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品質不正における再発防止のポイント

品質不正は、製造部門や品質管理部門だけでなく、組織全体の構造的問題要因や意識・風土に問題が及んでいるケースがほとんどです。品質不正に対する再発防止策を、全社的視点をもっていかに策定し、実行すべきかのポイントについて解説します。

I. はじめに

昨今、製品出荷前の品質検査工程でのデータ改ざんや検査の未実施等の品質不正事案が再び紙面を賑わせているが、品質不正が発覚した場合、品質不正が発覚した企業だけでなく、取引先企業や株主、金融機関など、多くのステークホルダーに影響を与える。そのため、品質不正が発覚した場合には、適切な原因分析を行い、ステークホルダーの納得が得られる再発防止策を策定する必要がある。そして、その再発防止策を着実に実行することが、企業価値の毀損を最小限にとどめ、早期の信頼回復へと繋がる。本稿では、品質不正における再発防止のポイントについて説明する。

II. 品質不正の特徴

まず、原因分析の重要性・必要性について解説する。なぜ原因分析が重要なのかというと、原因分析ができておらず、原因の特定が曖昧なままだと、効果的な再発防止策を策定することができないためである。不正の実行者を罰する等の表面的、直接的な処罰だけでなく、その原因を追及し、そこに対処することで再発防止の実現に繋がる。原因分析が適切に行われないまま再発防止策を策定・実行し、類似事案の不正が後から発覚するというケースもあり、企業価値の毀損を最小限にとどめるためにも、原因分析は非常に重要となる。

次に、原因分析を行う際のポイントは、①不正のトライアングルの3つの観点(不正を働く「動機」、実行する「機会」、行為を「正当化」する倫理観の欠如)から原因を突き詰め、網羅的に原因を抽出すること、②問題となる原因を深掘りし、不正の真因を明らかにすること、である。ここでは、【図1】にある通り、不正を働く「動機 (プレッシャー)」には事業・業務上の失敗・損失を隠したいという動機も含まれること、不正の実行を可能にする「機会」には業界特有の取引慣行なども不正の機会になることがあること、自らの行為を容認する「正当化 (姿勢)」には不正との自覚がなく、無意識に不正を行うケースも多いこと、に留意が必要である。

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また、網羅的に抽出された原因に対する対応策が再発防止策となるため、再発防止策は、品質不正の発生部門・実行者への表層的な対応だけでなく、組織全体の構造的問題や意識・企業風土に関わる対応にまで多岐に及ぶ。そのため、管理・監督体制の不備や、その背景まで遡った【図2】のような複合的な再発防止策の策定が必要となる。

例えば、検査プロセス自動化の遅れ(未対応)や牽制・チェック機能の不存在がある環境においては、不正を行う「機会」が生じ、検査プロセスの自動化や内部監査・品質監査の強化が当然に必要となる。しかしながら、多くの品質不正は、そのような単純な原因に基づくものではなく、生産性やコスト等の過剰なノルマを課されるような「動機」が出発点となっていたり、売上・納期を優先する組織風土が品質不正を半ば「正当化」し、長い歴史の中で組織の「常識」と化してしまっている場合が多くみられる。そのような場合は、単に検査プロセスの統制やモニタリングを強化するだけでは足りず、自社生産能力に見合った受注プロセスの見直しや人事ローテーションの促進、組織風土への対応など、俯瞰的な視点から複合的な再発防止策が必要となる。

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III. 再発防止策の策定・実行のポイント

(1) 再発防止策の策定のポイント

再発防止策は、定着化させ永続性を持たせるために、短期的な視点ではなく、策定から実行までを大局的かつ長期的な視点を持って推進していくことが重要である。時間軸では、ルール・規程類の見直しや従業員への教育といった短期間での手当を目的とする暫定対応と、ルール・規程類の順守状況のモニタリングや従業員への継続的な教育といった長期間での回復を目指す恒久対応に分けて整理する必要がある。また、抜け漏れを防ぐためにも、全社、組織・プロセス、意識・風土の3つの視点の切り口から策定することが有用となる。

また、原因分析を踏まえた効果的かつ実行可能な再発防止策とするため、①原因と対策を紐付け、達成目標を明確にする(やることは決めるが、何ができるようになるかが不明確な場合は目標が達成されないため目標を明確にする)、②再発防止策のうち、優先的に取り組むべき施策を明確にする(限られたリソースをどのように配置するか、何から手を付けるのが効果的かを検討し取り組むべき施策を明確にする)、③制度を導入するだけでなく、モニタリングの実施が必須である(内部監査のモニタリングには限界があり、日常的なモニタリングが望ましい)、④手段が目的化しない(例えば、意識調査回答率の向上を目指すより、結果を踏まえた対策が重要)、⑤発生拠点だけでなく、発生拠点以外にも十分に浸透させる(理解度不足を補うため、双方向の対話や定期的な理解度チェックが有効)、ことがポイントとして挙げられる。
 

(2) 再発防止策の実行のポイント

再発防止策の実行段階では、グループ全体にわたり、組織横断的な取り組みが多くなる傾向があることから、意思決定機関の設置と、全体PMOによるグループ全体の課題・進捗管理を通じたプロジェクト運営が重要となる。これは、再発防止の取り組みが既存の組織体制の枠組みに収まらず、組織横断的なものになるためだけでなく、内外のステークホルダーに対し、グループ全体で取り組む姿勢をわかりやすく示すことも、重要な理由に含まれる。

再発防止策の実行においては、経営者がメッセージを出し、経営者自ら取り組む姿勢を見せることが極めて大切だ。これは対外的な信頼回復を目指してのものであることはもちろんだが、再発防止策を実際に実行する従業員に向けたものでもあり、組織風土に大きな影響を及ぼすことに繋がることを十分に意識する必要がある。

以上の品質不正における再発防止策のポイントをまとめたものが図3となる。

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IV. おわりに

品質不正に対する再発防止策を、全社的視点をもっていかに策定し、実行すべきかのポイントについて解説した。繰り返しとなるが、再発防止を実現するためには、適切な原因分析を行い、ステークホルダーの納得が得られる再発防止策を策定し、その再発防止策を着実に実行することが重要である。また、品質不正の再発防止のためには、企業グループ全体での取り組みが必要となることも多く、経営者が再発防止に向けてのメッセージを発信することが重要となることに留意いただきたい。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジック&クライシスマネジメントサービス

関嶋 淳二(シニアヴァイスプレジデント)

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