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品質偽装問題発生時のポイント(1/2)

品質偽装は人命にかかわることが多く、万が一発生した場合には細心の注意を払って対応を進める必要があります。本稿は発覚時における事象の重大性評価、この評価に基づく初動対応体制の構築、初期調査の実施、調査実施後の有事対応体制構築、および対応方針、さらには平時の準備事項を2回に分けて解説します。1回目は初期調査の実施までのポイントを紹介します。

I. 事象の検知から初動対応体制の構築~品質偽装問題発生時に評価すべきポイント~

製造業では、自社製品が人々の生活に身近な自動車、電車や航空機等に部品の一部として組込まれることが少なくない。仮に顧客の要求する品質水準に満たない自社製品が部品として組込まれると、最悪の場合、多数の人命を奪う極めて深刻な事故を起こしてしまう。

そのため、品質偽装が発覚した場合には、被害を最小限にとどめるため偽装内容の特定を急ぐとともに速やかに人命への影響度について検討を行う。経営層はその影響度に応じて出荷停止の要否判断および初動対応体制を構築する。

品質偽装の可能性があるとの一報を受けた場合、まずは初期的な事実確認を行う。特定の製品について、検査の未実施や検査結果改ざんの事実が判明したのであれば、それがどの程度、最終製品の品質に影響を及ぼしているのかを把握する。同時に、当該製品の流出先について把握する。この時、1次販売先のみならずエンドユーザーをも含めた商流全体を把握することが重要である。影響度を検討した結果、影響の程度が軽微であれば応急処置を施し製品の出荷は継続するが、その程度が重大であれば、直ちに出荷停止という判断を行わなければならない場合もある。この事実確認から影響度の検討およびそれを受けた当該製品出荷停止の要否判断までをできるだけ速やかに実施する。

影響度の検討後、検討結果に基づき初動対応体制を構築することとなるが、その主たる目的はより正確な発生事象の把握となる。そのため、主要な本社部門(企画、法務、総務、人事、広報、経理財務等)のみならず、今後の展開・対応を考慮し対象事象に熟知したメンバーの選定が重要となる。一方で、情報管理の観点から、メンバー構成は必要最小限にとどめる。

II. 初期調査~品質偽装問題発生時の初期調査における留意点~

初動対応体制の構築後は、より正確に発生事象を把握し対応の優先度を決定するため、必要な情報を追加で収集することになる。発生事象を把握するにあたっては、以下の5点を総合的に勘案する。

(1) 人的影響(人命・身体的な損傷)
(2) 法的影響(各種法令違反)
(3) 事業への質的影響(既存顧客の契約停止への懸念等)
(4) 事業への金銭的影響(自社の事業存続に影響を及ぼす損失発生への懸念等)
(5) 事象の実行者(経営層の関与等)

(1) 人的影響については、II(事象の検知から初動対応体制の構築)の段階で暫定評価しているが、影響の重大性に鑑み、初期調査の段階でも追加情報に基づき改めて影響度を把握する。

(2) 法的影響については、品質偽装の場合、営業停止処分、業務改善命令、ISOやJISの認証取消等の行政処分があり、また特にエンドユーザーが海外メーカーである場合には損害賠償の訴訟リスクが極めて高まるため、その影響度を把握する。

(3) 事業への質的影響については、自社が供給する製品の技術水準を検討し、競合他社が既存顧客に代替製品を供給できるか等を把握する。

(4) 事業への金銭的影響については、製品出荷の停止・出荷済製品の回収・全量検査、顧客との契約解除、損害賠償請求額等を把握する。

(5) 事象の実行者については、実行者の立場によっては証拠隠滅が可能となる場合があるため、実行者の特定および適切な証拠保全の方法(米国のeDiscoveryのように所定の方法での証拠保全が要求される場合、外部専門家との連携の要否)を把握する。

発生事象をより正確に把握した結果、人的影響が軽微であれば、出荷済製品の回収までは不要なケースもある。一方、その影響が重大であれば、他の項目の評価状況に関わらず、顧客に対して製品の使用を止めるよう速やかに報告し、出荷済製品の回収を行わなければならないケースもある。

万一、対外公表後に人的影響の大きい製品の特定漏れが発覚した場合、それにより対象顧客への連絡が遅れ、深刻な人身事故が起きる可能性がある。そのため、対象製品は、業務に精通した初動対応メンバー(製造・生産管理・検査・営業等)が一堂に会してあらゆる可能性を勘案し、熟考を経たうえで特定していく。あわせて類似の品質偽装が他の製品でも起きていないかも含め、網羅的に検討を行う。

その際、上述した直接的な影響のみならず、外部報道等により社会的な信用が失われるリスクといった間接的な影響についても検討することとなる。直接・間接の影響が大きく、重い説明責任を要する場合は、社内の調査とは別に、調査委員会による第三者性の高い調査が必要となり、委員の指名等を急がなくてはならない。

上述した(1)~(5)については、追加情報を入手する度、継続的に再評価を実施することが望ましい。品質偽装においては、当初の想定を超える用途やユーザーの広がりが事後的に判明することがよくあるためである。

再評価の結果を、経営トップを含む取締役および監査役に共有した後は、影響度に応じた対応の優先度を決定する。この決定に基づき、短期的かつ高負荷の緊急対応(顧客への説明資料作成・顧客訪問、回収済製品の検査実施・再出荷、再発防止策の策定・実施等)に耐えうる有事対応体制を構築することとなる。なお、この再評価から対応の優先度決定、体制構築についても、できるだけ速やかに行わなければならないのは言うまでもない。

III. 最後に

今回は、品質偽装の場合は特に人命に関わる身体的損害をもたらす可能性が高いことを踏まえ、品質偽装が発覚してから初期調査の実施までのポイントについて確認した。

次回は、今回紹介した内容を踏まえ、有事対応体制構築および有事対応方針について検討し、平時に備えておくべき会社の対応について解説する。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジック & クライシスマネジメント サービス

シニアヴァイスプレジデント 小川 圭介
ヴァイスプレジデント 清水 隆之
シニアアナリスト 髙山 彰

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