Posted: 06 Jun. 2022 4 min. read

第二回 Lift and Shiftによるクラウド移行

クラウド連載(全5回)

■クラウド移行の加速

オンプレミスのシステムをパブリッククラウドに移行する流れはここ数年様々な企業で継続して取り組まれていますが、以下のような要因で近年さらに加速しています。

 

  • オンプレミスに比べてクラウドのメリットが情報として普及し、企業の情報システム部門も正しく理解するようになってきた
  • 2018年9月に経済産業省が発表した「DXレポート」では、「2025年の崖」として、オンプレミスのレガシーシステムが、限られたIT予算の浪費の原因と指摘され、 さらには、IT人材不足も深刻化することから保守運用費を抑えるためにも、クラウド移行が必要と解説されている
  • これまで日本の基幹システムを支え続けてきたメインフレームに関して、日立は、2017年の段階でメインフレームの製造から完全撤退することを発表し、富士通も2022年2月にメインフレームとUNIXサーバーの製造・販売から撤退することを発表したことは、メインフレーム製造ベンダーとして唯一残っているIBMへの移行も選択肢として考えられるが、クラウドへの移行を後押しする結果となっている

 

■Lift and Shiftとは、

オンプレミスのシステムをクラウドに移行する際に、SIerからLift and Shiftによるシステム移行方式を提案されるケースがあります。

Lift and Shiftとは、オンプレミス上のシステム構成変更を大きく変更することなくクラウド環境に移行し、その後クラウドに最適な構成に変更する手法です。そのため、Lift and Shiftは、「Lift」と「Shift」の2つのフェーズで実施することになります。

オンプレミスのシステムをクラウドに移行する際に、SIerからLift and Shiftによるシステム移行方式を提案されるケースがあります。

Lift and Shiftとは、オンプレミス上のシステム構成変更を大きく変更することなくクラウド環境に移行し、その後クラウドに最適な構成に変更する手法です。そのため、Lift and Shiftは、「Lift」と「Shift」の2つのフェーズで実施することになります。

■Lift and Shiftの問題点

Lift and Shiftによるクラウド移行の方式には、問題もあるため、採用に際しては慎重に判断する必要があります。以下では、主要な3つの問題点を示しています。

1.クラウドのメリットが得られない
Lift and Shiftの最初のフェーズとなるLiftが完了した時点では、クラウドのメリットをほとんど得ることが出来ません。特にシステム運用負荷は、オンプレの時とほとんど変わらず、コスト削減もあまり期待が出来ません。また、クラウドサービスプロバイダーが提供している様々な付加価値の高いサービスも利用出来ていません

2.無駄なコストと時間がかかる
以下は、 Lift and Shiftのクラウド移行のプロセスと、Liftの段階を踏まずに、Shiftした場合の移行プロセスを示したものです。


確かにLiftのクラウド移行は、短期間で実施可能であるが、移行後のテストにかなりの時間を要してしまうことは、オンプレのシステムにおけるハードウェア更改の経験があれば、かなりの時間を要することは、理解できると思います。また、Shiftにおけるクラウド移行時には、Liftで実施した移行作業がほとんど再利用できないので、Shiftだけによるクラウド移行に比べて、 Lift and Shiftの移行方式は、Lift分のコストと時間が無駄になってしまいます。

 

3.Shiftが進まない
Lift and Shiftの2つのフェーズで、初期の段階から、Shiftまでを見据えた計画が立てられていれば良いのですが、最初に、Liftだけを実施し、落ち着いてからShiftを検討しようとすると、多くの場合、 Shiftが実施されず、 Liftしたままのクラウドのメリットが得られない状態で、システムが稼働し続けてしまうことを情報システム部門の担当者から聞いています。これは、Shiftには、それなりの時間とコストがかかってしまう一方で、 システム部門からすると、クラウドのメリットを享受できる価値はありますが、経営層から見ると、Shiftを実施しても、売り上げが伸びることもなく、既存システムの機能が改善することもないので、経営層に対して費用対効果をうまく説明できず、移行を見送られてしまう事例が見られます。

 

■Lift and Shiftが適切な場合

ここまで、Lift and Shift方式の問題点を説明してきましたが、Lift and Shift方式が適している場合もあります。それは、オンプレミス環境で利用しているデータセンターの契約更新期限が迫っていて、今後、全社的なクラウド移行の方針が出ている場合、新たにデータセンターの契約を更新せず、迅速に既存システムをクラウドに一旦移行してしまう場合です。もう一つは、システムに対する変更要求が少ないシステム(いわゆる塩漬けのシステム)が移行対象の場合、あえて、コストのかかるShiftをすぐに実施せず、一旦クラウドに移行して、必要に応じて改善するような場合です。

いずれにしてもSIerからの提案を鵜吞みにせずに、自社にとって最適な方式かどうかを十分に検討して採用を決定することが重要です。

プロフェッショナル

吉田 悦万/Yoshikazu Yoshida

吉田 悦万/Yoshikazu Yoshida

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー マネージングディレクター

システム開発の上流工程から開発まで、様々な案件を担当。また、プロジェクトマネージメント・ITコンサルティング、新規事業の立ち上げ等幅広い経験を有する。近年は、パブリッククラウドを活用した、ソリューションの企画・新規事業の立ち上げ、他社とのアライアンス・組織運営に従事。パブリッククラウドでは、主にAWSを専門とし、特にBigDataを活用するためのデータウェアハウス/データレイクの導入・活用を得意領域とする。