健診(40歳以上70歳未満)、がん検診、骨粗しょう症検診、歯周疾患検診、肝炎ウイルス検診
  • 高齢期:後期高齢者健診(75歳以上)

また、健診を実施する主体で整理すると下記の3つに分類することができます。

  • 自治体(学校含む):乳幼児健診、学校健診、妊婦検診
  • 国民健康保険:定期健診、特定健診(40歳以上70歳未満)、がん検診、骨粗しょう症検診、歯周疾患検診、肝炎ウイルス検診
  • 後期高齢者医療広域連合:後期高齢者健診(75歳以上)
  • 被用者保険:特定健診(40歳以上70歳未満)、がん検診、骨粗しょう症検診、歯周疾患検診、肝炎ウイルス検診
  • 事業主:就労時健診、定期健診、特殊健診

このように、健診の種類や実施主体が複雑に絡み合いながら、我が国の健診制度が成立していることが分かります。

(図1)

出所:厚生労働省「第1回 健康診査等専門委員会」 参考資料3 日本の健診(検診)制度の概要

実際に、健診データを利活用している代表的な事例を紹介します。(図2)
まず、静岡県の事例として、市町村国保、共済組合、健保組合等の各保険者の「特定健診データ」を県に集約しています。集約された特定健診データをもとに「特定健診・特定保健指導に係る健診等データ報告書」を県で作成しています。この報告書は、医療保険者及び市町や健康福祉センター(保健所)等の関係者が利用することを想定しており、「地域の実情を踏まえた具体的な目標値の設定」や、「目標の達成度の評価」に活用できるよう、特定健診等データを医療保険者単位(市町単位等)で分析・評価したものとなっています。また、特定健診データをもとに、地域や保険者ごとの健康課題を抽出し、各保険者にフィードバックする取り組みも実施しています。

次に、愛知県の事例では、県内企業を含む健康保険組合、協会けんぽの特定健診等のデータを集約しています。集約されたデータをもとに、地域・職域連携推進部会において協議を行い、各地域での生活習慣病の分布などの分析・評価結果について、各医療保険者へ還元する取り組みを実施しています。

そして、呉市の事例では、住民ごとにレセプトデータと特定健診データを突合して分析することで、精密検査や重症化予防プログラムの受診勧奨を実施するために活用しています。特に糖尿病の重症化予防に力を入れており、糖尿病が重症化した結果として人工透析に移行する住民の数を減少させるなどの成果を上げています。


(図2)

出所:静岡県、愛知県、呉市HPを参考にデロイト トーマツ グループ作成

3.健診データ利活用に関する政策動向

医療・健診・介護等のデータ利活用に関する政策の動向としては、2017年1月にデータヘルス改革推進本部が厚生労働省に設置され、具体的な検討が進められてきました。さらに、2018年7月には、「データヘルス改革で実現するサービスと工程表」が公表され、データの利活用により実現を目指すサービス内容やスケジュールが示されました。

また、COVID-19の感染流行にともない、「効率的かつ迅速にデータヘルス改革を進め、新たな日常にも対応するデジタル化を通じた強靱な社会保障を構築すること」を目的として、2020年7月にはデータヘルス集中改革プランが示されました。

データヘルス集中改革プランは以下の3つの内容について、2022年までの2年間で集中的に実施することを明記しています。

  • ACTION1:全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大
  • ACTION2:電子処方箋の仕組みの構築
  • ACTION3:自身の保健医療情報を活用できる仕組みの拡大

また、データヘルス集中改革プランのうち、健診データに関するもの(図3)については、マイナポータル等を利用して健診情報等を確認することを想定しており、以下のスケジュールで進むことが想定されています。

  • (実施済み):乳幼児健診、妊婦検診、特定健診、予防接種
  • 2022年度:自治体健診
  • 2023年度:事業主健診(40歳未満)
  • 2024年度:学校健診

特に、自治体健診については、医療機関から自治体に提出された自治体健診の結果を、各自治体からの健診データを格納する役割をもつ自治体中間サーバに集約することで、自治体健診情報を一括して管理する仕組みを構築しています。集まったデータを有効に活用するためには、データ項目やデータフォーマットをそろえる(標準化する)必要があり、厚生労働省から「1.医療機関から自治体に提出する自治体健診の結果」「2.自治体から自治体中間サーバに登録する自治体健診の結果」に関するデータ標準レイアウトが示されています。
システム対応に関する補助事業として、厚生労働省により2021年度事業として「健(検)診結果等の様式の標準化整備事業」が実施されており、自治体において必要なシステム対応が進められているところです。

(図3)

出所:厚生労働省「第8回データヘルス改革推進本部」 資料 データヘルス改革に関する工程表

4.健診データ利活用の将来像と課題

健診データを分析・活用することで実現する可能性がある将来像としては、以下のようなものが考えられます。

① 医療データとの連携を行い分析することで、がんや生活習慣病に罹患するリスクを算定し、住民に対する受診勧奨ができる
② 住民の健康状態に関する地域での特性を分析し、地域の実情に合わせた保健政策が立案・実施できる

1つ目の将来像では、冒頭にお示ししたような個人に対する受診勧奨をすることで、疾病を早期発見・早期介入することで、疾病の重症化を防ぐことが期待されます。今後、健診結果や医療機関を受診したデータに基づいて、個人に合わせた健康管理のサポートができるような社会が実現するかもしれません。

2つ目の将来像では、自治体等の健康増進・保健政策に関して、客観的なデータに基づいて立案することができ、地域住民の健康増進に対して、より効果の高い政策を提供することが期待されます。科学的な視点から、地域住民にとって必要な政策を自治体が立案することで、住民の健康不安を解消するような地域づくりにつながると考えられます。

一方で、健診データ利活用を進めるにあたっての課題として、以下の4点が挙げられます。

① 健診項目の標準化
② 健診結果の電子化対応
③ 個人情報の第三者提供に関する同意
④ ライフログデータの取得

まず、一つ目に、健診項目・検査結果の標準化に向けた課題があります。特定健診等の法律で項目が定められている健診以外は、自治体や保険者等の実施主体により項目が異なっており、分析の対象とする健診項目については標準化された項目を使用する必要があります。

二つ目として、健診結果の電子化対応医の課題があります。複数の医療機関をもつ医療法人グループや、規模の大きな医療機関が運営している健診施設では、健診システムが導入されており、検査結果の管理や提出を電子データで実施しています。一方で、健診を実施している小規模な医療機関や診療所では、健診システムを導入していない医療機関も多く、検査結果についても紙で提供されることも少なくありません。紙で受け取った検査結果については、電子データとしてシステムに入力する対応が必要となり、自治体や保険者の大きな負担となっています。ただし、医療機関の立場からすると、健診システムを導入する費用を自院で負担することが困難な場合もあるため、費用負担をどのように解決するかといった設備投資に関しても課題となっています。

三つ目として、個人情報の第三者提供に関する同意があります。健診等を目的として集めた健診結果を分析等の他の目的として利用する場合は、個人情報保護法により第三者提供にあたると規定されています。同法では、医療や健診に関する情報は「要配慮個人情報」と定められており、該当の情報を第三者に提供する場合は、個別に同意をとる必要があります。そのため、健診データを利活用するためには、健診を実施する際の同意の取り方や運用を変更する必要があります。一方で、同意の取り方に関する変更は、健診を実施する医療機関や情報提供する保険者や事業者の業務負担が増えることとつながるため、円滑に同意を取得する仕組みが必要となっています。

四つ目として、ライフログデータと合わせた分析に関する課題があります。個人に合わせた健康増進の提案をするためには、健診データの項目では測定されてない、運動量や睡眠時間、食事内容等の生活習慣に関するライフログデータが必要となります。ライフログデータの取得については、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスでの取得が考えられますが、利用するデバイスにより取得できるデータの精度が異なるため、分析に使える品質の高いデータをどのように集めるかが課題となっています。

5.終わりに

これまで述べたような政府のデータヘルス改革が進むにつれて、ヘルスケアに関するデータの利活用を社会に活用する基盤が整いつつあります。一方で、データの利活用に向けた課題も多く、利活用の課題を乗り越えた先にも、「どのようにデータを活用すればよいか」という新たな課題が立ちふさがることとなります。先行して取り組みを進めようとしている自治体等でも、データの利活用に関する出口戦略に悩んでいるところは多く、組織外部の知見を活用するケースも多くなっています。

今後は、自治体や保険者等でデータ分析やデータの利活用を実施することが期待され、分析の結果を活かした保健政策や事業内容が、住民や従業員のニーズとなる可能性があります。仮に、地域や企業ごとに住民や従業員の健康状態を数値化し、評価することができるようになれば、健康に対する自治体や企業の取り組みの差別化が進むことで、「住民に選ばれる自治体・企業」を目指すような未来も有り得るのではないでしょうか。

健診等のデータ利活用により、住民や従業員の健康に寄り添った新たな提案ができる自治体や企業が、今後増えていくことで、官民が一体となった地域の健康づくりにつながることが期待されます。このような取り組みが国として目指す姿である健康寿命の延伸に向けたアクションの一つとなり、地域や国全体の健康増進につながっていくと考えています。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/1

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