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品質偽装問題発生時のポイント(2/2)

第1回では品質偽装検知後の事象の重大性評価、この評価に基づく初動対応体制の構築、および初期調査実施までのポイントを解説しました。本稿では初期調査実施後の有事体制構築から平時において会社が備えておくべき事項まで解説します。

I. 有事対応体制構築

品質偽装は、人命に関わる可能性が高いため、顧客対応や安全性の確認など多くのことを迅速かつ同時並行で対応する必要がある。緊急対応すべき事項としては、顧客への説明資料作成・顧客訪問、出荷のコントロール、原因調査および再発防止策の策定など多岐にわたる業務が想定される。これらを短期間で行うことは容易ではなく、高負荷な業務に耐えうる対策本部の設置が求められる。

対策本部は、【図1】に示すように管理部門から事業部門まで組織横断的なチームを結成することが理想的だ。このような対策本部を設置することにより、意思決定に必要な情報の集約が可能となり、全体最適を勘案した人的・物的リソースの調整や対応内容の取捨選択など適切な管理・判断を行うことができる。また、対外的にも、各種ステークホルダーのニーズに会社として迅速かつ一貫して応えることができる。

対策本部の統括責任者は、指揮命令および社内外への説明責任の観点から、代表権を有する者(代表取締役等)が望ましい。また、対策本部メンバーは、初動対応体制のメンバーをベースとし、必要に応じて外部専門家の起用も検討する。品質偽装のように、社会的な影響が大きくなると予想される場合、その対応に高度な専門性が要求されることが多いためである。

【図1】有事対応体制(対策本部)のイメージ

図1 有事対応体制(対策本部)のイメージ図
出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

II. 有事対応方針の検討および実行

対策本部の役割は多岐にわたるが、とりわけ以下が重要となる。人命を優先することは当然として、関係法令や諸規則、社会の関心や対外公表による影響等も総合的に勘案したうえで対応方針を検討し、着実に実行すべく進捗管理を行う。

(1) 顧客への説明資料作成・顧客訪問
品質偽装の発覚後は、当該製品の納入先や、場合によっては監督官庁に対しても発生事象および当該製品の安全性について説明を行う必要がある。その際、過去に納入した製品に関する規格値からの逸脱度合い等、技術的な内容を含む説明資料を提示するよう要求されることが多い。製品の安全性について顧客等からの納得を得るためには、正しい情報の速やかな伝達が望ましい。そのため、資料作成に必要な証憑書類・データの整理や資料作成・顧客説明を行う人員の確保、および顧客や監督官庁への対応優先度について検討する。なお、人員の確保は、社外の力を借りる必要が生じることも少なくない。自社の人員では充足できず、グループ会社から100名を超す人員を数か月単位で受入れた事例もある。

(2) 原因調査
原因調査には専門性・第三者性が求められることを踏まえて、外部委員で構成される調査委員会の設置を検討する。調査委員会の体制は、第三者委員会、特別調査委員会、社内調査委員会があり、その中から適切な調査体制を選択する。通常、事象が重大な場合は、ステークホルダーから客観的な独立性を有する者による調査が要求されるため、第三者委員会や特別調査委員会を選択することとなる。原因調査では、調査の契機となった疑義そのものの実態解明を行う本件調査のみならず、類似の案件を調査する他件調査の実施も重要であり、調査の過程で発見された事項に対して迅速な対応を取る必要がある。

(3) 出荷のコントロール
調査の実施過程で、新たな検査の未実施や検査結果の改ざんの事実が判明した場合、当該製品の1次販売先のみならずエンドユーザーをも考慮した最終製品への影響を確認する。その結果、影響の程度が軽微であれば、顧客が要求する処置を施したうえで製品の出荷は継続する。しかし、その程度が重大であれば、直ちに出荷停止という判断を行わなければならない。出荷停止後、出荷を再開するためには、顧客をはじめとしたステークホルダーから十分な納得が得られるよう、検査体制の強化や社外の第三者による監査の追加実施等について検討し、必要な対応を行う必要がある。なお、ルール上はサンプル検査と定められていたが、出荷再開に際しての顧客要望により長期にわたり全数検査に変更した事例もある。

(4) 再発防止策の策定
再発防止策は、委員会から提言を受けることも多い。しかし、実際に再発防止策を実行するのは自社であることに鑑みれば、第三者委員会や特別調査委員会を選択した場合であっても、その結果に依存するのではなく、自社としても当事者意識を持ち、主体的に再発防止策を検討する必要がある。そのうえで、第三者委員会等が提言する再発防止策と比較し、社内で検討した施策に不足があれば、それを補う施策を講じる。なお、社内で適切な再発防止策を検討するためには、当然に原因調査も自社で行う必要がある。再発防止策の策定後は、速やかに各再発防止策の対応優先順位、施策の完了時期、および対応者・責任者を決定する。再発防止策の進捗状況は顧客の関心事でもあり、顧客から進捗状況の報告を要請されることも少なくない。従って、顧客対応の観点からも再発防止策はスケジュール通りに実行していく必要がある。

(5) 従業員のケア
品質偽装に限らないが、ひとたび不正が発生すると、従業員は顧客への事情説明や再発防止策の遂行等、長期にわたりその対応に追われることとなる。また、従業員が会社からの情報共有がないままニュース等社外から発生事象に関する情報を知ることとなった場合、会社に対して強い不信感を抱くこととなり、場合によっては従業員自らが憶測に基づく不確かな情報を外部に流出させかねない。そのため、経営トップは速やかに従業員に対し、全社的なメッセージとして発生事象の概要を説明し、早期の事実解明や原因究明に努めることを約束することで、従業員に対して誠意を示す必要がある。なお、その際には併せてメディア対応等、社外対応の際の注意点を伝えることも重要となる。また、会社からの一方的な情報発信だけではなく、従業員が声を上げられるチャネルを設け、従業員の不安や不満を受け止めるとともに、双方向のコミュニケーションによって従業員に対する信頼を得ていくような取り組みも有効である。

上述した(1)~(5)に基づき、発生事象の影響を最小化するために対応を進めるが、各対応の検討および実行は慎重に行わなければならない。対応を誤れば、経営層の進退のみならず、会社の存続自体も危ぶまれる事態に発展しかねないからである。

III. 平時において会社が備えておくべき事項

品質偽装の発生に備えるため、何から着手してよいかわからないといった声を聞くことがある。この問いに対する答えとしては、以下で例示するように、品質偽装の発生を防止する施策を日々の業務の中でしっかりと行っていくことに尽きる。

【受注段階】
  •  自社の能力を超える製品仕様/数量の受注を排除
  •  適切な納期の確保
【製造・検査段階】
  •  工程初期段階で、後工程で発生する可能性のある問題への対処(フロントローディング)の徹底
  •  品質管理部門の他部門からの独立性確保
  •  品質検査結果がシステム上自動入力される仕組の構築
  •  自動入力された検査結果へのアクセスコントロール
【規程類・仕組等の整備】
  •  業務の実態に合った業務マニュアルの整備、定期的な見直し
  •  内部牽制の効いた業務フローの整備、適切な運用
  •  製品/顧客情報の整備、定期的な見直し(特に各製品のエンドユーザーまで把握)
  •  内部通報制度の整備、適切な運用(特に通報者の匿名性を厳守)
【従業員教育】
  •  従業員への定期的なコンプライアンス教育の実施
  •  経営トップから継続的な品質重視についてのメッセージの発信
  •  社内ルール違反者への厳格な処分
【目標設定】
  •  現実的に達成可能な売上目標の設定

自社の常識は他社にとって非常識ということが往々にしてある。上述の例示の中には品質偽装に限った対応でないものもあるが、平時において今一度、客観的な視点で日々の業務を俯瞰して改善点を洗い出し、その対応に優先順位を付けてほしい。そのうえで、具体的な期日を定めて確実に改善策を実施していくことが重要となる。このような平時の準備こそ有事における最大の防御なのである。

IV. おわりに

品質偽装問題発生後のポイントについて、2回にわたり各場面における留意点を紹介した。繰り返しとなるが、品質偽装問題は人命に関わる可能性があり、万一発生した場合は何より「人命」を最優先した対応が必須となる。その際に慌てることなく対応するためには、平時における準備が重要だ。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジック & クライシスマネジメント サービス

シニアヴァイスプレジデント 小川 圭介
ヴァイスプレジデント 清水 隆之
シニアアナリスト 髙山 彰

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