NVIDIAとの協業を発表、50人体制の「NVIDIA Practice」で日本企業の生成AI導入を加速へ
生成AIが世界中でビジネスに活用されている今、日本の経営層が生成AIを自社にどう取り込むかは喫緊の課題だ。デロイト トーマツは日本において生成AIの企業導入をどのように支援していくのか?キーパーソンたちに聞いた。
PROFESSIONAL
- 馬渕 邦美 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー
- 山本 優樹 デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社 シニアマネジャー
- 土本 良樹 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー
デロイトトーマツ×NVIDIA、グローバルで連携しクライアントの変革を推進
6月18日、米半導体NVIDIA(エヌビディア)の時価総額が世界首位となった。報道で見た人も多いだろう。デロイト トーマツはこのNVIDIAと日本市場における協業を発表した。それに合わせてエンジニアやコンサルタント約50名が所属する「NVIDIA Practice」を組成し、NVIDIA AI Enterprise、NVIDIA Omniverseなどのソフトウエア製品を活用したユースケースの共有や導入支援サービスの提供、人材トレーニング、海外も含めたプロフェッショナル連携などで中心的な役割を担う。
「デロイトとNVIDIAはグローバルでよい関係性を構築しています」とデロイト トーマツ コンサルティングの馬渕邦美が話すように、デロイトはNVIDIAのAIコンピューティングソリューションを加速し、人工知能ソリューションの成功を推進しているアライアンスプロバイダーを表彰するNVIDIA Partner Network (NPN) Americas Consulting Partner of the Yearを4年連続で受賞している。馬渕はこれまで4社のCEOを歴任し、先端技術を活用した新規事業創出、DXの推進、生成AI、Web3、メタバースのビジネス活用に強みを持つ。「NVIDIA Practice」は彼が率いるという。
「私たちデロイト トーマツはクライアントに対してデータ資産を活用した戦略の策定や刷新、その実現のためのプロセス改革などテクノロジーによるビジネス変革を支援しています。インフラやプラットフォーム、アプリケーションなどのデジタル技術の組み合わせを個々のクライアントにおける有効活用の視点で具現化すべく、テクノロジーの知見を高めています。本協業により、デロイト トーマツはNVIDIAのテクノロジーに習熟し、それを活かしてクライアントの変革のスピードを向上していきます」
NVIDIA ACEを日本で初めて採用した楽天証券「投資相談AIアバター」の開発支援
デロイト トーマツとNVIDIA、両社の連携でどのようなことが起きるのか?今年1月にデロイト トーマツはNVIDIAが提供するアバターサービス開発ツールである「NVIDIA ACE」を活用した楽天証券の「投資相談AIアバター」の開発支援を行った。プロジェクトのマネジメントを行ったデロイト トーマツ コンサルティングの土本 良樹は「お客様との接点を、従来の文字ベースではなく、音声や表情でのコミュニケーションが可能なアバターにより高度化していきたいというニーズがあり、開発がスタートしました」と振り返る。
「投資相談AIアバター」は「NVIDIA ACE」を用いて、デロイト トーマツの小売店・レストラン・販売代理店などカスタマーサービス向けのソリューション「Quartz Frontline AI powered by NVIDIA」と、楽天証券が提供する生成AIチャットサービス「投資AIアシスタント(β版+プラス)」とを連携させることで誕生した。デモを見せてもらうと、言葉に加え、ノンバーバルなコミュニケーションは確かに企業と顧客の距離を縮めてくれるように感じる。
「アバターは聞き耳を立てるしぐさや音声とアバターの口の動きを合わせ適切な回答を行うなど、人間らしい反応を示し、よりリアルなコミュニケーションを可能とします。NVIDIAというとGPUなどのハードウエアのイメージがあるかもしれませんが、実はAIアプリケーションソフトウエアにも注力しており、これを私たちが国内で全面展開していくことを目指しています。開発時に苦労したところですか? NVIDIA ACEは当初英語での会話を前提に開発されていたので、限られた期間の中で製品仕様を詳細に解読した上で、自然な日本語での会話ができるように試行錯誤するプロセスが難しかったですね」
学生時代にコンピューターサイエンスを学び、デロイト トーマツでエマージングテック領域を専門とする土本は、馬渕率いる「NVIDIA Practice」のメンバーでもある。土本らのマネジメントで楽天証券「投資相談AIアバター」はわずか数カ月でリリースされたという。
このスピードには、NVIDIA 日本代表 兼 米国本社副社長の大崎真孝氏もデロイト トーマツの開発スピードに舌を巻く。「日本の金融業界は規制が厳しく、リリースされるのは1年以上かかると思っていたので驚きました」
AIの活用とガバナンス領域を専門とするデロイト トーマツ リスクアドバイザリーの山本優樹は「デロイト トーマツは国内のみならずグローバルで法規制も含めた制度を深く理解したメンバーが多数在籍しており、攻めと守りの双方に強みがあります。金融や製造、ヘルスケア等、業界固有の制度を理解しているからこそ、開発スピードも精度もあがります」と話す。
山本はAI・機械学習に関する研究開発に15年以上従事してきたキャリアを持ち、知見をクライアントに提供するだけでなく、アカデミックな領域でも研究開発や調査を行う。生成AI活用知識確認のための新テスト「JDLA Generative AI Test」の検討プロジェクトにAI専門家として参画するなど多方面で活躍している。
「生成AIを導入していくには、攻めと守りの姿勢が重要です。まず生成AIは言葉で操作ができることが特長で、人間の知的生産は言葉ありき。つまり生成AIは知的生産すべてが担当範囲になります。多様な領域での活用が見込める一方で、リスクも多様化します。活発化するAI規制化の動きや想定されるリスクに対し、先行して対策をとりながら活用を推進する、いわば守りながら攻める姿勢がなければ、真の経営への導入は難しいでしょう」
生成AIと経営を接着させる「AI Experience Center」
「生成AIは、インターネットやスマートフォン登場時の革命以上の革命。これを経営にどう接着させていくのか?まだ日本でのユースケースは少ないのが現状です。生成AI×経営による新たな価値創出機会を加速させるために、私たちは自ら率先して動きます」
馬渕はそう話すと、今年開設される国内初の共創型AI体験施設「AI Experience Center」について教えてくれた。
「世界ではあらゆる業務・業界での活用が同時に進んでいる中、日本の出遅れに危機感を覚えています。経営層はこの生成AIがもたらしうる影響を理解し、自社での取り組みや付き合い方を早急に整理し、企業変革に活用することが求められています。AI Experience Centerはこのニーズに対応するために生まれた共創型施設です」
AI Experience Centerは最新設備を備えたデモ機ゾーンと、ワークショップ・セミナーゾーンから構成される。訪問者は最新の生成AIを体験しながら、ワークショップ・セミナーを通じて生成AIへの理解を深め、経営に生かすためのインサイトを得ていく。
「私たちデロイト トーマツでは、生成AIによる企業変革を導入・最適化・統合・変革の4つのステップで捉え、AI Experience Centerで経営層が各ステップの解像度を上げ、取り組みを加速することを支援します」
AIの潜在能力を最大限に引き出し、社会的なインパクトを与えていく
「誰も解決したことがない課題に対し、試行錯誤しながらチームで開発を推進していくことにやりがいを感じています。NVIDIAとの連携も強みで、世界中の最先端企業がどのような取り組みをしているのか、その最新トレンドをダイレクトに得られる。それをいちはやく日本の経営層に提供しながら、攻めの姿勢で生成AIを組み込んでいきたい」
土本が今後に対するモチベーションを話すと、山本もうなずく。
「コンサルタントだからこそ、広範囲の領域を俯瞰して見ながら、必要に応じてフォーカスができる。私は攻めと守り、両方できる人材となっていきたい。そのためには、生成AIの躍進によりそれぞれ特徴的な動きを見せる産・官・学・民の多様なステークホルダーとリレーションシップを構築し、適切な社会導入を推進していく必要があります」
「AIの社会導入とAIのリスク対策「AIガバナンス」に取り組むことで、生成AIの適切な利活用が進むでしょう」
馬渕は二人の話を聞いた上で、次のように述べた。
「人口減少が進む日本において、労働力の減少という課題を克服し、持続的な成長を実現するためには、いかに産業構造の中にAIを導入していくのかは必須テーマ。待ったなしの状態の中で、私たちは一丸となって攻めと守りの両輪で生成AI×経営に力を注いでいきます」
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