Posted: 18 Nov. 2022 3 min. read

医師の働き方改革を実現するための取り組み

【シリーズ】今さら聞けない医師の働き方改革 第3回(全3回)

前回の記事では、時間外労働の上限規制を取り上げましたが、診療科によって勤務実態は異なるため、上限規制への対応の仕方も異なります。今回のブログでは、働き方改革を実現するための各医療機関における今後の取り組み方について解説します。時間外労働の上限規制の適用開始が差し迫っています。このブログが各医療機関において働き方改革の実現のための取り組みの端緒となれば幸いです。

働き方改革を実現するための具体的な取り組みには、1.単独病院で行うものと、2.地域の複数医療機関が連携して行うものがあります。

 

1.単独病院での取り組み(*1)

  • 医師の意識改革と経営トップのリーダーシップ
    業務改善・業務変革には個々の医師の意識改革が不可欠であり、経営トップが自ら陣頭指揮を執るなどマネジメントの十分な関与やコミットが求められます。また、業務改善・業務変革の視点として、患者中心、地域の医療ニーズに合致した医療提供に向けて、業務の方法や場所、何に時間をかけるのか、を意識することが重要です。

  • 適切な労務管理の推進
    -宿日直許可について、許可条件と診療科の勤務実態を比較し、許可取得を促進します。
    -オンコールについて、待機中に求められる業務態様によって労働時間に該当するか判断します。
    -自己研鑽時間について、研修内容・上司の指示の有無など整理して、労働時間となる判断基準を明確にします。
    -副業・兼業管理について、主たる勤務先からの派遣によるものと、医師個人の希望に基づくものについて、それぞれ管理方法を明確にします。
    -36協定について、自己点検も大事です。労働時間を適正に管理できるようにします。

  • 「変形労働時間制」の導入
    変形労働時間制とは、「一週間の平均労働時間が法定労働時間である40時間を超えない範囲で、一日の所定労働時間の始業・終業時刻や労働時間の長さを柔軟にできる仕組み」であり、医師の業務量を大きく変更せずとも、時間外労働時間を削減する一つの方法です。

  • タスクシフト・タスクシェアリングやその他業務削減・効率化
    医師に業務が集中する状況を改善するため、医師及び医師間の業務を整理したうえで、医師間または、医師から他職種へのタスクシフトやタスクシェアリングを検討します。

  • ICTの活用
    スマホや情報共有ツールの活用により、情報共有を効率化します。
    なお、「いきサポ」(いきいき働く医療機関サポートWeb)には、医療機関が勤務環境改善に取り組んだ事例が多数紹介されています(*2)
     

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2.地域の複数医療機関での取り組み

単独の医療機関での取組は重要ですが、それだけで全ての解決は難しいと考えられます。地域の医療機関間の医師配置を見直すことで医師を確保したり、救急等の医療提供体制の見直し、診療科の見直し、病院等の再編・統廃合を通じて、地域での診療機能の重複を解消し、診療体制を見直すことが考えられます。その地域における医療に対する需要側と供給側をバランスさせることにより、あるべき医療体制が確保されるものと考えられます。

3回にわたり、医師の働き方改革の基本的な内容について解説してきました。本質的には、医師の働き方そのものを見直し、医師が働き甲斐のある職場を実現させることが重要です。しかしながら一方で、現実的には時間外労働の上限規制の適用開始が差し迫っていますので、各医療機関において働き方改革の実現のための取り組みを早期に着手することが期待されます。なお、2024年4月はゴールではなくスタートであり、本当のゴールは2035年になります。この医師の働き方改革の取り組みを良い機会として、医療を未来に繋げるため、長時間労働の解消に止まらず、持続可能な医療を提供できる体制づくりが今後求められます。

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脚注

(*1)【厚生労働省(いきサポ)】「病院長、医師として押さえておくべき、医師の働き方改革」(P41、参考資料集部分:P53以下)
https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/pdf/information/2021/20220404_02.pdf
(*2)【厚生労働省(いきサポ)】トップページ
http://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/
※外部サイトにリンクします

 
執筆者

有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー 吉岡 拓也

有限責任監査法人トーマツ マネジャー 柳井 崇幸

 

ヘルスケア

ヘルスケア業界は疾病構造や受療行動の変化、新たな医療技術の開発などの環境変化を受けて、常に進化を続けています。医療機関や医療機関を取り巻く各種ベンダーをはじめ、ヘルスケア業界に身を置く事業者は、事業継続と将来の成長のために、環境変化に適応していかなければなりません。私たちデロイト トーマツ グループは、このヘルスケア業界が抱える難題に対し、あらゆる面でサポートします。