最新動向/市場予測

宇宙スタートアップの最新トレンド 第3回

激化するロケット開発競争と注目スタートアップ

2024年6月、SpaceX社は超大型完全再利用宇宙輸送システムStarshipの4回目の打ち上げ試験を成功裏に終えた1 。Starshipは史上最大級の宇宙輸送能力を圧倒的低コストで実現することを目指しており、宇宙ビジネスの次世代インフラとして注目を集めており、民間企業が大規模・多数の構造物および機器を宇宙に展開可能とすることで、新たな宇宙ビジネスを創出していくことが期待されている。本稿では、近年スタートアップが存在感を高めており、宇宙ビジネスの展開には欠かせないロケット分野について、市場の概観および注目の海外スタートアップを紹介する。(なお、今秋に掲載を予定している本稿の続編においては、ロケットスタートアップの今後と日本企業の参入・協業余地について触れていく。)

ロケットおよび市場の概観

宇宙ビジネスにおけるロケットの重要性

ロケットとは、人・物を地表から打ち上げ、宇宙空間の目的地まで運ぶ輸送機器であるが、宇宙ビジネスのバリューチェーンにおいてロケットは輸送を担う以上に非常に大きなインパクトを有する。宇宙ビジネスを含む宇宙空間での活動は、地表から輸送した人・物によって行う必要があるが、宇宙空間への輸送は地上間での輸送に比べて手段が限られるうえに難易度が非常に高い。また、打ち上げにかかるコストも地上輸送と比べて桁違いに高く、実際、宇宙ビジネスのコストの中において輸送費は大きな割合を占めているため、ロケットの能力、すなわちどのくらいのサイズ・質量の積荷をどの程度のコストでどの目的地まで打ち上げられるかにより、宇宙ビジネスで“実現できること”が決まってくる。

このように、ロケットは宇宙ビジネスにおいては単なる輸送機器にとどまらず、宇宙ビジネスのインフラとも言える存在であり、いかにロケットの性能を向上できるかが、宇宙ビジネスの拡張性に直結するとも言える。

近年、ロケットの進化が一因となり創出された宇宙ビジネスが、SpaceXのStarlinkに代表される衛星ブロードバンドインターネットサービスである。Starlinkは最終的に1万基以上の小型通信人工衛星を展開し、人工衛星から全世界に直接インターネットを提供するサービスである。サービス開始時点においても数千基以上にもなる人工衛星を展開するビジネスをSpaceXが実現できた大きな要因として、SpaceXが有するFalcon9ロケットがあげられる。Falcon9は現在運用されている大型ロケットとして最高水準のコスト競争力2 を有している。具体的には、欧州の次期主力大型ロケットであるAriane6の推定コストと比較しても、40%以上安い打ち上げコスト3 を実現している。これによりSpaceXはStarlink衛星を低コストで短期間に大量打ち上げ、人工衛星ネットワークを構築することが可能となった。なお、SpaceXは、Starlink事業の2024年売上を150億ドル(2.3兆円)と見通しており、SpaceXの売上の大部分を担うまでに成長する4 としている。

ロケット(打ち上げサービス)の市場規模

ロケットによる宇宙への人・物の打ち上げサービス市場は2023年には42億8000万USD5となっており、2032年には2024年(推計)49億1000万USD5 の2.24倍の109億8000万USD5 にまで拡大すると見込まれている。なかでも小型ロケット(表1参照)による打ち上げサービス市場は2021年の10億3160万USD6 から2032年には46億2400万USD6 まで急成長することが見込まれており、市場全体の成長を牽引する。

ロケットの分類

宇宙ビジネスのインフラであるロケットの性能は、大きく①ペイロード質量(=積載可能質量)、②推進剤種類の2軸で分類・整理することができる。ペイロード質量はロケットが宇宙に展開できる物・人のサイズ・量を示す指標であり、推進剤種類はロケットのコストに影響を与えるほか、どの程度のペイロード質量が実現可能であるかと密接に関係している。

①ペイロード質量分類

NASA(アメリカ航空宇宙局)は、地球低軌道(LEO)と呼ばれる地球に近い宇宙空間に輸送可能なペイロード質量を基準とした分類を公表しており、ロケットを下記表1の通り7 超大型・大型・中型・小型の4種類に分類している。
 

表1. ペイロード質量による分類

分類

LEO投入ペイロード質量(t)

超大型

51以上

大型

20-50

中型

2-20

小型

2未満


小型ロケットの積載物としては質量が1t以下の小型人工衛星であり、スタートアップやアカデミア、政府機関等が実証目的で打ち上げる人工衛星や、複数基がネットワークを構築して機能する前提の人工衛星があげられる。中型・大型ロケットの積載物としては、質量が数t以上で大手通信会社・防衛当局等が打ち上げる大型衛星に加えて、地球軌道上に人・物を運ぶ宇宙船、探査機等があげられる。さらに超大型ロケットでは月軌道を周回する宇宙ステーションモジュールや火星を目的地とした宇宙船等が積載物となる。

②ロケット推進剤分類

ロケットは使用する推進剤(燃料および酸化剤)の種類によって、液体推進剤ロケット・固体推進剤ロケット・ハイブリッド推進剤ロケットの3種類に分類できる。ただし、ここではロケットの内、特に第一段(下段)の推進剤に焦点を当てた分類を行う。

液体推進剤ロケット

推進剤として液体水素(燃料)・炭化水素燃料・ヒドラジン系燃料、液体酸素(酸化剤)等の液体を使用しているロケットを指す。少量の推進剤で大きな推進力を得られる特性を有しており、中型以上のロケットの多くは液体推進剤ロケットである。さらに、1つのロケットで複数回の打ち上げを行う再利用型ロケットも液体推進剤ロケットであり、ペイロード質量・コストの両面でポテンシャルが高いロケットである。

固体推進剤ロケット

推進剤としてアルミニウム等の金属粉(燃料)を過塩素酸アンモニウム(酸化剤)と合わせてポリブタジエン等のバインダーにより固めた物質を用いているロケットを指す。液体推進剤ロケットと比較して構造が簡易であり開発・製造難易度が低く、1機あたりのコストを低くすることができる一方で、推進力では液体推進剤ロケットに劣っている。そのため小型なロケットに適していることが特性であり、多数のスタートアップが開発を進めている。

ハイブリッド推進剤

推進剤として固体燃料と液体酸化剤を用いており、液体推進剤ロケットと固体推進剤ロケットの中間的特徴を有する。安全性が高く・構造が簡易であるため、コストを抑えることができる一方で、大きな推進力を得ることが難しく大型化が課題となっている。2024年7月現在、宇宙空間に到達し商業運用を見据えたロケットはなく、スタートアップ中心に開発が進められている。

以上の分類で2024年月現在米国・欧州・インドにて運用されている主要ロケットを整理すると、下記に示す通りとなる。

 液体推進剤ロケットは大型以上のロケットが多く開発・運用されている一方で、推進力は小さいが開発・製造が安価な特徴を有する固体推進剤ロケットは中型・小型ロケットが多く開発・運用されていることがわかる。また特に小型ロケットについては、今後のニーズ急増を見込み現在多数のロケットの開発が進められている。

民間企業によるロケット開発競争激化の背景

現在運用されているロケット以外にも、小型・中型ロケットを中心に多くのロケットがスタートアップを含む民間企業で開発されており、市場獲得に向けた競争が激化している。競争激化の背景として、政府による支援施策と市場の需要拡大が上げられる。

政府の民間企業育成方針

各国政府は、産業の競争力向上・雇用創出・安全保障領域の強靭性向上等を目的として民間宇宙活動の支援を進めている。

米国は近年ではトランプ政権下の2018年にNational Space Strategy8 を発表し、強固な民間宇宙産業の確立に加えて、NASAに対しては民間企業と連携して安全性・信頼性が高くコストが低い地球低軌道・月面への輸送手段を養成することを求めている。またバイデン政権下においても2021年にSpace Priorities Framework9 を発表し、LEOでの民間宇宙サービスの育成を行うことを打ち出している。具体の施策としてNASAは従前よりLEOへの人・貨物輸送において民間企業を活用するプログラムを行っているが、2022年にはVenture-Class Acquisition of Dedicated and Rideshare(VADR) launch services contract10 において、キューブサットと呼ばれる最小数kgの超小型人工衛星の打ち上げについてスタートアップを含む12社を契約対象としたことを発表しており、これまでより多様な貨物の打ち上げにおいて民間企業を活用する体制を整えている。

小型ロケットへのニーズ増大

もう一つの背景として上げられるのが、小型人工衛星市場の盛り上がりに起因する小型ロケットニーズ拡大である。小型衛星は製造コストが低く参入障壁が低い他、多数生産・展開が可能(多数展開により1基の人工衛星で故障が発生した場合でも他の人工衛星でカバーし機能を維持できるためレジリエンスが高い)といった特性を持つことから、近年、スタートアップやアカデミア、安全保障当局まで多様なプレーヤーが市場に参入してきている。2023年には質量200kg以下で定義される小型人工衛星は2,860機11 が打ち上げられたが、このうち約74%にあたる2116機11 がSpaceX社およびEutelsat OneWeb社によって打ち上げられている。一方で、その他企業・組織により744機11 の小型人工衛星が打ち上げられており、この数は2014年の221機の約3.4倍にあたる。また、2023年に小型人工衛星を打ち上げたオペレーター数(人工衛星運用者数)は26711 に上っており、小型人工衛星市場は盛り上がりを見せている。

小型人工衛星の打ち上げは、大型ロケットを用いて複数の人工衛星を一度に打ち上げる方式も多く採用されている一方で、1~数基の小型人工衛星を小型ロケットで打ち上げるニーズが強く存在している。後者の方が、人工衛星の運用ニーズ(軌道・スケジュール等)に応える打ち上げが可能であるためである。従い、小型人工衛星市場の盛り上がりに伴い、小型ロケットへのニーズも増大を続けている。

各ロケット分類における注目の海外スタートアップ

ここでは、ロケットの開発を進める注目の海外スタートアップを紹介する。

近年のロケットスタートアップのトレンドとして挙げられるのが、コスト削減を目指したa)大型ロケットのエンジン共通化、b)3Dプリンターの多用である。a)大型ロケットのエンジン共通化とは、複数社が提携し同一のエンジンを違うロケットに搭載することで、開発コストの削減・生産効率化を目指す取り組みである。また、b)3Dプリンターの多用とは、製造数が少なく量産効果が得られにくいロケット部品を3Dプリンターで製造することで、製造コストを削減する取り組みである。

大型液体推進剤ロケット:Blue Origin(米国・資金調達総額USD 167.4M)

2000年にAmazon創業者ジェフ・ベゾス氏によってワシントン州に設立されたスタートアップであり、完全再利用型サブオービタルロケットNew Shepardを提供している他、米国のULA(United Launch Alliance)の大型ロケットVulkan向けにBE-4エンジンを製造・供給(共通化)している。またNew ShepardやBE-4エンジンの開発・供給の実績、およびBE-4エンジンの大量生産によるコスト削減を強みに、一部再利用可能な大型液体推進剤ロケットNew Glennの開発を進めている。 New GlennはAmazonの通信人工衛星コンステレーションProject Kuiperにおいて人工衛星打ち上げを担うほか、米国宇宙軍のNational Security Space Launch Programに採択12 されており、SpaceXに次ぐ存在となれるかが注目されている。

中型液体推進剤ロケット: Firefly Aerospace(米国・資金調達総額USD 571.6M)

2017年に設立された米国テキサス州のスタートアップであり、小型液体推進剤ロケットAlphaによる打ち上げサービスを提供している。大手のノースロップグラマンと提携の上、ノースロップグラマンのロケットAntaresとエンジンを共通化させる形で、中型液体推進剤ロケットMLVの開発を進めている。Alphaで実証した燃焼技術および炭素素材の強みを活かしつつ将来的なロケット再利用も検討しており、信頼性の高いロケットを低コストで提供することを目指している。

小型液体推進剤ロケット: Latitude(フランス・EURO 37.9M)

2019年に設立されたフランスのスタートアップであり、小型液体推進剤ロケットZephyrの開発を進めている。最新の3Dプリント技術で製造する自社開発小型エンジンを強みとし、打ち上げ一回当たりにかかるコストを350万ドル程度まで下げることを目指す。

小型固体推進剤ロケット:Skyroot Aerospace(インド・USD 95.1M)

2018年に元インド宇宙研究機関(ISRO)のエンジニアによって設立されたこのスタートアップは、ISROの支援を受けて技術開発を進めた結果、2022年にインド初の民間企業としてロケットの打ち上げに成功した。小型固体推進剤ロケットVikramの開発を進めており、下段エンジンを豊富な打ち上げ実績がある固体推進剤ロケットで、上段エンジンを100%3Dプリントで製造し、大量生産することによって、低コストでの打ち上げサービス提供を目指している。

小型ハイブリッド推進剤ロケット:Vaya Space(米国・36.4M)

2017年に元NASA宇宙飛行士によって設立された米国フロリダ州のスタートアップであり、小型ハイブリッド推進剤ロケットDauntlessの開発を進めている。ハイブリット推進剤エンジンが持つ保管・輸送の容易さという特性を活かして、ミサイル向けの開発も進めており、高いスケーラビリティによる生産量確保・コスト低減を目指している。また推進剤(固体燃料)の99%を廃プラスチックリサイクル、3Dプリントして製造している。

まとめ

スタートアップによるロケット開発競争は、小型人工衛星向けの小型ロケットを中心に2030年に向けて激化していくと予想される。

開発競争を勝ち抜き市場で顧客を獲得するためには、エンジン等の高い製造技術・品質が必要なロケット部品の製造プロセスをAI、金属3Dプリンター等の先端技術を用いていかに最適化・簡易化、製造コストを低減出来るかがキーファクターとなる。次回は、ロケットスタートアップの今後と日本企業の参入・協業余地に焦点を当てる。

関連リリース

 

執筆者

執筆:
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
シニアコンサルタント 森智司

監修:
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
パートナー 木村将之

協力:
デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社
マネージングディレクター 松岡巌

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
シニアマネージャー 福田紘己

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社/Deloitte Consulting US San Jose
Manager,  Mina Hammura

1 SpaceX、Release”STARSHIP'S FOURTH FLIGHT TEST”、https://www.spacex.com/launches/mission/?missionId=starship-flight-4

2 The National Aeronautics and Space Administration、The Recent Large Reduction in Space Launch Cost、https://ntrs.nasa.gov/api/citations/20200001093/downloads/20200001093.pdf 

3 SpaceRef、Ariane 5’s Final Flight – A Look Back as Ariane 6’s Costly Succession Looms、
https://spaceref.com/space-commerce/ariane-5-final-flight-look-back-ariane-6-costly-succession-looms/

4 Bloomberg、マスク氏のスペースX、24年売上高2.3兆円の見通し-スターリンク好調、
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-11-07/S3Q595T1UM0W01

5 Fortune business insight、Space Launch Services Market Size, Share & Industry Analysis、
https://www.fortunebusinessinsights.com/industry-reports/space-launch-services-market-101931

6 BIS Research、Global Small Launch Vehicle (SLV) Market – A Comprehensive Launch Market Assessment

7 The National Aeronautics and Space Administration、NASA’S LAUNCH PROPULSION SYSTEMS TECHNOLOGY ROADMAP、
https://ntrs.nasa.gov/api/citations/20120014957/downloads/20120014957.pdf

8 The National Aeronautics and Space Administration、NATIONAL SPACE POLICY of theUNITED STATES OF AMERICA、 
https://www.nasa.gov/wp-content/uploads/2023/10/nationalspacepolicy12-9-20.pdf

9 The White House、UNITED STATES SPACE PRIORITIES FRAMEWORK、
https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2021/12/United-States-Space-Priorities-Framework-_-December-1-2021.pdf

10 The National Aeronautics and Space Administration、Release” NASA Provides Update on Venture-Class Launch Services”、
https://www.nasa.gov/directorates/somd/launch-services-office/lsp/nasa-provides-update-on-venture-class-launch-services/

11 Bryce Tech、Smallsats by the Numbers 2024、
https://brycetech.com/reports/report-documents/Bryce_Smallsats_2024.pdf

12 Blue Origin、Release” Blue Origin Debuts New Glenn on Our Launch Pad”、
https://www.blueorigin.com/ja-JP/news/blue-origin-debuts-new-glenn-on-our-launch-pad

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