Posted: 27 Jul. 2021 3 min. read

第3回:スマートファクトリーにおけるロボットの役割とは

シリーズ:ロボットビジネスを俯瞰する

前回のブログ連載記事では、ロボットの定義拡大とその提供価値の拡大を考察した。ロボット単体ではなく、全体最適の中にどうロボットを位置づけるのかという点がポイントであった。ロボットの提供価値のステップ3は、「知能化したロボットが様々なものとつながり、全体として組織の認知・思考能力を代替・強化」であったが、今回の記事では、このステップ3の具体的事例について、工場のものづくり用途で利用される産業用ロボットを対象とし、スマートファクトリーの取組でロボットが果たす役割ついて考察したい。

 

スマートファクトリーとは何か

スマートファクトリーという用語の定義は様々であるが、工場現場のオペレーション自動化・最適化にとどまらず、IT(オフィス環境での人の認知・思考能力に相当)とOT(Operation Technology:工場環境での人の身体能力に相当)が相互につながり、工場の現場の判断・知見とサプライチェーンの他の部分や広範な企業活動が統合されたもの、と捉えることが適切であろう。ここでは、「広範なネットワークで自らパフォーマンスを最適化し、リアルタイムまたはほぼリアルタイムで新たな状況に自ら適応して学習し、そして自律的に生産プロセス全体を動かすことができる、柔軟なシステム」と定義したい(詳細はデロイト「The smart factory」を参照)。

 

スマートファクトリーにおけるロボットの役割

スマートファクトリーは製造現場の最適化のみならず、製造現場を起点とした企業の全体最適を志向した活動とも言えるが、このような前提でロボットが果たす役割とは一体何であろうか?ロボットはその歴史的経緯から労働者の身体的作業を代替するというOTがその対象であり、生産現場でいかに作業者の身体的・肉体的業務を自動化するのか、ということを目指して発展してきた。ここでの自動化はあくまで決められた単純動作を繰り返し行うことであった。

しかしながら、デジタル×データによるスマートファクトリーの流れの中で、ロボットも知能化し、デジタルプラットフォームと組み合わせることで、認知機能が強化され、製造現場を中心としつつもその活躍の場を拡大させている。ここで、スマートファクトリーにおけるデジタルの活用パターンを3つ示したい。

1つ目はIoT(Internet of Things)といわれるセンサー等を使ったモノのデータ化である。

2つ目はIoS(Internet of Service)といわれる行為(=Service)のデータ化である。工場内でボルトを閉める際にトルクレンチをデータ化させるなどがその例である。

3つ目はIoP(Internet of People)というヒトの属性のデータ化である。

IoTが基点となりまずモノ、IoSでモノを活用したサービス行為、そしてIoPでモノとサービス行為を組み合わせたヒトの活動とデジタルを活用したデータ化は最終的にヒトに帰着する。 IoTの世界ではセンサーと使った設備のデータ化によって製造現場の製造過程をデータ化し、最終的にはヒトの認識機能を高める取り組みとも理解できる。

このようなデジタル活用パターンを念頭に事例を紹介したい。ある欧州のロボット企業は自社のロボットとデジタルプラットフォームを組み合わせて、生産工程の業務効率化(例:ロボットの故障予知によるダウンタイムやメンテナンスコストの削減)や高付加価値化(例:カスタマイズ塗装を容易に実行できる塗装ロボット)を両立し、マスカスタマイゼーションを実現するトータルソリューションを提案している。デジタルプラットフォームがOTとITを統合し、OTの領域でロボットが自律稼働している状況である。当該ロボットシステムは、EV工場でも導入されている(この文脈でのロボットは様々なものとつながり、全体を最適化するコアデバイスとして機能・貢献している)。

上記の事例を手掛かりに、未来を妄想してみると、消費者である自動車購入者(最終顧客)がスマートファクトリー内の塗装ロボットを自分のスマホから遠隔操作し、100%自分好みの外装にするという日も近いかもしれない。従来の産業用ロボットは工場内のみで稼働し、一般消費者との接点は皆無であったが、将来的には産業用ロボットは一般消費者の欲しい物を代理で作ってくれる存在とも捉えることができるかもしれない。このような前提に立つと、ロボットはスマートファクトリーによりマスカスタマイゼーション(量産化によるコストメリットと消費者の個別パーソナルニーズ充足の両立)を実現するためのイネーブラーとも理解できる。

そして、IoTの観点のみならず、IoSやIoPを組み合わせることにより、さらなる工場におけるロボットの高度な活用が期待できる。工場内に残る人手に頼った作業にと連動し、人の行為及びその人の属性をデータ化させることにより、個々の行為のフォローをロボットに行わせることも期待できる。このような、更に進化した人協調型のロボット活用の取り組みは、人とロボットの共創関係と言える。


4.おわりに

本稿では、スマートファクトリーにおけるロボットの役割を取り上げた。事例としてデジタルを活用した工場内の産業用ロボットの事例を紹介した。スマートファクトリーの実現のためには、ロボット単体に囚われず全体最適を実現する中で、OT実現手段として有機的にロボットを位置づけていくか、いかに人とロボットの共創の姿が描けるかが重要なポイントであろう(別の言い方をすれば、現実の物理空間においてハードウェア起点で人の身体能力の自動化という観点から組織のデジタルトランスフォーメーションを実現していくこととも言える)。このようにハードウェアとしてのロボット(身体能力のみでスタンドアローン型)ではなく、ソリューションプロバイダーとしてロボット(身体+認知・思考能力を兼ねそろえたコネクティッド型)が意識されると、ロボットのサービス化(Robot as a Service: RaaS)が登場してくる。この点については、次回以降に考察を進めていきたい。

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上村 沢雄/Sawao Uemura

上村 沢雄/Sawao Uemura

デロイト トーマツ グループ マネジャー

デロイトトーマツコンサルティング合同会社所属。IP&C(Industrial Products & Construction)セクター担当として、業界全体のトレンド分析・将来見通しのほか、ロボット、物流領域のプロジェクトにも従事。ロボット関連の業界団体委員も務める。主な寄稿記事『海外サービスロボット事情〜業務用途における主要事例紹介〜』一般社団法人日本ロボット工業会機関誌『ロボット』2020年5月号(No. 254)掲載

鈴木 淳/Atsushi Suzuki

鈴木 淳/Atsushi Suzuki

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

重電・重工業界、航空業界、産業機械業界の製造業および商社を中心に、サステナブルを見据えた事業戦略、DX戦略、オペレーション・IT改革、事業統合等、広範囲なコンサルティングサービスを手掛けている。 外資系コンサル、IT系コンサルを含めて長年業界リーダーとして活躍。 関連するサービス・インダストリー ・産業機械・建設 >> オンラインフォームよりお問い合わせ