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Closing Out 2022

iGAAP in Focus|月刊誌『会計情報』2023年3月号

注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

2022年が終わりに近づくにつれ、企業は、現在のマクロ経済及び地政学的環境によってもたらされる重大な不確実性に直面している。世界的なサプライチェーンの大幅な混乱、エネルギー価格及び労働力不足の結果、多くの製品コスト及び従業員コストが増加している。同時に、世界の中央銀行は、歴史的に高いインフレ率の影響を和らげるために金利を引き上げている。

企業は、この困難な状況にどのように対処しているかについて透明性を高めるとともに、整合性があり、比較可能性があり、タイムリーなサステナビリティ及び気候情報に対する投資家の需要の高まりに対応する必要がある。

本iGAAP in Focusの特別版では、現在の経済的及び地政学的環境を考慮して、2022年12月31日以後終了する事業年度に関連性のある可能性のある財務報告の問題を示し、規制上の焦点となる分野及び年度末に適用される会計基準の変更も強調している。

749KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

不確実性と財務報告

相互接続された世界では、たとえばロシアのウクライナ侵攻のより広い経済的影響を、エネルギー価格の上昇、一般的な生活費の上昇、COVID-19パンデミックの継続的な影響、又は無数の各国又は地域の要因から分離することが常に可能であるとは限らない。しかし、同様の経済現象は、幅広い法域で経験している。これらのうちのいくつかが財務報告に及ぼす主な影響を以下に強調する。

デロイトのIFRS in Focus「ロシア・ウクライナ戦争に関する財務報告の検討事項」*1は、ロシア・ウクライナ戦争に関連する財務報告の検討事項を、詳細に解説している。

さらに、欧州証券市場監督局(ESMA)は、半期の財務報告に対するロシアのウクライナ侵攻の影響について公表文書*2を公表した。「ヨーロッパにおける2022年の年次財務報告についての共通の施行優先事項」*3において、ESMAは、これらのメッセージのほとんどが年次財務諸表の状況にも関連性があると考えている。


 

エネルギー価格の上昇

エネルギー価格の上昇とガス埋蔵量の枯渇によるエネルギー不足の可能性は、広範な企業及び財務報告のいくつかの側面に重大な影響を与える可能性がある。

これは、とりわけ、生産の混乱、コストの上昇(特にエネルギー集約型産業)、エネルギー生産者の収益の増加及びその他の収益の減少(例えば、エネルギー・コストの上昇が消費者の購買力を制限する可能性のある市場において可処分所得のレベルに影響を受ける業種)につながる可能性がある。

このような影響は、IAS第36号「資産の減損」に基づいて実施された減損レビューに明確に関連性がある。それは、報告日時点の事象及び期待を反映するように予測が適切に更新されていることを確認すること、及びその行使に伴う適切な開示を決定することの両方においてである。例えば、将来のエネルギー価格の予測は、初めて開示される重要な仮定となるかもしれない。

一部の企業では、以下で詳しく解説するように、エネルギー価格の影響は深刻であり、継続企業として存続する企業の能力に対する疑念を説明する開示の主要な部分を形成するかもしれない。

直接的ではない影響には、エネルギー・デリバティブの価値の変動(例えば、ガス又は電気の購入又は販売の先渡契約)が含まれ、その結果、ヘッジ会計又はIFRS第7号「金融商品:開示」に基づく市場リスクの開示に影響を与える可能性がある。

 

全般的なインフレと金利上昇

エネルギー価格の上昇も、全般的なインフレ水準の上昇に寄与している。これには、信用リスクの高まりに対する貸手の認識を反映した金利の上昇や、インフレを抑制しようとする中央銀行の介入が伴っている。インフレ率と市場金利の上昇は、将来のキャッシュ・フローの予測と現在価値の計算に依存する財務報告の複数の側面に影響を与える。

非金融資産の減損に関して、IAS第36号は、資産が減損している可能性を示し、完全な減損レビューにつながる可能性があるかどうかを判断する際に評価する兆候として、市場金利の上昇を識別している。ただし、市場金利の上昇が重要性のある減損の存在を示していない場合を除く。これは、市場金利の上昇が問題となっている資産の適切な割引率に影響を及ぼさない場合(例えば、短期金利の変動が長期資産に要求される収益率に影響を及ぼさない場合)、又は企業が顧客に請求する価格を通じて、より高い金利を回収することを見込んでいる場合、 又は金利の上昇が小さく、資産の回収可能価額が帳簿価額を上回るヘッドルームについて懸念が生じることがない場合である。しかし、減損損失の可能性は見逃してはならず、金利の全般的な上昇は、完全な減損レビューが要求されるかどうかを適切に検討することにつながるはずである。

インフレの将来の経済的資源の流出への影響が、予測キャッシュ・フロー又は長期負債に適用される割引率のいずれかに反映されなければならないため、インフレは、廃棄義務のような長期引当金の測定に影響を与える可能性がある。企業は、引当金の測定に使用するインプットが、インフレの影響を組み込む際に整合したアプローチに従うことを確保しなければならない。インフレの影響を含む名目キャッシュ・フローは名目レートで割り引くべきであり、インフレの影響を除いた実質キャッシュ・フローは実質レートで割り引くべきである。

インフレとその結果としての生活費の増加は、製品が手頃な価格でなくなる可能性がある(生産コストの増加又は顧客の購買力の低下のいずれかのため)。正味実現可能価額への棚卸資産の評価減、及び利益で販売できない棚卸資産の購入コミットメントに関する不利な契約負債の認識が要求される場合がある。インフレ、特に昇給率は、IAS第19号「従業員給付」に基づいて会計処理される確定給付債務の測定に織り込まれる重要な数理計算上の仮定でもある。インフレが見積りの不確実性の主要な発生要因である場合、企業は、感応度分析のような、IAS第1号「財務諸表の表示」125項から133項で要求される情報を開示する必要性を検討しなければならない。

金利とインフレの両方が、IFRS第16号「リース」に基づくリース負債及び使用権資産の測定に影響を与える可能性がある。また、借手の債務返済能力が低下するため、信用損失への追加のエクスポージャーにつながる可能性があり、その結果、次のようになる。

  • 借手の生活費の増加により債務不履行のレベルが増加する可能性があると予想される場合、IFRS第9号「金融商品」に基づいて認識されることとなる予想信用損失が増加する。金融機関が使用する予想モデルの変更、又はそれらのモデルを補完するための「マネジメント・オーバーレイ」には、財務諸表の利用者が将来のキャッシュ・フローの金額、時期及び不確実性に対する信用リスクの影響を理解できるようにするための開示を伴わなければならない。
  • 金融機関以外の企業が、顧客が未払額の支払いに苦闘し、不良債権の増加が見込まれる場合、予想信用損失はより重大(significant)になる。
    割引率とキャッシュ・フローに使用される仮定は、特定の計算内で内部的に整合しており、異なる目的で実行される計算間で整合していなければならない。

 

政府の介入

現在の経済情勢(特にエネルギー価格に関して)は、例えば、顧客に請求できる価格を制限する、又は現在の経済状況によって悪影響を受ける企業に直接経済支援を提供する政府の介入につながっている。

これらの取決めを、IAS第20号「政府補助金の会計処理及び政府援助の開示」の範囲に含まれる政府補助金、IAS第12号「法人所得税」の範囲に含まれる税額控除、IAS第20号10A項の要求事項の対象となる市場金利よりも低利のローン、又は潜在的に(例えば、政府が公益事業の供給者が請求できる料金を制限するように行動する場合)他の場合よりも単に低コストであるとして、正しく特徴づけることが重要である。

より広範には、政府援助は、そのような予測を利用する企業のキャッシュ・フロー予測及び評価に影響を与える可能性がある(例えば、減損レビュー及び継続企業の評価)。スキームの予想期間を含め、キャッシュ・フロー予測に対する政府援助の影響に関する企業の最良の見積りの評価は、慎重に実施しなければならず、評価の結果が重大な場合は開示しなければならない。

多くの法域で、政府は、特定のインダストリーで事業を展開し、特にエネルギー・セクターでの価格上昇の結果として便益の増加の恩恵を受けた、いわゆる「超過利潤税(windfall tax)」を導入している(又は導入する計画を発表した)。影響を受ける企業は、税金の性質を評価して、IAS第12号を適用する法人所得税として会計処理するか、IFRIC第21号「賦課金」を適用する賦課金として会計処理するかを決定する必要がある。関連する費用が純損益における法人所得税の科目に表示するか、当該科目より上に表示するかを決定するため、この区別は重要である。IAS第12号が適用される場合、企業は繰延税金資産又は繰延税金負債を認識するかどうかも検討する必要がある。税金が公表されているがまだ発効していない場合、企業は、企業の事業に対する当該税金の予想される影響を開示すべきかどうかを検討する必要がある。

 

市場へのアクセス制限と事業停止

ロシアのウクライナ侵攻後、多くの企業がロシア市場から撤退する意向を発表する、又はこの地域での事業へのアクセス又は管理を継続する際に実務上又は政治的な問題が発生した。

IAS第36号は、IAS第36号の範囲に含まれる資産が減損している可能性を示す兆候があるかどうかを、内部及び外部の情報源を考慮することによって評価することを企業に要求している。この評価を行うにあたり、企業は、ロシアのウクライナ侵攻の影響(直接的及び間接的)が、1つ又は複数の資産が減損している可能性を示す兆候を構成するかどうかを慎重に検討しなければならない。ウクライナ、ロシア又はベラルーシでの事業の廃棄、処分又は一時停止、又は投資の中止の決定は、影響を受ける資産の完全な減損レビューを必要とする減損の兆候を示す可能性がある。

また、事業の処分計画により、売却目的で保有する資産への分類又は非継続事業としての表示を生じさせる可能性もある。しかし、これは、IFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」の厳格な要件を満たす場合にのみ適切であるため、注意が必要である。特に、非流動資産又は処分グループを廃棄する計画は、売却目的保有と分類される結果とはならず、不確実な政治環境において売却の可能性が非常に高いと考えられるかどうかを評価するための判断が要求される場合がある。

企業と在外営業活動体との関係が(選択又はその他の方法で)変化した時点で、支配、共同支配又は重要な影響力を喪失するほど影響力のレベルが低下したかどうかも考慮する必要もある。

 

財務諸表における気候関連リスク

しばらくの間、規制当局は、企業が直面する主要なリスクと不確実性の説明とともに、企業の事業及び状態の進展及び業績、バランスのとれた包括的な分析を提供する際に、気候関連事項とその影響に特に注意を払うよう企業に求めてきた(たとえば、気候関連の問題はESMAの共通の施行優先事項*4が繰返し取り上げている)。

特に、年次報告書の他の箇所で気候関連事項に重点が置かれている程度が、財務諸表に適用された判断及び見積りに気候問題がどのように反映されているか、また、記載された長期的な脱炭素化コミットメントを達成するために必要な即時の行動が、財務諸表に反映されているかどうかを検討しなければならない。財務報告の目的で使用される予測は、報告日における企業の戦略計画及び計画された行動を反映し、報告日における最良の見積もりに基づかなければならない。

気候関連事項に重要性がある場合、IFRS会計基準が当該事項に明示的に言及していなくても、IFRS財務諸表の作成において考慮されることが期待される。投資家又は規制当局は、気候関連事項が、財務諸表にどのように影響するか、どの程度影響するか(又は影響しない)についての説明なしに、(例えば、減損テストで)検討されたことを記述する定型的な開示(boilerplate disclosures)が、財務諸表の理解に目的適合性のある情報を提供するのに十分であるとみなすことはできない。例えば、投資家は、財務報告に使用される企業の予測がパリ協定の目標と一致しているかどうかを理解することを望んでいる。*5異なる気候変動の軌道の下で可能性のあるシナリオ及び可能な結果の範囲は複数ある。企業は、使用する仮定を明確にし、感応度分析をより有効に使用することが重要である。

特にエクスポージャーの高いセクターにおいて、気候関連事項が事業及び/又は資産及び負債の測定に重要性のある財務的影響を及ぼすことが見込まれないと結論付けた場合、規制当局は、そのような結論に達するために実施した評価、判断及び使用し期間を開示することを期待している。開示は、個々の企業の特定の状況に合わせて調整する必要がある。

デロイトのA Closer Look「気候変動に関するパリ協定に沿ったコーポレート・レポーティングに対する投資家の需要」*6は、気候に関する投資家の期待の背景と、どの要求事項がIFRS財団の公表物である「In Brief:IFRS 基準と気候関連の開示」*7及びIASBの教育的資料「気候関連事項が財務諸表に及ぼす影響」*8によって強調されているか、及びそれらを実務においてどのように適用する可能性があるかについて提供している。


 

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)などによる基準の最終化までの間(後述)、TCFDは、企業が気候変動への戦略的対応及びその潜在的な財務的影響を説明するための一般的に受け入れられているフレームワークとして使用される。多くの法域では、TCFDの開示を強制又は推奨される報告要求に組み込んでおり、規制当局はその報告の品質にますます焦点を合わせている。

たとえば、2022年に英国財務報告評議会(FRC)は、TCFDの開示及び財務諸表における気候のテーマ別レビューを実施した。レビューの結果は、ベストプラクティスの例が存在するため、これらの分野での報告及び開示に対してより伝統的な「様子見」アプローチを採用している企業への期待をより明確にしている。FRCは、気候報告は取締役会レベルのトピックとしてしっかりと確立しなければならないことを強調した。

FRCのテーマ別レビューでは、企業が改善できる重要な問題が指摘された。これらの分野は、英国外のTCFD又はサステナビリティ情報についてより広範に報告する企業にとって、有用な考慮事項を提供する可能性がある。

  • 粒度と特定性—企業は、企業全体のリスク及び機会に関する情報を提供し、必要に応じて事業(business)、セクター及び地域別に分解して提供しなければならない。
  • バランス—気候関連のリスク及び機会に関する議論は、気候関連の機会の可能性を説明する際に、新技術の開発への依存についての議論を含め、予想される規模に比例しなければならない。
  • 他のナラティブ開示との相互リンク—TCFDの開示は、例えば、シナリオ分析の結果をナラティブ・レポーティング内の企業による全体戦略の説明に組み込むことにより、ナラティブ・レポーティングの他の要素と十分に統合しなければならない。
  • 重要性(マテリアリティ)—企業は、TCFDの全セクターガイダンス及び補足ガイダンス*9をどのように組み込むかについての説明を提供しなければならない。開示が行われていない場合は、省略の理由を含めなければならない。特に、企業がこれらの開示を検討し、重要性がないと判断したかどうか、又はこれらの開示の対象となる事項が企業の内部評価で対処されていないかどうかを明確にしなければならない。
  • TCFDと財務諸表開示のつながり—TCFD報告で識別された気候リスクと機会は、財務諸表の裏付けとなる判断及び見積りに適切に統合されなければならない。企業はまた、気候変動と移行計画に対応して、セグメント別報告の表示と分解された収益開示を再評価することを検討しなければならない。
  • ガバナンス—企業は、気候関連のパフォーマンス目標の検討及び主要な資本的支出、買収及び処分に関する決定に対する気候の影響など、気候関連事項の監督に関する具体的な情報を提供しなければならない。また、気候関連リスクをどのように管理しているか及び気候関連指標が報酬方針に与える影響についても開示を検討しなければならない。
  • 戦略—戦略に関する情報はきめ細かく、シナリオ分析に含まれる詳細レベルは、定量的指標を含め整合していなければならない。リスクと機会に関する企業の議論は、機会に不釣り合いに重み付けしてはならない。
  • リスク管理—気候関連事項は、全体的なリスク管理プロセスに統合しなければならない。特に、気候関連リスクの優先度及び重要性を評価するプロセスを十分に説明しなければならない。
  • 指標と目標—指標は、スコープ1及び2の排出量のみに焦点を絞るのではなく、他の気候関連のリスクと機会の指標も含めなければならない。目標に対する進捗状況の読者の理解をサポートするために、過去データ及び変動の説明を提供しなければならない。
  • 保証—企業は、与えられた保証のレベル及びそれがカバーするものを明確に説明しなければならない。「検証済み(Verified)」などの用語は、実際に取得されたよりも高いレベルの保証を意味する可能性があるため、避けなければならない。

気候関連リスクの広範な内容及び重大さ、及び利害関係者の期待の高まりと規制当局の注目に鑑み、企業は、自主的又は強制的なTCFD開示を提供するかどうかに関係なく、上記の点を考慮しなければならない。

 

サステナビリティと気候についてのコーポレート・レポーティングの進展

企業が時の経過とともにどのように価値を創造、保全、又は毀損するかの理解に関連性のあるサステナビリティ情報に対する投資家及び他の利害関係者の要求により、強制的なサステナビリティ報告の導入に向けた急速な動きが進んでいる。

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)

ISSBは、資本市場のサステナビリティ報告に関する基準の世界的な基準設定主体として浮上している。2022年3月、ISSBは、最初のIFRSサステナビリティ開示基準の2つの公開草案(ED)を公表した。

  • IFRS S1号案「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」
  • IFRS S2号案「気候関連開示」

ISSBは現在、協議に対して受領した回答を考慮してEDの提案を再審議しており、最終基準の公表は2023年の早いうち(early in 2023)に予定されている。最近の金融安定理事会の報告書によると、そのメンバーである24の法域のうち14が、ISSB基準を地域での要求に取り入れるための構造及びプロセスを導入中であると報告した。

証券監督者国際機構(IOSCO)は、開示基準と保証基準の両方を、企業が2024年末の会計に使用できるようにすることを期待している。2022年11月のCOP 27で、IOSCO代表理事会議長のJean-Paul Servais氏は、「2023年に、ISSBは気候開示及び全般的要求事項に関する基準を公表する。IOSCOは、エンドースメントを決定するために迅速に行動し、IOSCOがこれらの基準をエンドースすることを決定した場合、メンバーが直ちに前進することを支援するためのサポート・プログラムを開発する。IOSCOはまた、組織的能力向上(capacity building)のパートナーシップ・イニシアチブを通じて包摂的であることを目指す、ISSBの取組みを支援している。」と述べた。

デロイトのiGAAP in Focus「ISSBは、資本市場に対するサステナビリティ開示基準のグローバル・ベースラインを提案する」*10は、ISSBの背景情報を提供し、最初の2つのEDを要約している。

 

重大な域外への広がりを有する法域の開発

2022年11月、欧州連合の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)は、欧州議会で採択され、欧州理事会によって承認された。CSRDは、投資家、市民社会、その他の利害関係者向けの企業のマネジメント・レポートのサステナビリティ報告を改善し、それによって欧州グリーンディール及び国連の持続可能な開発目標(SDGs)に沿った完全に持続可能で包括的な経済及び金融システムへの移行に貢献することを目的としている。

CSRDの範囲は非常に広く、EUの規制市場に上場していない多くの非EU事業に拡大する。

企業は、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)によって開発された欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)を使用して、広範なサステナビリティ項目について報告しなければならない。

ESRS草案の最初のセットは2022年11月に欧州委員会(EC)に提出され、ECは今後、基準案についてEU機関と加盟国と協議し、欧州議会と理事会による精査期間の後、2023年6月に委任法令として最終基準を採択する予定である。

デロイトのiGAAP in Focus「欧州サステナビリティ報告『企業サステナビリティ報告指令(CSRD)』の全世界的な展開」 は、CSRDの世界的な広がりを説明している。

米国SECは2021年3月に気候関連の開示について協議し、2022年3月に規則案「投資家向け気候関連開示の拡大及び標準化」*11を公表した。とりわけ、規則案は外国登録企業(FPI)に適用され、SECは、FPIが規則案の要求事項と実質的に同様の要件の要求事項に基づいて報告することが、認められるべきかどうかについての意見を求めた。

 

統合報告

2021年、国際統合報告評議会(IIRC)は、当初2013年に公表された国際統合報告フレームワーク(〈IR〉フレームワーク)の改訂版*12を公表した。改訂版では、価値の創造、保全、毀損に重点が置かれている。報告の誠実性をさらに促進するために、ガバナンス責任者からより多くの開示を提供し、結果の範囲を拡大する。改訂〈IR〉フレームワークは、IFRS財団の後援の下で維持され、2022年1月1日に開始する報告期間に適用される。企業が〈IR〉フレームワークを部分的にのみ採用することを選択した場合、〈IR〉フレームワークは、適用されていない要求事項及びその理由を識別することを推奨している。

 

通貨と超インフレ

世界的なエネルギー価格の急騰は、多くの法域で全般的なインフレ水準の上昇に寄与しており、超インフレ(この用語はIAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」で定義されている。)の対象となる法域の数が増加している。したがって、企業は以下の課題にますます直面している。

  • 経済がIAS第29号で定義されている超インフレであるかどうかを判断することに、困難な場合がある。当該定義には超インフレのいくつかの特徴が含まれているが、超インフレは3年間の累積インフレ率が100%に近づいているか又は超えるときに、最も多く証拠付けられる。また、財務諸表の金額にどの一般物価指数を適用するべきかを決定することも難しい可能性がある。
  • 企業は、現地通貨と国際通貨の両方が一般的に使用されている状況では、企業の機能通貨を決定する際に困難に直面する可能性がある。これは、現地通貨が超インフレである場合に特に重大になる可能性がある。IAS第29号は、(その経済で活動する企業によってではなく)機能通貨が超インフレ経済の通貨である企業によってのみ適用される。また、IAS第21号「外国為替レートの変動の影響」では、「企業は、IAS第29号に従った修正再表示を、例えば、本基準に従って決定される機能通貨以外の通貨(親会社の機能通貨など)を機能通貨として採用することによって、避けることはできない。」と具体的に規定されていることにも留意すべきである。
  • 現地通貨とグローバルに取引される通貨間の交換が制限されている場合、単体財務諸表の貨幣性項目を換算し、在外営業活動体の財務諸表を親会社の表示通貨で換算するための適切な為替レートを識別することが困難な場合がある。この問題は超インフレ経済に特有ではないが、「ハード」通貨の不足、したがって為替制限の必要性は、現地通貨が価値を失っている経済の特徴であることが多い。

インフレ又は為替の問題が重大な判断につながる、又は見積りの不確実性の発生要因となる場合、IAS第1号122項及び125項で要求されているように開示を提供しなければならない。

国際通貨基金(IMF)のインフレ予測やIAS第29号で定められた指標を含む、執筆時点における入手可能なデータに基づいて、以下の経済は、2022年12月31日終了事業年度の財務諸表について、IAS第29号を適用する目的及びIAS第21号に従った在外営業活動体の再換算を行う超インフレ経済にあると考えなければならない。

  • アルゼンチン
  • エチオピア
  • イラン
  • レバノン
  • 南スーダン
  • スーダン
  • スリナム
  • シリア
  • トルコ
  • ベネズエラ
  • イエメン
  • ジンバブエ

エチオピアとトルコは、2022年に超インフレになった。

 

その他の報告に関する検討事項

後発事象

期末日以降の新たな問題又は新たな進展の出現は、報告期間の末日に存在した状況についての証拠を提供する修正を要する後発事象と、報告期間後に発生した状況を示す修正を要しない後発事象を区別するために、慎重な検討が要求される場合がある。

この区別は、当該事象自体をどの報告期間に会計処理すべきかを決定するだけでなく、将来の見通しに関する計算及び関連する開示にとっても重要である。例えば、IAS第36号に基づく減損レビュー又はIFRS第9号に基づく予想信用損失計算、及び合理的に考え得る予測の変化に対する感応度の開示は、報告日の状況に基づかなければならず、その後の修正を要しない後発事象の影響を受けない。報告日以降に評価がどのように変化したかについて追加の開示を提供することは有益かもしれないが、これは報告日現在の情報とは異なるものとして明確に識別しなければならない。

 

重大な判断と見積りの不確実性の主要な発生要因の開示

不確実性のある時代に報告を行う際には、財務諸表の利用者に、財務情報を作成する際の重要な仮定と、行った判断を理解できるようにする十分な情報を提供することが特に重要である。企業の特定の状況に応じて、本ニュースレターで解説している領域の多くは、IAS第1号122項から133項によって開示が要求される可能性がある、項目又は取引の特性、又はその測定に関する見積りの不確実性の発生要因に対する重大な判断が生じる可能性がある。

合理的に考え得る結果の範囲に基づく感応度分析を含む、主要な仮定について提供する開示は、報告日における状況を反映しなければならない。主要な仮定又はそれらの仮定に対する合理的に考え得る変化の範囲が、修正を要しない後発事象の結果として重大な影響を受ける場合、財務的影響の見積りを含む、当該変化に関する情報を別個に提供しなければならない。

見積りの不確実性に関しては、翌事業年度中に資産及び負債の帳簿価額に重要性のある修正の重大なリスクがある(したがってIAS第1号125項に基づく開示が要求される)見積もりと、より長い期間にわたって資産及び負債に影響を及ぼす可能性のある(したがって、当該項の範囲に含まれないが、別個に開示することが有用である可能性がある)見積りとを区別することも重要である。

見積りの不確実性の高品質の開示を行う上では、以下のことも重要である。

  • 重要性がある修正のリスクがある特定の量を定量化する。
  • 利用者が経営者の最も困難、主観的又は複雑な判断を理解できるようにするために、仮定及び/又は不確実性の説明に十分な粒度を提供する。
  • 他の見積りの開示及び関連する感応度を、重大な見積りと明確に区別し、それらの関連性を説明する。
  • 重大な見積り(上記の経済的要因により、前年よりも広範になる可能性がある)について、意味のある感応度及び/又は合理的に考え得る結果の範囲を提供する。これらは、特定のIFRS会計基準で要求されるものに限定するべきではない。
  • 投資家がその影響を完全に理解するためにこの情報を必要とする場合、重大な見積もりの基礎となる仮定を定量化する。
  • 不確実性が未解決のままである場合、過去の仮定の変更を説明する。

デロイトのIFRS in Focus「主要な判断と見積りの開示にスポットライトを当てる」*13は、重大な判断及び見積りの不確実性の発生要因の開示に関するより詳細について提供している。

 

非GAAP及び代替的業績指標

重大な経済変化又は通例ではない事象は、しばしば、業績への影響又は事象が発生しなかった場合の企業の利益を強調したいという欲求につながる。しかし、このようなアプローチに従う場合には注意が必要である。

このような変化又は事象の影響が広範囲であるという性質は、別個の表示が企業の全体的な財務業績を忠実に表現せず、利用者の財務諸表の理解に誤解を招く可能性があることを意味する。たとえば、「エネルギー価格の上昇の影響を除く」という利益の数値は、2022年には存在しなかった経済環境を反映する。

一般的に、経済的又は地政学的な事象の影響が非GAAP指標又は代替的業績指標(APM)を通じて適切に反映できるかどうかを評価する際には、以下を含むがこれらに限定されない要因を検討しなければならない。

  • 調整された指標から除外される項目は、事象又は経済状況に直接関係していることを証明できるか?
  • 当該項目は「ニューノーマル」の反映ではなく、通常の営業に増分なものであるか?
  • 当該項目は、見積り又は予測とは対照的に、客観的に定量化可能であるか?
  • 当該項目は、より大きな項目の測定の一部ではなく、個別のものであるか?

このような事象の広範な影響を純損益に別個に表示しようとするのではなく、資産、負債、及び純損益の数値への影響の認識、測定及び表示に適用される重大な影響、判断及び仮定に関する定性的及び定量的情報を注記で開示することが適切である可能性が高い。

そのような影響は、明確かつバイアスのない方法で提供しなければならない。非GAAP指標又はAPMをマネジメント・レポートに含める場合、企業は非GAAP財務指標に関するIOSCO声明*14そして代替的業績に関するESMAのガイドライン(2020年に更新)*15に引き続き関連性がある。

 

法人所得税及び繰延税金資産の認識

企業は、現在のマクロ経済環境に起因する利益水準の低下又は激しい変動が法人所得税会計にどのように影響するかを検討しなければならない。例えば、当期の収益の減少又は損失の発生は、予想利益の減少と相まって、企業の繰延税金資産の一部又は全部を回収可能である可能性が高いかどうかの再評価につながる可能性がある。利益の減少又は減損が損失を生じさせる場合、企業は、関連する繰延税金資産の全部又は一部を実現するために、税法で利用可能な繰戻し及び繰越期間内に十分な所得があるかどうかを検討する必要がある。

IAS第12号を適用して、企業は、子会社、支店及び関連会社、及び共同支配の取決めの持分に関連する将来加算一時差異に対する繰延税金負債を認識していない可能性があるが、これは、一時差異を解消する時期をコントロールすることができ、当該一時差異が予測可能な期間内に解消しない可能性が高いとみなされたと結論づけたためである。逆に、企業は、一時差異が予測可能な期間内に解消する可能性が高いと判断した(及び繰延税金資産を回収できる可能性が高いと判断した)ため、そのような投資に関連する将来減算一時差異について繰延税金資産を認識した可能性がある。企業又はその子会社が流動性の問題又は現在のマクロ経済環境に起因する他の課題を有しており、投資先の未分配利益の本国送金に関する意図に変更がある場合、これらの結論を再検討することが適切である可能性がある。

開示は、この分野でも重要である。特に、近年の損失の履歴がある場合の繰延税金資産の認識を裏付ける証拠の内容に関する企業固有の情報、及び関連性のある感応度及び/又は今後12か月で起こりうる結果の範囲を含む、繰延税金の判断及び見積りについてである。

 

税源浸食と利益移転に関するOECD/G20の包摂的枠組み(BEPS)

2022年3月OECDは、経済のデジタル化から生じる税の課題に対処するためのプロジェクトの第2の「柱」として合意された15%のグローバル・ミニマム課税についてテクニカル・ガイダンス*16を公表した。このガイダンスは、2021年12月に合意し公表されたグローバル税源侵食防止(GloBE)ルール*17の適用及び運用について詳しく説明している。これは、収益が7億5,000万ユーロを超える多国籍企業(MNE)が、事業を行う各法域で発生する所得に対して少なくとも15%の税金を支払うことを保証するための調整されたシステムを構築する。

135を超える国と法域が、「第2の柱」を税法に組み込むことに同意している。これらの国及び法域のいずれにおいても、2022年末までに実質的な制定が行われることは予想されていない(つまり、2022年12月31日時点でIAS第12号に基づいて計算された税金残高は影響を受けない)が*18、IAS第10号「後発事象」は、一般的に開示が要求される修正を要しない後発事象の例として、「報告期間後に制定又は発表された税率又は税法の変更で、当期税金及び繰延税金の資産及び負債に重大な影響を及ぼすもの」を挙げていることに留意しなければならない。

したがって、企業は、OECDのテクニカル・ガイダンスとその実施に対する該当する政府のコミットメントのレベルが、事業を行う法域における税法の変更の発表を構成するかどうかを評価しなければならない。この場合、当該ルールが事業に重大な影響を与える可能性があると企業が結論付けた場合、その事実を、影響の見積り又はそのような見積りを行うことができないという記述とともに財務諸表に開示する。

この開示に関連性があるかもしれないのは、IAS第12号(特に繰延税金に関して)を第2の柱のフレームワークに適用する際の課題にどのように対処するかについてのIASBの検討である。IASBは、2022年11月の会議において、第2の柱の実施から生じる繰延税金の会計処理の一時的な例外を、影響を受ける企業に対する的を絞った開示要求とともに導入することを暫定的に決定した。

当該提案の公開草案の公表は2023年1月に予定されており、修正の最終化は2023年の第2四半期を目標としている。*19

 

継続企業

経済的圧力又は変化により、ビジネス・モデルが実行不可能になったり、必要な債務による資金調達へのアクセスが制限されたりする可能性がある。 このような状況では、報告日から少なくとも12か月間継続企業として存続できないかどうかを評価する必要がある。

経営者が企業を清算もしくは営業停止の意図がある場合、又はそうする以外に現実的な代替案がない場合を除いて、財務諸表は継続企業に基づいて作成される。評価を行う際、継続企業として存続する企業の能力に重大な疑義を生じさせる可能性のある事象又は状況に関連する重要性のある不確実性を経営者が認識している場合、企業は、当該不確実性又は重要性のある不確実性は存在しないという結論に達するために取られた重要な判断を開示しなければならない。

IASBは、2021年に継続企業の評価及び関連する開示要求に関する教育的資料を公表した。このガイダンスは、デロイトのIFRS in Focus「IFRS財団は、継続企業の評価に関連するIFRS基準の要求事項に関する教育的資料を公表」*20に要約されている。

 

IFRS第17号「保険契約」の適用

IFRS第17号は、2023年1月1日以後に開始する事業年度に発効する。早期適用が限られているため、保険会社と非保険会社の両方が、公表されているが未発効の新しいIFRS会計基準の影響についてのIAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に基づく開示要求を検討する必要がある。保険会社に対するIFRS第17号の影響は、IFRS第9号を初めて適用するため、IFRS第9号の適用を延期することを選択した保険会社に対するIFRS第9号の影響と同様に、重大である。IFRS第17号の適用開始日より後に2022年12月期の年次報告書が公表されるため、新基準の実施による影響の分析は1年前よりも高度になり、過去の財務諸表で提供された情報のさらなる精緻化及び発展が可能になる。そのため、会計上の変更の可能性に関する企業固有の定量的開示の提供は、規制上の焦点となる分野になると予想される。開示のレベル、特に定量化が可能な範囲は、各企業の実施プロジェクトの状況によって影響を受けるが、実務上可能な場合は以下を含めなければならない。

  • 適用する会計方針(範囲の例外及び移行の救済措置の使用を含む)
  • 割引、非金融リスクの調整、プレミアムの配分、収益としての契約サービスマージン(CSM)の認識のような、保険契約の会計処理の主要な側面に適用される方法論
  • 2022年の期首及び期末の財政状態、財務業績及び資本へのIFRS第17号影響の金額が、既知又は合理的に見積り可能かどうか
  • IFRS第9号を初めて適用する企業の金融資産の会計処理に予想される影響、及びIFRS第9号が現在適用されている場合の金融資産の分類選択の変更

定量的な情報が分からない又は合理的に見積もれないため開示されない場合、内容及び財政状態への予想される影響の可能性の高い大きさ(likely magnitude)を利用者が理解できる定性的な情報の重要性が強調される。

 

IFRS第3号「企業結合」

企業結合は非常に重大となる可能性があり、場合によっては、企業の事業の内容及び範囲を根本的に変えることがある。そのため、企業は、年次報告書全体を通じて、企業結合の理由及び影響について明確で整合的な説明を行い、情報を理解可能で簡潔に伝える方法について慎重に検討する必要がある。

同様に:

  • のれんを生じさせる要因の説明を提供しなければならず、可能であれば、定型的な開示を提供するだけでなく、対象の企業結合に固有の考慮事項を含めなければならない。
  • 条件付対価に関連する開示には、取決めに関する企業固有の説明と、支払額の潜在的な変動性を含めなければならない。

企業結合会計の仕組みも複雑になる可能性があり、例えば、取引の要素が会計目的で企業結合の一部を形成するか、代わりに別個の取引として会計処理しなければならないかを決定する際に、重大な判断を適用する必要がある場合がある(例えば、株式に基づく報酬が対価の一部を構成するか、結合後の費用として会計処理されるかを決定する要求事項は複雑である)。この判断の実施には注意が必要であり、IFRS第3号を適用する際に行った判断を明確に開示する、又は(取引が企業結合の定義を満たしているかどうか、又は資産購入として会計処理する必要があるかどうかが明確ではない場合)IFRS第3号が適用されるかどうかを決定する際に行われた判断を明確に開示する必要がある。

 

IAS第33号「1株当たり利益」

基本的EPS及び希薄化後EPSは、多くの場合、企業の業績の重要な指標と考えられているため、多くの場合、ある期間の最初の決算発表及び完全な財務諸表に含まれている。しかし、当該数値の計算は非常に複雑になる可能性があり、利用者が常によく理解できるとは限らない。IAS第33号自体の開示の要求事項はこの点で比較的限定的であるが、財務諸表の作成においてなされた重大な判断を開示するというIAS第1号の一般的な要求事項は、EPSの計算にも適用される可能性があることに留意すべきである(例えば、株式再編の実質を決定する際に判断が必要な場合)。

誤って適用されやすいEPS計算の詳細を、以下に記載する。

  • 潜在的な普通株式が希薄化又は逆希薄化であるかどうかの決定は、継続事業からの利益又は損失に基づいて行う必要がある。
  • 無償部分を含む株式再編成では、表示するすべての期間の基本EPS及び調整後EPSの計算に使用される普通株式の加重平均数を遡及的に調整することが要求される。
  • 優先株式が資本として分類される場合、基本EPS及び調整後EPSの計算に使用される利益は、配当及び償還時に生じるプレミアムを含む、当該優先株式のすべての影響に対して調整される。

上記の非GAAP指標の使用に関するガイダンスは、調整後EPS数値の表示にも適用される。特に、「法定」EPS指標及びその算定方法(調整項目に対する税金に対して使用する基礎を含む)を明確に開示しなければならない。

 

IFRS解釈指針委員会による重要なアジェンダ決定

本ニュースレターの付録で詳述されているように、IFRS解釈指針委員会(以下、委員会)は、特定の取引に対する適切な会計処理に関するガイダンスを提供する多くのアジェンダ決定を公表している。より広範に適用される可能性のある取り扱われた問題のいくつかを、以下で解説する。

 

第三者との契約から生じた用途制限のある要求払預金(IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」)

2022年4月委員会は、要求払預金が第三者と合意された契約上の用途制限の対象となっている場合に、IAS第7号の「現金」の定義を満たすかどうかについてアジェンダ決定*21を公表した。議論された事実パターンでは、企業は独立した要求払預金において所定の金額の現金を維持する必要があり、当該現金は所定の目的にのみ使用することができる。

委員会は、第三者との契約から生じた要求払預金の用途制限は、当該制限により当該預金の性質がIAS第7号における現金の定義を満たさなくなるように変化する場合を除いては、当該預金が現金ではなくなるという結果を生じさせないと結論付けた。前述の事実パターンでは、契約上の制限は当該預金の性質を変化させることはなく、企業は当該金額に要求に応じてアクセスできる。したがって、委員会は、企業は当該要求払預金をキャッシュ・フロー計算書及び財政状態計算書において「現金及び現金同等物」の内訳として含めると結論付けた。

財政状態の理解への目的適合性がある場合には、企業は、「現金及び現金同等物」の科目を分解し、当該要求預金を追加的な科目で区分表示する。要求払預金は、流動に分類しなければならない。ただし、「交換又は負債の決済に使用することが、報告期間後少なくとも12か月にわたり制限されている」場合は除く。また、企業は、IFRS第7号の流動性リスクに関する要求事項の文脈で追加情報を開示するかどうかも検討する。IAS第7号及びIFRS第7号の開示要求を適用するにあたって企業が提供する情報が、財務諸表の利用者が企業の財政状態に対する制限の影響を理解するには不十分である場合、さらなる開示が適切である可能性がある。

 

負の低排出ガス車クレジット(IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」)

2022年7月委員会は、自動車の炭素排出量の削減を奨励するための特定の施策が、IAS第37号における負債の定義を満たす義務を生じさせるかどうかを議論するアジェンダ決定*22を公表した。議論された事実パターンでは、企業は、暦年において炭素の平均排出量が政府の目標を下回る自動車を生産又は輸入した場合には、正のクレジットを受け取る。当該年度において炭素の平均排出量が当該目標を上回る自動車を生産又は輸入した場合には、企業は負のクレジットを受け取る。

検討された事実パターンでは、企業は、他の企業からクレジットを購入するか又は次年度に正のクレジットを自ら創出することによって、負のクレジットを解消する義務を決済できる。委員会は、当該義務を決済するいずれの方法も、経済的便益を有する資源の流出を生じさせると結論付けた。これらの資源は、企業が負の残高を解消するために放棄する正のクレジットである。そうでなければ、企業は、自ら創出した正のクレジットを他の目的(例えば、負のクレジットを有する他の企業に売却すること)に使用することができたであろう。

委員会は、当該事実パターンにおいて、現在の義務を生じさせる活動は、その暦年に生産又は輸入したすべての自動車についての平均炭素排出量が政府の目標よりも高い自動車の生産又は輸入であると結論付けた。

委員会は、当該事実パターンに記載されている施策は、法律の運用に由来して当該施策から生じる法的義務を生じさせると結論付けた。政府が当該施策に基づいて課すことができる制裁は、それによって決済が法律により強制可能となる可能性のある仕組みである。

企業は、決済をしないことに対して考えられる制裁を受け入れることが当該企業にとって現実的な選択肢でない場合には、法律によって強制可能な法的義務を有する。委員会は、制裁を受け入れることが企業にとって現実的な選択肢であるかどうかを判定するには判断を要し、結論は制裁の性質及び企業の具体的な状況に左右されるという見解を示した。

委員会は、企業が負のクレジットを解消する法的義務を有していないと判断する場合、そうする推定的義務を有しているかどうかを検討することが必要となると結論付けた。企業は次の両方を行った場合には、推定的義務を有することとなる。

  • ある暦年において、炭素の平均排出量が政府の目標を上回る自動車を生産又は輸入した。
  • 結果として生じた負のクレジットを企業が解消するであろうという妥当な期待を、他者に生じさせる行動をした。例えば、解消するであろうという十分に具体的な現在の声明を行った。

 

付録

2022年12月31日に終了する事業年度に強制適用される新しい及び改訂されたIFRS会計基準及び解釈指針

IFRS第3号の修正—「概念フレームワークへの参照」

IFRS第3号の修正は、1989年版フレームワークへの参照を2018年版概念フレームワークへの参照に置き換える。また、次の明示的な要求事項も追加する。

  • IAS第37号の範囲に含まれる義務について、取得企業は、取得日において過去の事象の結果として現在の義務が存在するかどうかを判定するために、IAS第37号を適用する。
  • IFRIC第21号の範囲に含まれる賦課金について、取得企業は、賦課金を支払う負債を生じさせる義務発生事象が取得日までに発生しているかどうかを判断するために、IFRIC第21号を適用する。
  • 取得企業は、企業結合で取得した偶発資産を認識しない。

デロイトのIFRS in Focus「IASBは、IFRS基準の狭い範囲の修正のパッケージを公表する」*23は、「概念フレームワークへの参照」(IFRS第3号の修正)の詳細を提供している。

 

IAS第16号の修正-「有形固定資産-意図した使用前の収入」

IAS第16号の修正は、有形固定資産項目が利用可能になる前に生産された物品(例えば、資産が意図したとおりに機能するかどうかの試運転時に生産される見本品)の販売による収益を、その物品のコストとともに純損益で認識することを要求し、当該販売の正味の収入を有形固定資産の取得原価から控除するという以前の要求事項に置き換わるものである。

資産が正常に機能するかどうかの試運転のコストは、引き続き有形固定資産の取得原価の一部を形成する。

デロイトのIFRS in Focus「IASBは、IFRS基準の狭い範囲の修正のパッケージを公表する」*23は、「有形固定資産-意図した使用前の収入」(IAS第16号の修正)の詳細を提供している。

 

IAS第37号の修正—「不利な契約—契約履行のコスト」

IAS第37号の修正は、契約が不利であるかどうかを判定する際に、当該契約に直接関連するコストを考慮しなければならないことを規定している。本修正は、また、当該コストは、契約の履行の増分コスト(例えば、直接労務費及び材料費)と他の直接費の配分(例えば、当該契約の履行に使用される有形固定資産の減価償却費)の両方で構成されることも明記されている。

デロイトのIFRS in Focus「IASBは、IFRS基準の狭い範囲の修正のパッケージを公表する」*23は、「不利な契約—契約履行のコスト」(IAS第37号の修正)の詳細を提供している。

 

IFRS基準の年次改善2018-2020—IFRS第1号、IFRS第9号、IFRS第16号及びIAS第41号の修正

本年次改善は、4つのIFRS会計基準に狭い範囲の修正を行う。

  • IFRS第1号—初度適用企業としての子会社—親会社の連結財務諸表に含まれる帳簿価額で資産又は負債を測定するIFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」における既存の規定を使用する親会社よりも後でIFRS会計基準を適用する子会社が、在外営業活動体に係る換算差額累計額にも同じ基礎で測定することを認める。既存の免除規定と同様に、同様の選択が関連会社及び共同支配企業に利用可能である。
  • IFRS第9号—金融負債の認識の中止に関する「10%テスト」に含まれる手数料—企業(借手)と貸手との間で授受される手数料(企業又は貸手のいずれかが他方に代わって授受する手数料を含む)のみを、金融負債の改訂された条件が金融商品が修正される前に存在していた条件と大幅に異なるかどうかの定量的評価に含めるべきであることを特定する。
  • IFRS第16号—リース・インセンティブ—設例13から賃貸設備改良の補償の説明を削除する。
  • IAS第41号—公正価値測定における課税—公正価値測定から課税のキャッシュ・フローを除外する要求事項を削除することにより、IAS第41号「農業」の公正価値測定をIFRS第13号「公正価値測定」の公正価値測定に合わせる。

デロイトのIFRS in Focus「IASBは、IFRS基準の狭い範囲の修正のパッケージを公表する」*23は、「IFRS基準2018-2020の年次改善」(IFRS第1号、IFRS第9号、IFRS第16号及びIAS第41号の修正)の詳細を提供している。

 

2022年のIFRS解釈指針委員会のアジェンダ決定

IFRS会計基準の正式な解釈を開発し、IASBが当該基準を修正することを提案する活動を行うとともに、委員会は、アジェンダに追加しないことを決定した論点の要約を、通常提出された会計上の論点の議論とともに、定期的に公表している。

2020年8月、IFRS財団の評議員会は、更新版IFRS財団デュー・プロセス・ハンドブックを公表し、IFRS解釈指針委員会が公表したアジェンダ決定の説明的資料が、IFRS会計基準自体から権限を得ており、したがって、アジェンダ決定が会計方針の変更をもたらす場合に適用される遡及適用について、IAS第8号の一般的な要求事項により適用が要求されることを確立した。

IFRS財団のデュー・プロセス・ハンドブック及び各IFRIC Updateはまた、企業がその決定を行い、必要な会計方針の変更を決定し実施するための十分な時間(例えば、新たな情報の入手又はそのシステムの適応)を与えられることが期待されていることを指摘している。会計方針の変更を行うために十分な時間がどのぐらいであるかの決定は、企業の具体的な事実と状況に応じて決まる判断の問題である。それでも、企業は、どのような変更も適時に実施し、重要性がある場合には、当該変更に関連する開示が、IFRS会計基準で要求されているかどうかを検討することが期待される。

最近、以下のアジェンダ決定が委員会によって公表された。*24

2021年11月

IFRIC Update

IFRS第16号—風力発電基地の使用から生じる経済的便益

2022年2月

IFRIC Update

IFRS第9号及びIAS第20号—TLTRO III取引

2022年3月

IFRIC Update

IAS第7号—第三者との契約から生じた用途制限のある要求払預金

2022年4月

IFRIC Update

IFRS第15号—本人なのか代理人なのか:ソフトウェア再販売業者

2022年6月

IFRIC Update

IFRS第17号—年金契約グループに基づく保険カバーの移転

IAS第32号「金融商品:表示」—特別買収目的会社(SPAC):公開株式の金融負債又は資本への分類

IAS第37号—負の低排出車クレジット

2022年9月

IFRIC Update

IFRS第9号及びIFRS第16号—貸手のリース料免除

IFRS第17号及びIAS第21号—多通貨保険契約グループ

特別買収目的会社(SPAC):取得時のワラントの会計処理

 

2022年12月31日に終了する事業年度に早期適用可能な新しい及び改訂された基準

IAS第8号30項は、新しい及び改訂されたIFRS会計基準が公表されたが未発効の場合、その潜在的な影響を検討し、開示することを企業に要求している。上記のように、これらの開示の十分性は、現在の規制上の焦点となっている領域である。

以下のリストは、2022年11月30日時点のものを反映している。当該日以後、財務諸表が発行される前に、IASBが公表した新しい及び改訂IFRS会計基準の適用による潜在的な影響についても検討し、開示しなければならない。

下表に記載の新しい又は修正されたIFRS会計基準についての解説は、デロイトトーマツのウェブサイト「IFRS基準別の解説」を参照いただきたい。

https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-kaisetsu-1.html

 

新しい基準

IFRS会計基準

発効日-以下の日以後に開始する事業年度:

「IFRS第17号の修正」及び「IFRS第17号とIFRS第9号の適用開始―比較情報」を含むIFRS第17号「保険契約」

2023年1月1日

 

修正基準

IFRS会計基準

発効日-以下の日以後に開始する事業年度:

IFRS第10号「連結財務諸表」及びIAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」の修正-「投資者とその関連会社又は共同支配企業間での資産の売却又は拠出」

IASBは2015年12月にこれらの修正の発効日の無期限延期を決定した。早期適用は認められる。

IAS第12号の修正-「単一の取引から生じた資産及び負債に係る繰延税金」

2023年1月1日

IAS第1号及びIFRS実務記述書第2号の修正-「会計方針の開示」

2023年1月1日

IAS第8号の修正-「会計上の見積りの定義」

2024年1月1日

IAS第1号の修正-「負債の流動又は非流動への分類」

2024年1月1日

IAS第1号の修正―「特約条項付の非流動負債」

2024年1月1日

IFRS第16号の修正—「セール・アンド・リースバックにおけるリース負債」

2024年1月1日

 

以 上

*1 デロイトトーマツのウェブサイトを参照いただきたい。
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-ifrsinfocus-20220317.html
*2 ESMAのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/library/esma32-63-1277_public_statement_on_half-yearly_financial_reports_in_relation_to_russias_invasion_of_ukraine.pdf
*3 ESMAのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/library/esma32-63-1320_esma_statement_on_european_common_enforcement_priorities_for_2022_annual_reports.pdf
*4 ESMAのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/library/esma32-63-1320_esma_statement_on_european_common_enforcement_priorities_for_2022_annual_reports.pdf)
*5 本誌2022年7月号A Closer Look「気候変動に関するパリ協定に沿ったコーポレート・レポーティングに対する投資家の需要」が、より詳細に解説している。
*6 本誌2022年7月号A Closer Look「気候変動に関するパリ協定に沿ったコーポレート・レポーティングに対する投資家の需要」を参照いただきたい。
*7 IASBのウェブサイトを参照いただきたい。(https://cdn.ifrs.org/-/media/feature/news/2019/november/in-brief-climate-change-nick-anderson.pdf?la=en
*8 IASBのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.ifrs.org/content/dam/ifrs/supporting-implementation/documents/effects-of-climate-related-matters-on-financial-statements.pdf
*9 TCFDのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.fsb-tcfd.org/publications/#implementing-guidance
*10 デロイトトーマツのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/audit/articles/crd/igaapinfocus-20220907.html
*11 米国SECのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.sec.gov/rules/proposed/2022/33-11042.pdf
*12  IIRCのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.integratedreporting.org/wp-content/uploads/2021/01/InternationalIntegratedReportingFramework.pdf
*13 本誌2017年7月号IFRS in Focus「主要な判断と見積りの開示にスポットライトを当てる」を参照いただきたい。
*14 IOSCOのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.iosco.org/library/pubdocs/pdf/IOSCOPD532.pdf
*15 ESMAのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/library/esma32-51-370_qas_on_esma_guidelines_on_apms.pdf
*16 OECDのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.oecd.org/tax/beps/oecd-releases-detailed-technical-guidance-on-the-pillar-two-model-rules-for-15-percent-global-minimum-tax.htm
*17 OECDのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.oecd.org/tax/beps/tax-challenges-arising-from-the-digitalisation-of-the-economy-global-anti-base-erosion-model-rules-pillar-two.htm
*18 (訳者注)2022年12月23日に閣議決定された「令和5年度税制改正大綱」には、グローバル・ミニマム課税のうち所得合算ルール(IIR)を2024 年4月1日以後開始する事業年度に導入することが含まれている。我が国においては、グローバル・ミニマム課税に関する法人税法の改正が、国会において可決、成立した場合に、実質的な制定が行われているかどうかの検討が必要になると考えられる。
*19 (訳者注)2023年1月9日にIASBは、公開草案「国際的な税制改革ー第2の柱モデルルール」(IAS第12号の修正案)を公表し、2023年3月10日までコメントを募集している。
*20 本誌2021年4月号IFRS in Focus「IFRS財団は、継続企業の評価に関連するIFRS基準の要求事項に関する教育的資料を公表」を参照いただきたい。
*21 このアジェンダ決定を含む2022年3月のIFRIC Updateの日本語訳が、ASBJのウェブサイトで提供されている。(https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/ifric_202203.pdf
*22 このアジェンダ決定を含む2022年6月のIFRIC Updateの日本語訳が、ASBJのウェブサイトで提供されている。(https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/ifric_202206.pdf
*23 本誌2020年7月号IFRS in Focus「IASBは、IFRS基準の狭い範囲の修正のパッケージを公表する」を参照いただきたい。
*24 一連のアジェンダ決定については、ASBJのウェブサイトの「IFRS関連情報」の「IFRS-IC会議」のページ(https://www.asb.or.jp/jp/ifrs/ifric.html)を参照いただきたい。

 

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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