在宅医療等に関するR6年度診療報酬・介護報酬改定事項及びR7年度予算案の概要 ブックマークが追加されました
最新動向/市場予測
在宅医療等に関するR6年度診療報酬・介護報酬改定事項及びR7年度予算案の概要
令和6年度の在宅医療に関する主な診療報酬改定と介護報酬改定は、在宅医療・訪問看護の質を高めることやICTの活用を評価し、在宅医療情報連携や体制の連携を促進する内容となった。また、在宅医療関係に係る令和7年度予算案の概要は、各都道府県が策定した地域医療構想に基づく在宅医療等の充実等、各種事業を着実に進めていくために必要な施策を講じる内容や、医療計画等に基づく医療体制の推進及びかかりつけ医機能が発揮される制度整備の内容となっている。
1. はじめに
前号「第8期医療計画において求められる在宅医療の体制について」において、在宅医療は医療・介護・障害福祉専門職及び地域住民と多くのステークホルダーが関わる分野である。そして、今後、在宅医療の重要性の高まりにより、医療、介護のみならず、歯科、薬局、リハビリ、栄養など、在宅医療を推進するうえでより多くの専門家が連携することが重要である、と結んだ。
本号では、在宅(在宅医療・訪問看護)に関する令和6年度の主な診療報酬・介護報酬改定事項及び厚生労働省の令和7年度予算案の概要を整理したので、ご案内する。
2. 在宅医療・訪問看護に関する令和6年度の主要な診療報酬改定と介護報酬改定について
令和6年度診療報酬改定のテーマである「ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」の基本的な視点は、高齢になっても、病気や障害の有無にかかわらず、住み慣れた地域で自分らしい生活を続けられるよう、入院医療や外来医療、介護や福祉サービスと相互に補完しながら、患者の日常生活を支える医療を提供することである。
団塊の世代が全て75歳以上となる令和7(2025)年、さらにその先の令和22(2040)年にかけて、85歳以上の人口が急増するとともに、高齢者単独世帯や夫婦のみの世帯が増加し、85歳以上の年代では、要介護度が中重度の高齢者や、医療・介護双方のニーズを有する高齢者が大幅に増加する。令和22(2040)年に向けて生産年齢人口が急減する中で、医療・介護提供体制に必要な質の高い医療・介護人材を確保するとともに、サービスの質を確保しつつ、従事者の負担軽減を図られる医療・介護現場の実現が必要となる。各職種が高い専門性を十分に発揮するための勤務環境の整備やタスク・シフトやタスク・シェア、そしてチーム医療の推進等が重要となり、処遇改善の取組みに加え、在宅で療養を行っている患者に対し、ICTを利用した各種診療情報等の共有やロボット等を利活用した質の高い在宅医療の提供を推進することができる。さらに在宅患者の急変時においてもそれら診療情報を踏まえ、患者によって最適な医療を提供することが可能となる。
また、令和6年度介護報酬改定のテーマである「地域包括ケアシステムの深化・推進」では、認知症患者や単身高齢者、医療ニーズが高い中重度の高齢者を含め、それぞれの住み慣れた地域において利用者の尊厳を保持しつつ、質の高いケアマネジメントや必要なサービスが切れ目なく提供されるよう、地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取組を推進するとされている。特に医療と介護の連携の推進において、在宅における医療ニーズへの対応強化として、医療ニーズの高い利用者が増える中、適切かつより質の高い訪問看護を提供する観点から、専門性の高い看護師が計画的な管理を行うことを評価する加算が新設された。そして、高齢者施設等と医療機関の連携強化として、高齢者施設等で対応可能な医療の範囲を超えた場合に、協力医療機関との連携の下でより適切な対応を行う体制を確保する観点から、在宅医療を担う医療機関等と実効性のある連携体制を構築するための見直しを行うとされた。
以下に在宅医療におけるICT等の診療報酬・介護報酬改定項目を提示する。
出所:令和6年度診療報酬改定の概要【在宅(在宅医療、訪問看護)】
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001251538.pdf
① 在宅医療におけるICT等の主要な診療報酬改定項目
項目 |
主な内容 |
診療報酬の名称 |
在宅医療における医療DXの推進 |
マイナ保険証やICTを活用した情報連携の推進 |
【新設】10点 |
介護保険施設入所者の病状の急変時の適切な往診の推進 |
医療機関と介護施設での平時からの連携の推進 |
【新設】200点 |
地域における24時間の在宅医療提供体制の構築の推進 |
在宅療養支援診療所と在宅療養支援病院とそれ以外の医療機関における情報連携の推進 |
【新設】200点 |
在宅医療におけるICTを用いた医療情報連携の推進 |
同上 |
【新設】100点 |
② 訪問看護における主な診療報酬改定項目診療報酬及び介護報酬の改定項目
項目 |
主な内容 |
診療報酬介護報酬の名称 |
質の高い訪問看護の確保 |
ICTを活用した遠隔死亡診断の補助に対する評価 |
【新設】150点 |
参考:令和6年度診療報酬改定の概要【在宅(在宅医療、訪問看護)】
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001251538.pdf
参考:令和6年度介護報酬改定に関する審議報告の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001195278.pdf
参考:令和6年度介護報酬改定における改定事項について
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001213182.pdf
3. 令和7年度予算案の概要
国の予算案の概要を確認すると、今後の医療、介護等の政策動向を見据えることができる。令和7年度予算について、概算要求基準に基づき令和6年9月4日に各省庁の概算要求がなされた。概算要求とは各省庁が次年度の予算編成に向けて財務省に要求する予算概要である。そして、令和6年12月27日に政府案が閣議決定した。予算の成立は衆議院と参議院の両院の可決、通過をもって年度末までに決定することになる。
3-1. 令和7年度の厚生労働省予算案における重点事項
令和7年度の厚生労働省予算案における重点事項として、少子高齢化・人口減少時代にあっても、今後の人口動態や経済社会の変化を見据えた保健・医療・介護の構築や包摂社会を実現するとともに、持続的・構造的な賃上げに向けた三位一体の労働市場改革の推進と多様な人材の活躍促進を通じて国民一人ひとりが、安心して生涯活躍できる社会の実現に向けて、三つの柱に予算措置を行った。
その柱の一つである「全世代型社会保障の実現に向けた保健・医療・介護の構築」において、在宅医療に関わりがある「医療・介護のおけるDX、地域医療・介護の基盤強化の推進等」の予算案は以下となっている。
※括弧内は令和6年度当初予算額
(在宅医療に関わる予算)
- 地域医療構想・医師偏在対策・かかりつけ医機能等の推進 762億円(878億円)
- 地域包括ケアシステムの推進 2,470億円(2,474億円)
出所:令和7年度予算案の概要
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/25syokanyosan/dl/01-01.pdf
部局の予算案において厚生労働省医政局と老健局のそれぞれに在宅医療に関わる予算案が提示されている。
3-2. 厚生労働省医政局
3-2-1. 厚生労働省医政局の予算案
出所:令和7年度各部局の予算案の概要 医政局
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/25syokanyosan/dl/gaiyo-01.pdf
3-2-2. 地域医療構想・医師偏在対策・かかりつけ医機能等の推進
① 地域医療構想の実現に向けた取組の推進
団塊の世代が全て75歳以上となる2025年を見据え、質が高く効率的な医療提供体制を構築していくため、各都道府県が策定した地域医療構想に基づく病床の機能分化・連携の推進、在宅医療等の充実等、各種事業を着実に進めていくために必要な施策を講じる。
居宅等における医療の提供に関する事業(事業区分Ⅱ) |
地域包括ケアシステムの構築を図るため、在宅医療の実施に係る拠点の整備や連携体制を確保するための支援等、在宅における医療を提供する体制の整備に対する助成を行う事業。 |
② 医療計画等に基づく医療体制の推進及びかかりつけ医機能が発揮される制度整備
各地にお住まいの方々が、必要なときに適切な医療サービスが受けられるよう、地域の医療機関等や多職種が機能や専門性に応じて連携して、地域の医療需要に対応することがより一層重要であり、各地域における医療提供体制の整備のための取組を更に進めるとともに、地域における高齢者を支えるための在宅医療や体調急変時における夜間・休日対応を行う機能など、医療機関がかかりつけ医機能の内容を強化し、地域において必要なかかりつけ医機能の確保が進むよう必要な措置を講じていく必要がある。
在宅医療の推進:86百万円(112百万円) |
人生の最終段階における医療・ケアに関する本人の相談に適切に対応できる体制を強化するため、医療・ケアチーム(医師、看護師等)の育成研修を全国で実施するとともに、地域における在宅医療・救急医療等の関係者間の連携強化を支援するためのセミナーの実施等を行う。 |
特定行為に係る看護師の研修制度の推進:762百万円(767百万円) |
「特定行為に係る看護師の研修制度」(平成27年10月1日施行)の円滑な実施及び研修修了者の養成を促進するため、引き続き、研修を実施する指定研修機関の設置準備や運営に必要な経費を支援するとともに、研修を指導する指導者等育成のための支援等を行う。 |
参考:令和7年度 各部局の予算案の概要(厚生労働省医政局)
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/25syokanyosan/dl/gaiyo-01.pdf
3-3. 厚生労働省老健局
3-3-1. 地域包括ケアシステムの推進
① 在宅医療・介護連携の推進
在宅医療・介護連携に係る地域支援事業の推進(社会保障の充実)【再掲】 |
多職種協働により在宅医療・介護を一体的に提供できる体制を構築するため、都道府県・保健所の支援の下、市町村が中心となって、地域の医師会等と緊密に連携しながら、地域の関係機関の連携体制の構築を推進する。 |
在宅医療・介護連携推進支援事業(一部新規)37百万円→43百万円 |
地域の実情にあわせた在宅医療・介護連携に関する取組の推進・充実を図るため、在宅医療・介護連携に係る検討委員会の設置、実態調査、都道府県・市町村担当者等研修会議及び事業コーディネーターの育成、都道府県・市町村連携支援を行う。さらに、僻地、中山間地域、小規模自治体における在宅医療・介護連携に係る事例収集や検討会の実施、在宅医療・介護連携推進事業に関するプラットホームの拡充、Eラーニングの作成等を行う。 |
参考:令和7年度予算案の概要(老健局)
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/25syokanyosan/dl/gaiyo-12-1.pdf
4. 最後に
前段の令和6年度在宅医療に関する主な診療報酬改定と介護報酬改定は、在宅医療・訪問看護の質を高める内容であり、また、ICTの活用を評価し、在宅医療情報連携や体制の連携を促進する内容となった。後段の在宅医療関係に係る令和7年度予算案の概要は、各都道府県が策定した地域医療構想に基づく在宅医療等の充実等、各種事業を着実に進めていくために必要な施策を講じる内容や、医療計画等に基づく医療体制の推進及びかかりつけ医機能が発揮される制度整備の内容となっている。
令和7年度は「2025年問題」と叫ばれた、団塊の世代が全て75歳以上となる年である。後期高齢者の増加による医療と介護の需要増による社会保障費(医療費、介護費など)の負担増や生産年齢人口の減少による医療や介護業界の人手不足が深刻化することがかねてより課題とされていた。その中で、新型コロナウイルス感染症を経て、国民の医療に対する医療需要は変化したとされる。多くの医療機関で外来患者の減少が見受けられた。また、行動の抑制によりフレイルの増加やコミュニケーションの減少から認知症の進行が見受けられ、その影響は今後も続くとされる。
国民が限られた財源、人材の中で効果的に医療、介護サービスを享受できるためには、今後の医療提供体制の構築において、各分野の連携と図ることが重要とされるが、その実現には情報の連携をはじめICTの推進は必要不可欠になると考える。
執筆
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2025/1
関連サービス
ライフサイエンス・ヘルスケアに関する最新情報、解説記事、ナレッジ、サービス紹介は以下からお進みください。
ライフサイエンス・ヘルスケア:トップページ
■ ライフサイエンス
■ ヘルスケア
ヘルスケアメールマガジン
ヘルスケア関連のトピックに関するコラムや最新事例の報告、各種調査結果など、コンサルタントの視点を通した生の情報をお届けします。医療機関や自治体の健康福祉医療政策に関わる職員様、ヘルスケア関連事業に関心のある企業の皆様の課題解決に是非ご活用ください。(原則、毎月発行)
>記事一覧
メールマガジン配信、配信メールマガジンの変更をご希望の方は、下記よりお申し込みください。
>配信のお申し込み、配信メールマガジンの変更
お申し込みの際はメールマガジン利用規約、プライバシーポリシーをご一読ください。