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新規事業・イノベーションの鍵を握る「大企業30代社長」

デジタルネイティブが切り開くイノベーションへの道

近年、経済ニュース等で取り上げられる「大企業30代社長」とは一体何なのでしょうか。また新規事業・イノベーションに取り組む企業にとっての意義や、生み出し方はどのようなものでしょうか。新規事業・イノベーション創出の現場に立ち会い続けてきた、デロイト トーマツ グループの視点からご紹介します。

大企業30代社長とは

近年、経済ニュース等で「大企業30代社長」が取り上げられています。
これは、一般的に上場大企業の子会社・関連会社等の社長に20-30代で就任した方を指します。

大企業30代社長は大きく「抜擢型」「社内ベンチャー型」「オープンイノベーション型」の3つに分類されます。

1)「抜擢型」は、買収先・出資先企業の社長に30代の人材を抜擢する、子会社の立て直しのために30代の人材を抜擢する等、他の誰かが作った会社に20-30代人材を抜擢するものです。

2)「社内ベンチャー型」は、大企業内で実施されている新規ビジネス公募制度・社内ベンチャー制度を通して、20-30代の人材が自ら立案したビジネスを実現するために子会社・関連会社の社長になるものです。

3)「オープンイノベーション型」は、2010年代以降に盛んなオープンイノベーションの取り組みにおいて、20-30代の大企業側担当者とベンチャー企業等が共同でジョイント・ベンチャー(JV)を立ち上げ、大企業側担当者がJVを成功させるために社長になるものです。

近年、大企業における新規ビジネス公募やオープンイノベーションの成果として、2)「社内ベンチャー型」3)「オープンイノベーション型」の“大企業30代社長”が誕生する事例が多くみられます。
例えば三井不動産や三菱地所、キリンホールディングスといった会社では、2010年代に開始した新規ビジネス公募制度から「株式会社GREENCOLLAR」「Medicha株式会社」「株式会社LeapsIn」といった会社が立ち上がっています。
また、JR東日本スタートアップや三井住友フィナンシャルグループでは、オープンイノベーションプログラムをきっかけに「株式会社TOUCH TO GO」「SMBCクラウドサイン株式会社」といった会社が立ち上がっています。
いずれの会社も、20-30代の大企業の人材が立ち上げているのが特徴です。

 

大企業30代社長の経営戦略上の意義

注目を集める「大企業30代社長」ですが、大企業全体の経営戦略上、どのような意義があるのでしょうか。
主に3点の意義があると考えられます。

1点目は「デジタルネイティブ主導での新規事業創造」です。
世界的なデジタル化の波の中で、デジタルの知識や経験なしで新規事業を立ち上げることは非常に困難になっています。
そのため、スマートフォンやインターネットを使いこなす20-30代のデジタルネイティブ世代が主導し、激しい競争に負けないスピードで事業を立ち上げることが重要になっています。
特にベンチャー企業とともに事業を立ち上げる「オープンイノベーション型」の場合は、若いベンチャー企業の社長と同程度のITリテラシーを持ち、信頼関係を結べることも重要です。

2点目は「経営者人材の育成」です。
イノベーション、特に非連続なイノベーションが重要な経営テーマとなるに伴い、イノベーションを準備し実行するために、大企業社長の在任期間も長期化する傾向があります。
イノベーションを重視する米国のIT企業では、Amazonのジェフ・ベゾスやFacebookのマーク・ザッカーバーグ等の創業社長はもちろんのこと、Appleのティム・クックが10年目、Microsoftのサティア・ナデラが7年目など、非創業社長でも10年前後在任するケースは珍しくありません。
在任期間を長期化させるためには、社長就任年齢を若くする必要があります。
リクルートホールディングスの峰岸真澄社長のように40代で大企業本体の社長に就任する可能性も考えると、20-30代から子会社・関連会社の社長として経営経験を積ませることが重要です。

3点目は「デジタル人材のリテンション」です。
デロイト トーマツ グループが2020年2月に行った「デジタル人材志向性調査」によれば、デジタル人材は、非デジタル人材と比較して、不確実性が高い中でもリスクを取って新しいことに挑戦し、世の中にインパクトを創出することを志向します。
重要性の増すデジタル人材を雇用し続けるためには、評価やキャリア開発の仕組みも重要ですが新しいことに挑戦できる機会の提供や、社内での成功事例創出を通じて彼らのモチベーションを高め続けることが重要です。
年功序列にとらわれず20-30代でも会社を立ち上げる機会があることで、若手を中心としたデジタル人材のリテンションにつなげることが可能と考えられます。

このように、事業・人材育成・風土醸成といったあらゆる面において、大企業30代社長は重要と考えられます。

大企業30代社長を生み出すには

それでは、今後「大企業30代社長」を生み出すには、企業経営者はどのような戦略や制度を実行すれば良いのでしょうか。

大企業30代社長は大きく「抜擢型」「社内ベンチャー型」「オープンイノベーション型」に分類されると述べました。

「抜擢型」と、「社内ベンチャー型」「オープンイノベーション型」の2つでは、大企業30代社長自身が起案したビジネスを行うか否か、という大きな違いがあります。

「デジタル人材のリテンション」のような風土醸成効果も狙うのであれば、「社内ベンチャー型」「オープンイノベーション型」の方が効果は高いでしょう。
また「抜擢型」はもとから存在する会社に20-30代型を抜擢するため、そのようなポストが限られる場合も多いでしょう。

一方、「社内ベンチャー型」「オープンイノベーション型」については、経営者の強いコミットメントのもと適切な戦略や制度を実行することで、意図的に生み出すことができます。

「社内ベンチャー型」を生み出すためには、新規ビジネス公募制度・社内ベンチャー制度を実施することが一般的です。
ただ企業によっては、新規ビジネス公募制度・社内ベンチャー制度が形骸化したり、研修のような扱いになっている場合もあります。
制度を作って応募を待つだけではなく、従業員のモチベーションを理解した制度リニューアル、新規事業創出ノウハウを持つ社外メンターの活用、子会社設立やスピンオフ等の出口スキームの選択肢を持つことが重要です。

「オープンイノベーション型」については、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)やコーポレート・アクセラレーションプログラムといったオープンイノベーション制度を実施することが一般的です。
しかし、制度を実施してベンチャー企業に投資したり、コンテストを行ったりするだけでは新規事業は生まれません。
大企業側オープンイノベーション担当者の人選、担当者の事業立案能力を高めるためのOJT/Off-JT機会の提供、事業計画精緻化・実証実験の設計・会社設立スキームの設計等を担う社外専門家の活用が重要です。

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