Posted: 28 Nov. 2024 5 min. read

創薬におけるロボティクスと仮想化技術の活用

革新的な技術の活用による創薬の新たな世界シリーズ 第4回

ロボティクスと仮想化技術が創薬分野で大きな変革をもたらしている。AIを搭載した自律型ロボットやラボオートメーションにより、実験の精度と効率が飛躍的に向上。さらに、デジタルツイン技術が研究開発プロセスを加速させ、疾患メカニズムの解明や薬物作用の予測が可能になっている。これらの先端テクノロジーが、創薬の未来をどのように変えるのか、最新の動向を詳しく解説する。

 

第2回で述べた通り、AI創薬においては自社データによって学習された独自のAIがデザインする候補物質のデータを実験ロボットや仮想化空間に構築したバーチャル実験環境に取り込ませ、絶え間なく高速に生み出される化合物や抗体のデータを読み込ませることによってAIを更に強化する、こういった創薬の価値増幅プロセスの構築が、将来的な製薬企業のコアコンピタンスとなると考える。我々はこのサイクルにおいて、独自のデータを“価値創出の起点”、AIを“競争優位の源泉”、そしてロボティクスと仮想化技術を“価値創出の加速”を担う中核技術と定義した。

今回は新たな価値創出を高速に行う可能性を秘めたロボティクスと仮想化技術の動向を概説する。

創薬におけるロボティクス技術は、近年AIを搭載し作業を自律的に最適化する“自律型ロボット”と、複数のロボットを組み合わせ研究者の一連の実験を全て自動化する“ラボオートメーション”が登場し、ヒトを超える精度や実験量を実現しつつある。

自律型ロボットでは、細胞培養や化合物合成自動化、抗体生成の自動化に加え、最近ではマウスへの注射による投薬を自動化するロボットまで開発されており、マテリアル調整から評価までの幅広い業務において研究員業務の代替を目指した技術開発が行われている。

一方ラボオートメーションでは、実際に外資製薬企業や創薬スタートアップで低分子化合物や抗体の合成・生成・アッセイを自動的に行うシステムが構築され、通常1カ月程度かかる低分子化合物の合成~アッセイサイクルを2時間~数日に短縮する成果も報告されている。

これら技術は汎用品として販売されているケースは限定的であり、高度な専門性/ノウハウを必要とする実験系を対象に、各製薬企業は機器メーカー等と共同研究形式で構築・導入しているのがほとんどである。

一方、仮想化技術の一つであるデジタルツインにおいては、ヒト・製品・施設および設備のシミュレーション用途での活用が想定される。当社ではこれらを創薬の研究開発プロセスに当てはめて12のユースケースをトップダウンに抽出している。

特に創薬における基礎研究プロセスでは、仮想的な細胞や臓器、身体反応の制御プロセスを空間に構築し、①疾患メカニズム解明/創薬標的同定や②細胞・臓器に対する医薬品作用の予測③臨床試験における薬物動態・臨床効果・安全性予測に活用が可能と考えている。実際に文献や臨床試験情報を組み合わせた疾患モデルを構築し、ターゲットノックダウンの影響をシミュレートするソリューションや、医薬品候補(タンパク質)の構造をデジタル空間に再現し、その安定性をシミュレーションすることでより生産性の高いものを見出すソリューションも報告されているなど、仮想化技術を用いてWet研究そのものを代替して生産性を高める取り組みが進められつつある。

 

未来の創薬を拓く ― 結びに代えて

今後の創薬活動においては、既に実証が進んできたAIのみならず、量子コンピューティングやロボティクス、仮想化技術といった今後の破壊的技術を組み合わせ、それぞれの価値を最大化することが競争優位の源泉となるであろう。これらの技術の使いこなしには高度な専門知識やノウハウが必要となり、技術が成熟してから取り組むのでは大きく出遅れることになる。製薬各社において、積極的に技術投資や人材育成を行い、技術活用の見極めを適切に行うことが求められる中、当社にも最先端技術を用いる創薬プロセスの変革に向けたビジョン策定から実際の技術実装を支える基盤構築まで、幅広い問い合わせをいただいている。

製薬各社の創薬プロセス改革に対し、我々の知見が少しでも寄与できれば幸いである。

【シリーズ】革新的な技術の活用による創薬の新たな世界

執筆者

眞砂 和英/Kazuhide Masago
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ライフサイエンス&ヘルスケア シニアマネジャー

製薬企業にて創薬研究に従事後現職。製薬、医療機器メーカーに加え、民間保険会社や通信系企業といった異業種企業を対象に、最新のデジタル技術や医療データを活用したライフサイエンス・ヘルスケア業界への新規事業検討プロジェクト中心に手掛ける。
 

岩田 史也/Fumiya Iwata
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ライフサイエンス&ヘルスケア マネジャー

化学生命工学における博士号取得後、現職。ライフサイエンス・ヘルスケア業界におけるイノベーション創出をテーマに、製薬企業を中心として、最新テクノロジーや医療データを起点とした新規事業検討およびR&D変革に関するプロジェクトを手掛ける。

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