創薬におけるDXの動向 ブックマークが追加されました
AI、量子コンピュータ、ロボティクス技術をはじめとする先端テクノロジーが創薬の未来を変える!外資系製薬企業が先行する中、内資系もデジタル変革に挑む。医療ニーズの変化に対応し、創薬のコスト削減と効率化を実現する最新動向を全4回で解説。
近年、新薬ターゲットが希少疾患等に代表される未充足な医療ニーズにシフトしていることなどによって、製薬企業の研究開発の生産性が低下している。当社が実施した、グローバルにおける製薬企業を対象とした調査においても研究開発投資のIRR(内部収益率)は10%(2010年)から1.7%(2020年)にまで低下しており、従来型の創薬手法における成功確率の低下や開発コストの上昇といった要因に対し速やかに手を打つ必要が求められている。
そのような課題に対し、近年AIや量子コンピュータを活用することで劇的に創薬プロセスを効率化しようという取り組みが外資系製薬企業を中心に生まれつつある。過去の知見や膨大なデータに基づき新たな価値を産み出すAIと、現実を模したシミュレーションによって未知の分野でも正確な予測結果が得られる量子コンピュータを組み合わせることで、創薬の生産性を飛躍的に高める狙いである(図表参照)。
<図表:創薬におけるAIと量子コンピュータの差異>
当社の過去の試算では、AIがR&Dコストの69%を削減し、期間を56%短縮する可能性を示したが、現時点でAIを中核とした創薬プロセスから新たなパイプラインが徐々に生み出されており、指数関数的な技術の進歩によって、5年後には世界のパイプラインの多くがAIから生み出されている可能性も考えられる。
そのような期待から、大手外資系製薬企業を中心としてAI創薬技術の獲得競争が活発化している。近年、直接投資では1件当たり数百億円を超える大型案件も報告されており、AI開発技術者の獲得では、GAFAに匹敵する巨額の報酬を提示して数百人単位で採用を行い、業務のあらゆる課題をAIで解決することを志向する企業も出現している。
一方、内資系製薬企業ではこのようなAI活用の動きは遅れているのが現状である。
例えばAI活用に対するビジョンや戦略の立案を行わないまま、ボトムアップで現場課題を解決するAI技術の導入を進めた結果、研究員に十分に活用されないといった課題も当社のこれまでの調査から明らかとなっている。
このような課題を打破するために、一部の製薬企業では外部からデジタルに精通した役員を採用し、強力なトップダウンにより、研究プロセスのデジタル変革を推進し始めている。今後、AIや量子コンピュータといったデジタル技術を競争優位の源泉と考え積極的な投資を行う内資系製薬企業が増えてくることが予想される。
本連載では、AIや量子コンピュータといったこれからの創薬プロセスを変革する先端技術活用の最前線について複数回に分けて述べる。
【シリーズ】革新的な技術の活用による創薬の新たな世界
執筆者
眞砂 和英/Masago Kazuhide
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ライフサイエンス&ヘルスケア シニアマネジャー
製薬企業にて創薬研究に従事後現職。製薬、医療機器メーカーに加え、民間保険会社や通信系企業といった異業種企業を対象に、最新のデジタル技術や医療データを活用したライフサイエンス・ヘルスケア業界への新規事業検討プロジェクト中心に手掛ける。
岩田 史也/Iwata Yasuhiro
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ライフサイエンス&ヘルスケア マネジャー
化学生命工学における博士号取得後、現職。ライフサイエンス・ヘルスケア業界におけるイノベーション創出をテーマに、製薬企業を中心として、最新テクノロジーや医療データを起点とした新規事業検討およびR&D変革に関するプロジェクトを手掛ける。