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ビジネスDDガイド:コマーシャルデューデリジェンスの実務ポイント 第9回
シナジー分析の進め方
買収後に買収会社とターゲット会社が事業を行うことで生み出される「相乗効果」について検討を行うシナジー分析。その進め方とポイントを解説します。
I.はじめに
シナジー分析は買収後に買収会社とターゲット会社が事業を行うことで生み出される「相乗効果」について検討を行うものである。シナジーにはプラスに働くシナジー効果とマイナスに働くディスシナジー効果の2種類があり、両方のシナジーを検討する必要がある。
II.効率的に進めるためのポイント~シナジー分析・調査タスクの設定
シナジー分析のアプローチ方法は、以下の4つのステップで進める。
① 想定されるシナジー効果の項目洗い出し
② 具体的な施策内容の検討
③ 定量化の検討
④ アクションプランの作成
III.①想定されるシナジー効果の項目洗い出し
M&Aが「1+1=2ではなく、1+1>2」といわれるのは、M&Aによるシナジー効果が理由だ。シナジー効果は売上、コスト、資産効率の面で考えられるが、事業内容によって実現しうるシナジー効果は異なる。シナジー効果とはプラスの要因だけではなく、ディスシナジー効果といわれるマイナス要因も場合によっては生じうる点を留意する必要があり、かつ、統合や協業する際に追加コストが発生する場合には考慮する。
プラスのシナジー効果は収益向上のシナジー、費用低減のシナジー、資産効率のシナジーに分けられる。費用低減のシナジーの方が実行に移しやすい。理由は収益向上のシナジーは顧客やサプライヤー等の自社でどうにもならない要素が多く含まれているためである。費用低減のシナジーは買収会社およびターゲット会社の取り組みで達成できるものあり、収益向上シナジーと比較して相対的に実行が容易であるといえる。
【図表2】シナジー効果/ディスシナジー効果の例示
シナジー分類 |
シナジー項目 |
概要 |
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収益向上 |
規模の経済 |
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クロスセリング |
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営業機会の増加 |
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製品ラインナップの拡大 |
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費用低減 |
重複機能の統合 |
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ノウハウ共有による効率化 |
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技術共有による研究開発力の向上 |
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ブランド統一化での広告力の向上 |
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資産効率 |
投資効率の向上 |
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保有不動産の効率化 |
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ディスシナジー/統合コスト |
ITシステム統合に掛かるコスト |
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機能の統廃合によるコスト |
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スタンドアローンコスト |
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顧客や従業員の流出 |
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販売先のカニバリゼーション |
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出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成
IV.②具体的な施策内容の検討
シナジー効果の内容を見ると分かるが、これらのシナジー効果はM&Aによって自動的に生まれる訳ではない。買収会社やターゲット会社でどのようなシナジーが見込まれるか検討し、その実現に向けてが具体的な施策内容の検討を行うことが求められる。
どこまでがシナジーによるものなのか判別が難しいものもある。例えば、「ノウハウの共有による効率化」は効率化したが、それが収益向上や費用低減にどの程度寄与したか定量化が難しい。このようなシナジーを否定する訳ではないが、買収価格を検討する際には除いて考えるのが望ましい。
V.③定量化の検討
想定されるシナジー効果を洗い出した後は定量化を行う必要がある。顧客やサプライヤーが関わるものは外部的要因によって左右されるため、実現の蓋然性は低くなる傾向がある。一方で機能統合などの買収会社およびターゲット会社の努力で実現できるものは比較的実施が容易であり、かつ定量化も精度高くなる傾向がある。
全てのシナジー効果の定量化をデューデリジェンスのプロセスで対応するのは作業量やタイムラインが間に合わず、難しい場合がある。その時には金額的影響度が大きいもの、あとは買収後に短期間で実施可能なもの、の2軸で検討を行う。また、作業時間に限りがあり、タスクを限定する必要があれば、定量化作業に時間があまりかからないものという軸を加えて優先順位をつけて作業を行う。
VI.④アクションプランの作成
シナジー効果は待っていても実現できない。したがって、買収後にどのようにシナジー効果を実現するかアクションプランを策定することが望ましい。策定時には責任の所在を明らかにすること、時間軸や金額を明確にすること、具体的な施策まで落とし込むことが必要となる。アプローチとしては、なぜ(Why)、いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、どのように(How)、どのぐらい(How much/many)という「5W2H」の観点で検討をすると具体的、かつ実行的なアクションプランが策定できる。
VII.総括
M&Aを検討する際にはシナジー効果を見込んで買収を進めることが多い。しかし、M&Aのプロセスの中では具体的な施策の検討まで落とし込みが出来ていないように見受けられる。外部環境や内部環境も踏まえてシナジー効果を実現するために具体的な施策まで落とし込む重要性である。具体化できないシナジー効果は達成するのが難しい可能性があり、買収価格への反映や過度に楽観的になるのはM&Aを成功に導くためには避けるようにすることが肝要である。
※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートストラテジーサービス
ヴァイスプレジデント 中山 博喜
※2017年7月からタイのメンバーファームであるDeloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.に駐在中
コーポレートストラテジー部門にて、各業種のクライアントに対して主にビジネスDD、コマーシャルDD、オペレーショナルDDを提供。クロスボーダー案件の経験も数多く、現在は在タイの日系企業を中心にM&A案件に関するアドバイザリー業務を提供。
監修
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートストラテジーサービス統括
パートナー 初瀬 正晃
主にM&A戦略、統合型デューデリジェンス(ビジネスDDを含む)、事業計画策定支援、事業価値評価、交渉支援、PMI支援、Independent Business Review (IBR)、Corporate Business Review (CBR)、Performance Improvement (PI)に従事。大手商社の経営企画部に出向し、国内外の投融資案件を多数支援した経験を有する。
(2020.06.09)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。