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TMT Predictions 2021

本稿では、ゲーム業界のビジネストレンドについて「コンソールメーカー」「クラウドゲーミング」「資本提携」「ゲームコミュニティ」の4つの観点からそれぞれ考察を行った。

日本の視点:転換期にあるゲーム業界のビジネストレンド

本章では、ゲーム業界のビジネストレンドについて「コンソールメーカー」「クラウドゲーミング」「資本提携」「ゲームコミュニティ」の4つの観点からそれぞれ考察を行った。

2021年現在、コンソールではソニーがPS5の先鋭的な機能向上により、高精細なグラフィックやHapticsといった技術でハイエンドなゲーム体験の向上を志向している一方、Nintendo Switchが過去のIP も活かしつつ幅広い年代で受容されるソフト・サービス展開を行い、ヒットを生み出している。他方でGAFAMに代表されるプラットフォーマーなどによるクラウドゲームへの参入が本格化しており、これまでのゲーム業界の構造変化につながる可能性がある動きも顕在化するようになった。

このような転換期にあるゲーム市場について、コンソールメーカーとクラウドゲーミング側それぞれの視点からの現状と展望を検討するとともに、ゲーム会社の拡大を検討するうえで重要と考えられる資本提携の動向を概観して戦略の方向性を提示した。加えて、ゲーム事業の展開を検討するに当たって不可欠なユーザーの最新動向を把握するための材料として「ゲームコミュニティ」に着目し、その展開と注目すべきポイントについても分析している。それぞれのパートからは、今後のゲーム市場を見据えるためのヒントやキーワードが導出できるはずである。

本章の内容が、ゲーム業界のステークホルダーがそれぞれの立場から市場の変化を読み取り、自社の今後の事業展開を検討するための一助になると幸いである。

日本の視点:ゲームコンソールの進化の軌跡から見る今後の展望

直近のゲームコンソールの販売状況

2021年3月現在の家庭用ゲームコンソール1の市場展開状況では、2020年11月に販売開始されたソニーのPlayStation5(PS5)とMicrosoftのXbox Series X/S が最新のデバイスとなる。双方の特徴として、従来のようなディスクを読み込むドライブだけでなく、オンラインからのダウンロード専用のエディションを用意している点が、家庭用通信回線の速度向上などに伴うライフスタイルの変化を反映している。

一方、任天堂は2017年に発売したNintendo Switchが順調に販売数を伸ばしているほか、2019年にSwitch本体とコントローラを一体化させた廉価モデルNintendo Switch Liteを発売している。各社の現時点での販売台数は図表9-1の通りである。

図表9-1 主要ゲームコンソールの出荷台数
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各社のハードウエアスペックに見る事業方針の違い

各社の最新ハードウエアの展開状況を見ていくと、明確な事業方針の違いが浮き彫りになっている。

まずソニーに関しては、ヘッドマウント型VRで志向していた􏘩没入感􏘪を活かしたゲーム体験の変革がキーワードになる。PS5のコントローラに搭載されている、触覚をデジタルで再現するハプティクス5 技術はその一つである。本体自体もレイトレーシング6 の向上によるリアリティの追求、高速ロード7によるシームレスなゲーム体験を通して没入感の演出を追求している。昨今はマルチプラットフォーム対応のゲームも増えつつある中で、モバイルアプリやゲーミングPCでは実現できないハプティクス技術を用いたハードウエアとしての差別化戦略が明確である。

MicrosoftのXbox Series X は、PS5と同様にハードウエアのスペックを向上させたが、今回コントローラには特に手を加えていない。現在はXbox向けの生産は終了しているが、同社のジェスチャー・音声認識デバイスのKinect が当初没入感の醸成に一役かっていたという経緯もあり8、今後の方向性が注目される。一方でMicrosoft はクラウドサービスであるProject xCloud9をβ版として提供していたが、今回「Xbox Game Pass Ultimate10」というサブスクリプションサービスに統合し、ハードウエアにこだわらずMicrosoftの経済圏の中にユーザーを囲い込む戦略が見て取れる。

一方、任天堂はSwitch 本体というよりは、周辺機器の拡張性による操作感を重視している。Nintendo Labo11(2021年3月の本稿執筆時点の最新作は2019年)やリングフィットアドベンチャー12、マリオカートライブ ホームサーキット13 などSwtich 自体の進化ではなく外部アタッチメントによる体験の向上を図っている点は他2社と違う方針である。外部アタッチメントとの連動はSwitchのコントローラ(Joy-Con)の可能性を追求する中でハードとソフトの両面から生まれた発想であり、「新しい娯楽を創造する企業」として従来型のビデオゲームの世界から一歩踏み出している14。工作や運動をはじめとした広義の􏘩遊び􏘪 の世界と融合しながら、自社のデバイスを起点にユーザーのホームエンタテインメント体験を拡大することを見据えていることが分かる。

 

クラウドゲーミングとスタートアップの台頭

そして現在、これまでゲーム会社の独壇場だったゲームプラットフォーム・デバイスの領域に、近年ではGAFAMに代表されるプラットフォーマーやスタートアップなどが参入するようになり、従来型のコンソールメーカーは対抗株の出現に直面している。

GoogleとAmazonに共通するキーワードはストリーミングである。GoogleはクラウドゲームプラットフォームのStadia15のサービスを2019年11月に欧米で開始しており、AmazonもLuna16 を発表した。

これらのサービスではクラウドで処理や実行を行うため、据え置き型のコンソールのような専用機器が不要で、PCなどの対応デバイスやコントローラさえあればゲームが楽しめるものになっている。Facebookは2020年にFacebook Gaming17 内でクラウドゲームができる仕組みを立ち上げた。これは先述の2社と違って月額課金ではなく立ち上げ段階では無料展開している。AppleはゲームサブスクリプションサービスのApple Arcade18 を提供しているほか、2020年にはApp Storeのガイドラインを改訂19してクラウドゲーム開発者に門戸を開きつつある。クラウドゲーミングについては別項「クラウドゲームの本格展開とゲーム業界の転換点」で詳述しているので参照いただきたい(P69~)。

一方、スタートアップ界隈で特徴的な企業としてはKAT VR社が挙げられる。現行のアーケード等で提供されている商業用VRデバイスでは空間を実際に歩くことはできるが、既存の家庭用デバイスでは実際に足を動かして歩くことはない。しかし同社のVR用歩行デバイスでは、自由移動に対応したVRゲームであれば歩く動作を反映することができ、実際に自分で「ゲームの世界を歩く」という没入感を高める演出が可能になっている20,21

 

今後のゲームコンソールの展望

これらのGAFAMやスタートアップなどの事業者の台頭に加えて、スマートフォンとゲームアプリの普及によってカジュアル層へのゲームの浸透がこの10年ほどで急速に進んでいる。その変化を背景に、ゲームユーザーの裾野が大きく広がってきていることも重要な変化要因である。こうした流れの中で、デバイス/プラットフォーム、ゲームの内容、伝送路という要素の組み合わせは多様化しており、ゲームユーザーを取り巻く環境における選択肢の組み合わせの自由度は格段に高まっている。
 

多様化する選択肢の代表例
  • デバイス/プラットフォーム:コンソール/PC/モバイルアプリ(スマートフォンやタブレット)
  • ゲームの内容:ハイクオリティゲームからカジュアルゲームまで幅広いターゲット
  • 伝送路:ディスク/ダウンロード/オンライン/クラウド


このような環境の中で、コンソールメーカーは大きな転換点を迎えている。今後、コンソールメーカーが見据えていくべき展望として、考えられる方向性は大きく3つに分かれるだろう。
 

① コンソールでしか実現できないゲーム体験を突き詰めていき、ハードウエアスペックの向上によって非日常の経験・没入感を醸成

② コンソールはあくまでゲームを行うためのインターフェースと割り切り、その上でマルチプラットフォーム展開できるようにアプリケーション/コンテンツを強化

③ コンソールは全体の1モジュールとしてとらえ、海外企業のように自社アセットに縛られずに他社の買収・提携を通じて機能拡張を実施


クラウドゲーミングでデバイスを選ばずにゲームプレイできる環境が登場する中で、コンソールメーカーの視点としては、どこに価値をおいてコンソールならではの良さを訴求していくかの方策が求められることになるだろう。コンソール=ゲーム専用機だからこそできる「ユーザーをアッと言わせるような体験」を追求する必要があるのではないだろうか。そしてここで言う”体験” とは必ずしも①のようなVRやハプティクスのようなハイエンドなテクノロジーだけではないという見方もある。周辺機器との組み合わせを通じて新しい体験を生み出すことも新しい価値を示していると言える。②や③の選択肢のようにコンソールがインターフェースやモジュールになる場合でも、それぞれの場面に応じてユーザーを引き付けるような体験を醸成する必要が出てくるだろう。その観点では、ユーザーコミュニティやそこで扱われるコンテンツの動向を基に、ニーズを見極めながら対応していくことが不可欠になると想定される。またその際に、自社に必要なケイパビリティがあれば柔軟に買収や提携等の方策を駆使していくことも重要なポイントになるはずである。

また、こうしたコンソールの将来像を考えていくうえでは、ゲームユーザーの成長の過程の中で、ゲームとの接点がどのように作られていくかの検討を行うことも重要である。日本の現在のコンソールゲームユーザーの多くは、幼少期にコンソールを起点としてゲーム経験を積むことが主流と想定される一方で、PCゲームが普及している韓国では幼少期に触れたPCゲームが原点となることも多く、コンソールには大学入学以降くらいの年代で接触するという状況が見られる22。こうした例からは、幼少期に体験したデバイスがその後のゲーム環境の選択に影響を与えることが推察され、それを考慮したうえでの戦略が求められると指摘できる。その点においては、急速に進んだスマートフォンの普及によって、日本の特にカジュアルゲームユーザーの多くのゲーム接点がモバイル(スマートフォン・タブレットなど)にシフトしつつあることも念頭に置かなければならない。今後、いかに「コンソールのならでは」の価値を訴求するか、継続的に次世代のゲームユーザーを獲得するか、あるいはビジネスモデルを変えるのか、といった戦略的な決断を見誤らないようにすることが今後さらに求められるだろう。

自社が対象とすべきユーザーとは誰なのか、ゲームビジネスを展開するうえでデバイスやコンテンツの"ハイエンド”と”ローエンド”はそれぞれどのようなレベルなのか、といった方向性の見極めが、今後のコンソール市場を考えるうえでの重要なポイントになるのである。

著者

藤井 亮輔 Ryosuke Fujii
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー

主に通信会社、メーカー、メディア企業向けに新規事業企画、GTM(Go To Market)、PMOなどに従事。近年はNew Technologyを用いた新規事業・Digital Transformationに携わっている。プライベートではFPS・RPGなどをプレイしている。

1. コンソール:ビデオゲームをプレイするための機器/装置
2. ソニー, "2020年度第3四半期連結業績概要" 2021/2/3: https://www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/library/presen/er/pdf/20q3_sonyspeech.pdf
3. 全世界での連結累計販売数量; 任天堂, "株主・投資家向け情報:業績・財務情報 - ゲーム専用機販売実績 (nintendo.co.jp)", 2021/3/24アクセス: https://www.nintendo.co.jp/ir/finance/hard_soft/index.html
4. PS5 and Xbox Series X|S launch sales match, but don't improve on, previous generation , Ampere Analysis Insights, 2021/2/17: https://www.ampereanalysis.com/insight/ps5-and-xbox-series-xs-launch-sales-match-but-dont-improve-on-previous-generation
5. ハプティクス=「人が物に触れた感覚をデジタルで再現し、実際は触っていなくてもまるで触っているかのように感じさせる技術」; 五感の一つ、「触覚」を刺激する技術 ―ハプティクスでの挑戦, ソニー・インタラクティブエンタテインメント, 2020/12/2:  https://www.sony.co.jp/SonyInfo/technology/stories/Haptics/
6. レイトレーシング(ray tracing:光線追跡法): 空中の光子の動きを追跡し、屈折や反射をシミュレートして現実に近い形で映像を作り出す技術; 「PlayStation 5」は次の6年で何を担うのか 実機プレイで分かったこと,  ITMedia, 2020/10/5:  https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2010/05/news086_3.html
7. 実機レビュー:PS5で「SNS化するゲーム体験」のリアル。驚きの静粛・高速読み込みがすごかった, BUSINESS INSIDER, 2020/11/6: https://www.businessinsider.jp/post-223666
8. Microsoft Kills off Kinect (For Good This Time) With Xbox Series X, GIZMODO, 2020/7/16: https://gizmodo.com/xbox-series-x-kills-off-kinect-for-good-this-time-1844412885
9. Microsoftのクラウドゲームサービス「Project xCloud」を試してみた。環境が整えば,いつでもどこでもコンシューマゲームが違和感なく遊べる,  4gamer.net, 2020/12/5: https://www.4gamer.net/games/453/G045384/20201204060/
10. Microsoft, "Project xCloud (プレビュー) | Xbox", 2021/3/24アクセス: https://www.xbox.com/ja-JP/xbox-game-streaming/project-xcloud
11. 任天堂, "NINTENDO LABO", 2021/3/24アクセス: https://www.nintendo.co.jp/labo/
12. 任天堂, "リングフィットアドベンチャー", 2021/3/24アクセス: https://www.nintendo.co.jp/ring/index.html
13. 任天堂, "マリオカートライブ ホームサーキット", 2021/3/24アクセス: https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000012353.html
14. 任天堂, "経営方針説明会/2018 年 3 月期 第 3 四半期決算説明会 質疑応答(要旨)", 2018/2/3: https://www.nintendo.co.jp/ir/pdf/2018/180203.pdf
15. Google, "Stadia", 2021/3/24アクセス: https://stadia.google.com/
16. Amazon.com, "Amazon Luna", 2021/3/24アクセス: https://www.amazon.com/luna/landing-page
17. Facebook、クラウドゲーム参入(ただしAppleの制限でiOSには非対応), ITmedia, 2020/10/27: https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2010/27/news060.html
18. Apple, "Apple Arcade", 2021/3/24アクセス: https://www.apple.com/jp/apple-arcade/
19. Appleが、App Storeを通じたクラウドゲームサービスの提供に門戸を開く。ただし要件が厳しく、メーカーは反発 , AUTOMATON, 2020/9/12:https://automaton-media.com/articles/newsjp/20200912-136588/
20. KATVR , "KAT VR - Official Developer Site | About KAT VR", 2021/3/24アクセス: https://www.kat-vr.com/pages/kat-vr-learn-more
21. ルームランナー型の家庭向け体感筐体「KAT Walk C」がKickstarterに登場予定, Dospara Express, 2020/6/8: https://www.dospara.co.jp/express/vr/spo1511766
22. KOCCA(Korea Creative Content Agency), "2019 Game Users Survey Report", 2019

日本版:クラウドゲームの本格展開とゲーム業界の転換点

クラウドゲームに対する2方向の論調

ソニーは次世代ゲーム機PS5を2020年11月に発売した1。予約が殺到するなどPS5の滑り出しは好調とされる一方で、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)といった大手ITプラットフォーマーが次々とゲーム業界に参入しており、今後さらにゲーム業界の競争が激しくなることが予想されている。これらITプラットフォーマーが提供するゲームサービスは、いずれもクラウドゲームサービスである。クラウドゲームの特徴として、ハードウエア/ゲームコンソールが不要であり好きな端末で遊べる点、継続課金・定額制のサブスクリプションモデルを採用している点が挙げられる。

日本のゲーム産業の未来について、ゲーム業界側から見た論調は大きく2つに分かれる。一つ目に、クラウドゲームを脅威として捉える論調として、「GAFAM等が提供するクラウドゲームは既存のゲーム業界を破壊し全てを置き換える」、「GAFAM等が日本のゲーム業界を飲み込む」といった見方がある。特にクラウドゲームでは画像処理やデータの保存がクラウド側で行われ、ゲーム専用機が不要となる点が、従来自社開発のゲームコンソールを中心としたビジネスを展開してきたソニーや任天堂といった日本を代表する事業者のビジネスを破壊していく可能性を連想させるためである。この議論では、DVDやブルーレイといった物理的なメディアからデジタルに置き換わった動画のストリーミング配信の進化のアナロジーで語られることが多い。

もう一方では、クラウドゲームサービスはクラウド上で計算処理を行う仕組みであるため、通信品質やサーバーの計算能力の制約があり、ゲームユーザーが満足する顧客体験を提供できないため、従来のゲームコンソールに優位性があるであろうという論調がある。ゲーム専用機は、コントローラーからの入力を処理し、個々のゲームの特性に合致した速度でその結果をディスプレイに反映させるために、大規模な計算処理を行っている。特にPS4用ソフト「Ghost of Tsushima2」など最近の人気ゲームでは物理現象の表現や、3次元動画の処理が普通になっているため、クラウドゲームでは顧客体験の実現が技術的に困難と想定される。また、ゲームとはそもそもハード(例えばコントローラの感触)とソフトが一体になり初めて機能するという見方もある。さらに、ITプラットフォーマーが提供するクラウドゲームサービスは市場に合ったコンテンツが十分でなく、ゲームでユーザーを引きつけるには至らないという考え方もある。

 

ITプラットフォーマーによるクラウドゲーム参入の背景

そもそも、なぜ欧米ITプラットフォーマーはクラウドゲーム市場に次々と参入しているのだろうか。その主な目的は端的に言えば、自社プラットフォームへのユーザー囲い込みによる経済圏構築・拡大と考えられる。例えば、Googleは検索エンジン、ストレージ・メール、YouTubeといった既存サービスにクラウドゲームStadia3 を加え、バンドルサービスとしてユーザーをつなぎとめようとしている。AmazonはAmazonPrimeによる翌日配達サービスを軸に、音楽、動画、電子書籍などをまとめて提供しているが、さらに今後クラウドゲームサービスのLuna4を加えて多くのユーザーを獲得することを見据えている。いずれも、ユーザーにとって魅力的なサービス・タッチポイントを複数セットにすることでユーザーを囲い込むための引力を作り出し、クロスセルにより事業を成長させようとしている。

クラウドゲームを運用するにあたっての技術的障壁等の諸課題は徐々に解決に向かうことが考えられる。参入企業であるAmazon、Google、Microsoft は3社ともグローバルクラウドベンダであり、データセンターと通信技術の進化により、自社のインフラで技術的課題を徐々に解決していくのではないだろうか。また、コンテンツの不足についても優良企業との提携・買収が進む可能性があるほか、NetflixやAmazon Prime Videoがオリジナルコンテンツを企画・制作するようになった動画配信の流れと同様オリジナルゲームの制作も予想される。

一方で日本企業にもビジネス機会は存在する。例えば、日本の通信事業者であるソフトバンク、KDDIもITプラットフォーマーの動向に呼応する形で、着々とクラウドゲーム市場に参入を始めており、両社ともNVIDIA社との提携によりクラウドゲームサービスGeForce NOWを日本市場向けにサブスクリプション形式で提供している。通信事業者はゲーム単体で大きな収益を上げるというよりは、広帯域・低遅延の通信である5G通信の技術力を証明し、日本全体に普及させるためのキラーユースケースとして、クラウドゲームを利用することを想定しているとみられる。今後はモバイル事業・5G回線サービスと、その上に乗るコンテンツとしてのクラウドゲームのバンドルでコンシューマ事業全体の収益向上を狙っていることが想定される。クラウドゲーミングの市場が拡大するに伴い、通信事業者は5Gの存在意義を証明しつつ、大きな事業機会を得る可能性がある。

 

ゲーム業界の転換期に求められる視点

しかしながら、ITプラットフォーマーが提供するクラウドゲームが、日本の既存のゲーム業界プレイヤーにとって脅威となっていく一面を否定し続けることは難しいだろう。現在、ゲーム専用機の性能やコントローラーの操作性、日本独自の素晴らしいゲームコンテンツによりゲームユーザーを囲い込めていたとしても、利便性の高い無数のタッチポイントと膨大なコンピューティングパワー、ビッグデータとキャッシュを誇るITプラットフォーマーが、自社の課題を徐々に解決しながらゲーム市場でのプレゼンスを増していくため、既存のゲーム産業に多大な影響をもたらすのではないか。現行のゲームビジネスが即座にクラウドゲームにリプレイスされる訳ではないが、クラウドゲームはここ数年の内に、消費者が手元のスマートフォンなどゲームコンソール以外のデバイスから高性能なゲームにアクセスしてすぐに遊ぶための一つの選択肢になっていくことが想定される。VRゲームなど、機器と顧客体験が強固に結びついたゲームも普及が進むことが予想されるため、ゲームのためのデバイスは何らかの形で残り続けるとしても、これまでのゲームプレイの在り方は変わっていかざるを得ないという見方もできる。

ゲーム業界は今大きな転換期にある。日本企業には、プラットフォーマーの動向とクラウド・5G・ビッグデータといった技術トレンドをしっかりと理解し、自社のサービスとの連関や新技術の活用や異業種との協業の可能性等も検討しながら、生存をかけて自社の戦略を再定義し続けることが求められる。

著者

亀割 一徳 Kazunori Kamewari
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアマネジャー

外資系コンサルティング会社、IT企業 経営企画室・事業開発を経て現職。通信・メディア・エンターテインメント・IT 産業において、新規事業戦略、マーケティング戦略、デジタルトランスフォーメーションをテーマとしたコンサルティングに従事。著書に『サブスクリプション経営』(共著、日経文庫)がある。

1. PlayStation®5 2020年11月12日(木)日本国内発売決定 9月18日(金)より順次予約開始 全国の取扱販売店様店舗・ECサイトにて販売, ソニー・インタラクティブエンタテインメント, 2020/9/17: https://www.jp.playstation.com/press-releases/2020/20200917/
2. PLAYSTATION.COM, "Ghost of Tsushima", 2021/2/19アクセス: https://www.playstation.com/ja-jp/games/ghost-of-tsushima/
3. Google, “Stadia”, 2021/2/19アクセス: https://stadia.google.com/
4. Amazon.com, "Amazon Luna", 2021/2/19アクセス: https://www.amazon.com/luna/landing-page

日本の視点:ゲーム会社の拡大戦略における資本提携の可能性

近年のゲーム業界再編の流れ

近年ゲーム業界では大手ゲームプラットフォーマー、大手ゲーム開発会社、およびITプラットフォーマーによる大型の買収が相次いで実施されている。

Microsoft 社は2014年にMinecraft を開発したMojang社を25億ドルで買収し、その後も大型のゲームスタジオの買収を立て続けに実施しており、2018年にはNinja Theory 社、Playground Games社、Undead Labs社(買収額非公開)、2020年にはZeniMax Media社(子会社にBethesda Game Studiosやid Software)を75億ドルで買収している。

その他にも2020年にはSony Interactive Entertainment 社(以下、SIE) によるInsomniac Games社の買収(2.29億ドル) やElectronic Arts 社によるCodemasters Group Holdings社の買収(12億ドル)などが実施されている。

相次ぐ大型買収の背景には

① ゲームプラットフォーム(コンソール機/クラウドゲーミング/モバイルなど)の競争による囲い込みの激化

② ハードウエアのスペック向上に伴うソフトの開発規模と金額の上昇に対する効率化の必要性増加

③ 開発期間の長期化によるAAAタイトル1と小規模タイトルの分断

④ 中国のスマートフォン向けゲーム開発の激化

といった要素が挙げられ、今後もゲーム業界における買収は盛んに行われることが予想される。

 

世界のゲーム会社の買収による事業展開の流れ

そうした流れの中で、海外では前述の通り囲い込みの激化やタイトル開発におけるポートフォリオ戦略の重要性向上により、自社の得意領域を明確に定め、当該領域の強化に結び付く買収や将来的なゲーム業界におけるビジネスモデルの変化(クラウドゲーミング市場の成長やサブスクリプション型での販売形態の普及)に対応するための大型の買収が数多く実施されている。

大手ゲーム開発会社のElectronic Arts 社やUbisoft 社においては、自社が開発するAAAタイトルのブランド価値を向上させ、モバイルゲームやクラウドゲーミングへの対応を強化するとともに、運営型のゲームを保有する会社への買収を積極的に行っており、自社のAAAタイトルによる大型のタイトル制作期間においても継続的に収益を上げられる領域への拡張を行っている。

Microsoft 社は自社のWindowsならびにXbox PF 上のユーザーを増加させるため、自社PFでのみ発売される高品質なゲームを増加させるべく、Minecraftが保有するMojangの買収を皮切りに、XboxOne時代晩年から最近にかけてゲーム開発会社の大型買収を継続して実施している。背景にあるPlayStation 4に劣後したXbox Oneの売上の大きな差を挽回すべく、自社PFでのみ提供される独占コンテンツを増加させ、Xbox Game PassやProject xCloudの提供価値を向上させることで、PF全体の魅力を高めることに成功している。また、2021年3月にはゲームに強みを持つコミュニティサービスのDiscordの買収を目指し、交渉を開始しているとの情報が明らかになった2。ゲームのユーザーコミュニティまでを自社の傘下に持つことで、サービス展開の垂直統合を他社に先駆けて強化する狙いがあることが見て取れる。

またEpic Games社はTencent社との資本提携後、自社の開発エンジン「Unreal Engine」の利用機会を増加も念頭に、Epic GamesStoreを立ち上げるとともに、開発エンジンで提供するアセット拡充につながる企業や自社コンテンツFortniteの成功を受け、仮想世界につながるような体験を提供できるコンテンツ(Fall Guys)を保有する企業の買収を進めている。

これらのように海外大手メーカーの買収では自社の強みをより伸ばす、もしくはその強みを発揮するうえで、補完すべき機能を持つ企業に対して積極的に買収・資本提携を行っており、規模としても大型のものが見られる状況になっている。

図表9-2 海外の主要ゲーム企業の提携先
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近年の日本のゲーム会社の買収を梃子にした事業展開の流れ

そうした中で日本のゲーム市場に目を向けると、2021年現在の国別収益金額は約190億ドル、収益額ランキングではアメリカ、中国に次いで3位、グローバルシェアはおよそ10%強と以前ほどゲーム業界で圧倒的な地位を築いているわけではないものの、依然影響力を大きく発揮している状況である3。日本のゲーム市場のトレンドとしては1990年前後から2000年代におけるコンソールゲーム市場の勃興とともに数多くのゲーム開発会社やコンソール会社の登場により日本の企業が大きなシェアを築いていたが、2000年代後半からPCゲームやコンソール市場が欧米圏を中心に急拡大したこともあり、日本のシェアは低下傾向にある。

その要因の一つとして、日本市場が一定の規模を保っていたこと、JRPG4と表現されるようなジャンルへ傾倒したこと、PS3時代以降の高性能化するゲーム環境における高解像度や大規模なゲーム開発に遅れと寄ったこと、海外でのFPS5やオープンワールド6といったトレンドに乗り遅れたことが挙げられるだろう。

海外のゲーム関連企業はそうした最新のトレンドを鑑み、自社の強みを活かすよう買収や資本提携によるビジネスの拡大を実施したが、日本においては近年も含めて大規模の買収はあまり実施されておらず、既存の自社IPの活用や、既存の取引実績のある開発委託先や卸先の買収による収益性向上、ゲーム開発環境の向上を目的とした買収が散発的に実施されているのが現状だ。

例外的にSIEにおいてはPlayStationの世界戦略の中で、海外でのスタジオ構築やそれに関連するコンテンツ資産の獲得、開発環境の整備、プラットフォームおよびゲームコミュニティを支えるeSports事業との連携等を目指した大型の買収・資本提携を行っており、スタジオ間での技術連携なども見えることから他社においてもこのような取り組みを行う必要がある。

図表9-3 2015年以降の日本の主要ゲーム会社における代表的な買収・資本提携事例
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海外事例から学ぶ日本における買収・資本提携の可能性

以上、日本と海外における買収・資本提携のトレンドを比較したが、そのトレンドの背景には大型コンテンツを継続的に展開するため、既存の開発スタジオの大型化、同時並行での開発稼働、買収による開発スタジオの増加などを行う中で、事業のポートフォリオ戦略が重視されているように見受けられる。

一方でGoogleやAmazonによるゲーム開発事業は現状ではあまり成功しているようには見えない。特に2021年に入ってから、GoogleのStadiaにおける専用ゲーム開発スタジオの閉鎖7やAmazonのゲーム開発部門での開発中止が続いている8。背景には、自社内での垂直統合的なプラットフォーム運営よりも他社との連携によるコンテンツの囲い込みがより効率的だという判断があると推察されるが、数年間の多額な投資が必要なゲーム開発における文化がデータドリブンな意思決定と衝突し、うまくいかなかった可能性が考えられる。

これらの事例から日本のゲーム会社が学ぶべきことは、既にPlayStation2 時代までの技術的な優位性が徐々に失われつつある現状では、IPの価値を最大化するため、ポートフォリオ管理や中長期的な観点でコンテンツを育てていく視点が非常に重要になってくるという点である。特に過去のIP 資産や人材を短期的な視点で活用/復活させ、限られた短い期間の売上に応じて切り捨ててしまうのは非常にもったいない行為である。Konamiが2020年に発売した「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!」の大ヒットから学べる点は大きいだろう。

そして近年の大型ゲームの開発に伴い、グローバルで通用するIPが以前より減少した昨今においては、現在の体力が残っているうちに自社のIPを効率的に開発・運用できる体制に移管すべく、業界の統廃合を見据えつつ開発基盤に対する投資やマネタイズの手法を多様化するビジネスへの進出を試みることにより、継続的なIPのアップデートや安定的な収益基盤の構築を目指す必要がある。特にElectronic Arts 社における「FIFA」「NBA LIVE」「Madden NFL」シリーズなどを統合したEA Sportsブランドのように、黎明期からステークホルダーを巻き込み、ステークホルダーの成長にも寄与するとともに、IPを開発・向上させるような中長期的な目線でのゲーム開発は非常に重要である。そのためには自社内でのゲーム開発に閉じず、IPに関連するステークホルダーやゲーム開発コミュニティやゲームユーザーコミュニティを巻き込み、貢献することで結果的に自社に対しても利益を還元する仕組みの構築が必要になっている。

著者

淺野 開 Kai Asano
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアコンサルタント

新卒でデロイトに入社後、大手ゲーム会社含めたエンターテインメント事業や大手製造業へのコンサルティングに携わる。主にマーケティング戦略や新規事業含む事業戦略検討などを実施。長年ゲーム業界ニュースの動向をウォッチしており、国内外のゲーム市場動向や各社のゲーム開発状況について詳しい。

1. AAAタイトル=トリプルエータイトル:ゲーム業界において、長期の開発期間で多額な開発費をかけて高いクオリティを保ち、大ヒットを目指す/期待されるタイトルを指す
2. マイクロソフトがディスコード買収で交渉、100億ドル強-関係者,  Bloomberg, 2021/3/23: https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-03-23/QQEFE4T0AFB601
3. Top 10 Countries/Markets by Game Revenues, newzoo, 2021/3/22アクセス: https://newzoo.com/insights/rankings/top-10-countries-by-game-revenues/
4. JRPG: 日本産のロールプレイングゲームに対して海外におけるRPGと比した際に、一定のパターンに沿って構成された作品を指す言葉。コンソールゲーム黎明期におけるインパクトを残した作品を多く含むことから、海外も含めファン層は多く存在する一方で、技術的な発展性の低さなどを指摘する際にも用いられる
5. FPS(First-person shooter): 主人公視点のシューティングゲーム
6. Open World:ゲームの舞台となる仮想世界を自由に動き回る形で設計されたレベルデザインを指す
7. Google, Stadia専用ゲーム開発スタジオを閉鎖。他社支援とプラットフォーム強化に注力,engaget日本版, 2021/2/2: https://japanese.engadget.com/google-stadia-internal-studio-close-jade-raymond-211608266.html
8. 開発中止が続くAmazonのゲーム開発部門「Amazon Game Studios」はなぜ失敗したのか?, Gigazine, 2021/2/1: https://gigazine.net/news/20210201-amazon-game-studios-failure/

日本の視点:“体験を共有する時代“へ ― コミュニティの変化と影響力

「プレイヤーのつながり」を意味していたコミュニティ

コミュニティという言葉の示す範囲は広く、適用する領域によって定義は異なるが、ゲーム業界においては昔から「ある特定のゲーム作品を実際にプレイする人々の緩やかなつながり」としてのコミュニティが存在した。

かつてアーケードゲーム隆盛の頃にはプレイヤーが集まるゲームセンター等を中心とする小さなコミュニティがあったし、特に海外では昔から、ユーザーが一か所に集まりPCを持ち寄ってLocal Area Network(LAN)接続で対戦や協力型のゲームを楽しむ「LANパーティ」も行われてきた。のちにインターネットを前提としたMMO1 等のオンラインゲームが隆盛しても、バーチャルに移行しただけでその本質は変わらなかった。

ところがゲームコミュニティは今まさに、単なるゲーム作品ごとのプレイヤーのつながり以上のものに変化しつつあるのである。

 

配信がもたらした消費行動とコミュニティの変容

変化の背景にあるのは、まずYouTubeやTwitchなどストリーミング=リアルタイム配信のためのプラットフォームの普及と視聴者層の拡大である。また配信用のハードウエア・ソフトウエア環境を整え良好な通信環境を確保するハードルがかつてより下がり、自ら配信を行うプレイヤーが増えたことも重要な要因だ。

実際、ゲーム配信を主軸とするTwitchでは、サービス開始当初の2012年では同時平均視聴数が10万ビュー程度であったところから、コロナ禍直前の2019年では約126万ビューと12倍以上に成長している。また同時平均チャンネル数についても、2012年から2019年にかけて22倍以上に増え約5万チャンネルを突破しており、さらに2021年3月時点では12万チャンネルに迫る勢いを見せている2

つまり、ゲームとストリーミングの交点においてゲーム配信が増え、「ゲーム配信を見る」という消費行動が普及することにより、そのゲームをプレイしてないユーザー層を取り込んでおり、ゲームコミュニティの裾野が広がっていると考えられるのである。

ここで注意すべきは、「ゲームをプレイしていないユーザー層」が2つに分けられる点だ。1つ目は単純に自身ではゲームをしないが配信は視聴するタイプのユーザー層、2つ目は自身もゲームはするが配信視聴している作品はプレイしたことがないというユーザー層である。

前述の通りかつてゲームコミュニティは「特定のゲーム作品を軸としたプレイヤーのつながり」であったが、今や個々のゲーム作品の枠を超え、ユーザーを軸として発展し相互に影響しあうユーザー間の有機的な結びつきにまで達しているのである。

もちろん、この互いが配信者にも視聴者にもなり得るユーザー間のつながりは、プロゲーマーや有名ストリーマーとそれを囲む多数の視聴者といった固定化した関係性のコミュニティよりも相対的に規模が小さくなる。前述のTwitchのデータを振り返っても、同時平均視聴数が増加している一方で、それを大幅に上回るチャンネル数拡大が見られることから、チャンネル当たりの平均視聴数は以前より小さく、このコミュニティの在り方の変化を裏付けていると言えよう。

 

「体験の共有」の場としてのコミュニティ

この配信を背景としたコミュニティがどのような機能を果たすのか、象徴的に示す例が「Among Us」である。これは味方の中に紛れ込んだ2人の敵を特定・排除し最後まで生き残って勝つことを目的とし、ゲーム内チャットやゲーム外でのボイスチャットツールを使ってプレイヤー間で議論をしながら進める最大10人までの協力対戦ゲームだ。

たった3人で開発された本ゲームは2018年6月にリリースされたあと全く鳴かず飛ばずの状況が続いたが、2年後の2020年7月、Twitchの有名ストリーマーが本ゲームを取り上げ配信したことをきっかけに世界的なブームを巻き起こした。PCゲームプラットフォームのSteamでは9月前半に4,200万回、iOS・Android版は9月だけで8,400万回ダウンロードされ3、結果として2020年を通じてiOS・Androidの両ストアで全世界1位となる2億6,400万ダウンロードを獲得したのである4

この爆発的な人気の理由は、ライブ配信と非常に相性の良い「配信映えする」コンテンツだったこと、そして未プレイ層のユーザー達が配信視聴により第三者の体験をリアルタイムで追体験でき「面白さを実感できたこと」だと考えられる。

外出もままならず他者とのコミュニケーションが減るコロナ禍の世情も後押ししたとはいえ、ストリーマーの体験をありのまま視聴者へ共有できる場としてのコミュニティの影響力が発揮された結果こそが本事例に現れていると言えるのではないか。

 

コミュニティの持つ影響力

だが先述の通り、これからのゲームコミュニティは、各コミュニティに閉じて特定のプロゲーマーや有名ストリーマーが一方的に体験を共有する世界ではない。多数の一般ユーザーを核として無数に発展していくとともに、それらが相互に体験を共有しあい、相互に影響力を発揮しあう世界である。

複数のコミュニティに帰属するユーザー達が、今後も様々な手段を得て充実していくであろう相互コミュニケーションの中で、むしろ各コミュニティへの帰属意識と互いへの影響力を強めていくのではないかと予想されるが、その影響は良いことばかりとも言えない。

先のAmong Usの事例のように、コミュニティの中であるゲームがとりあげられると、コミュニティに帰属するユーザー達のそのゲームに対する購入意欲を刺激する側面がある一方で、自分自身でプレイしてみたいというユーザーの欲求を弱めてしまう場合もある。

特にゲーム配信に顕著なこの問題は、配信そのものに対する賛否も含めてゲーム業界全体として大きな議論を呼んでおり、ゲーム会社各社は配信に関するガイドラインを定める動きを見せている。ひとことにガイドラインと言っても各社色合いが異なり、制限する方向性の強いものもあれば、逆に許容する方向性のものもある。

例えばスクウェア・エニックス社は自社の人気タイトル『ドラゴンクエスト』シリーズに関して作品ごとにガイドラインを定めており、従来エンディング部分についてはシリーズ横断的に配信を禁じてきたが、2021年3月にこれを改定し、発売から一定期間を経た作品に限り配信を認める形に転じた5。またこの改定と同時に「ゲームを通じて生まれるコミュニケーション」を後押しする旨のメッセージを発表しており、同社の場合はコミュニティのあり方の変化を前向きに受けとめて対応を行った形になる。

以前に増してより広い層にゲームが受け入れられるようになりつつある中で、コミュニティの持つ影響力は、ブランディングやコミュニティ育成の観点などもはらみ、今後ますます無視できないものとなっていくだろう。

著者

岩井 佐恵 Sae Iwai
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
マネジャー

大手ITソフトウエアベンダを経て現職。大手製造業・情報通信企業を中心に、事業戦略策定や海外事業・法人立上げ、業務改革・ITガバナンス改革等の企画・実行を手掛ける。特に海外ゲーム市場やオンラインゲーム市場の動向に詳しい。

1. Massively Multiplayer Online(MMO):大規模多人数参加型のオンラインゲーム
2. TwitchTracker, "TWITCH STATISTICS & CHARTS", 2021/3/9: https://twitchtracker.com/statistics
3. How Among Us, a social deduction game, became this fall's mega hit, CNBC, 2020/10/14:https://www.cnbc.com/2020/10/14/how-among-us-became-a-mega-hit-thanks-to-amazon- twitch.html
4. 'Among Us' most downloaded mobile game globally in 2020, CNBC, 2021/1/9:https://www.cnbctv18.com/technology/among-us-most-downloaded-mobile-game-globally-in-2020-7948421.htm
5. スクウェア・エニックス, "ドラクエ・パラダイス ドラゴンクエスト公式サイト 配信ガイドライン", 2021/03/19: http://www.dragonquest.jp/guideline/

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