Posted: 19 May 2021 5 min. read

2025年大阪万博に向けた「空飛ぶクルマ」の社会実装と事業化に向けた展望<後編>

社会実装・事業化成功のための3つのキーワード

前編で解説したように、今後、2025年大阪万博を目指した「空飛ぶクルマ」の社会実装・事業化が進められる中で、検討すべき課題は多岐に亘るが、重要なキーワードは「(1) 潜在ユーザー・ステークホルダーとの対話機会」、「(2) 持続可能な収益モデルの検討」、「(3) 組織を超えたビジネスエコシステムの形成」の3つではないかと、筆者は考える。

(1)潜在ユーザー・ステークホルダーとの対話機会

「空飛ぶクルマ」の社会実装にあたっての重要課題と位置付けられている社会受容性の向上に向けた施策を検討する際にも、事業者が具体的なビジネスモデルを検討する際にも、共通して非常に重要となるのは、このような新しいモビリティが実装された場合にユーザーとなり得る人々や、それによって生活等に影響を受け得る人々の“生の声”をどのように集めるか、であろう。

ここで重要なのは、参加者にできるだけ具体的な利用シーンを疑似体験させる実証実験(PoC)を可能な限り数多く実施することであると考えられる。「空の移動体験」という意味で“実際に人を乗せて機体を飛ばす”ことに焦点が当たりがちではあるが、サービスとしての社会実装を考えた場合、乗客がチケットの予約を実施し、離発着場まで移動した上で、搭乗手続きを実施し、到着地の離発着場から目的地に到着するまでの一連の流れを具体的にデザインし、体験してもらうことを併せて意識した実証実験の設計を行うことがポイントになるだろう。当然ながら、現段階で全ての機体・インフラを完全に整えることは困難であるが、目的は“具体的なイメージをもたせること”であるため、必要に応じて動画やVRを活用するなど、様々な手段を組合せながら一連の体験を演出するための工夫を行う必要があるだろう。

(2) 持続可能な収益モデルの検討

「空飛ぶクルマ」のユースケースについては、都市部でのエアタクシーとしての活用や、離島・中山間地域における公共交通としての活用、災害時の利活用など、これまで様々なアイデアが検討されてきており、幅出しという意味では議論が成熟されてきているように思われる。他方で、“いかにマネタイズするか”といった深堀の議論については、依然として本分野に取り組んでいる事業者の検討課題として残っているのではないだろうか。

検討にあたっての視点はいくつか考えられるが、「空飛ぶクルマ」関連サービスの直接のユーザーだけではなく、そのサービスの実現によって受益者となり得るステークホルダーを広めに洗い出して、“誰から売上を得るか”を考えるのはひとつ重要なポイントになるだろう。例えば、エアタクシーサービスの提供者であれば、直接の乗客からの収入だけではなく、「空飛ぶクルマ」の離発着に伴って集客効果を得るホテルやレジャー施設からの収入、離島・中山間地域の地域交通インフラの維持に問題意識を有する自治体又は国からの補助、機内や関連アプリのスペースを活用した広告収入など、様々なマネタイズポイントの組み合わせが考えられるのではないだろうか。また、課金体系についても、様々な業界の例を参考にしながら、サブスクリプション(定額課金)モデルや、ダイナミックプライシング(需給等に応じて価格が変動する仕組み)の導入なども検討の余地があると考えられる。

更に、実際の収益モデルを精緻化していくにあたっては、①とも重複するが、机上検討だけではなく実際に収益化が見込めるかPoCを通じて検証していくことが大事であり、このサイクルを如何に短期間で回数をこなしながら進めていくのかがカギになるだろう。

(3) 組織を超えたビジネスエコシステムの形成

最後に、「ビジネスエコシステム」というキーワードについて触れておきたい。

「空飛ぶクルマ」が社会実装されるためには、機体の供給だけではなく、離発着に必要なポート、運航管理のためのシステム、給電・充電のための設備などのインフラが整備される必要があることはもとより、これらのインフラを整えていくためのファイナンスの仕組みや、運航に伴うリスクをカバーするための保険の提供など、様々な要素が同時並行的に整っていく必要がある。また、より身近で利便性の高い社会交通インフラとして人口に膾炙していくためには、昨今議論が進んでいるMaaS、スマートシティの文脈での1モジュールとしての実装が重要な視点になるだろう。

これらすべてを1企業単体の取組としてリードしていくのは困難であることは自明であり、必然的に複数企業、そして政府や自治体が一体となったビジネスエコシステムの形成が重要になると考えられる。手段としては様々考えられるものの、ひとつのアイデアとしては当分野における恒常的な業界団体・コンソーシアムの設立なども検討の余地があるのではないだろうか。

日本における「空飛ぶクルマ」の社会実装のひとつのマイルストーンとして想定される大阪万博の開催まであと4年。夢の乗り物が現実のサービス・インフラとして社会に定着するまでに乗り越えるべき課題は多く、これからの数年間は官民双方で様々な検討が加速していくことが予想される。4年後にこの次世代モビリティが日本の空を飛行している未来を実現するためには、現段階から可能な限り未来のサービスを具体的にイメージし、実証実験や企業間連携といった行動をスピーティーに実行に移しながら試行錯誤を繰り返すというスタンスが何よりも重要なのではないだろうか。

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