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ビジネスDDガイド:コマーシャルデューデリジェンスの実務ポイント 第8回

業界有識者/競合企業/顧客へのインタビューの実施

コマーシャルデューデリジェンスにおけるインタビュー実施の目的を説明するとともに一般的なインタビュー項目リストを紹介します。

I.はじめに

コマーシャルデューデリジェンスでは他のデューデリジェンス(財務、税務、法務、等)と同様にインタビューを実施する。インタビューはデスクトップ調査では得られない様々な情報が得られるため、デューデリジェンスにおいて有益なプロセスとなる。他のデューデリジェンスでは情報収集が中心となるかもしれないが、コマーシャルデューデリジェンスでインタビューを実施する目的としては情報収集、仮説検証の2つがある。

 

II.目的①:情報収集

インタビューにおける情報収集はデスクトップ調査では入手が難しいものを補完するために行う。インターネット上では統計資料、調査レポート、雑誌、新聞、ブログ等で様々な情報が入手可能であるが、インターネットから得られるものは部分的な情報であり、デスクトップ調査だけでは情報取得に限界が生じる。特に市場規模や企業数が限られているニッチな業界になるとデスクトップ調査で情報を得ることが困難な場合がある。ただし、インタビュー時間を有効活用するためにデスクトップ調査で集められる情報は事前にデスクトップ調査で入手を行う。インタビューによる情報収集はデスクトップ調査では入手が難しいものを補うために活用する。インタビューでは数値や定性的な情報を収集するのに加えて、統計数値の解釈の仕方や数字の裏にある背景や考え方はデスクトップ調査では得られにくいため、インタビューによって情報を入手する。

情報収集を目的としたインタビューの場合、「誰に」、「何を」、「どのように」聞いていくのか情報収集にバイアスが掛からないようにインタビュー前に事前に検討する必要がある。物事はアプローチする角度によって捉え方が異なってくる。例えば、「誰に」という観点で供給側のメーカーなのか需要側の消費者なのか、部材を供給するサプライヤーなのか調達するメーカーなのかの違いがあり、聞く相手によって考え方が異なってくる。

また、同じ属性を持った対象者であっても選定にバイアスがかからないように配慮した方が良い場合がある。例えば、ターゲット会社からの紹介で顧客にインタビューをする場合には、そもそもインタビューを受け入れる顧客はターゲット会社に対して良い評価を持っている、またはターゲット会社が良い評価を持っていると想定される顧客を選定する可能性がある。またインタビュー対象者が紹介者にインタビュー内容が伝わることを恐れて、紹介者に対しての悪い評価に関する本音を隠してしまうことも起こり得るだろう。

 

III.目的②:仮説検証

インタビューにおける2つ目の目的は仮説検証である。コマーシャルデューデリジェンスでは分析の初期段階において仮説構築およびストーリーラインを作成する。ストーリーラインとはコマーシャルデューデリジェンス報告書の全体のメッセージの流れを指している。仮説はデスクトップ調査の過程でも分析内容に応じて修正を行うが、インタビューの中で仮説に対して意見を貰うことで洗練されたものにブラッシュアップすることが出来る。

「仮説」はあくまで「仮説」であり、新たな発見事項によって仮説が変わるということには留意する。当初の仮説は一定の前提のもとで作成しており、新たな発見があり、仮説の変更が必要になれば、柔軟に対応する。また、仮説がブラッシュアップされるとストーリーラインも組み直す必要性が出てくる。ストーリーラインの変更によって新たな仮説も生まれてくることもある。

【図表】仮説検証の例示
※クリックして画像を拡大表示できます

IV.一般的なインタビュー項目リスト

仮説検証の内容やM&Aの目的、買収会社の懸念事項、ターゲット会社の特性、業界等によってインタビュー項目は異なる。業界有識者、顧客、競合企業に対する一般的なインタビュー項目を記載するが、案件毎に過不足がある項目については調整が必要である。

業界有識者/競合企業用のインタビュー項目(例示)
※クリックして画像を拡大表示できます
顧客用のインタビュー項目(例示)
※クリックして画像を拡大表示できます

 

 

V.総括

インタビューはデスクトップ調査では得られない情報や数字に隠された背景や仮説検証を行うために実施し、有益な情報源になる。インタビュー時間は限られた中で実施することが求められるため、インタビューを有効活用するためにも念入りに事前学習や準備を行って万全の状態で臨むことが望ましい。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートストラテジーサービス
ヴァイスプレジデント 中山 博喜

※2017年7月からタイのメンバーファームであるDeloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.に駐在中

コーポレートストラテジー部門にて、各業種のクライアントに対して主にビジネスDD、コマーシャルDD、オペレーショナルDDを提供。クロスボーダー案件の経験も数多く、現在は在タイの日系企業を中心にM&A案件に関するアドバイザリー業務を提供。

監修

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートストラテジーサービス統括
パートナー 初瀬 正晃

主にM&A戦略、統合型デューデリジェンス(ビジネスDDを含む)、事業計画策定支援、事業価値評価、交渉支援、PMI支援、Independent Business Review (IBR)、Corporate Business Review (CBR)、Performance Improvement (PI)に従事。大手商社の経営企画部に出向し、国内外の投融資案件を多数支援した経験を有する。

 

(2020.05.12)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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