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環境変化に対応する不断のグループ組織再編

環境変化に対応し中長期的にグループの企業価値を向上していくためのグループ組織体制の不断の改革

昨今、日本企業が抱える経営課題とそれに対応する経営戦略が大きく変化しているなか、多くの日本企業において、経営戦略に応じた組織基盤・グループ体制の見直しが追い付いておらず、戦略との不整合が起きている。環境変化に応じて不断に組織体制を見直し成長している好例から、グループ組織再編を成功に導くための視点を紐解き、ご紹介する。

いま日本企業が抱える課題

昨今日本企業が抱える経営課題は大きく変化している。国内市場のシュリンクやDXの進展に伴う事業構造の変化、更にはCOVID-19後の恒常的な生活スタイルや顧客ニーズの変化などを受けて、自社の事業構造の転換が求められている。今の柱である事業は競争力の維持強化のための構造改革を行い、次なる柱としてグローバル化加速や成長・新規領域への軸足転換を図るなど、グループのアセットを総動員して活路を見出そうとしている企業は多い。

このような経営戦略の変化に際しては、それを支える組織基盤・グループ体制も不断の見直しをすることが不可欠である。しかし実際には、過去からの再編やM&Aの積み重ねの結果として将来戦略と整合しないグループ体制となっていたり、中長期ビジョン・戦略とのつながりが深堀り不足なまま組織のハコを変えるだけで終わり従業員エンゲージメントに悪影響を与えてしまうようなケースも散見される。

これまでにない経営環境・戦略の変化を踏まえ、グループ組織体制についても、これまでになく聖域なき・抜本的な見直しを考え、戦略と一体的に語ることが今求められているのではないか。

本稿では、環境変化に応じて不断に組織体制を見直し成長している好例から、グループ組織再編を成功に導くための視点を紐解き、ご紹介する。

環境変化に適用し進化し続けるグループ組織体制

事業環境が目まぐるしく変化する中において、一部の日系企業においては、環境変化に適用する形で不断にグループ組織の構造改革を推進しその組織形態は進化している。

その代表的な類型として大きく以下の4タイプが挙げられる。

  1. ポートフォリオ経営の推進・事業創出に向けた組織体制
    第一に挙げられるのは、持株再編等によって事業の執行と
    グループ経営・監督を組織的に分離し、HDがより中長期・グループ目線で経営資源配分を行い、既存の事業だけでなく新たな事業の柱の創出に向けた資源配分を大胆に実施するケースである(M&A・グループ内での事業の組換えも積極活用しやすくなる)。事業会社側はそれぞれ競争環境に特化した経営構築・仕組み整備が可能となり競争力強化に繋げている。

    ※サービス業A社では、組織再編による遠心力と求心力を使い分け、事業立地の組換えを行っている。凡そ10年前に持株会社体制に移行し、分社事業会社の競争力(相互での切磋琢磨)を高めつつHDにてM&Aを活用して新たな事業を探索・育成し、新たな事業の柱を確立した。その後、事業戦略の加速を企図し、更なる事業への機能・権限の移管によるグループ組織再編を遂行した。直近では、柱の1つである事業においてグループ内に分散した経営資源を集約・競争力強化のため、分社した事業会社の統合を進めている。
  2. グローバル化の推進を企図した組織再編
    次に挙げられるのは、多くの日系企業にとっての重要課題であるグローバル化の推進に向けて、組織体制を再編するケースである。より地域ごとの経営を推進していくための、地域統括等の組織構造の再編や、大型のM&Aによって獲得した企業をコアにグローバル展開を加速するために、親会社自体の組織体制を見直すケースも見られる。
    ※サービス業B社では、英国企業の大型買収を機にグローバル展開を推進してきた。一方、海外を主軸としたビジネスを行う被買収企業の重要な経営判断を、国内を主軸とした親会社が実施していくことに不整合が生じてきたことや、よりグローバルレベルで組織間の繋がりを強化していくために、純粋持株会社への再編を含むグループ経営体制の抜本的な見直しを実施している。
  3. 本業への経営リソースの集約化を企図した持株会社体制の解消
    また、近年では持株会社体制を実施した後に、本業への原点回帰・経営リソース集約化を企図し、事業持株会社に変更するケースも増えている。これは、持株会社体制を取って一度分散し、事業の裾野を広げたうえで、自社にとっての本流としての事業を見極め、再度再編をするケースである。
    ※素材メーカーC社では、2000年代に持株会社体制に移行し、事業の自律自転を促進しながら、個々の事業の収益力を高めてきた。その後、主力事業を再度統合して事業持株会社体制に移行し、本業に経営リソースを集中させる経営を推進している。
  4.  グループ経営力の集約化を企図した大規模なグループ組織再編
    さらに、事業環境の変化にグループ一丸となって対応し、強固な経営体制を構築するために、グループ子会社を含めて抜本的に組織体制の在り方を見直し、グループ内の統合により経営力の強化を図るケースも見られる。
    ※運輸業D社では、持株会社体制に移行して、新たな事業領域の拡大を推進してきた。一方、近年の事業環境の変化を踏まえ、グループの経営資源を最大限活用し、グループ一丸となった戦略を推進するため、主要な子会社を集約・統合し、グループ組織体制の抜本的な見直しを実施している。
     

これらはあくまで代表的な類型・事例であり、企業の置かれている状況に応じて、他の類型への段階的な移行や同時的に起こり得ることも想定されるが、環境変化に応じて組織の在り方を不断に、大胆に見直し続けることが重要となる。

今後のグループ組織再編において求められる視点

これまでの類型に見られるようにグループ組織再編を契機として組織再編を成功へ導くためには具備すべき4つの視点が存在する。特に環境変化がより激しくなり、不確実性が高まる近年の状況を踏まえるとこれらの要素がより重要度を増している。

『戦略(What)を起点』とした変革推進
これまでの日本企業が陥りがちであった『既存組織をどのように変えるか』といった既存組織を前提とした発想に立つのではなく、グループ組織再編そのものは手段であり『何を目的に変革をするのか(What is Our Winning Aspiration?)』を初めの問いとすることが最も重要である。特に市場における勝ち筋(KSF)が変化する中では既存の親子関係にも縛られないことで、グループ本来の経営資源のフル活用が実現する。

  • 長期ビジョンの視野に立ち『不断に組織を見直す』柔軟性
    グループ組織は環境変化が激しい中においては、当然環境や戦略に合わせ不断に見直されるものである。この変化の軸となるものは長期ビジョンに他ならない。
    成功企業は必ず長期ビジョンが存在しこれに基づく再編を繰り返すことで、本来の意味での柔軟性を備え環境変化に強い真の組織となる。
  • 『組織再編を契機』とした本質的な変革の加速化
    「鉄は熱いうちに打て」と言われるように、組織もまた同様に組織再編直後が最も従業員にとって変革を受け入れらやすい傾向にある。成功企業は変革を推進する最中で、変革直後から中期の施策を立案し、再編と同時に取り組みをスタートさせている。組織再編はあくまでグループ変革を行うための体制作りであり、その真価は再編直後の変革施策の打ち込みにより発揮される。
  • 経営による『痛みを伴う変革』へのコミットメント
    最後にグループ組織再編においては最も重要な視点と言えるのは、この『経営のコミットメント』である。組織再編に端を発する変革は必ず成果と痛みが表裏一体で存在する。これらの痛みを選択する決断には経営者のコミットメントが必須であり、経営のコミットする姿勢を見て組織は動き出す。
     

モニター デロイトのサービス

モニター デロイトでは、単なる「新組織の実装」に留まらず、その前段となる「戦略検討」(中長期戦略策定・事業ポートフォリオ策定等)からの組織設計・実装を行い、環境・経営変化に対応した組織作りを行います。

「戦略検討」では、昨今の環境変化(デジタル・AI・社会課題・SDGs・メガトレンド等)を幅広く捉え、経営層とのディスカッション(Deloitte Greenhouseご参照)を通じ、“強い組織”の設計に結び付けていきます。

また、「新組織の実装」については、これまでにデロイト トーマツ グループとして200件以上のグループ組織再編(グループ子会社再編、持株再編、持株解消等)の構想、実行をご支援しており、経験・実績と総合力(税務・人事・IT等)に基づく確実な実装に向けて伴走いたします。
 

当該領域の専門家

安藤 雄三/Yuzo Ando
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ディレクター

製造業・エネルギー業をはじめ幅広い業界において大規模経営統合(業界再編含む)、グループ組織再編(持株会社体制含む)に関わるプロジェクトを数多く手がける。近年では、コア事業・第一の柱を変革しつつ、新たな事業創出に向けた取組みを後押しするため戦略起点での経営統合・組織再編、その後のグループ経営を強化するグループガバナンス設計等の案件に多数従事している。

増田 祐介/Yusuke Masuda
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ディレクター

M&A/組織再編領域に従事。買収・統合・JV設立等におけるPMIや持株会社化・合併・分割等を伴うグループ組織再編、コーポレート組織再編・機能強化等のテーマについて、構想から実行までの幅広いアドバイザリー経験を有し、伴走型の支援を得意とする。
近年はエネルギー業界を中心に、成長領域へのシフトや多角化推進、グローバル展開等を目的としたグループ組織構造改革・コーポレート組織改革案件に多数従事している。

 

松宮 知樹 / Tomoki Matsumiya
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー

消費財、製造業、運輸業など幅広い業界において、持株再編、グループ会社再編、コーポレート改革、抜本的コスト構造改革を専門に、戦略策定から組織・制度設計、業務プロセス構築まで一貫した支援に従事する。

近年では、持株会社・グループ会社体制の再構築やコーポレート組織の更なる改革といった、事業環境変化に対応するグループ組織体制の構築に多数従事している。

緑川 祐哉/Yuya Midorikawa
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー

製造業、サービス業、金融業の幅広い業界において、バイサイド/セルサイドの両面のM&Aの構想策定からディール実行、PMIを一貫したアドバイザリー経験を有す。
近年においては、M&Aを活用したグループ組織再編やIT機能を中心とした間接機能改革の案件に多数従事しており、構想から実行までの伴走型のサポートに強みを持つ。

 

尾島 健/Ojima Takeshi
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネージャー

 組織再編・M&A、イノベーション・事業創造等のコンサルティングに10年以上従事。

戦略・構想段階から設計・実装まで幅広い経験を持つ。

組織再編・M&A領域では、企業の競争力向上や事業創造を念頭においた、経営統合・買収・グループ内再編(持株会社化、事業・子会社の統合・売却)等、多数の再編スキームの経験を有する。

また、イノベーション・事業創造領域では、社会課題を起点とした新規事業テーマ検討、新規事業のビジネスモデル検討、イノベーション創出の仕組み設計等に多くの経験を有する。

(2021.08.05)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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Strategic Reorganization
経営戦略を実現する組織構造再編成

産業構造・事業環境の大きな変化と不確実性に機動的に対応し、持続的な成長と企業価値の向上を果たすために、戦略推進、成果創出のための基盤構築に向けた持株会社設立・事業分社および関係会社を含む大規模組織再編、グループガバナンス構造改革、コーポレート組織・機能改革などの組織・ガバナンス面の改革をご支援します。

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