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第2回 新聞業界 -各業界セクターの事業リスクと財務諸表分析-

テクノロジー・メディア・通信業界に関する業界レポートの一部として、新聞業界における「事業のリスク」「主要プレーヤーの財務諸表に関する特徴分析」を取り扱います。全13回シリーズの第2回。

はじめに

本稿は、テクノロジー・メディア・通信業界に関する業界レポートの一部として、新聞業界における「事業のリスク」「主要プレーヤーの財務諸表に関する特徴分析」を取扱うものである。

なお、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者の所属する法人の公式見解ではないことを申し添える。

最近の業界・市場動向

近年、我が国では、離婚数が増加しているほか、未婚化・晩婚化により世帯数が増加している。一方で、インターネット、スマートフォンの普及により、とくに若年層の活字離れが進むと共に、紙媒体以外からの情報入手が容易になっており、これらのデジタル世代の台頭により新聞発行部数は図表1のとおり減少傾向にある。結果として1世帯あたり部数の落ち込みは図表1のとおり大きくなっている。

【図表1】新聞発行部数と1世帯あたり部数の推移

出典:日本新聞協会 調査データ「新聞の発行部数と世帯数の推移」 

また、新聞発行部数の減少は、新聞の媒体力の低下を招き、市場全体としての新聞広告収入は、図表2のとおり、インターネット広告の急激な伸びにも押され、リーマンショックで落ち込んだ以降、おおむね横ばいの状況が続いている。テレビ広告が回復傾向にあるのに対し、新聞、折込、雑誌といった紙媒体は回復できておらず、結果として、我が国の総広告費に占める新聞広告比率も減少傾向にある。

【図表2】媒体別広告費の推移

出典:電通「日本の広告費-媒体別広告費」 

この状況を打開するために、各社は無料を含む電子媒体のコンテンツの充実を図り、新聞の意義、魅力を伝えることで、読者維持、新たな読者層の開拓を図っている。現在公表ベースで把握できる主要各社の電子媒体の動向は図表3のとおりである。

【図表3】主要各社の電子媒体の動向

出典:有限責任監査法人トーマツ作成 

各社ともに有料会員だけではなく、無料会員も集めているが、これは新聞への接触機会を増やし、有料会員の獲得を狙うとともに、無料会員の属性を取得することにより、これらのデータを分析、活用したマーケティング活動に生かす狙いがあるものと考えられる。

国内の新聞発行部数が減少するなかで、各社は、デジタル事業を中心とする新たな収益基盤を成長させる必要に迫られている。このなかで、日本経済新聞社は、グローバル報道・デジタル事業を強化すべく、2015年11月に英国の有力経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)を発行するフィナンシャル・タイムズ・グループの買収を完了したことを公表している。

なお、海外においては、主要新聞社の有料電子媒体の創刊時期は日本よりも早く、また電子媒体の有料会員数が紙媒体の発行部数を上回っている新聞社もある。これは、海外の新聞社は、我が国において「宅配」と呼ばれる、新聞販売店を中心に構築された紙媒体を前提とする販売網を有しておらず、「即売」と呼ばれる、駅売店やコンビニエンスストアでの販売が中心であることが背景として挙げられる。

事業のリスク分析

新聞産業の国内主要企業6社の有価証券報告書における事業のリスクは、図表4のとおりである。いずれの新聞社も非上場の有価証券報告書提出会社である。なお、有価証券報告書提出会社ではない読売新聞に関する情報は含まれていない。

ここで、6社の全てが「景気動向」を事業のリスクに掲げている。特に収益の柱の一つである広告収入は、国内の景気動向に大きく依存している。新聞販売収入についても、2014年の消費税率引き上げ時に部数が新聞各社で大きく減ったように、政策やこれに伴う景気動向の影響を受けやすい。

また6社中5社が「情報管理」「法規制の見直し」を掲げている。新聞社にとって、情報は重要な経営資源であり、適切な管理を怠った場合は信用失墜につながり、経営成績に影響を及ぼすリスクがある。また法規制については、新聞産業は「再販価格維持行為」(*1)や「特殊指定」(*2)といった法規制により守られており、同一紙であれば全国同一価格が担保されている。これらの法規制の見直しがあった場合には、経営成績に影響を及ぼすリスクがある。


*1独占禁止法の下で例外的に、発行者が販売者に対して販売価格を指定し、守らせることが認められている。
*2独占禁止法の下で、発行者が地域や相手によって、異なる価格設定や値引きを行うことが禁止されている。

【図表4】主要各社の開示している事業リスク

出典:直近期 有価証券報告書 有限責任監査法人トーマツ作成

財務諸表分析

新聞産業に属する国内主要企業の有価証券報告書及びHP等にて公表されている直近期(*3)の連結財務諸表を分析した。損益計算書面では、成長率はマイナスの企業が多く、また売上高経常利益率も情報・通信業平均(*4)と比較すると低い傾向にある。成長率がマイナスとなっている原因として、最近の業界・市場動向で触れたとおり、デジタル世代の台頭に伴う新聞発行部数の減少及びこれに伴う広告収入の減少が考えられる。また、売上高経常利益率が低いのは、宅配を基本とした薄利多売のビジネスモデルにあることに加え、売上高が減少傾向にあることから低くなっているものと考えられる。この点、専売店をあまり保有せず、電子版の有料会員数が増加傾向にある日本経済新聞社は売上高経常利益率が高い傾向にある。

*3朝日:2016年3月期、日経:2015年12月期、毎日:2015年3月期(2016年3月期は有価証券報告書を提出していない)
*4金融庁の業種区分において、情報・通信業に含まれる企業(2016年7月時点で312社)が提出した最新の有価証券報告書の財務諸表より抽出した数値をもとに、業種平均を算出している。

【図表5】損益計算書・貸借対照表

出典:直近期 有価証券報告書 有限責任監査法人トーマツ作成

セグメント別では、新聞事業の他に不動産事業を保有している企業が多い。不動産賃貸は安定的な収益源となっており、図表6の通り、売上高に占める割合に対し、利益に占める割合が高くなっている。

【図表6】セグメント別 売上高・利益

出典:直近期 有価証券報告書 有限責任監査法人トーマツ作成 

貸借対照表面では、情報・通信業平均と比較すると固定比率が高く、その結果として安全性・流動性の指標が悪い傾向にある。これは、情報・通信業にはサービスを主とした会社が多いのに対し、新聞業は事業の性質上、自社ビルや印刷工場を保有していることが多いためと考えられる。

新聞収入は月内入金も多く、用紙やインク代の支払サイトは長く設定されていることが多いため、新聞事業が安定的に推移している状況においては運転資金が問題になることは考えにくいが、マイナスの成長率や低い売上高経常利益率と合わせて考えると、長期的には安全性・流動性の指標の改善策が必要と考える。

 

執筆者
公認会計士 パートナー 秋山 謙二
公認会計士 シニアマネジャー 大屋敷 知子

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