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病院会計監査人の1年(第2話)

医療法人トーマス(一般200床)に対して会計監査を行うロイト監査法人の公認会計士 間岩秋吉の視点を通じて、外部の目から見た財務会計上のポイントや留意点をケーススタディの形で解説する 「病院会計監査人の1年」。

今回のテーマは『監査の批判的機能と指導的機能』です。

1.ストーリー:監査の批判的機能と指導的機能

「事務長、監査法人って、腰は低いけど何か偉そうにいろいろ言ってくるじゃないですか?」

「まあ、そういう仕事だからね。」事務長の等松太郎が事務室でコピーをとっていると、経理担当の石上がコピー機の前にある机に座ったまま話しかけてきた。

「だいたい指摘事項の6~7割くらいは前々から私達だって分かってることじゃないですか。時間と人に余裕があれば今すぐに解決できるっつうの・・・」石上に北関東訛りが出始めると、それは少し興奮している証である。「事務長、前にもお話しましたが、事務長が入社される前、別の監査法人が入っていたことがあったんですよ。」

「あー、前の山本事務長のときだっけ?10年くらい前の話でしょ。」

「あのときも財務調査で問題点をいろいろ指摘されたんですけど、もう本当に彼らは性格悪いし、仕事の邪魔なんですよ。病院の悪いところ指摘ばかりして、解決策を出ださないんだから。」「そうなの?」「受発注業務の効率化を図るべき、とか、実地たな卸の範囲を効率性と有効性から判断すべき、とか。じゃあ、具体的にどうしろっつうの。事務をもう一人増やしてくれるんかい!っていう話ですよ。」石上は以前よほど嫌なことがあったらしい。

「まあまあ、石上さん、ほら、飴ちゃんでも舐める?」「はい、・・・っていうか、これ私のです。」等松は石上の机に置いてある小瓶を持ち上げ、飴玉を取り出しながら話を続けた。

「監査法人というか、会計士個人によるかもしれないけれど、彼らは批判するだけではなく、ちゃんと指導してくれるよ。監査法人としても適正意見の監査報告書を出したいわけだから、指導的機能がしっかり発揮されるはずなんだ。」

「監査報告書を出すのが商売だから、監査報告書を出せないような問題点は放置しない、ということですか。結局は商売ですね、商売。」

「んー・・・。まあ、ともかくね、我々の経営資源を踏まえて、どの方法だと最適な解決策になるのかを具体的に示してくれるし、我々が納得いかない場合はカンカンガクガク議論のうえ落しどころも探ってくれるし。とくにロイト監査法人の青木さんは信頼できる人だよ。」

「ふーん、青木さんね。にわかには信じられませんが。部下のあの若造なんかニコニコしてるだけじゃないですか。」おまえさんだって若造だろうが、と思いながら等松は「間岩さんのことか?まあまあ、とにかく石上さんが頼りなんだからさ、監査対応頼んだよ」と言い残し事務長室へ戻った。

「石上さん、お忙しい所ありがとうございました。現金管理業務の内容がよく理解できました。」ロイト監査法人に入所して4年目の間岩秋吉は、石上に現金管理についてのインタビューをしていた。「仕事が忙しいんですけど、もう今日はこれで終わっていいですか?」石上が愛想なく席を立とうとする。

「そうですね、また分からないことが出てきたときは、明日あらためてご連絡します。」「はーい、じゃあまた明日・・・。」無表情に答える石上に間岩が何気なく笑顔で話しかけた。

「それにしても、こんなにたくさんの業務を石上さんお一人でこなしているとは、まるでスーパーマンのようですね。お体壊しませんか?」石上にとって想定外の言葉だったらしい。「・・・べ、別に・・・、当たり前だし、ずっとやってるし、それにスーパーマンじゃなくてウーマンなんだけど・・・。」顔が赤いぞ、石上。

「あは、失礼しました、女性ですもんね。・・・あのね石上さん、今日はお忙しいそうだから明日にお話をしようかと思っていたんですけど、ここの決裁の業務フローのところですが・・・」間岩が石上の話を聞きながら描いた業務フロー図を指差し、話し始めた。「決裁のタイミングをここにずらして、現状の伝票の体裁をもう少し整えれば、内部統制が効いたまま仕事をもう少し効率化できると思うんですけど、どう思われますか?」「え?・・・たしかに・・・そうかも・・・。でも、そんなことしていいんですか?」

「はい、これで幾分かは石上さんのお仕事が楽になるかと思うんですよ。あらためて私から事務長へ業務フローの見直しを相談してみますね。」「・・・あ、はい・・・私からも事務長へ話をします・・・」

「ありがとうございます。その前に、今私が考えた方法に不都合があるかどうか、もう少し確認していただけますか?もし不都合がある場合はいつでも仰ってください。何度でも検討しますから。」

等松がFAXを取りに事務室へ入ると、石上がひとりニヤニヤして3時のおやつを食べている。「お、今日のおやつは相当美味しいみたいだね。」「違いますよ、事務長。」「え、じゃあ何?気持ち悪い。」「ひどいなあ、事務長は。」FAXを確認している等松に、石上が話しかける。「事務長、今度の監査法人は前とちょっと違うかも。」予想外の発言に等松は驚きながら「ほら、青木さんは信頼できるって言っただろ?」と得意げに答えた。「違いますよ、事務長。青木さんなんて知りません。間岩くんですよ、ま・い・わ・くん。事務長もしっかり監査対応してくださいよ。」

そういうことか、さっそく石上さんを味方にしたか、と等松は間岩の笑顔を思い浮かべた。

2.解説:監査の批判的機能と指導的機能

会計監査において監査人(監査法人や公認会計士)が果たす機能として、「批判的機能」と「指導的機能」があります(図表1 参照)。批判的機能とは、監査人が監査報告書にて財務諸表の適正性に関する意見(監査意見)を表明することを意味します。指導的機能とは、財務諸表の適正性を害するような会計処理等の誤りがあった場合に、その誤りを指摘し、必要な修正を行うよう指導ないし助言を行うことを意味します。

表1:批判的機能・指導的機能

批判的機能

監査報告書にて監査意見を表明すること(監査の主たる機能)

指導的機能

会計処理等の誤りがある場合、その修正を指導すること(監査の従たる機能)※

※監査人の批判的機能(修正指導)には強制力はないため、修正するか否かの判断は財務諸表の作成責任を負う経営者に委ねられます。

より実務的かつ簡便的に言い換えれば、監査人は会計処理の誤りを指摘するのみだけではなく、正しい会計処理を提示し、さらにはどうすれば誤りが発生しないのかという改善策の提示も合わせて行い、監査対象法人が適正な財務諸表を作成できるように導くことを意味します。すなわち「誤った会計処理を、監査人が発見し、修正する」という事後的な指導に加え、「最初から正しい会計処理をできる」ような事前的な指導を合わせて行っています。

会計監査は、財務諸表のみを見て監査意見を表明するものではありません。財務諸表は医療法人の1年間の様々な業務活動の結果を表すものであるため、会計処理の対象となる業務活動(診療行為や医薬品の購買行為など)の発生から、記帳、財務諸表の作成に至るまでのすべてのプロセスを見て、適正な会計処理が行われているか、財務諸表が適正であるかを判断します。したがって、業務プロセスそのものについても、虚偽の財務諸表の原因となる不正(意図的な誤り)や誤謬(意図的でない誤り)が発生しないような状態にあるのかも検討します。

今回、間岩が石上に現金管理プロセスのインタビューを行っているのも、上記のような考えに基づき検討をしているからです。財務諸表上の誤りを生じさせるような、業務プロセス上の欠陥の有無を把握することに加え、経済環境や業界動向、直近の業績など監査対象法人の背景も踏まえ、監査人は指導的機能を発揮していくことになります。当然ながら、指導的機能は業務の効率性や経営資源の状況も勘案して発揮すべきものであり、監査人の知見が問われます。

※本記事はデロイト トーマツ グループ ヘルスケアセクター担当者が執筆し、野村證券㈱のFAX情報として2012年から2013年まで連載されていた「病院会計監査人の一年」を最新の情報を盛り込み再構成したものです。

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