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次世代の内部監査~次世代のリソースモデル~
内部監査の新潮流シリーズ(21):期待される監査を実施するために必要なスキルの充足状況を確認し、当該スキルを確保するためのリソースモデルを確立することが重要です。
内部監査部門では期待される監査を実施するために必要なスキルの充足状況を確認し、必要なスキルを効率的、効果的に習得する教育研修プログラムを運用することが重要です。識別された不足スキルを確保・維持するためのリソースモデルを確立することが期待されており、特にリソースを確保するための新しい取り組みを次世代のリソースモデルとして紹介します。
デロイト トーマツでは、「内部監査の新潮流」と題して内部監査のトピックスを全24回にわたり連載いたします。前半は、内部監査の基礎となる事項をとりあげ、後半は次世代の内部監査に求められる最新のトピックスを取り上げます。全24回の詳細はこちらのページをご覧ください。
次世代のリソースモデルとは
企業を取り巻く環境が激変し、内部監査に対する期待が高まる一方で、内部監査のリソースは限られています。新しいリスクやテクノロジー、新しい監査に対応できる人材はどこの内部監査部門でも必要とされますし、現場の業務に精通し、不適切または不正な処理を理解している人材もまた必要です。
内部監査部門では、既存リソースで対応できる領域を監査対象とするのではなく、企業にとってリスクが高く、マネジメントの関心や懸念のある領域を監査対象とすべきです。各社の実情に応じて必要なリソースを確保・維持するためのモデルがリソースモデルです。特にリソースを確保するための新しい取り組みを次世代のリソースモデルとして紹介します。
スキルインベントリーと教育研修プログラム
(1)スキルインベントリー
期待される監査を実施するために必要なスキルをスキルリストといいます。スキルリストは各社で実施する内部監査に合わせて作成されるものですが、監査対象に関する知識だけでなく監査プロセスの知識、ソフトスキル、ビジネスの知識などに分けて作成されることが一般的です。
スキルリストに含まれるリストに対する充足状況を把握するため、監査人を対象としたスキルの棚卸をスキルインベントリーといいます。すべての人がすべてのスキルを有することは現実的ではないので、担当領域ごと、役職別などの区分を設け、必須と任意のスキルに分けてスキルインベントリーを実施することが一般的です。
また、スキルインベントリーはグループリーダーや部門長による評価のほか自己評価によって実施されることがあります。スキルインベントリーは内部監査部門として不足するスキルの特定だけでなく、監査人個人の目標設定や業績評価と連動させることで実効性が高まると考えられます。
(2)教育研修プログラム
監査人のスキル向上策として教育研修の機会は重要です。集合研修と個別参加研修の組み合わせで教育研修の場を設けることはよいのですが、場当たり的な研修ではなく必要なスキルを必要な監査人が習得する機会とならなければあまり効果がありません。
集合研修は一人当たりの研修コストを下げるだけでなく、監査人が一堂に会して情報交換するよい機会にもなります。監査人全員が必要とするテーマ、新しいトピックなどを学ぶには良い機会となります。
必要なスキルを体系的に習得することを目的に「教育研修プログラム」を作成する内部監査部門が増えています。異動してきた方が2年程度で一人前の監査人となるよう、個別参加研修だけでなくe-learning、自己啓発、OJTなどを組み合わせたプログラムを作成することが考えられます。
次世代のリソースモデル①社内リソースの活用
スキルインベントリーと教育研修プログラムを実施することで「不足するスキル」を特定することができます。この不足するスキルを充足するために社内リソースを活用した対応策をご紹介します。
(1) ゲスト監査人制度
社内他部門の方に一定期間内部監査業務を委嘱する制度です。人事発令の有無は問いませんが、秘密保持を含む倫理綱要遵守の誓約、監査人としての最低限の教育研修と監査チームによる品質管理が必要です。さらに独立性の確保が難しい場合には管理者による品質管理の強化と報告書の読み手に対する注意喚起が必要です。
(2) 人事ローテーション
他部門との人事交流の制度です。ローテーションの期間や目的は各社により様々ですが、優秀な人材を提供する部門としては内部監査でどのような経験を積めるのかは重要なポイントとなります。したがって、元の部門に戻って役に立つ内部管理やリスクマネジメントの一通りの経験を積み、一人前の監査人とする教育研修プログラム(前掲)と組み合わせて運用することが有効です。
(3) グループ内リソースの活用
企業グループ内に複数の内部監査部門を有している場合、すべての内部監査部門で必要なスキルをすべて充足させることは難しいと考えられます。税務や費用負担など調整すべき点はありますが、グループ・グローバル内部監査体制を構築するメリットの一つとして検討に値する施策と考えられます。
(4) 社内公募制度(ジョブポスティング)
異動を希望する社内他部門へ応募する社内公募制度を採用する企業が増えています。このような制度がある企業では、内部監査の魅力を積極的に発信することで優秀な人材を集めることができます。監査人として期待できる経験や内部監査部門の人材育成機能もアピールポイントとなります。
(5) キャリアパス
内部監査部門を経験した方がその後どのようなキャリアを積むことができるのかは、社員が内部監査部門への異動を希望するかどうかの判断材料となります。非管理職が内部監査部門を経て現場の管理職となったり、管理職であった方が内部監査部門を経てグループ会社を含む経営層となったりすることはとても魅力的なキャリアパスとなります。特に監査役や監査等委員は内部監査部門の知見との親和性が高いと考えられます。
このようなキャリアパスが確立されていない企業では、黙って待っていても何も変わらないかもしれません。マネジメントや人事部門への働きかけをするとともに、内部監査による人材育成機能を強化する必要があります。
次世代のリソースモデル➁社外リソースの活用
不足するスキルを充足する方法として、次に社外リソースの活用をご紹介します。
(1) 採用
社内で十分なリソースを確保できない場合、外部から採用するという方法があります。海外では内部監査の専門性を持った方が転職により他社で内部監査人を継続することは一般的ですが、日本でも監査人の採用が増えています。CIA合格者、内部監査経験者などの募集を目にする機会が多くなっています。
(2) 外部委託(都度)
外部委託の一般的なパターンで、必要な時に必要なリソースを必要なだけ活用する方法です。固定費の削減効果があるほか、必要なスキルや経験を有するプロフェッショナルを監査チームに組み込むことができます。
一方で相見積りによる委託先選定や契約締結に時間がかかる、社内事情に精通していない、期待するパフォーマンスが出せるかどうかはやってみないとわからないという問題が生じることがあります。また、委託先の繁閑の状況により必ずしもベストメンバーかつ低コストとなるわけではないということも考えられます。
(3) 外部委託(デリバリーセンターの活用)
内部監査部門の多くは事前準備から往査・報告まで3か月程度かける監査を実施しています。リスクベースで深堀した監査を実施するためには一定の監査期間が必要となりますが、一方で前回監査からの期間が長くなってしまう、監査対象拠点数に占める監査実施拠点数の割合(カバレッジ)が低くなってしまうことの弊害も生じています。監査間隔があきすぎてしまうと現場の緩みが生じてしまうので、一定のけん制効果を保つべく何らかのモニタリングを検討する内部監査部門が増えています。通常の監査とは別に自己点検(CSA)、テクノロジーを活用した継続モニタリング、アシュアランス・バイ・デザイン(第20回参照)、コアアシュアランスの自動化(第23回参照)などが考えられますが、外部委託先のデリバリーセンターを活用した標準監査の活用も増えています。
委託先によってデリバリーセンターの設置状況は異なりますが、デロイトでは英語教育を受けた内部監査プロフェッショナルを養成しており、低コストで一定品質を確保するために標準化を徹底した内部監査リソースを世界中の内部監査プロジェクトに提供しています。
(4) 外部委託(戦略的提携)
外部委託(戦略的提携)とは、個別監査において都度協議して必要なプロフェッショナルを(空いている人材プールから)選定するのではなく、年度計画(場合によっては中期計画)の策定段階から協働し、年間を通して監査の実施をサポートし、特定の専門性を有するベストな人材を提供できるようあらかじめ確保するなど戦略的に提携する契約形態です。海外を含めて貴社向け専門チームを編成し、ビジネス、社内事情、監査手法やまとめ方などをメンバー内に周知させることで品質確保が期待できます。さらに年間の業務委託量を根拠にボリュームディスカウントを提供することも可能となり、結果的には必要な人材を確実かつリーズナブルに確保できることになります。
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次世代のリソースモデルは、必要なスキルを確保・維持するために各社の実情に合わせ、上記の社内・社外リソースの活用方法からベストな組み合わせを選択することになります。
トーマツでは「次世代の内部監査への変革を本気で取り組もう」という会社様向けに「次世代内部監査提言サービス」を始めました。外部品質評価(診断)や内部監査ラボなどを通してInternal Audit 3.0フレームワークとのFit & Gap分析を実施し、各社の実情に合った次世代内部監査モデルを提言いたします。ご興味のある方はぜひトーマツの内部監査プロフェッショナルまでお問い合わせください。
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