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総合商社の逆襲

本稿は、総合商社に対する投資の狙いを紐解くことで、総合商社の将来的な成長の余地や課題について考察する。

はじめに

総合商社の勢いが止まらない。23年3月期の決算では、大手総合商社は相次いで増益を発表し、三菱商事、三井物産の2社はグループ連結純利益で1兆円の大台に載せてきた1 2。24年3月期の決算でも三井物産は継続して1兆円の純利益をあげた他、資源市況の揺り戻しこそあれ、期初の見通しを上回る結果も見受けられる3。総合商社は、戦後復興期に人々の生活を支える軽工業を中心とした活動から始まり、時代の潮流に応じて/あるいは時代を先取りして柔軟に機能を変化させ、新しい分野での業容を拡大してきた結果として、あらゆる産業のサプライチェーンに介在し事業を展開する日本独自の業態を形成している。また、大学生からの就職希望ランキングでは上位に位置し4 5、経営層や起業家を含む多くの優秀な人材を各界に輩出する業界でもあり、日本経済において重要な役割を占めてきたと言える。


他方、資源価格や国際情勢といった外的要因が業績に与える影響も大きく、資源価格が下落していた時期には減損の計上も相次ぎ、赤字に陥っていたケースもある。株価から見る企業価値もそれほど評価は高くなく、PBR(株価純資産倍率)は長らく1倍を割れており、その得体の知れなさ故にコングロマリットディスカウントと評される典型例と言っても過言ではなかった。しかし株式市場の評価も一転する。2020年8月にウォーレン・バフェット氏が率いる米バークシャー・ハザウェイ社が総合商社に対する大規模な投資を表明した6。5社の株式をそれぞれ5%保有し、その後も9.9%を目標に買い増しを続け7、2024年2月時点では各社9%を超える持株比率となっている8。この間、商社の株価は上昇を続け、例えば、三菱商事の時価総額は10兆円を上回り9、丸紅の株価はバフェット氏の投資段階から4倍近い価格に至っている10 11。結果論として、好業績、株価の上昇を見ればバフェット氏の判断は正しかったものと言えるものの、そもそもなぜ日本の総合商社に目をつけたのだろうか?本稿では総合商社に対する投資の狙いを紐解くことで、総合商社の将来的な成長の余地や課題について考察していきたい。

目次

岡田 直毅
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー

計量経済学/データアナリティクス領域に強みを有し、主に商社・インフラ・産業機械業界に携わる企業に対して、デジタルを活用した事業戦略立案、データを活用した意思決定の良質化/オペレーションの変革、デジタル人材の育成、組織変革といった案件を推進している。

※本ページの情報は掲載時点のものです。

1

「連結経営成績における親会社の所有者に帰属する当期利益」三菱商事株式会社2023年3月期 決算短信 [IFRS](連結)」2023年5月9日

2

「連結経営成績における親会社の所有者に帰属する当期利益」三井物産株式会社「2023年3月期 決算短信 [IFRS](連結)」2023年5月2日

3

「連結経営成績における親会社の所有者に帰属する当期利益」三井物産株式会社「2024年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」2024年5月1日

4

「「マイナビ・日経 2024年卒大学生就職企業人気ランキング」を発表」マイナビ2023年4月12日

5

「就職企業人気ランキングの変遷に見る学生の志望企業」マイナビ2021年4月20日

6

「バフェット氏の投資会社、日本の5大商社株を5%超取得」日本経済新聞2020年8月31日

7

「米バークシャー、日本5大商社持ち株比率引き上げ 8.5%超」Reuters 2023年6月19日

8

「バークシャー、日本の5大商社株保有比率引き上げ 約9%に」Reuters 2024年2月25日

9

「三菱商事、時価総額10兆円超え バフェット効果後押し」日本経済新聞2023年6月20日

10

「丸紅株式会社(8002)終値639.60円」東京証券取引所2020年8月31日

11

「丸紅株式会社(8002)終値2472.00円」東京証券取引所2024年2月29日

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