最新動向/市場予測

スポーツ

TMT Predictions 2021

クリケットからホッケー、野球からバスケットボールまで、様々なスポーツにおいてデジタル化が本格化している。クラブ、チーム、リーグ、放送局、スタジアム等の会場運営会社、アスリートなど様々なステークホルダーが、データアナリティクスに価値を見いだし、そのビジネス化に取り組み始めている。

グローバル版:「超定量化」されるアスリート:テクノロジー・データ測定とスポーツビジネス

グローバル版〔PDF, 699KB〕

日本の視点:スポーツビジネスにおけるゲームチェンジ

ゲームチェンジの始まり

「スポーツビジネスの原点はスタジアム、アリーナを満杯にするところからはじまる」とこれまで様々な場面で言及されてきたが1、スポーツ会場のライブ感を楽しみに多くの人が集っていた風景は、2020年に入ってから一変してしまった。COVID-19の感染拡大に伴い、感染予防のために無観客試合を実施する、スタジアムに観客を収容する場合も人数を制限する、といった取り組みがガイドラインに基づいて実施されるようになったのである2

従前より、日本のスポーツビジネスの成長課題は顕在化していた。具体的には観客動員の伸び悩みの改善、収益構造の転換の必要性といった観点で課題解決の施策が求められ、デジタル活用やスポーツを起点とした価値形成などが注目されていた。2020年以降はコロナ禍の中でこれらの問題がより顕在化した一方で、スポーツのもつ価値が再認識されているフェーズにあるとも言える。今までに体験したことのない課題に直面したスポーツクラブ、リーグそしてアスリートは様々な取り組みを始めており、選手自らによる動画配信、リモート応援、VRによる観戦、投げ銭など、多方面でのデジタル活用が本格化しつつある。アスリートのフィジカルデータについても、競技の管理など従来の用途にとどまらず感染防止や体調管理等の用途にも活用される事例が出てきた。スタジアムでの興行に制限が生じ、経営環境が変化する中、スポーツビジネスにおけるスポンサーシップのあり方にも変化の兆しが見えつつある。

スポーツにおける「ゲームチェンジ」のタイミングが、コロナ禍によって期せずして、現在もたらされているという見方もできる。これをきっかけとして、これまでのビジネスを見直し、日本のスポーツ業界が新たなモデル構築をすることを目指すことが必要ではないだろうか。本稿では、「デジタル活用とファンエンゲージメント」「データ活用/アナリティクス」「スポンサーシップのあり方」の大きく3つの観点からWith/After COVID-19時代におけるスポーツビジネスの展望と価値の再定義について考察する。

 

デジタルを活用した観戦体験の変化

コロナ禍の影響で、スポーツにおけるデジタル活用の事例が顕著にみられるようになっている。ここではいくつかの事例を基に、デジタルを活用したスポーツのファンエンゲージメントの変化について考察したい。

 

ライブ中継の革命とファン心理へのアプローチ

アメリカに本社を置くKISWE社3 はイベントのストリーミング中継・配信を全てクラウドで行うという画期的なサービスを展開している。代表例では、NBAのWashington Wizardsの試合がこの仕組みを使って配信されている4。スポーツだけでなく、韓国発の人気アーティストであるBTSのバーチャルライブでは、鑑賞しているファンとの双方向のコミュニケーションや、「全員が最前列」でかつ「自分の観たいアングル」を選ぶことができるパーソナライズも可能にした5。KISWEのソリューションではこの他にも、視聴者が友人・知人とカスタムチャットで一緒に試合を観戦できるような機能や、ライブ動画の多言語字幕追加など、ファンが応援する気持ちを満たすための様々なサービスを提供している6。これらはいずれもコロナ禍前から提供されていたサービスではあるが、コロナ禍の影響で改めて注目を浴びているものである。日本でもスポーツブランディングジャパン社がKISWEとパートナーシップ契約を締結しており、事業展開が期待される7

 

また、コロナ禍以降に展開されているサービスの一つには、千葉ロッテマリーンズの「観戦証明書」がある8。無観客の状態で特定の試合のリモート観戦チケットを購入すると、後日グッズと合わせて「観戦証明書」が発行されるというものだ。「あの試合を自分は観た」ということを証明してくれる形で、承認欲求を満たすというファン心理にアプローチした興味深い事例である。

 

VRや5Gを活用した新しい観戦スタイル

VRや5Gを活用した事例も出てきている。横浜DeNAベイスターズは2020年シーズンに、「バーチャルハマスタ」と題し、横浜スタジアムをVRで再現し、利用者がアバターとなってスタジアムのグラウンドから試合を観戦したり、他の参加者とチャットを楽しんだりしたりすることができるトライアルを実施した9。同様のサービスはバスケットボールBリーグでも実施された10

鹿島アントラーズでは2020年9月に、抽選で招待されたファンに「5G×マルチアングル映像体験特別シート」を提供するイベントを開催。スタジアムの特別席で5Gスマートフォンを使ってマルチアングルやスタッツ情報、好きなところでのリプレーを楽しめるようにした11。いずれも2020年においては試行段階ではあったが、今後の新しい観戦スタイルの提案として興味深い取り組みと言える。今後、他のチームや競技でも同様の取り組みが広がっていくことが考えられる。

 

鍵を握るのはファンエンゲージメントとパーソナライズ

2020年にJリーグが実施した調査(デロイト トーマツ コンサルティングが支援)では、“2019年にスタジアムへの来場歴があるものの、2020年にはJリーグの試合をスタジアムで観戦しなかったファン” を対象にした。この調査結果によると、2020年において全回答者のうち58%が「行きたくても行けていない外出先」としてJリーグを選択している(図表4-2)。つまり生活スタイルが変わったとしてもJリーグを観戦したいという意欲はなくなっていない。この層に対してどうアプローチしていくかが2021年以降の大きな課題だ。

COVID-19の発生以前はスタジアム・アリーナに来場して観戦・応援することがファンエンゲージメントとして重要視されていた。しかしコロナ禍において様々なタイプの観戦体験が提供されるようになると、ファンエンゲージメントの捉え方も変わってくる。元々、日本のサッカー観戦で典型的な「ゴール裏でジャンプをする」といったスタジアムでの一

体感を持った応援とは距離を置いて個人で楽しみたいという意向を持ったファンもいるため、そのようなニーズもすくい上げられるような施策が可能になるのではないか。

また、2019年にデロイト トーマツ コンサルティングが行った日本、アメリカ、ドイツのスポーツ観戦体験調査結果によると、日本の観戦者は試合そのものでの体験を重視する傾向が他国に比べて強いため、それ以外での体験(情報収集、スタジアムグルメ、イベント、観戦後の過ごし方など)にまだまだ大きな伸び代があることも分かっている12

スタジアム・アリーナであっても配信であっても、一人一人が自分の好きなスタイルで観戦でき、かつ観戦そのもの以外の部分でもファンの体験を向上させることができるようなサービスの提供が待たれる。スポーツ界において個々のファンにパーソナライズドしたサービスはまだまだ余白が大きな領域であり、今後の成長やビジネス拡大の重要な鍵を握るのは間違いないだろう。

図表4-2 コロナ禍で行けていない外出先
クリックすると拡大版をご覧になれます

データ活用とアナリティクス

次に、グローバル版本文で取り上げられているスポーツにおけるデータ利活用についても日本の状況を概観し、今後のスポーツビジネスにおける活用の展望について考察したい。

 

チームの戦術に活かす

「神様のバレー」(原作 渡辺ツルヤ、作画 西崎泰正、出版 芳文社)13という漫画がある。実業団Vリーグチームの凄腕アナリストが、万年一回戦敗退の中学校の弱小チームを全国大会出場へと導く話だ。この漫画の中では、アナリストがPCやタブレットを操作して情報を分析し、試合中も情報を監督に提供するシーンが何度となく出てくる。漫画でのシーンと同様の形で、実際にバレーボールやラクビー等の種目で、試合中に監督やスタッフが選手の動きを分析する、過去データを参照してリアルタイムに作戦を検討し、指示を出す等の施策が行われるようになっている。

このようなデータを用いた戦術で躍進を遂げた例の一つが、ラクビー日本代表だ。2015年のワールドカップで前大会ベスト8の南アフリカ代表との試合に勝利して注目を集めたが、この勝利にデータ分析が貢献した。得点等の数値データから試合や練習中の映像データまで、多種多様な方法でデータが分析され、それに基づいてより的確に選手やチームのパフォーマンス向上を図った14

2019年のワールドカップでそのデータ活用はさらに進化した。2015年時点でも導入していたドローンの用途を拡大し、上空からの映像をパソコンに取り込んでほぼリアルタイムで、練習中の陣形やスクラムの状態をチェックするようになった15。結果、日本代表は格上だったスコットランド代表を降し、史上初の決勝トーナメント進出を達成。初のベスト8入りを果たした。この快進撃の中で観客動員数は170万人をこえ16、国内のラグビー熱がさらに高まり、大きな経済効果を生み出した17

 

アスリートのパフォーマンスを向上させる

戦術立案だけでなく、アスリート個人のパフォーマンスを向上させるという観点でのデータ活用も広がっている。

アスリートの科学的トレーニング環境やスポーツの医科学研究等を提供している国立スポーツ科学センター(JISS)では、選手のデータ管理システム「アスリート・データベース」を運用している18。このデータベースは、身体測定データやトレーニング内容、映像データ、メディカルチェック等といった個々のデータベースが集約された統合的なデータ基盤になっており、アスリートはこれを用いることで自身のパフォーマンスを分析し、トレーニングに生かすことが可能だ。特にクラウドで構築された映像データベースでは、撮影した映像から動作を分析し、トップ選手と動きを比較できる。

JISS は、「JISS nx」という動画共有プラットフォームも提供し、選手やコーチによる様々な映像の分析を支援しており、2020年時点で47競技で利用されている19

 

アスリートのコンディションを管理し、ケガを防止する

データを分析して、チームや選手のパフォーマンス向上を図ることは、ファンを惹きつけ売上向上に貢献する一方で、アスリートのケガを防止し、選手寿命を伸ばすのにも一役買う。スポーツの経済面を考えた際、特にキーとなる選手のケガを防止することはファンの動員、ひいてはスポーツビジネスの収入にも影響するため、データ活用はスポーツビジネスの守りの面においても大切である。

日本のスポーツテクノロジー企業であるユーフォリアは「ONE TAP SPORTS20」というSaaS型データマネジメントシステムを提供している。日本代表・プロチームを中心にサッカー、バレーボール、バスケットボール、ラクビー、陸上競技等、71競技、1700以上のチームが導入しており21、アスリートのコンディション管理、ケガ予防、リハビリ管理に活用している。

選手一人ひとりがONE TAP SPORTSを用いてコンディションをスマートフォン・タブレットから入力する。それに試合や練習を通じて得られる行動データや食事メニュー、ケガの状態等を組み合わせて可視化・分析することで、トレーナー・コーチ・監督等の指導者がアスリートへ適切な指導を行うことを助け、ケガを未然に防ぐことにもつながる。

日々の体調を含めたデータを記録しているため、COVID-19の感染拡大防止にも役立つ。また、万が一ケガをした場合においても、一人ひとりのケガの状況に応じたリハビリサポートも行えるようになっており、ケガからの早期回復をアシストすることも可能だ。

 

リアルタイムスタッツがエンターテインメントに

スポーツデータをエンターテインメント用途に活用する事例もある。ドイツのKINEXON社22 はデータをチームやクラブのためだけでなくファン、サポーター向けにも活用するサービスを展開している。プレー映像にその時の選手の運動量(走る速度やジャンプの高さ、ボールの速度など)を重ねて、プレーそのものを演出する方法で、ドイツのハンドボー

ルのチャンピオンズリーグで適用され大きな話題になった。日本ではBリーグのアルバルク東京が同システムの導入を発表しており23、多くの競技においてパフォーマンスや戦術の分析・管理だけでなくエンターテインメント用途でのデータ活用も期待されているところである。

 

データ管理基盤の重要性

ここまで見てきたように、スポーツにおけるデータ活用はチームや選手のパフォーマンスや安全にとって重要であり、エンターテインメント用途での活用可能性も見えてきている。だが、やみくもにデータを収集すればいいという話ではない。

現在、多くのチーム、組織においてIoTの設備やツールが導入され、データ収集が行われている。しかし、個々のソリューションが独立しており、連携していないことも多い。チームは複数のソースから選手のデータを集めているが、技術のサイロ化のゆえに統合されていないことも少なくない。データの潜在能力を十分に発揮するには、センサー、ビデオカメラ、デバイスからのデータストリームを整理し、データ管理の基盤を持つことが必須だ。JISSやユーフォリアの事例のように、チームや組織は各ソリューションが連携され、データが統合された状態で適切に利用できて初めて、パフォーマンス向上やケガ防止等を実現することができるのである。

 

スポンサーシップの在り方の変化

ここからは少し視点を変えて、コロナ禍でスポーツ興行の市場が大幅に縮小する中、収益構造の見直しが求められる中で改めて注目されているスポンサーシップの在り方についても考えてみたい。

 

企業がオーナー/スポンサーする意義

これまで日本では、スポーツクラブ等へのスポンサーシップ(オーナーシップ含む)の価値の多くは「広告露出」に比重が置かれていた。現在でもその価値はまだまだ大きいと言えるが、スマートフォン等の通信環境が加速度的に浸透する中で、マーケティングの主流についてもマスマーケティングからダイレクトマーケティングへのパラダイムシフトが起きている。

このような個別最適化の流れは、コロナ禍による経営環境の激変によりさらに加速され、スポンサーシップの意義も、短期的な業績拡大に強みを発揮するマスマーケティングと相性の良い「広告露出型」から、中長期的な企業価値向上に強みを発揮する「課題解決型」へのシフトが強烈に促されつつある。

近年のスポーツコンテンツは、従来型のビジネスモデルからの転換の必要性を認識しながらも、オーナーを含めたコンテンツホルダー内の体制派で共有された慣習の影響力も大きく、身動きが取れない状況となっていた。そこに追い打ちをかけるように訪れたコロナ禍であったが、要である興行が制約される環境に置かれたことで逆に、スポーツコンテンツの真の価値が問われることとなった訳である。

スポーツコンテンツにおいては、図らずもビジネスモデルの強制的な転換を余儀なくされたことが奏功し、広告露出以外の価値である、ヒトとヒト、ビジネスとビジネスをつなぐ機能、いわゆる「ハブ機能」がようやく認識されるようになってきた。企業はこのハブ機能の活用により、自社の課題解決だけでなく社会課題の解決も同時に達成しやすくなるため、自らの企業価値を高めるパートナーシップに意義を見いだし、それをスポーツコンテンツに求めるようになってきている。

 

パートナーシップにおけるスポーツの価値の可視化

企業にとってのスポーツコンテンツへの投資の意義が広告露出型のスポンサーシップから、課題解決型のパートナーシップにシフトしていく中で、次に大きな課題となるのがパートナーシップの価値の可視化である。

日本におけるスポーツパートナーシップは個人ではなく企業(法人)が多いため、企業の意思決定プロセスで不可避の「会議体による合意」を得るに際し、投資対効果の説明が難しいものは実行できないという構造がある。広告露出型の場合は、露出度や露出時間、広告単価等から広告露出効果等を定量的に測定することで投資対効果による投資評価が可能であったが、課題解決型の場合、実行している取り組みが直接的に売上等の指標で把握できないものが多いため、定量的な投資対効果による評価がしにくい(できない)という課題がある。

日本のパートナーシップが一見すると経済的合理性を欠くいわゆる「タニマチ」的なものが多いと言われるのは、可視化されない価値(社会的価値)を価値として認めにくい構造があることも一因と考えられる。

実は、その構造的課題を解決できる可能性を秘めているものとして近年注目を集めているのが、社会的インパクト評価という考え方である。特に、その一手法としてのSROI(Social Return On Investment:社会的投資収益率)の研究が急速に拡大しており、それによりスポーツコンテンツが持つ社会的価値を可視化することができれば、多くの企業がスポーツコンテンツへの投資を積極的に実施できる環境になるものと考えられる。SROIについては英国の大学でスポーツのSROIを測定する調査研究が実施されているなどの事例があるほか24、日本ではJリーグクラブの松本山雅FCがSROIの先行研究を開始している25

その意味でも、スポーツコンテンツが生み出す社会的価値の可視化(定量化)は、今後のスポーツビジネスマーケットのサスティナブルな成長を支える非常に重要なトピックの一つであると言えるのである。

 

地域/社会への貢献

本来スポーツは対戦相手がいなければ成立しないコンテンツであるため、ヒトとヒトとのコミュニケーションツールとしての特性を有しており、だからこそヒトの集合体である地域や社会の課題解決に極めて適している。現在、世界は多くの社会課題に直面しており、それを解決するためのSDGsのような取り組みが開始されている。スポーツコンテンツは

そのような取り組みとの親和性も非常に高いという特徴があるため、コロナ禍で大きく様変わりしてしまった社会環境の再構築に、スポーツコンテンツは非常に有効な役割を果たすツールの一つになるものと考えられる。

一方で、そのような社会的に価値のある取り組みであっても、活動を継続するための資金・投資が呼び込めなければ発展は見込めない。世界の資金の潮流が、SDGsのような取り組みと親和性の高いESG投資等に向かい始めている状況に鑑みれば、世界の価値観も社会課題の解決、Well-Beingに通じる取り組みが評価され、価値があるものと認識されつつあるのは自明であろう。先に照会したSROI等の普及により、スポーツコンテンツの持つ社会的価値が可視化(定量化)されれば、事後的にではあるがスポーツコンテンツがいかに社会的価値の創出に貢献しているのか、その事実が証明されることになるだろう。

 

ゲームチェンジの方向性

2020年のスポーツ業界では様々な取り組みの提案と試行が行われたが、2021年以降も多様な試みを繰り返しながらサービスの淘汰や統合が進むことが予想される。例えば、B2Cの現状のサービスで苦戦している部分の特徴は「スタジアムでの体験の再現」を目指していることではないだろうか。リアルにどれだけ近づけてもバーチャルはバーチャルである。リアル体験への制限が緩和されると人々はスタジアムに戻っていくだろう。再びスタジアムが満員になるのは大歓迎だが、ビジネスサイズは変わらないままだ。デジタルで獲得した新しい顧客をデジタルで維持しながら、スタジアムも満員にするためには、「デジタルでなければ体験できない価値」を提供することにあると考えられる。

現在、スポーツ界を取り巻くテクノロジーは世の中にあふれている。これらのテクノロジーやソリューションは、以前に比べコストも下がってきており導入のハードルも下がっている。しかし、テクノロジードリブンではデジタルの価値を最大化して創出することは難しく、導入の前に、「どういうファン、サポーターやパートナー企業」に「どういう価値」を提供するかという視点を明確にするとともに、データを基にして戦術構築やアスリートマネジメント、あるいはマーケティングやブランディングに活かす場合にも、何を目的とし、どのように運用するのかという点を前提としたうえで、組織全体として取り組んでいくことを忘れてはならない。

また、これらは単独のスポーツ組織やクラブの取り組みだけでは十分とは言えない。パートナー企業やクラブが拠点を置く地域のステークホルダーとのリレーションによって、価値の相乗効果が生まれると考えられる。その意味においてデジタルテクノロジーを活用しつつ、SROIを可視化することによってスポーツの社会的価値を高め、結果としてステークホルダーとの協力体制を強化していくことが、今後のスポーツビジネス展開におけるカギとなるに違いない。

本稿で見てきた要素をつなげることで、デジタルとデータ活用、パートナー企業との協業の工夫を通じてスポーツビジネス全体が循環する形で、従来型のスポーツのエコシステムを変革し、スポーツビジネスを発展させるチャンスが訪れているのである。

筆者

宮下 剛
Go Miyashita

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
執行役員 Deloitte Digital Japan Lead. Customer & Marketing組織責任者

CRM組織全般において戦略立案からデジタル変革まで業界横断で手掛ける。近年はCRMおよびデジタルの知見を活用した社会課題解決、NPO支援、スポーツビジネス、元プロスポーツ選手のキャリアチェンジ開発等にも取り組む。早稲田大学大学院非常勤講師。

 

森 正弥
Masaya Mori

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
執行役員 Deloitte Digital Partner

外資系コンサルティングファーム、グローバルインターネット企業を経て現職。ECや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。DX立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みをもつ。日本ディープラーニング協会 顧問。

 

森松 誠二
Seiji Morimatsu

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
アソシエイトディレクター/カスタマー・エクスペリエンス・デザイナー

製造・流通・小売、エンターテインメント、保険、エネルギー、ライフサイエンス業界に対してCRMを中心に20年以上のコンサルティング経験を有する。戦略策定から顧客体験や業務設計、IT 導入・運用およびチェンジマネジメントの全工程における豊富なプロジェクト経験を元に、現在は顧客体験(カスタマー・エクスペリエンス:CX)の向上のためのコンサルティングに注力し、特にスポーツビジネス、MaaSおよびヘルスマネジメント領域における顧客体験の設計を担当する。
公益財団法人 日本ハンドボール協会 戦略企画委員会 委員、日本モビリティ・マネジメント会議(JCOMM)会員、JCoMaaS会員、Customer Experience Professional Association 会員。

 

里﨑 慎
Shin Satozaki

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
シニアバイスプレジデント

デロイトのスポーツビジネスグループの立ち上げメンバーとして、NPBやJリーグの組織再編、およびJFAやJLPGAのガバナンス体制整備支援業務等にプロジェクトマネージャーとして関与。スポーツに関連する協会、リーグ、クラブやそのステークホルダーであるスポンサー、自治体、公官庁等との事業推進の経験を多く有する。公認会計士。

 

1. 例えばFC今治の事業説明資料等での言及が見られる; 株式会社今治.夢スポーツ, “FC今治の挑戦 ~四国初のサッカー専用スタジアム~”, 2019/10/31:
https://www.mext.go.jp/sports/content/20191224-spt_stiiki-1385575_00001-15.pdf
2. スポーツ庁, “スポーツ関係のCOVID-19感染拡大予防ガイドラインについて”, 2021/3/11アクセス:
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop01/list/detail/jsa_00021.html
3. KISWE, 2021/3/1アクセス: https://www.kiswe.com/
4. Monumental Sports & Entertainment and Kiswe Launch “Virtual Gameday” – a New, Second Screen Offering for Start of Washington Wizards 2020-21 Season,MONUMENTAL, 2020/12/18: https://monumentalsports.com/2020/12/monumental-sports-entertainment-and-kiswe-launch-virtual-gameday-a-new-secondscreen-offering-for-start-of-washington-wizards-2020-21-season/
5. KISWE POWERS BTS’ INNOVATIVE VIRTUAL CONCERT “MAP OF THE SOUL ON:E”, KISWE, 2020/10/14:
https://www.kiswe.com/news/kiswe-powers-bts-virtual-concert-map-of-the-soul-on-e
6. Kiswe, “VIRTUAL EVENTS & CONCERTS”, 2021/3/1アクセス:https://www.kiswe.com/online-events
7. Kisweとパートナーシップ契約締結, スポーツブランディングジャパン, 2020/5/1: http://www.smg-world.com/release/130
8. スタジアム外からもマリーンズを応援!! グッズ付「リモート応援チケット」販売のお知らせ, 千葉ロッテマリーンズ, 2020/6/12:
https://www.marines.co.jp/news/detail/00005427.html
9. 8/11(火)の阪神戦にて、「バーチャルハマスタ」の無料トライアルを開催!, 横浜DeNAベイスターズ, 2020/8/4: https://www.baystars.co.jp/news/2020/08/0804_01.php
10. VIRTUALバスケットLIVE, ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ, 2021/3/1アクセス: https://www.bleague.jp/virtual_basketlive/guide/
11. 「docomo 5Gマッチ」開催について, 鹿島アントラーズ, 2020/9/27: https://www.antlers.co.jp/news/game_info/76398
12. デロイトトーマツ, “スポーツ観戦体験グローバル調査レポート-サッカー編-,2019/6: ”
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/operations/articles/crm/football-spectator-experience-report.html
13. 芳文社 週刊漫画TIMES, “神様のバレー”, 2021/3/1アクセス: https://shukanmanga.jp/work_list/work/?no=27
14. ラグビー大番狂わせの裏に「世界一のデータ分析」, 日経XTECH, 2016/3/14: https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/feature/15/110200006/030100019/
15. ITラグビー、代表に浸透 GPSつけ数値「見える化」, 朝日新聞, 2019/7/12: https://www.asahi.com/articles/ASM7C66QRM7CUTQP01M.html
16. ラグビーワールドカップ2019™日本大会についてのご報告, Rugby World Cup Limited, 2019/11/3: https://www.rugbyworldcup.com/news/538422
17. 「 ラグビーワールドカップ2019TM日本大会 開催後経済効果分析レポート」「 ラグビーワールドカップ2019TM日本大会 大会成果分析レポート」 公開のお知らせ,日本ラグビーフットボール協会, 2020/6/24: https://www.rugby-japan.jp/news/2020/06/24/50498
18. トップアスリートを世界に導く“人と技術”, Sony Business Solutions, 2020/5/13: https://go.sonybsc.com/B/chamber45
19. Ibid.
20. ONE TAP SPORTS, Euphoria, 2021/3/1アクセス: https://one-tap.jp/
21. ONE TAP SPORTS 導入実績, Euphoria, 2021/3/1アクセス: https://one-tap.jp/#section-achievement
22. KINEXON,2021/3/2アクセス: https://kinexon.com/sports-technology
23. アジア初!トラッキングシステム「KINEXON」導入のお知らせ, アルバルク東京, 2020/5/20: https://www.alvark-tokyo.jp/news/detail/id=15443
24. Sheffield Hallam University, “LONDON SPORT”, 2021/3/11アクセス: https://londonsportsroi.org/
25. スポーツの社会的影響度を可視化する、「Sports Social Impact Lab」始動!, フューチャーセッションズ, 2020/11/12: https://www.futuresessions.com/news/18729/

>> グローバル版PDFダウンロード >> 日本の視点PDFダウンロード
お役に立ちましたか?