Posted: 05 Mar. 2025 7 min. read

政変によりキャリア変更を余儀なくされたアフガニスタン留学生の就活サポート

Hands on Impact

独立行政法人国際協力機構(以下、JICA)が実施する「未来への架け橋・中核人材育成プロジェクト(Project for the Promotion and Enhancement of the Afghan Capacity for Effective Development)フェーズ2」 (以下、PEACEプロジェクト)を通じて来日したアフガニスタンの一部の若者に対して、社員のスキル・知見を活かし、ボランティアで就労支援のサポートを有志メンバーで実施しました。アフガニスタンの方々の内定獲得に向けたサポートで密に連携する中で、チームでサポートしているメンバー同士の連帯感や結束力も醸成されました。

日本への留学中に母国への帰国が困難になったアフガニスタン人

PEACEプロジェクトとは、JICAが主導するアフガニスタンに対する技術協力事業です。アフガニスタンでは、長期に及んだ内戦の影響により、中央省庁において開発を推進する中核人材が大きく不足しています。同国のコアとなる公務員の能力強化のため、インフラおよび農業・農村開発、教育・保健を重点分野と位置づけ、当プロジェクトでは、アフガニスタンにいる当該分野の行政官・大学教員を日本の大学に研修員として受け入れ人材育成を支援しています。プロジェクトが開始した2011年以降700名以上の研修員を受け入れており、研修期間終了後は日本で得た知見をアフガニスタンで活かして活躍することを目指しています。しかし、2021年8月にアフガニスタンの武装勢力であるタリバンがカブールを制圧し、旧政権が崩壊した影響を受け、本来は母国に帰国して国の再建を支えるはずだった優秀な研修員が、帰国すると身の安全が危ぶまれる立場となってしまいました。そのため、JICAは大学院での課程を修了した研修員が次の進路を決めるための猶予期間として最大6か月追加プログラムの実施を行い、多くの研修員が日本に留まり就職する道を選択しました。

 

意図しないライフプランの急変で多重苦に直面

日本での留学を経てアフガニスタンに帰国し、中核人材として母国の再建に寄与する道を描いていた研修員にとって、日本で就職活動をするということは非常に精神的負荷の大きな方針転換でした。他の外国人留学生が就職活動時に直面するものと同様の障壁(言葉や文化の壁等)があることに加え、母国にいる家族はどのような状況でこれからどうすればよいか、新たな就職先の選択肢を模索する中で取り得る最善策は何か等、考えなければならないことは山積みの中、大学院での研究も進めなければならず、2年という限られた時間の中で就職活動を進めていくことが非常に難しい状況でした。JICAはキャリアセミナーや日本語支援、ジョブフェアの開催をはじめ、様々な形で研修員のサポートや機会提供を進めてきましたが、上記のような研修員の状況もあり、全ての研修員の就職活動が円滑に進んでいたわけではありませんでした。

そうした中でも何とか活路を見出そうと努力する研修員に対し、デロイト トーマツの有志メンバーも難民の背景を持つ留学生を支援していた経験を活かし、就職活動をサポートすることになりました。

 

約6か月の長期にわたる伴走で内定獲得をサポート

総勢57名の社内ボランティアメンバーで23名の研修員の支援を行いました。1名の研修員につき、2-3名のボランティアメンバーを配置して、個別ニーズを踏まえた支援かつメンバーの稼働調整も可能な体制を構築することで、安定的な伴走支援を半年間継続することが出来ました。先述のように数々の困難を乗り越えなければならない研修員のサポートは一筋縄ではいきませんでしたが、定期的にオンラインミーティングの機会を持ち、企業探しや面接練習などを繰り返しました。内定獲得後も、日本語練習のために定期的にミーティングを実施していたメンバーもいました。

結果、23名全員が内定獲得のみならず、博士課程への進学や第三国への出国も含め、進路を見つけることができ、彼らの未来に大きく貢献したとJICAのご担当者からはご報告いただきました。

 

「はじめまして」の社内サポートメンバー同士が海外旅行に行くまでの関係に

本活動の副産物として、社内サポートメンバー間の所属部署の垣根を超えた連帯感や結束感も生まれました。本活動はデロイト トーマツ グループのビジネス横断で実施され、職位もバックグラウンドも様々なメンバーが集まりました。そのため、サポートチーム間のコミュニケーション促進や支援する中で感じる課題等を互いに共有することを目的として定期的に社内メンバーを中心とした交流会なども開催していました。その結果、サポートの質が高まっただけではなく、普段の業務の中では関わることのないメンバーと一定期間協働する中で、旅行を共にするまで仲が深まったチームもありました。

 

写真:支援終了後の交流会の様子

 

事務局メンバー・サポートメンバーからのコメント

關山 和弘さん(AI&D, マネジャー)

今回の支援は、様々な事情から研修員が前向きに就職活動に取り組めない方が多かったため、難易度が高い支援でした。その中でも、サポートメンバーは、自分のスキル、知識、経験などからどんな支援ができるのかを能動的に考えて、粘り強く支援を行いました。中には、就職なのかそれ以外の選択をするのか方向性が決まらないなどの研修員の事情で、サポート機会すら得られなかったメンバーもいました。しかし、難民にならざるを得なかった背景と現状を知り、その上で、難民当事者の苦悩を少しでもサポートメンバーに知ってもらえたのは、本活動の一つの価値だと考えております。
ボランティアに出来ることは限りがありますが、何事も困難に直面している人がいることを知ったときに、『各々がやれることをやる』これに尽きると改めて実感しました。今後もデロイト トーマツ グループとして、難民の背景を持つ方々への支援も実施していきたいと考えております。

赤星 萌さん(ES&I, コンサルタント)

九州大学で地球資源システム工学を専攻する研修員を担当しました。サポートメンバーは、海外経験豊富なメンバーと、九州にルーツを持つ私の2人で、どちらも研修員との共通項があり距離感を縮めやすかったと感じています。
担当した研修員は、早々に内定を獲得された珍しいケースでしたが、対話を重ねる中で、ビジネスレベルの日本語力に課題があると判明しました。そこで、内定前は採用イベントの紹介を行い、内定後はサポートメンバーで交互に日本語でのコミュニケーションをサポートしました。
支援期間は短く、あっという間だからこそ、より早期に日本語スキルアップ支援をすればよかったというのが反省点ですが、研修員の日本での生活基盤の構築に向けて、少しでも役立てたと思うと嬉しく思います。研修員の新天地でのご活躍を心から願っています。

JICA PEACEプロジェクトご担当者からのコメント

可部 州彦氏 (PEACEプロジェクトフェーズ2 就労支援アドバイザー

 

帰国すれば、日本で学んだことを活かし、自らの力でさらに将来を切り拓けるはずだったPEACE研修員にとって、突然の政変は、その道が断たれることを意味しました。進むべき方向を見失う不安に加え、家族と離れ離れになり、支えられないことへの罪悪感とも向き合う中、サポートメンバーの皆様の支援は、単なる就職活動の伴走にとどまりませんでした。研修員が「どのように生きるのか」を主体的に考え、新たな選択肢を自ら生み出すための「Food for Thoughts」 - すなわち、新たな可能性に気づき、それを現実のものにするための思考の糧となりました。サポートメンバーとの対話を通じて、研修員は就労による自立だけではなく、家族を呼び寄せる可能性を見出しました。与えられた選択肢を選ぶのではなく、自ら問いを立て、未来を切り拓く過程で直面する課題に、サポートメンバーと共に向き合えたことが、どれだけ心強かったか。共に考え、共に模索してくださった時間こそが、研修員の未来を照らし、新たな明日を形作りました。彼女、彼らが選び取った未来は、今、この瞬間も続いています。この過程を皆様と共に歩めたことは、深く私自身の記憶に刻まれています。心から感謝申し上げます。

Well-beingについて

人とひとの相互の共感と信頼に基づく『Well-being(ウェルビーイング)社会』」の構築に貢献する──。デロイト トーマツ グループが掲げているAspirational Goal(目指すべき社会の姿)です。Personal/ Societal/ Planetaryのそれぞれについて、Well-beingすなわち健全な状態を目指します。わたしたちは今後も継続的に、デロイト トーマツ グループの財産であるメンバーのPersonal Well-being実現のための取り組みを進め、それぞれのメンバーがSocietal well-being、Planetary Well-being実現のために、よりサステナブルな将来を構築するべく、共に取り組んでまいります。

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