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Industry Eye 第85回通信・メディア・エンターテインメントセクター

次世代通信インフラ(Beyond 5G(6G))に関する最近トレンド

次世代通信インフラ(Beyond 5G(6G))の実現に際して、日本がリーディングポジションを構築していくためには官民連携やクロスボーダーでの仲間づくり、M&Aによるミッシングパーツの獲得等が必要になってくるものと思料されます。本稿ではBeyond 5G(6G)に係る近時のトレンドを整理します。

I. はじめに

総務省が2023年7月に公表した令和5年情報通信白書において、Beyond5G(6G)について言及されており、2030年代においてInclusive、Sustainable、Dependableを意識した社会の実現を目指すべく政策が説明されている。

2024年現在においてBeyond5G(6G)の実現に向けた動きは活発化してきており、情報通信白書に取り上げられたことからもこの流れは必至である。

本稿においては通信セクターの将来像そのものと言っても過言ではない本動向・トレンドを紹介する。

II. 令和5年情報通信白書の概要

情報通信白書においては、①超安全・信頼性、②超低消費電力、③超低遅延、④超高速・大容量、⑤超多数同時接続、⑥拡張性(非地上系)、⑦自律性、の7つがBeyond 5G(6G)で実現される機能とされている。

図1

出典1:「令和5年版 情報通信白書」(総務省)https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/pdf/00zentai.pdf

 

また、これらの実現のためには、1.オール光ネットワーク技術、2.オープンネットワーク技術、3.情報通信装置・デバイス技術、4.ネットワーク・オーケストレーション技術、5.無線ネットワーク技術、6.NTN(HAPS・衛星ネットワーク技術)、7.量子ネットワーク技術、8.端末・センター技術、9.E2E仮想化技術、10.Beyond 5G・アプリケーション技術、の10の課題解決が必須と考えられている。

図2

出典2:「令和5年版 情報通信白書」(総務省)https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/pdf/00zentai.pdf

III. 各課題に対する取り組み状況・事例

Innovative Optical and Wireless Network(課題1)

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)はNTTが中心となって推進する次世代通信ネットワーク構想であり、主に光技術による「オールフォトニクス・ネットワーク」と、そのうえに構築される「デジタルツイン・コンピューティング」、それらの処理を全体最適にリソース配分を行う仕組みとしての「コグニティブ・ファウンデーション」の3つの要素から成り立っているものである。

IOWN構想の背景には、情報量・エネルギー消費の膨大な増加がある。スマートフォンやインターネットの普及に伴いデータ量は急激に増加しているが、IoTデバイスの普及、動画コンテンツの高画質化、遠隔医療や自動運転などの新技術の発展、学習や推論のための大量のデータ読み込みを必要とするAIの普及、メタバースの拡がりによる情報量の増加(2次元から3次元への変化)など、さらなるデータ量の膨大な増加が見込まれる。そして、デバイス単体レベルの省エネ化だけでは、根本的な対応が困難なレベルでエネルギー消費量が増加することが懸念される。

「オールフォトニクス・ネットワーク」は上記課題の解決に向けて、演算処理は電気信号、通信は光技術を用いてきた従来の仕組みを、演算から通信までend to endでの光伝送を実現する仕組みとして検討されている。これにより、現在のインターネット技術と比較して圧倒的な低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送の実現を目指している。

「デジタルツイン・コンピューティング」は、従来のデジタルツインの概念を発展させた概念となっている。従来のデジタルツインが実世界の個々の対象をサイバー空間上に再現し、分析・予測などを行うものであったのに対し、ここで提唱されているデジタルツイン・コンピューティングは多様な産業やモノとヒトのデジタルツインを自在に掛け合わせて演算を行うことにより、デジタルツイン同士のインタラクションをサイバー空間上で行うことを目指している。これにより、ヒト・モノを含むデータやモデルを用いて、サイバー空間内で精緻かつ複雑な仮想社会を構築、シミュレーションし、その結果を実世界にフィードバックすることを目指している。これにより、ヒト・モノを含むデータやモデルを用いて、サイバー空間内で精緻かつ複雑な仮想社会を構築、シミュレーションし、その結果を実世界にフィードバックすることを目指している。

「コグニティブ・ファウンデーション」は、クラウド、ネットワークサービスに加えて、ユーザーのICTリソースを含めた構築・設定・管理・運用を一元的に実施できる仕組みであり、有限なリソースを全体最適に調和させ、必要な情報をネットワーク内に流通させることを目指している。

IOWN自体はNTTが開発した技術であるが、この構想の実現・普及を推進するIOWN Global Forumは米国を本拠地として設置され、世界のIT企業を巻き込んで技術開発と標準化、事業展開を推進しており、2030年頃の実用化に向けて検討が進められている。

 

Open Radio Access Network(課題2、9)

次世代のネットワーク環境に向けた重要な動向として、Open RAN(Open Radio Access Network)に関する取り組みも挙げられる。背景として、4Gにおいては特定の機器ベンダーから通信機器一式を採用してネットワークを構築する垂直統合モデルが主流であり、例えば基地局ベンダーの機器を採用した場合、その他の装置についても同じベンダーの仕様に準拠したものを導入しなければならず、一部の機器ベンダーによるロックイン状態が生じている。

こうした状況下で、Open RANへの取り組みは、ネットワークの構成要素を標準化し、異なるベンダーの機器やソフトウェアが互いに連携して動作できるようにすることを目指すものであり、通信事業者はより柔軟にネットワークを構築・運用できるようになる結果、ベンダーによるロックイン状態の解消につながり、イノベーションの加速やコスト削減が期待されている。

Open RANを実現するうえではネットワーク仮想化が重要となる。仮想化とは、ソフトウェア技術によって専用のハードウェアと同じ機能を実現する技術であり、これを用いることでネットワークを柔軟に構成できる。通信事業者としては、仮想化を実現するソフトウェア技術を確保すれば、特定ベンダーに依存しないRANを構築することができる。また、基地局ベンダーとしては、現状のベンダーロックインの構造が崩れることでシェア奪取を狙うこともできると考えられる。

 

Non-Terrestrial Networks(課題6)

NTN(HAPS・衛星ネットワーク技術)についても取り組みは進んでいる。昨今、ウクライナでの軍事利用や石川県での被災時の利用等により、小型衛星コンステレーションにて宇宙からインターネットへの通信接続を提供するStarlinkの認知が高まっている。

Starlinkについては、既に5,000機以上の衛星を打ち上げており、全世界での通信カバー率を大きく広げている。技術的な面では、ネットワーク接続に地上に専用アンテナの設置が必要であるものの、2022年以降、Apple×GlobalStar、KDDI×Starlink、楽天×AST SpaceMobile等の取り組みにおいて、地上アンテナを配備せずに直接端末にて通信が可能になる仕組みの開発・検討が進んでいる。現時点ではまだ低速かつ緊急SOS送信のみに用途が限られ、地上の既存通信網を代替できるレベルではないものの、今後用途は徐々に広がっていくと思われる。

また、もう1つ検討が進んでいる領域として、HAPS(High Altitude Platform Station、高高度基盤ステーション)がある。前述のStarlinkなどは、LEO(Low Earth Orbit、地球低軌道)と呼ばれる地上から数百km~2,000kmの間で衛星を飛ばすサービスであるのに対して、HAPSは地上から約10km~50kmの成層圏を飛行する機体を指している。衛星ではなく無人飛行機(UAV)や気球、飛行船型の機体を飛ばすことで、通信基地局・監視・観測等のサービスを顧客に提供可能にするものである。

HAPSは、古くは1700年代後半から飛行船型・気球型の機体が、20世紀初頭から無人飛行機(UAV)の本格的な開発・運用が始まっている。HAPSの概念自体は1997年にWRC(World Radiocommunication Conference、世界無線会議)で初めて国際的に定められ、現在に至るまで防衛や航空事業を手掛ける企業等を中心に実証実験がなされてきたが、昨今では政府機関向けや民間企業向けに実用化が始まっている。HAPSは成層圏をいかに長い期間飛行できるか(安定して通信等のサービスを提供可能か)が重要であるが、バッテリーや太陽光パネル等の技術の進展により、今では数ヶ月の飛行が可能となってきている。

また、LEOでのサービスとは異なり、衛星の打ち上げは不要で、必要なタイミングで必要な場所に機体を飛ばすことが可能なため機動性に優れ、災害時の利用等にも適している。その上、機体が衛星よりも地上から近い距離にあるため、通信速度もLEOより早い。今後更なる技術の進展やコスト効率の改善が進めば、軍事利用、災害・紛争時の利用、離島・山間部・砂漠・海上の通信エリア化、IoT機器接続の広範囲化、スマートシティ等、様々な用途に活用できる可能性を秘めている。

IV. おわりに

このように、2030年代に向けた動きは既に始まっていることから、Beyond5G(6G)は遠い未来ではない。10の課題解決に関しては、国内での研究開発に閉じることなく、広くアライアンス関係を構築すべく、グローバルでの仲間づくり、M&Aによる獲得等を行っていく必要があるものとも思料される。Beyond5G(6G)実現の過程においては、目指すべき社会像に合わせた通信関連の法律改正、ルール作りを行うことも必要になるかもしれず、官民連携も必要となり得るだろう。

今後も大きなうねりが想像される中、当社としても日本が通信業で世界をリードするための支援を行っていきたい。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
テクノロジー・メディア・通信
マネージングディレクター 友永 亮一
パートナー 谷口 雅俊
マネージングディレクター 山口 洋平
アナリスト 網屋 英希

 

(2024.3.15)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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