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シナリオ・プランニング プラットフォームを活用した未来共創の取り組み

FA Innovative Senses 第15回

不確実性の高い時代に、多くのメンバーを巻き込みつつ、どのように共に未来を創っていくことができるのでしょうか。本稿では、シナリオ・プランニングの考え方を採り入れたシナリオ・プランニング プラットフォームを活用して、多様なステークホルダーとともに未来共創に取り組む方法とその実際の事例について紹介します。

I. 多様なステークホルダーとの未来に関するコミュニケーションの現状

今日、どれほどの企業や自治体が、自組織を取り巻く環境や未来の姿について、広くステークホルダー(社員・職員、住民など)を巻き込んで検討し、その内容を共有することができているだろうか。

当社独自調査の結果、図1からわかるように、「自組織を取り巻く環境や未来の姿について、広くステークホルダーを巻き込んで検討し、その内容を共有している」組織は全体の約10%に留まる。「未来についての検討が不十分」との回答も約50%近くある。総じて、多くの企業・組織では不確実な未来の検討および組織メンバーの巻き込みについて、まだ未着手な状況にあると言えるのではないだろうか。

 

未来の不確実性が増していることはいまさら強調するまでもないだろう。不確実性がますます高まる未来に向けて、組織はどのように多くの人々と共に未来を共創することができるのだろうか。

 

II. シナリオ・プランニングを活用した未来共創

不確実な未来を正確に予測することは不可能だが、それに向けて準備をすることは可能である。不確実性を前提とした「起こりうる可能性のある複数の未来」を考察し、未来への対処を戦略という形で準備していくマネジメント手法がシナリオ・プランニングである。このシナリオ・プランニングについての解説は、以前も詳しく説明している。(未来洞察のポイント~企業の自己革新の視点から:Financial Advisory Topics 第8回

最近では、シナリオ・プランニングが企業だけでなく、国や自治体・非営利団体などでも活用されるケースが増加している。企業経営であれば「望ましい未来」についてだけではなく、「望ましくない未来」への対処法も考えていく。一方、自治体など公共で行う未来議論においては、住民や企業・自治体などのステークホルダーの協力により不確実性を乗り越えたうえで「望ましい未来」を形成できるという考え方ができる。
以前も紹介したが、2002年策定の「南アフリカの未来シナリオ」では「フラミンゴの飛翔」という望ましい未来とそれに至らない3つの不確実性と3つのシナリオが示された。これらの不確実性はステークホルダーの協力により乗り越えることができるはずだ、という信念のもとに、様々なバックグラウンドを持つ22名のステークホルダーの参画により、こうした未来像が描かれたのである(図2)。(多様なステークホルダーと共創する未来シナリオの考え方:FA Innovative Senses 第7回

 

様々なステークホルダーに参加してもらい未来シナリオを構築するには、「広く意見を収集することと深い討議をすることの両立が難しい」という最大の課題があった。これ以外にも、「大人数の参加を求めたくても地理的な難しさや意見集約の難しさがある」や「似たような見方を持つ少人数での議論により、予定調和的な未来しか見えてこない」といった課題も挙げられていた。
未来シナリオ構築のプロセスには、多様な意見収集という「発散」型のフェーズと、意見を集約しシンプルな複数の未来像に帰結させる「収束」型のフェーズが存在する。参加人数が増えると、特に「収束」が難しく、それを従来の進め方である「対面型のワークショップ」だけで進めるのは困難だった。

そこで我々は、デジタル・テクノロジーを活用し、こうした発散と収束を大人数で実行し、多くのステークホルダーと共に未来シナリオを構築することが可能なオンラインプラットフォーム「シナリオ・プランニング プラットフォーム(Scenario Planning Platform)」(以下、SPP)を開発した。

SPP開発の思想と、SPPを活用して取り組んだ事例を紹介する。

 

III. シナリオ・プランニング プラットフォームを活用した「未来起点での政策検討」

我々は、先述の「広く意見を収集することと深い討議をすることの両立が難しい」という課題について、その一部をオンラインプラットフォーム上で行うことで解決できるのではないかと考えた。具体的には「広く意見を収集する」ことをオンラインで実現し、「深い討議をする」ことは従来型の対面ワークショップを継続することで、このジレンマともいうべき課題を解決できるはずだと考えたのである。

こうして開発したのが、「大人数巻き込み型」のシナリオ・プランニングを実現する「シナリオ・プランニング プラットフォーム(Scenario Planning Platform)」である。SPPを活用することで、多くの参加者からの多様な意見を収集できる。またこれらの参加者を早くから巻き込むことで、未来共創活動への主体的参加意識の向上も図れる。一方、未来に至る不確実性や未来像の骨格を描くプロセスにおいては、投稿された多様な意見の意味解釈などを少人数で実施する対面型ワークショップを実施する。収束のしやすさや、コミュニケーションの即時性、検討内容の具体性などの観点から、対面の方が有効であると考えたのだ(図3)。図3に示されたデメリットは、この二つのスタイルを適時に使い分けることで解消できる。

もう少し具体的に解説すると、未来シナリオ構築のプロセスでは、図4に示すような形で使い分けていく。SPPは、未来に起こりうること(未来トレンド)の意見を参加者から収集し、そうした未来トレンドは確実か不確実かといった判断をしてもらうことができる機能を備えている。ここでは大人数の意見を可視化したり統計処理したりできる機能を活用する。このように可視化・統計処理を経て少しだけ収束された意見について、少人数の対面型ワークショップで多様な意見の意味解釈などを行って未来シナリオを描き出す。その後またSPPを活用し、多くの参加者からの未来シーンの具体的な描写や採るべき戦略についてのアイデアを引き出していく。

 

シナリオ・プランニングが企業だけでなく自治体でも活用されているケースが増えていることに触れたが、ここで我々が実際に関与した2つの自治体の事例について紹介しよう。

それぞれの活動は、約4カ月の期間をかけて、図5に示した検討のステップで実施した。まずは「起こりうる未来」を描き出し、その後に「あるべき姿・とるべき政策」について検討を進めるという流れで実施した。


最初は、参加者の方々に向けて事前説明会を開催し、主催者からの活動趣旨の説明後、我々がシナリオ・プランニングの考え方やSPPについての説明を行った。その後、

  • 検討1:参加者から「未来に起こりうること」をSPPに意見投稿してもらうフェーズ
  • 検討2:起こりうることが確実か不確実かをSPP上で判定してもらうフェーズ
  • 検討3:意見間の相関性をSPP上で評価するフェーズ

を経て、起こりうる未来シナリオを検討する対面型ワークショップ(検討4)を開催した。
このワークショップでは、「起こりうる未来」を描きだしたのち、さらに「望ましい未来」を実現するための政策についてもアイデア抽出をすることができた。
ワークショップ後には、検討5として「望ましい未来」について、参加者から「どのような未来シーンが考えられるか」といった世界観(ストーリー)や政策提言の更なるアイデアをSPPに意見投稿してもらった。これらの意見は、貴重な住民の声として、今後政策検討に活用されていく予定である。

これらの活動の実施にあたっては、計画の立案、検討活動に参加される住民の方々へのお声掛けといった局面での、自治体ご担当者の主体的な行動が不可欠であった。これまで実施されていたフォアキャスティング型の進め方ではなく、起こりうる未来からバックキャストする形で政策を検討されたいという強いご意向と、組織内外を巻き込んでの推進力が、活動を成功に導いた鍵だったと感じている。

また、検討活動に参加された方々にもそうした想いは伝わったようだ。一部の声を紹介する。
「不確実性が多く、先など見通せないと思っていたけれど、複数の未来がありうるという考え方でスッキリ見えてきた気がする」
「外部環境を見つめ直す良い機会になった。望ましい未来をぜひ実現させたい」
「他の参加者がどのように考えているのかわかった。今後への気づきやヒントになった」

また自治体の方々からも、「未来の姿を考えるいい機会になった」、「様々な方の意見を聞くことができ、それらの意見を組み合わせて未来の姿が形成されるという点が非常に良かった」、「理想の未来に向けて、組織全体で取り組んでいきたい」、という声を頂くことができた。

このような大人数参加型の未来共創シナリオは、公共の領域に限ったことではなく、企業内で多くのメンバーを巻き込んだシナリオ構築にも活用できることは言うまでもない。

より多くのシーンに活用頂けるよう、我々のチームではSPPの改善を日々進めている。現在は1万人規模の参加者による意見を収集・集約して未来シナリオをつくりあげられる仕組みの構築を進めているところである。

不確実性がますます高まるこれからの時代において、シナリオ・プランニング プラットフォームの活用が、ステークホルダーとの未来共創の一助となるのではないかと考えている。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートイノベーション
マネジャー 山本 佳

(2024.11.1)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

 

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