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新病院の基本構想における外部環境調査の必要性

今後の基本構想における論点と外部環境調査の重要調査項目

2040年を見据えた新たな地域医療構想が検討されている現在、医療を取り巻く環境変化を捉え、新病院の基本構想に反映するために外部環境調査はその必要性を増しています。本稿では新たな地域医療構想を見据え、従来の外部環境調査に対して今後必要となる重要調査項目を説明します。

なぜ今、綿密な外部環境調査が必要か

昨今、医療を取り巻く外部環境の変化は更に激しいものとなっています。少子高齢化の進展に伴い医療需要が変化し、それにより2025年以後の「新たな地域医療構想」等の制度面での議論が活発に行われています。また、新病院の建設費の高騰も未だ収まる様子がありません。このような状況の中で、今まで以上に外部環境調査の必要性が増しています。

外部環境調査の目的と一般的な調査項目

基本構想では、新病院の役割や病床の機能区分(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)、病床数、手術室数等の論点を検討することになります。これらの検討、意思決定の基礎データとすることを目的として外部環境調査が行われます。

一般的に下記の様な項目で調査されます。

① 将来医療需要推計
② 患者流入出動向
③ 地域医療機関の医療機能
④ 政策動向(地域医療構想、医療計画、診療報酬の改定動向等)
⑤ その他

今後の基本構想に求められる論点と今後の重要調査項目

昨今の環境変化や新たな地域医療構想を踏まえ、今後の基本構想では下図のような論点がより議論されると考えられます。これらの論点を検討するために、これまでの一般的な調査項目に対して、重要調査項目の調査が求められます。

今後の外部環境調査の重要調査項目

重要調査項目:政策動向(新たな地域医療構想の必要病床数、病床の機能区分)

基本構想において、新病院の病床の機能区分(現行:高度急性期、急性期、回復期、慢性期)及び病床数の検討は、施設規模を左右する重要な論点であり、主に内部環境調査において検討します。その際、地域医療構想上の病床の機能区分及び必要病床数の計算方法に準じて試算することがあります。新たな地域医療構想では、病床の機能区分及び必要病床数の計算方法が見直される予定となっており、政策動向として把握しておく必要があります。

具体的には、医療計画の基準病床数について、新たな地域医療構想で推計する「将来の病床数の必要量を上限とする」ことが提言されており、病床数の必要量の計算方法についても今後、ガイドラインで公表が予定されています。また、病床の機能区分は現行の回復期を包括期に改め、「高齢者救急等を受け入れ、入院早期からの治療とともに、リハビリテーション・栄養・口腔管理の一体的取組等を推進し、早期の在宅復帰等を包括的に提供する機能」を担うとされています。

重要調査項目:将来患者推計(救急医療需要、在宅医療需要)

高齢者の増加がピークとなる2040年に向けて、高齢者の救急患者の増加が予想されており、基本構想において新病院の救急機能及び入院早期のリハビリテーション等の機能の検討が必要となるケースが想定されます。また、高齢者の増加に伴い、在宅医療や介護領域との連携が求められると予想されており、基本構想において新病院の機能として検討が必要となるケースが想定されます。

このような場合、外部環境調査においても救急医療需要・在宅医療の将来推計を行う必要があります。救急医療需要の推計は、消防局の救急搬送件数に人口動態データ(都道府県別、年齢階級別)を掛け合わせる方法があります。また、在宅医療需要の推計は、患者調査のデータに同じく人口動態データを掛け合わせる方法があります。

出所:厚生労働省 「第11回新たな地域医療構想等に関する検討会 資料1 新たな地域医療について」(令和6年11月8日)

重要調査項目:AI/DX等最新技術の動向・展望

在宅医療の需要の増加に加え、今後、医療従事者の減少が予測されている中、生産性・効率性への投資は、新病院の基本構想において重要な論点です。外部環境調査の一環としてAIソリューション、医療DXや、オンライン診療等の最新技術・サービスの調査の必要性が増しています。これらの調査はデスクトップ調査に加え、各企業へのサウンディング等による情報収集が必要となります。

重要調査項目:建設環境の動向・展望

昨今の医療関連施設の建築環境は建築費の高騰により、再整備を断念する事例も出てきており、建築費を綿密に試算し、実現可能な計画策定が求められます。このため、外部環境調査の一環として建築単価等の情報収集の必要性が増しています。これらの調査もデスクトップ調査に加え、各企業へのサウンディング等による情報収集が必要となります。

 

まとめ

高齢化のピークを2040年に控え、首都圏以外の都道府県においては既に高齢者人口も減少に転じている地域もある中、新病院の基本構想においてダウンサイジングの検討も求められています。また、建築費高騰により一病院だけで再整備は難しく、統合再編を検討するケースもあります。したがって、このような重要な意思決定を行うためのエビデンスとして外部環境調査を行って頂く必要があります。

デロイト トーマツ グループでは、病院単独での建替えだけでなく、病院統合再編に関する実績も有しています。それに加えて、医療DXや医療MaaS等(新地域医療構想最前線:急速に進化する「多機能タイプ医療MaaS」最新動向)、新たなテクノロジーの採用もご提案しています。これら病院再開発の推進においては、初期段階から一級建築士のプロフェッショナル集団デロイト トーマツPRS株式会社(デロイト トーマツ PRS株式会社)と連携しながら、各病院個別の状況に合わせた新病院の基本構想の策定に貢献させて頂きます。

執筆

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア

柚木 大介|ディレクター
岩野 遼太|シニアコンサルタント(文責)
叶 馨如|コンサルタント

E-mail:dthc_surveyinfo@tohmatsu.co.jp

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2025/1

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