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なぜ本社間接機能の改革は頓挫するのか

グローバル本社への脱皮:本社間接機能の抜本改革(前編)

多くの企業でグローバル経営基盤強化、国内勝ち残りに向けた間接部門のスリム化として、オペレーション業務に焦点を当てた効率化の取り組みは、過去から実施されてきているが、求められる大胆な変革はあまり見受けられない。なぜ本社間接機能の改革は思ったように進まないのかについて述べていきたい。

なぜ本社間接機能の改革は頓挫するのか

なぜ本社間接機能の改革は頓挫するのか
本社間接機能の強化・効率化を目指した改革が、難航し頓挫する要因については、各社が置かれた経営環境や、採用した改革アプローチの巧拙、本社部門の歴史的経緯や機能の持ち方、さらにはトップや経営陣の個人的な資質・リーダーシップに至るまで、百社百様の要因が挙げられよう。
しかし弊社は、これまでの支援実績や、本社改革について化学業界各社との意見交換を通じて、いわゆる「日本企業」に特有、かつ共通の要因として、「自前主義の限界」があると考えている。以下では3つの観点から「限界」を説明したい。
1.競争にさらされない閉じた環境
一般の事業部門と比較した時、本社間接部門の一番の違い、特徴は何か。それは利益を目的とする企業体において、収益を生まない「コストセンター」と位置づけられている事である。更に、本社間接部門のサービスを利用する社内ユーザーの立場からすれば、他のサービスに切り替える選択肢は与えられておらず、いわゆる競争原理が働かない独占的なポジションである事も特徴として挙げられる。
こういったPL責任や他社との競争が無い環境に置かれている為、本社間接部門には、サービスを強化・改善し、組織規模やコスト水準を適正化しようとする自律機能やインセンティブが働かない。企業収益が厳しい場面においては、当然にして本社間接部門にもコスト削減のプレッシャーが課せられるが、削減目標は「前年比X%削減」といった、現状をベースとした基準設定が大半である。
あるべき姿を定義する方法として、類似業種や同業他社のベンチマークを用いるのも有効なアプローチではある。しかし、比較可能な対象企業が少ない、対象企業の内部情報が充分取得できない、また対象企業とは本社間接機能の役割やサービスレベルが異なる、といった理由から、社内に説得力のある比較結果として提示するのは大概困難である。 

なぜ本社間接機能の改革は頓挫するのか(続き)

2.高付加価値化や効率化のノウハウ・リソース不足
それでも本社間接機能の改革は、グローバル競争を勝ち抜く上での喫急の経営課題である。トップダウンの意思決定により、基準、経験の限界を乗り越えて、本社間接部門の改革を断行する経営方針が決定されたとしよう。次に直面するのは、人的リソースやノウハウが不足するという限界である。この限界は、強化・高付加価値化を目指す場面でも、効率化・コストダウンを実現する場面でも顕在化する。
また、そもそも、グローバル先進企業といわれる欧米系企業の本社間接機能が、どのようなミッションを持ち、どういった高付加価値業務を行っているのかの考察すら出来ていないのではないだろうか。先んじてグローバル化を支える本社間接機能を構築してきた企業群からの学びは、自社の改革を推進する上で大きな役に立つはずである。しかし、変化を嫌う」傾向の強い社内の抵抗勢力を説得しつつ、組織改革と業務改革を推進する現場のリーダーシップを期待するのは難しい。
このように、自社内の人材を頼りにした本社改革は、経営方針で掲げた機能強化・高付加価値化やスリム化の実施検討に着手した段階で、人的リソース・ノウハウの限界に直面するのである。
3.余剰人員の活躍の場の欠如
3つ目の限界は、自社内での人材活用機会の限界である。業務そのものの省力化に成功したとしても、発生した余剰人員を吸収する受け皿がグループ内に見当たらない、という限界に直面する。
グループ内の他の国内事業に旺盛な人材需要があれば、それらの事業に配置転換する選択肢も有効である。しかし、そもそも国内市場は成熟化しており、事業規模は拡大しないどころか横ばいか、むしろ漸減傾向にある。事業部門においても、工場の海外シフト等に伴って人員の余剰感が強い中で、更に本社間接部門から、省力化によって余剰となった人員を国内で受け入れる余地は極めて限定的と言わざるを得ない。この「活躍の場の欠如」は、人材アロケーションに苦心する企業にとってだけでなく、本社間接機能でキャリアを積んできた従業員にとっても深刻な問題である。細分化・専門化された業務分担の中で培ってきたスキルは、本社間接部門の改革によって活用の機会が失われ、畑違いの業務で一から新たなスキルを習得しなければならない。新たな機会が与えられるだけ幸運、という見方も出来るが、モチベーションの低下や、新たなスキルの習得に時間がかかる為、充分なパフォーマンスを発揮できない可能性が高い事は想像に難くない。

グローバル本社への脱皮:本社間接機能の抜本改革(中編)
グローバル本社への脱皮:本社間接機能の抜本改革(後編) 

 

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