最新動向/市場予測

半導体

TMT Predictions 2021

日本の半導体関連企業においてdX(=Transformation with Digital)は、業界の構造変化を把握し、自社戦略へとフィードバックする経営上の重要アジェンダとなっている。

日本の視点:Post COVID-19における半導体企業のdX戦略

マクロ環境の変化による半導体市場へのインパクト

2020年の世界経済におけるマクロ環境因子の中で、特に半導体市場に対するインパクトが大きかったものとしては、COVID-19の影響による既存業務・オペレーションの変革と米中貿易摩擦の激化による市場の分断が挙げられる。この二点は半導体業界においてグローバルな市場構造や商習慣の在り方に大きな変化をもたらした。特にCOVID-19対応のために導入されたリモートワークは、半導体業界において従来から技術的下地はありながらも、長年の商習慣により段階的な導入にとどまっていたデジタルトランスフォーメーションを大幅に加速させる結果となった。

世界市場におけるエコシステムの変化とdXの方向性

まず半導体の市場構造の観点から見ると、米中貿易摩擦の激化は結果としてより多くの非米国系企業の台頭を促すこととなった。特にロジック系製品においては従来X861を前提に形成されていた主要市場のいくつかにおいて新しいアーキテクチャ技術への移行の端緒が見られた。

一方でCOVID-19対応の社会的要請を受け各企業で実施されたオペレーションの見直しは、従来では人や物の物理的移動・接触を前提に設計されていた業務プロセスをデジタル技術によって変革していく取り組みであった。この際、共通の社会的背景のもと多数の企業で同時並行的に変革が進行したことにより、単なる自社内での業務効率化にとどまらず、業界全体の商慣行をも変質させたということに注意を払うべきである。

デジタルトランスフォーメーションを指す用語として、デロイト トーマツグループでは、デジタルを導入することを主目的とした変革=“DX”ではなく、デジタルを道具として駆使し、ビジネス自体を根本的に変革していくことをBusiness Transformation with Digital=“dX”、と定義している。COVID-19の影響下で進行する各社のオペレーション変革はまさにこうした意味でのdXであると考えることができる。日本の半導体関連企業においてdXは、業界の構造変化を把握し、自社戦略へとフィードバックする経営上の重要アジェンダとなっている。

半導体業界は設計・開発から製造、販売に至るまで裾野の広いバリューチェーンの構造が特徴的だが、本稿では日本企業にとっての示唆を導出することを目的として、開発・設計、製造、販売・マーケティングの各領域におけるdXの方向性を俯瞰する。
 

開発・設計領域におけるdXの方向性

開発・設計領域においては、(1) クラウドべース開発環境の台頭、(2) 新製品立ち上げ(歩留まり改善)、(3) ソフト・プログラム開発の大きく3つの領域でのdXが想定される。

(1) クラウドベース開発環境の台頭

開発・設計領域においては米中貿易摩擦の影響を受け、ロジック系製品を中心に市場構造自体が大きく変化した。具体的には米国の対中輸出規制強化により、中国企業によるデータセンターやスマートフォン向けに使用される米国技術を使用した半導体の調達が制限されたため、これらの代替技術の検討が加速する結果となった。例えばCPUアーキテクチャの領域においてはX86やARM2 など欧米系の技術に代わり、オープンソースで地政学的中立性が高いISA3のRISC-V4の導入が中国企業を中心に飛躍的に進んだ。代表的な企業としてはAlibabaの他にANLOGIC5、Kannan(製品名Kendryte)6、GigaDevice7といったチップメーカーが挙げられ、Huaweiグループでも導入の検討が進められている。

RISC-Vは優れた省電力性能と拡張性を持つ次世代CPU用ISA だが、これまでは実用事例の少なさに起因する周辺技術との検証が未成熟な点が使用者観点では大きなデメリットだった8。しかし採用拡大と実用事例の増加によりこのデメリットが解消されつつあり、一部の日系半導体企業では既に自社製品ポートフォリオの中にRISC-Vを取り込む動きがある。

設計・開発の観点から特筆すべき点は、RISC-V技術を使用したCPUコアを商用展開する半導体企業の多くではクラウドベースの設計環境を提供している9ことである。半導体の設計・開発に使用される設計ツールは従来、専用ワークステーションやオンプレのサーバーにインストールされることが多く、リモートワークの増加に対応するためにはネットワークインフラへの投資が必要だったが、開発環境のクラウド化比率が高い次世代アーキテクチャでは、より効率的なリモートワーク対応を期待することができる。

(2) 新製品立ち上げ(歩留まり改善)

開発・設計の2つ目のdX領域として、新製品立ち上げ時の歩留まり改善業務が挙げられる。イスラエルに本社を持つproteanTecs10では半導体の回路上に実装可能な分析用回路をIP(Intellectual Property)として提供しており、この回路を利用して効率的に取得したデータを利用して歩留まり予測・テスト最適化などを実現するサービスを展開している。こうした高度なシミュレーション技術の導入により物理的なマスク修正の回数を削減し、リモートワークとは親和性の低いES(Engineering Sample)品やTS(Test Sample)品の投入や評価といった、サンプルの物理的移動を伴う業務プロセスの発生頻度を抑えることに貢献している。

(3) ソフト・プログラム開発

開発・設計における3つ目のdX領域は、半導体を採用するユーザー企業側がソフト・プログラム開発時に行うチップ特性評価などの業務に関するものだ。従来、サンプルチップを評価するための評価用ボードやテスターなどは、セキュリティや物理的スペースの制約から事務所に設置されるためリモートワーク化が難しく、COVID-19環境下における開発ボトルネックになるリスクが高かった。しかし近年ではインターネットを介して物理評価環境を提供するクラウド型プラットフォームが発表されており、今後はチップの実機評価もリモートワーク対応が加速していくことが予見される。半導体ユーザー企業側の視点では、早期に有用なプラットフォームを見極め、開発オペレーションを効率化することが重要だ。一方、半導体ベンダ側としては有力プラットフォームへ自社製品を提供することで、ユーザー企業に対するマーケティング効果を期待することができる。ユーザー、ベンダどちらの観点からもデファクトを抑えるプラットフォーマーがどこになるか動向を注視する必要がある。

製造領域におけるdXの方向性

スマートマニュファクチャリングの加速、
これを基盤とした第三者企業との協業促進

次に製造領域におけるdXについて、まずは日本製造業を取り巻く外部環境変化より紐といていきたい。現在、Industry 4.0の潮流を受け世界製造業全体でスマートマニュファクチャリングが加速している状況だ。2020年10月にデロイトとMAPI11 が北米/欧州/アジアの製造会社幹部1,000名以上を対象に実施した調査によれば、工場予算の平均38%をスマートマニュファクチャリング(特に歩留管理や生産計画同期、工場稼働状況可視化)に充てており、85%の事業者が「スマートマニュファクチャリング実現に伴う第三者企業とのパートナーシップ/エコシステム構築が競争優位性の源泉となる」と回答している12。このようなスマートマニュファクチャリング加速の一因としては、やはりCOVID-19の影響によりリモートワークの必然性が高まったことが挙げられ、この潮流は日本においても例外ではない。例えば国内では、2020年6月時点で従業員規模300名以上の会社の90%でリモートワークを導入済み13、別の調査では製造業においては28%程度が業務の50%以上をリモートワーク化している状況14となっている。これに輪をかけて、5Gなどの通信技術革新が、日本におけるスマートマニュファクチャリングの普及と、これを基盤とした協業/エコシステム構築の追い風となるだろう。

半導体業界にこそ求められる企業間データプラットフォーム

半導体業界にこそ求められる企業間データプラットフォーム既に一部の製造業では、「アウトプットに必要なデータが他社にあり不足している」、「データ分析の切り口が関連企業の支援なくては検討しえない」という壁を克服すべく、自社内に閉じたデータ基盤構築といったフェーズから、第三者企業またはエコシステム全体でのデータ共有基盤構築を検討している状況だ。例えば、化学業界の事例ではCitrineInformatics 社15の提供するデータプラットフォームを採用し、公開・非公開情報を統合した世界最大級材料データベースを構築、学術論文や各社実験データ、シミュレーションデータを共有しAI 処理を施すことで参画企業における材料開発効率化を実現している16

一方、半導体業界では、やはり従来までのIP 保護を踏襲し、未だ自社内でのデータ基盤確立にとどまる企業が多いと推察されるが、半導体業界にこそ企業間データ基盤構築が必要ではないだろうか。

例えば、大量生産を生業とする半導体メーカーでは、微細化や多層化の進行により、トランジスタ密度の増加と誘電体の薄化が進行し、製造プロセスがより複雑化している。そんな中、製造装置メーカー等と製造プロセス・品質データを共有し、より高次元の歩留改善・量産スループット向上につなげることには、現時点でも大きな意義があるのではないか。加えて、ロジックメモリでは微細化の技術的限界、メモリでは多層化による製造コストの閾値超過が危惧されており、カーボンナノチューブ等新素材の検討やロジックメモリ機能統合による新アーキテクチャ創造の必要性が囁かれている。これに対応すべく、将来的には周辺企業エコシステムを形成し、ビッグデータ共有・分析のデータプラットフォーム構築を一考すべきではないだろうか。(図表10-1)

図表10-1 第三者企業とのデータ基盤/サービス構築(例)
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他方、AIやIoTチップ等少量多品種のカスタム半導体を手掛けるプレイヤーは、ファブレス+ファウンドリ+OSAT17 といった企業構成が主流である。よって、クイックな新製品導入/サプライチェーン全体を通した品質フィードフォワード分析を実現すべく、各サプライヤー-ファブレス-ファウンドリ-OSAT- 顧客間のエコシステムをつなぐデータプラットフォーム構築が肝要といえる。特に、昨今の米中貿易摩擦による地政学リスクを考慮し、単一のファウンドリ/OSATへの一極集中を忌避する少量多品種メーカーも散見されるが、その場合は輪をかけて、複数のファウンドリ/OSATを管理すべくデータプラットフォームを構築すべきであり、また、品質を担保するためにも各社からのビッグデータ収集・解析を通した品質シミュレーションの確立が必要と推察する。
 

半導体業界におけるデータ基盤構築・活用の動向

実はこのような企業間データ基盤構築・活用に関し、半導体装置メーカーやデータプラットフォームベンダが既にソリューションを提供し始めている。その事例を簡単にご紹介しよう。

例えば、ASMLは、COVID-19の影響による物理的分断に対応すべく、MR(Mixed Reality)を活用した装置立上支援サービスをMicrosoftと連携して開始している18。IPに敏感な顧客に対しても、装置立上遅延のダウンタイムによる損失と天秤にかけて貰い綿密に交渉することで合意し、既に75台以上のHoloLensをアジア、北米、欧州などで導入済みという状況である19。同社は今後、本施策が予期せぬ好評を博したことから、MRを活用したリモート支援の業界標準策定に動く方針とのことだ。

一方、Lam Researchは、半導体メーカーとのデータ連携の末、2019年4月に365日間ウェットクリーニングメンテナンスなしでチャンバーを真空状態に保ったまま生産を継続する装置プラットフォーム「Sense.i」を開発・発表しており、これは企業間データ活用の一事例と言えよう20。同社CEOは2020年7月の方針発表においても「先端サービスを生み出すのはデータであり、成功へのカギはそのコラボレーションである。半導体メーカー、また、エコシステムパートナーとのデータ連携が最重要であり、協力する事で継続的なイノベーションを成し遂げていきたい」と繰り返し語っている21

他方、データプラットフォームベンダにおいては、市場全体では既に1,000を超える形態でプラットフォームが提供されているが、OptimalPlus22やPDF Solutions23、Qualtera(Synopsys)24といった半導体業界の前・後工程管理等に特化したソリューションを提供するベンダも表出している状況である。

このような装置メーカーやベンダの提供するソリューションを採用し、クイックに企業間データ共有基盤を確立することはもちろんだが、Lam Researchの事例のように、装置メーカーと積極的なデータ共有を図り先端技術を開発しそのメリットを優先的に享受する、といった方向性も考えられるのではないだろうか。

図表10-2 エコシステムにおけるデジタルプラットフォーム構築(例)
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半導体業界におけるサイバーセキュリティの新スタンダード構築

ここまで半導体業界における企業間データ共有基盤の重要性を語ってきたが、とはいえやはりIP 棄損を懸念し、時期尚早と判断する企業も未だ少なくないのではないだろうか。

この点に関しては、国際半導体製造装置材料協会(SEMI)が、2020年7月に、包括的なサイバーセキュリティ仕様を備えたSEMIStandards(SEMIが設定する標準規格)を半導体業界に提供する方針25を発表しており、参考となり得る。2020年2~4月で、半導体業界によるリモート診断/管理用ソフトウエアの使用が従来の2倍以上となり、5~6月には過去最高の水準を記録した情勢を受けての対応とのことで、業界のリーダーであるIntelとCimetrix26、また、TSMCと工業技術研究院(ITRI)27を巻き込み、「装置ソフトウエアにおけるサイバーセキュリティ標準」「Fab内ネットワークに対するサイバーセキュリティ標準」双方の策定を進めている状況だ28

日系半導体メーカーとして、このようなサイバーセキュリティ標準の動向を注視しつつ、将来への布石として、自社内でのデータ活用モデル構築、エコシステム・協業先確立、そして企業間データ共有基盤導入、と駒を進めてはどうだろうか。
 

販売・マーケティング領域におけるdXの方向性

COVID-19の影響下における顧客接点の変化

最後に販売・マーケティングの領域についてCOVID-19発生後のリモート環境下における顧客接点の変化を起点に述べていきたい。

今回のCOVID-19の影響により各社のリモートワークが進展したことにより、顧客の購買行動にも変化が出ている。これまで基本的に対面で実施していた顧客接点に制限がかかることで、半導体業界においても、営業チャネルが変化していると想定される。これまでリアルの顧客接点を重視してきた営業スタイルを持つ企業も、暫定的にオンラインでのコミュニケーションに切り替えながら持続的な活動を実施してきたことであろう。

現状は在宅勤務が増加しており、この変化は一時的なものでなく、COVID-19終息後も継続的に続くとの見方が強い。そのため、この顧客接点の変化をいち早く捉え、対応を加速させた企業が今後、優位に立つと考えられる。

この点と関連して、本稿の執筆にあたりグローバルで活動する米国・台湾・中国の半導体業界の有識者にインタビューを実施したところ、「デジタル化は現状よりさらに加速し、人との接点の変化を生み出していく」という同様の見解を持っていることも確認できた。具体的には、

COVID-19後の世界ではオンライン化の傾向が継続するという前提で、「対面コミュニケーションが減少してオンラインに移行し、そのニーズを満たす製品が増えていくだろう」(台湾系半導体業者)といった意見や、「ロックダウンの影響でインターネット需要が猛烈に増え、増えたニーズがクライアントの需要につながった。終息後もこのトレンドは変わらないのではないか」(米国系半導体業者)といった見解が聞かれた。

オンラインとオフラインの境界線

B2B購買において、営業担当者とのやり取りよりもオンラインで自ら情報収集をすることを好む担当者の割合は段階的に増加している29。2020年時点で営業担当者を通じた購入を実施しているバイヤーは4割に満たないとの調査結果もあり、eコマースサイトやマーケットプレイスでの購買行動が広がっていると考えられる30

半導体業界ではこれまで米系企業を中心にデジタル化が重視され、既に様々な取り組みが行われてきたが、現状の環境下ではその動きがさらに加速すると想定される。日本の半導体メーカーにおいても、この動きに追随するような具体策を講じる必要があるのではないだろうか。

B2Bビジネスにおけるデジタル化トレンド

ここではデジタル化に対応するための具体策を検討する材料として、3つの点に注目してB2Bビジネスにおけるデジタル化のトレンドを概観したい。

まず1つ目のトレンドとして、「認知・ニーズ把握/醸成へのDigital 活用の推進」が挙げられる。COVID-19の影響下で、2020年以降Webinarやオンラインでの展示会が盛んに行われるようになった。リード生成や商談化の領域において、オフライン営業の延長にないオンライン活動が増加しており、オンラインで情報を収集する顧客が増加したことで、これまで直接の接点がなかった顧客へリーチするPull 型コンテンの有効性が増している。具体的にはPR・ホワイトペーパー・SNSといったツールの活用が進んでいる。また、短期的なセリング案件の発掘よりも、中長期的なマーケット醸成を狙いとした活用戦略も増える傾向にある。

2つ目のポイントは「開発・販売を推進するパートナー企業とのWebコミュニティの形成」である。顧客側の情報収集接点が増加したことで、より専門性が高く高難度なニーズに対するサポートの重要性がオンラインでも重視されるようになっている。例えば一方向的に自社製品のプロモーションを実施する情報発信だけでなく、技術者間、パートナー間をつなぐグローバルでのコミュニティやエコシステムを形成する企業も増えており、これまで以上に双方向コミュニケーションの重要性が高まっているのである。また、こうした動きの延長線上で、商社/代理店を挟まないダイレクトな顧客接点を強化し、直販・ECを導入する動きも出始めている。

最後のトレンドとして「Web/非対面/三位一体での業務/IT 基盤の整流化」にも注目したい。デジタル施策の導入により、顧客の購買接点が増える一方で、オン/オフの接点を行き来することで、企業内の顧客情報の取得難易度が上昇するという問題が生じている場合がある。

加えて、デジタルで創出したリードに対して、営業のインセンティブが働きづらく連携できないという組織的な課題もよく聞かれる。また、デジタルコンテンツ/メディアの活用・運営など、従来の専門性と異なる施策を扱う主管組織の設置も検討・実施されるようになっている。リードの品質を担保するために、インサイドセールス部門を設けるような専門性や守備範囲の変更の必要性が生じているケースもある。こういった課題を解決するため、マネジメント観点でも従来型の営業活動ではカバーできない顧客接点・プロセスの情報管理が必要になりつつある。

ここで見てきた3つのデジタル化トレンドを踏まえ、COVID-19の影響を踏まえて営業・マーケティングのdx化を検討するに当たっては、図表10-3に示した7つの強化ポイントがある。

全てを同時に実行可能であればそれに越したことはないが、それが難しいとなればこれら強化ポイントに対してまずは自社のケイパビリティを見極めつつ、強化すべきターゲットを定めていくことから始めてみてはいかがだろうか。

図表10-3 営業・マーケティングのdX化における強化ポイント
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総括

これまで見てきた領域別の課題認識と解決策をまとめると、下記の要素が抽出される。
 

設計・開発領域
  • 米中貿易摩擦による次世代CPU技術の普及に伴いクラウドベースの開発環境が一般化する
  • 半導体から収集したデータの分析サービスの高度化により新製品立ち上げ時の試作回数が減少し、評価用サンプルの製造、輸送に要する時間が減少する
  • チップの物理評価をリモート化する新しいプラットフォームが台頭し、サンプルや評価ボードを購入しなくても特性評価などが可能になる
製造領域
  • 半導体製造装置メーカーとデータプラットフォームベンダによる製造効率向上のためのデータ基盤構築の動きがある
  • 半導体業界の前・後工程管理に特化したベンダの台頭により企業内、企業間のデータ共有による歩留改善・量産スループット向上の事業機会が拡大する
販売・マーケティング領域
  • F2Fの接点がない顧客ともWEBを介したコミュニケーションの機会が増加する
  • オンライン上で提供される専門的情報が企業の購買意思決定に占める比重が増加する
  • 顧客接点の変化をいち早く捉え、対応を加速させた企業が今後、優位に立つと考えられる


このような半導体業界の各領域におけるdXの進展は、ビジネスにおける物理的な制約を低減することで国際的な競争と協調の双方を加速する「諸刃の剣」である。日本企業の視点から見た場合、国内市場における海外企業との競争が激化する一方、海外顧客やサプライヤーとの関係を強化する機会でもある。国際的にはdX的な取り組みによる成功事例が多くあり、そこに対して勝てるような変革を行っていく必要がある。最低限でもこうしたベストプラクティスはベンチマークした上で、単にそれらを追いかけるのではなく、勝てる領域を見極めて自社の強みとして伸ばしていく戦略立案・実行が求められる。本稿で紹介してきた各領域での事例がビジネスの現場において、対応すべき変革の方向性を検討する際の道標となれば幸いである。

筆者

武市 吉央
Yoshio Takechi
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアマネジャー

半導体業界でテクニカルマーケティング、セールスエンジニアを経て、現職。特に直近は半導体業界を中心として、事業戦略構想、前工程工場の立上げ、スマートファクトリー構想策定、装置技能者のタレントマネジメント高度化、生産指標の見える化等ビジネスコンサルティングの実績・経験を持つ。
 

児玉 英治
Eiji Kodama
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
マネジャー

国内大手半導体メーカー、シンクタンクを経て現職。半導体・AIなどのテクノロジー企業を中心に、戦略策定から業務モデル変革、システム導入支援まで幅広い領域のプロジェクトに従事。多数のグローバル案件への参画実績を持つ。
 

市村 陽
Akira Ichimura
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
マネジャー

大手コンサルティングファームを経て現職。B2B/2Cの幅広い業界に対し、マーケティング・セールスの戦略構想、オペレーション改革、現場展開などEnd to Endのコンサルティングに従事。CX/DX、デジタル/リアルのチャネルミックスに関する課題解決に多数の実績を持つ。
 

谷島 瑞穂
Mizuho Yajima
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアコンサルタント

国内大手精密化学メーカーを経て現職。同社医療機器事業部で商品企画、SCM、海外マーケティングを兼任、メーカーのバリューチェーン構築に幅広い知見あり。現職では主に半導体企業の製造領域改革に従事し、AI,IoT 等先進技術を踏まえた製造支援システム企画構想・導入において実績を持つ。

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3. ISA: Instruction Set Architecture; コンピュータの命令セットアーキテクチャ
4. RISC-V: カリフォルニア大学バークレー校で開発され、オープンソースとして公開されているISA。スイスを拠点とする非営利団体「RISC-V International」が普及や教育、仕様策定ワーキンググループの運営等を行っている; RISC-V International, 2021/2/17アクセス: https://riscv.org/
5. ANLOGIC(上海安路信息科技有限公司)2021/2アクセス: http://www.anlogic.com/
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11. Manufacturer's Alliance for Productivity and Innovation(MAPI):製造業における生産性と革新を目的とした研究開発等を実施するメーカーアライアンス; MAPI, 2021/3/8アクセス: https://www.mapi.net/
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18. Augmented reality to the rescue during the coronavirus pandemic, ASML, 2020/5/6: https://www.asml.com/en/news/stories/2020/augmented-reality-to-the-rescue-coronavirus
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20. New Industry Benchmark Set for Etch Productivity, Lam Research, 2019/4/24: https://blog.lamresearch.com/new-industry-benchmark-set-for-etch-productivity/
21. Lam Shapes Industry Agenda at SEMICON West, Lam Research, 2020/7/27: https://blog.lamresearch.com/lam-shapes-industry-agenda-at-semicon-west/
22. OptimalPlus, 2021/2/17アクセス: https://www.optimalplus.com/
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24. Synopsys Acquires Semiconductor Analytics Innovator Qualtera, Synopsys, 2020/6/10: https://news.synopsys.com/2020-06-10-Synopsys-Acquires-Semiconductor-Analytics-Innovator-Qualtera
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26. Cimetrix, 2021/2/17アクセス: https://www.cimetrix.com/; PDF Solutionsが2020年12月にCimetrixを買収している; PDF Solutions Completes Acquisition of Cimetrix, PDF Solutions, 2020/12/1: https://www.pdf.com/resources/pdf-solutions-completes-acquisition-of-cimetrix/
27. 1973年に設立された台湾の研究開発機構; ITRC, Industrial Technology Investment Corporation, 2021/2/17アクセス: https://itic.com.tw/itri/?lang=ja
28. Unsung Heroes Shine From the Chip Industry, Cimetrix, 2020/7/6: https://www.cimetrix.com/unsung-heroes-shine-from-the-chip-industry
29. Digital Ups The Stakes For B2B Sales Pros, Forrester, 2019/2/13: https://www.forrester.com/report/Digital+Ups+The+Stakes+For+B2B+Sales+Pros/-/E-RES126861#figure1
30. Marketers: Make Sure B2B Marketplaces Are On Your Radar, Forrester, 2021/1/4: https://www.forrester.com/fn/69kEpxho5htvA6iBIeZWmd

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