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S&OP成熟度モデルによるアセスメント
S&OP(Sales & Operations Planning)の目指すべき姿や取り組みは企業間で異なります。したがって、企業におけるS&OP成熟度は、業界特性、重視する課題、取り組みの経緯等により、全体のプロセスの中でもレベル感にバラツキがあることが想定されます。かかる状況下、企業は自社のS&OP成熟度が他社に対してどのレベルにあるかを把握することにより、自社の取り組みにおける強み・弱みを認識し、今後の改善や高度化に活用することが重要となります。
アセスメントの狙い
デロイトは、企業のS&OP成熟度レベルを可視化・比較するための成熟度モデルを定義し、グローバルで多くの企業のアセスメントに適用しています。
第1回目は、S&OPを実施するための基本ステップ、成熟度をアセスメントするために必要なケイパビリティ、および目指すべき成熟度レベルについて説明します。
第2回目は、デロイトのS&OP成熟度モデルを用いたアセスメント結果事例から、日米企業におけるS&OP成熟度の特徴を提示し、S&OPを成功に導くための視点を共有します。
S&OPとは意思決定プロセス
S&OPは、(1) 需要レビュー、(2) 供給レビュー、(3) プレS&OP(財務レビュー)、(4) エグゼクティブS&OPの4つの基本ステップを月次サイクルで実施し、事業目標の達成に向けた各部門の方針やアクションプランを意思決定するプロセスです。
また、従来のSCMや製販会議と大きく異なる点は、数量管理に金額視点を加えた「財務統合」を重視するプロセスであることです。言い換えると、S&OPは将来の計画・見通しを数量と整合の取れた金額に変換し、不確実な未来に対する経営者の意思決定をサポートするプロセスであると定義できます。
(1) 需要レビュー
過去実績をベースとした需要予測に販売戦略・施策を加味した需要計画の作成・合意形成を行う
(2) 供給レビュー
需要計画に基づく上振れ/下振れリスクを検証し、リスク及び生産キャパシティを踏まえた供給計画・需要計画の調整を行う
(3) プレS&OP(財務レビュー)
生産制約を加味した需要計画を収益性の観点からレビューし、中長期ビジネスシナリオを複数策定することにより、事業計画に対する実行計画の妥当性及びインパクトを評価する
(4) エグゼクティブS&OP
プレS&OPで解決できない需給ギャップや将来の収益性に大きなインパクトを与える計画変更等について、最終意思決定を行う
日本企業においては、上記(1)需要レビュー及び(2)供給レビューを通じた需給調整までは実施できているケースが多いものの、PSIの数量計画を金額換算して未来の収益シミュレーションを行う(3)プレS&OP(財務レビュー)や、(3)のレビュー結果を受けて経営層が意思決定を行う(4)エグゼクティブS&OPまで実施できている企業はごく僅かな状況となっています。つまり、オペレーション〔上記(1)、(2)〕と経営〔上記(3)、(4)〕がプロセスとして分断されていることが日本企業の課題と言えます。
S&OPプロセス
デロイトのS&OP成熟度モデル
デロイトのS&OP成熟度モデルでは、事業目標達成のための意思決定に不可欠なケイパビリティを以下の4視点にて定義しています。
Process - プロセス -
S&OPとは意思決定プロセスであり、「経営」と「運用」を連動させる部門横断のプロセスを構築することが必要です。すなわち、需要計画の合意形成、供給計画の調整、収益視点でのレビュー、経営層による意思決定の各プロセスを通じて、環境変化に即した意思決定を事業計画及び実行計画に反映させることにより、計画と実績の乖離を最小化し、収益を最大化することが求められます。
People - 組織 / 人 -
意思決定を事業計画及び実行計画に反映させ、月次のPDCAサイクルを回していくためには、各S&OP会議に参画する経営層・各部門の代表者の役割・責任が明確に定義されており、参加者が積極的に実行責任を取り計画を実行に移せている必要があります。また、S&OPプロセスを通じて特定された問題を解決するためには、定量的かつ分析的に問題解決できるスキルを持った業務に精通する人材の各S&OP会議への参画が不可欠となります。
Technology - テクノロジー -
効率的・効果的な意思決定を下すためには、正確なデータに基づく需給計画及び収益シミュレーションによる情報の可視化が必要となります。そのためには、各拠点の情報を集約し、単一計画として需給調整するインフラ環境が整っていることが求められます。
Performance Measures - パフォーマンス測定基準 -
可視化された情報をベースに意思決定を下すためには、「何を意思決定するか」と「どのような基準で意思決定するか」を定義する必要があります。また、意思決定された計画・施策が実行された結果、どれだけ業務改善に寄与したかを正確に把握し、次のアクションに繋げるためには、計画・施策の実行結果を測定するKPI指標があらかじめ設定されている必要があります。
S&OP成熟度モデルを用いたアセスメントでは、需要レビュー、供給レビュー、プレS&OP(財務レビュー)、エグゼクティブS&OPの基本ステップに、S&OP全般(全体の意思決定・PDCAプロセス)を追加した5つのプロセスを対象に、上記4視点によるケイパビリティの成熟度を評価(レベル1~4)して、企業のS&OP成熟度レベルを定量化します。
アセスメントフレームワーク
目指すべき成熟度レベル(1)
Process - プロセス -
プロセス全体としては、自社の戦略・施策と完全に整合した事業計画及び実行計画が全社で策定されており、それに基づき年間予算プロセスが更新されている状態が望ましい。
S&OP全般
キーとなる週次の需要変動を把握するための例外処理を含む月次計画が策定されている。確定期間は当月、2~4ヶ月先の計画に注力し、12~18ヶ月先の計画について合意できている。
需要レビュー
複数の情報源から市場情報の定期的収集・活用を行うための顧客中心・顧客セグメント別需要予測プロセスが確立されている。また、適切な外部・業界データが需要予測に盛り込まれている。
供給レビュー
最新の販売計画に基づき月次で発注量が見直され、月次の業績及び目標未達の主要因・影響が把握・検討されている。供給・在庫アロケーションに関するシナリオが策定・検討され、販売・供給・財務を繋ぐプロセスが確立されている。
プレS&OP(財務レビュー)
12~15ヶ月の実行計画プロセスが月次で実施され、それに基づき年間予算プロセスが更新されていると共に、戦略的事業計画の共有・実行を司るコアプロセスとして機能している。
また、S&OP月次サイクルを通じて予測の仮定根拠・要因が可視化されている。
エグゼクティブS&OP
ギャップを埋めるための文章化されたアクションプランを含む月次実行計画に基づき年間予算計画が見直されている。
目指すべき成熟度レベル(2)
People - 組織 / 人 -
各部門のS&OP参加者全員の役割・権限・責任が明確に定義されており、参加者が積極的に実行責任を取りかつ実行に移せている状態が望ましい。
S&OP全般
定量的かつ分析的に問題解決できるスキルを持った経験豊富な人材を有している。全社最適化の視点で会議にて意思決定ができ、自社及び業界に深い造詣と担当部門についての豊富な経験を有している。
需要レビュー
販売計画部門が需要予測責任を負うものの、営業、マーケティングなどの関連部門が需要予測へ貢献できている。
供給レビュー
販売計画、営業、マーケティング、調達、生産管理を含む各主要業務部門の経験豊富な参加者において事前会議資料のレビュー・会議準備ができている。参加者が積極的に実行責任を取り、適宜実行に移せている。
プレS&OP(財務レビュー)
全ての関係部門(各主要業務部門及び財務)から関係者全員が財務レビュー会議へ参加できている。
エグゼクティブS&OP
S&OPカレンダーに基づき経営層全員参加にて月次S&OP会議が開催されている。同会議は供給制約を盛り込んだ需要予測及び発注計画の承認及び経営層による結果責任のレビューの場として機能している。
目指すべき成熟度レベル(3)
Technology - テクノロジー -
各拠点の情報をグローバル統合プラットフォーム上に集約し、単一計画として需給調整する環境が整っている状態が望ましい。また、自動集計による売上・収益予測が金額・数量の観点で可視化されている状態が望ましい。
S&OP全般
WEBによるデータ・情報交換や、複数関係者間の協業ツール等が整備されており、需要予測プロセスと予測情報の全社統合が促進されている。ワークフローにより承認リードタイムの短縮及び責任所在の強化が図られている。また、データの集中管理やWEBベースのレポーティング機能が整備されている。
需要レビュー
販売パイプライン管理にCRMツールが用いられ、需要予測と連携され、グローバルで一元管理されている。
供給レビュー
需要予測に対する開発リソース、サプライヤ供給能力、拠点間リードタイム、生産および物流のキャパシティなどの制約条件がタイムリーに把握されている。
プレS&OP・エグゼクティブS&OP
自動集計による売上・収益予測が金額・数量の観点で可視化されている。また、シナリオ分析が出来る環境が整っている。
目指すべき成熟度レベル(4)
Performance Measures - パフォーマンス測定基準 -
実行計画と年間予算計画のギャップが可視化・資料化されており、ギャップを埋めるための戦略・施策が策定されている状態が望ましい。また、戦略・施策の効果を計測するためのKPI指標が設定・モニタリングされている状態が望ましい。
S&OP全般
役員会メンバー、経営層、マネージャー(必要におじて外部プレーヤー)を含む全ての階層で業績モニタリング指標を主要ツールとして用いて事業管理を行い、業績結果は全社へ共有されている。また、業績指標が企業文化として根付いている。
需要レビュー
各セグメント別マーケットシェア、需要予測精度、売上等の各種KPIを通じて需要予測の精度とばらつきが常に測定され、業務の意思決定に適用されている。
供給レビュー
生産キャパシティ、新製品導入リードタイム、調達・生産・供給リードタイム、在庫計画・実績、オーダー充足率、納期遵守率、供給コスト等の各種供給KPIが管理・モニタリングされ、供給計画・意思決定に活用されている。
プレS&OP(財務レビュー)
予測の仮定・根拠として包括的かつ複数のシナリオ・what-if分析が用いられている。
エグゼクティブS&OP
実行計画と年間予算計画のギャップが可視化・資料化されており、システムを通じてギャップ分析がなされ、ギャップを埋めるための戦略・施策が策定されている。ギャップ改善施策が月次でモニタリング・検討されている。
上記の目指すべき成熟度を踏まえ、プロセスごとに各ケイパビリティをバランス良く高めていくことが重要となります。
次回は、デロイトのS&OP成熟度モデルを用いて、実際に日米企業のアセスメントを実施した結果事例についてご紹介します。