Posted: 06 Jul. 2022 4 min. read

第三回 パブリッククラウドは高い?

クラウド連載(全5回)

■パブリッククラウドの見積もりが高くなる原因とは

クラウドサービスプロバイダーは、パブリッククラウドのメリットとして、『クラウドを利用すれば、従量課金制で利用した分だけのコストしか発生せず、オンプレミスに比べてITコストを削減できる。』と言っていますが、パブリッククラウドを利用、または、これから利用するユーザ企業の担当者からは、『コストを見積もると結局オンプレミスの方がクラウドよりもインフラコストを安く抑えることが出来る。』という声をよく聞きます。果たしてこれは、正しい判断でしょうか?

オンプレミスを利用していると、ハードウェアを含むインフラコストを見積もる際には、基本的にハードウェアベンダ等に依頼して見積もりを取得することになります。これは、カタログベースでは、ハードウェアの費用が公開されていても、大抵の場合、見積提示金額は定価から大きく値引きされた金額であったり、インフラ環境構築の作業費(OSのインストールや、ネットワーク設備の配置、キッティング等)があるので、利用者がインフラの正しい見積もりをすることが困難なためです。

そのため、インフラの見積もりをする際には、ハードウェアベンダ等にインフラ要件を伝えて、見積もりを受領するまで、数日のリードタイムが必要でした。

それに対して、パブリッククラウドは、各クラウドサービスプロバイダーが専用の見積もりツールを提供しており、要件が決まってれば、利用者が正確な見積もりをすぐに取得することが可能です。

これは、パブリッククラウドのメリットの1つですが、パブリッククラウドが高いと誤解される原因の1つになっていると考えています。

オンプレミスの場合、要件を伝えれば、専門家が見積もりを作るので、最適な見積もりが作成可能ですが、パブリッククラウドの場合、クラウドに精通していない担当者が要件だけをツールに入力し、コストに大きく依存するパラメーターを正しく見積もりツールに入力しない場合、最適な見積もりを出力することは出来ません。

また、オンプレミスと比較してパブリッククラウドが高いと言っている背景には、両者を同じ条件で見積もっていないことが、原因としてあると考えます。

まとめると、オンプレミスと比較してパブリッククラウドの見積もりが高くなってしまう原因は、以下の2つに集約されます。
 

1.オンプレミスとクラウドを同じ条件で見積もり比較できていない

2.コスト最適なクラウドの構成になっていない

■間違った見積もりの例

わかりやすく説明するために、簡単ですが、オンプレミスとパブリッククラウドの見積もり例を以下に示します。

この図を見ていただくと、サービス利用料は、オンプレミスのハードウェア購入費用以外にも様々な要素が含まれていることが理解できると思います。(図の黄色い部分が、サービス利用料の部分)

また、見落としがちな点として、オンプレミスの場合、多くは、5年程度でハードウェアの老朽化に伴い、リプレースが必要になります。その際にソフトウェアは、そのまま移行したとしてもハードウェアが変更になることで、一連のシステムテストをやり直すと、多くの時間やコストが発生することは、経験した人は理解できると思います。このハードウェアのリプレースに関しては、基本的にパブリッククラウドでは不要で、運用中に故障したり老朽化したハードウェアは、透過的にクラウドサービスプロバイダーの運用チームによって交換されるため、オンプレミスのようなハードウェアマイグレーション費用が不要になります。

■コスト最適なクラウドの構成になっていない

このように、オンプレミスとパブリッククラウドで同じ条件で見積もってみても多くの場合、パブリッククラウドの方が高い可能性があります。それは、コスト最適なクラウドの構成が実現できていないためです。間違った見積もりにおいて、オンデマンドで、常時稼働する前提で見積もっていた部分です。
コスト最適なクラウドの構成にするためには、各クラウドサービスプロバイダが独自の仕組みを提供しているため、それを効果的に利用することになります。ここでは、AWS(Amazon Web Services)を例に、コスト最適な構成を実現するための施策を6つ紹介します。

1.リザーブドインスタンスの利用
AWSでは、常時稼働するサーバーやデータベースは、1年または、3年分の利用を予約し一定の費用を前払いすることで、月額の利用料を削減することが可能です。仮想サーバのEC2を利用した場合、オンデマンドと比較してリザーブドインスタンスを利用すると、最大で72%費用を削減可能です。様々なタイプのリザーブドインスタンスが存在するため、システムのワークロードに合わせて選択すれば、コスト最適化を実現可能です。
 

2.利用しないときにサービスを停止
これは、AWSに限った施策ではありませんが、本番環境以外の常時稼働を必要としないサービスは、こまめにサービスを停止させる運用をすることで、無駄なコストを削減することが可能です。従量課金制でサービスを利用した場合、24時間365日常時稼働させるケースと、平日8時間だけ稼働させるケースでは、 月次で4倍以上のコストの差が発生します。

3.用途に応じたストレージの利用
AWSでは、基本的に仮想サーバのEC2用ブロックストレージとして利用するEBSと、オブジェクトストレージであるS3にデータを保存します。EBSとS3は、それぞれ用途に応じたタイプが用意されており、最も高価なストレージと最も安価なストレージでは、50倍以上の差があります。そのため、特に大容量のデータを保有するシステムでは、適切なタイプのストレージを選択することで、コストの削減が可能です。
 

4.スポットインスタンスの利用
AWSでは、仮想サーバのEC2を入札形式で、利用できるスポットインスタンスのサービスがあります。そのため、短期間の利用に限定した利用であれば、コスト削減可能です。オンデマンドのインスタンスに比べて、スポットインスタンスは、最大90%の費用を削減可能です。
 

5.適切なサイズのプロビジョニング
これもAWSに限った施策ではありませんが、従量課金を意識したサイジングが欠かせません。オンプレミスのように予測される最大の負荷に合わせるのではなく、通常必要となる性能のインフラ環境を用意し、負荷が上がるときだけスペックを上げる(基本的にはスケールアウト)運用を自動化することで、高いコスト効率でクラウド環境を利用することが可能です。
 

6.モニタリング・分析サービスの利用
CloudWatchを利用することで、AWS環境のリソース使用率やアプリケーションのパフォーマンス状況のログを収集可能です。そのため、ログを分析することで、オーバースペックなサービスを特定し、改善することが可能です。また、Trusted Advisorを利用することで、AWSのベストプラクティスに基づくコスト削減の示唆を得ることが可能です。

ここに紹介した6つの施策以外にもマネージドサービスを利用したり、Serverlessのアーキテクチャを採用することで、さらにコスト最適なシステムを実現することが可能になります。このようにクラウドに精通した専門家がシステム構築の初期段階から参画することで、必ずオンプレミスのシステムと比較して、パブリッククラウドで安価なシステムを実現することが可能になります。 

プロフェッショナル

吉田 悦万/Yoshikazu Yoshida

吉田 悦万/Yoshikazu Yoshida

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー マネージングディレクター

システム開発の上流工程から開発まで、様々な案件を担当。また、プロジェクトマネージメント・ITコンサルティング、新規事業の立ち上げ等幅広い経験を有する。近年は、パブリッククラウドを活用した、ソリューションの企画・新規事業の立ち上げ、他社とのアライアンス・組織運営に従事。パブリッククラウドでは、主にAWSを専門とし、特にBigDataを活用するためのデータウェアハウス/データレイクの導入・活用を得意領域とする。