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デジタルツインの実現アプローチ

レジリエンス経営を支えるビジネスプラットフォームとは <第3回>

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、企業は今まで以上にレジリエントな経営が求められる。ビジネスに柔軟性や即時性などをもたらす「デジタルツイン」をどのように実現するのか、導入アプローチや注意すべきポイントを示しながら詳述する。

前回までの振り返り

第1回では、COVID-19を経験し自身のレジリエンスの再考を余儀なくされた中、ネットワーク型のデジタルビジネスプラットフォームの構築がその解の1つであることを提示した。第2回では、デジタルビジネスプラットフォームはデジタルコアと定義した機能によって成り立っており、その機能をビジネスシーンに適合させ、新たな価値の創造やビジネスのアジリティを高めるテクノロジーとしてデジタルツインの可能性を紹介した。企業は、不確実性が高い事業環境下では、デジタルツインのテクノロジーを積極的に活用し、ビジネスプラットフォームを高度化し続けていくことが求められる。

最終回となる今回は、これまで紹介してきたデジタルツインをどのように導入していくべきか、またデジタルツイン導入のようなデジタル変革の推進において注意すべきポイントは何かについて、デロイト トーマツが、これまで多くのお客様との取組の中で得たナレッジとともに考察したい。

 

デジタルツイン導入に向けたアプローチ

デジタル変革に向けた取組を成功に導くためには、適切なアプローチをとる必要がある。デロイト トーマツはデジタル化成功への道筋として、Think Big / Start Small / Scale Fastの3段階アプローチがベストプラクティスだと考える。

図表1:デジタルツイン導入アプローチ
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1. Think Big

ファーストステップであるThink Bigとは、導入構想の段階を指す。最新のデジタルトレンドや他社事例を理解したうえで、自社の顕在化している課題を、制約条件を取り払いどのように解決可能かを着想する。このフェーズにおいては、デジタルツインにより解消すべき課題の特定と、実現アーキテクチャの整理がポイントとなる。まずデジタルツインにより解消すべき課題の特定については、ビジネスをデジタル上に再現するために必要なデータを整備・収集し、シミュレーションモデルの精度アップを図ることで、何をビジネス上の価値として定義できるかや、どれほどの潜在的ROI改善が見込めるかなど、適用シナリオやユースケースを作成してデジタルツインとの適合性を評価するとともに優先度付けを行う必要がある。次に実現アーキテクチャの整理だが、昨今はクラウドサービスの浸透をうけ、デバイス等エッジ側の処理性能が向上し、エッジコンピューティングを実装した、分散アーキテクチャモデルの適用実績も増えてきている。特に、デジタルツインのように、フィジカル空間をデジタル上にリアルタイムで精度高く、セキュアに実装するためには、ネットワーク負荷や遅延、プライバシー保護など、フィジカル空間とデジタル空間を橋渡しする機能レイヤーの役割を明確にして実現プラットフォームとして設計・実装していくことが重要である。こうした考えはクラウドベンダーからプラットフォームサービス(PaaS)として提供されており、投資を抑えて素早く効果的な検証を行う初期段階においては有益なリファレンスモデルとして活用すべきである。
 

2. Start Small

次のステップであるStart Smallは、Think Bigのステップで着想したアイデアのフィジビリティ、効果を確かめる検証の段階である。デジタル化アイデアのプロトタイプを作成し、その検証シナリオの評価方法やスケールするための拡張ステップを整理した上で、検証を回しながら小さな成功体験(Quick Win)を作り出すことが重要である。また、同時に決定したユースケースのデジタルツインを作成するために必要なデータを特定し、収集していく中で、どのようなデータが存在し、どのように収集・保管でき、どのように統合するのかを並行して評価、計画する必要がある。データ収集においては、既存の設備に対して、如何に効率的にセンサーやカメラ、測定機器など、新しい情報と統合してデジタル上で価値の創造ができるか見極めていくことが肝要である。
 

3. Scale Fast

 最後のステップであるScale Fastは、本格導入の段階である。アクションを迅速に進めるには、深い知見を持ったダイナミックなチームが必要であり、機能横断的なケイパビリティ、創造的思考、保有する資産やアセットの組み合わせにより、クイックな拡大が可能となる。そのために、コンセプト検証で得た成功体験をナレッジ化し、他の領域・部門にいつでも展開・活用できる状態に整理しておくことが、成功を素早く拡大させるために必要である。特に、膨大なデータを効果的に活用するデジタルツインにおいては、ビジネス担当やデータ活用推進担当、データマネジメント担当など異なるロールで共通認識を容易にするデータモデル、メタ情報の整備・標準化は、データ活用のサイクルを回し続けていく上で時間を要する活動であり、早期に取り組むべきである。


ここまでデジタルツイン導入アプローチについて紹介してきたが、陥りがちな罠についても触れておきたい。デジタル変革に取り組む企業では、取組が単発となりPoCから脱することができなかったり、PoCを経てデジタルツールの導入まで進むが、そこからスケールできず活動が停滞するといったケースがよくみられる。こうしたケースでは、デジタル変革を新しい技術導入と曲解し、「手段が目的化」した状態に陥っていることが多い。もちろんデジタルツインは企業を変革する強力なソリューションだが、デジタルツインを導入し活用することが目的なのではなく、その先にあるビジネスに対する新しい価値の創造が目的であることを忘れてはならない。そのために例えば、課題の当事者であるビジネス担当に早い段階でインタビューを行い、定期的なコミュニケーションを通じて真のPainを理解し、目的から逸脱するリスクを低減するといった工夫を継続していくべきである。

 

デジタル変革を可能にする組織の在り方

これまで、「レジリエンス経営を支えるビジネスプラットフォーム」とは何か、どうビジネスに活用することができるかを論点にしてきたが、ビジネスプラットフォームをデジタル化しただけでは柔軟で強靭なビジネス基盤が構築できたとは言えない。つまり、多くの企業で「デジタル化技術を導入すること」が目的となって効果を生み出すまで至っていないケースが散見される。その要因は何なのだろうか?

図表2:DX推進における課題
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図表2は、過去にデロイト トーマツが「日本の企業のDX推進における課題感」を調査した結果である。組織・従業員のリテラシーの欠如、組織内のデジタル人材の欠如、DX推進体制・仕組みの欠如など、多くの企業で組織・人材面での課題を抱えていることが明らかになっている。事実、日本の多くの企業ではITベンダーに依存した形でシステムを開発、運用してきた背景がある。それにより自社のIT部門は、企画、要件定義、および開発においてはITベンダーとの調整役が中心となり、結果的にデジタル変革をフルライフサイクルでリードできる人材が不足している。それが上述の日本の企業が多く抱える課題感に繋がったと考える。これは海外とは異なる日本特有の構造課題であり、デジタル変革を進める際、新たなテクノロジーなどの導入検討と合わせて組織変革・人材育成の議論や、社内外のリソースが連動して価値創出するデジタルエコシステムの形成について検討が必須となる。そこで、日本企業にとって、デジタル変革を成功に導くために組織面での改革として取るべき行動とは何だろうか。

図表3:組織面の改革に必要な5要素
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図表3は、デジタル変革を成功に導くために組織面で必要な5つの取組を示している。中でも重要なのがデジタル人材の育成・確保である。これは、前述した多くの日本企業が抱える課題にも関連しており、最初に着手すべき取組である。デジタルリーダー・デジタル人材を社内外から配置し、デジタル推進組織の社員に対しては小規模チームに参加させてアジャイル型組織の下で経験値を蓄えていく。特にデジタルツインを推進する場合、ビジネスプロデューサーに加えて、データアーキテクトやサイエンティストの確保も必要だ。つまり、物理空間をデジタル上に写像し、実体やプロセスを正確にシミュレーションするために、多くの実データセットとモデリング技術、フィードバックパラメータを取り扱うチューニング知見が求められる。こうしたイノベーティブな考えや活動を推進する人材とデジタルツインモデルにより課題を解決したいビジネス部門の人材が協働して、新しい価値をQuick Winの形で創造することが求められる。
 

デジタルツインは、前述した通り検討範囲が多岐にわたり、データ収集やモデリング、アナリティクスなど専門的な知見も必要とされるため、一朝一夕では実現できない。したがって、自社ですべての機能、役割を担う必要はなく、うまく社外の知見あるパートナーや実績のあるプラットフォームを利用し、自社の強みとして担保すべきビジネス価値創造を優先したチーム編成とロールベースのアサインを行うことが現実的なアプローチといえる。特に、プラットフォームを提供するパートナーとの協業、および彼らが整備している多くの共通化機能(データモデル、API、用語辞書、セキュリティ規約)を活用するための指針を作成しておくことも忘れてはならない。こうして、外部協創・アライアンスにより企業間・産業間の壁を越えて価値を創出する新たなビジネスエコシステムの形成が現実のものとなる。

 

最後に

本記事は、3回にわたって「レジリエンス経営を支えるビジネスプラットフォーム」について説明してきた。事業環境の不確実性が増す昨今、従来型とは異なるネットワーク型のデジタルビジネスプラットフォームの必要性とそのコア機能として持つべきケイパビリティ、そしてそれらを支えるテクノロジーとして近年注目を集めているデジタルツインについてビジネスシーンやアーキテクチャの機能レイヤー、また、これらのデジタル技術を導入する方法および活用のために取り組むべき行動としてThink Big / Start Small / Scale Fastの導入アプローチを紹介してきた。
当然、これらすべてを一度に実行することはできないが、事業の継続性を最優先に考え、新たなビジネスを創出するDX投資案件を選定し、ポートフォリオ管理していくことが重要である。急激に変化する事業環境下においては、ネットワーク型ビジネスプラットフォームの機能を活用し現実の世界をデジタル上に精度高く連動させることでより正確で適切な判断を可能にするレジリエンス経営が求められ、これを実現するデジタルツインを様々なビジネスシーンに適用していく実践力がビジネス上の勝敗を決することになるだろう。その道のりは容易くはないが、デロイト トーマツは、企業変革のカタリストとしてともに歩み、企業の更なる成長に貢献したいと考えている。

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