最新動向/市場予測

公営企業主要施策の取組状況調査結果について(R3.10)

公営企業の最新動向解説

令和3年10月に、総務省から経営戦略の策定、公営企業会計の適用、抜本的な改革の検討の三つの施策に関する取組状況調査の結果が公表されました。いずれの施策も一定の進捗が見られる一方で、総務省の要請期間内に取組が完了しない事業も見られます。

1. 総務省による取組状況調査結果の公表

令和3年10月29日に、総務省から令和2年度における公営企業における更なる経営改革の取組状況が公表されました。総務省では公営企業の主要施策として「経営戦略の策定・PDCA」と「抜本的な改革の検討」を改革の両輪とし、「公営企業の見える化」(公営企業会計適用、経営比較分析表)を改革の両輪を支えるものと位置付けています。このうち、経営戦略の策定状況、抜本的な改革の取組状況及び公営企業会計の適用状況について毎年調査を行い、その結果が公表されています。

<画像1>
※クリックで拡大

出典:総務省「全国都道府県・指定都市公営企業管理者会議」(令和3年1月25日開催)資料1 公営企業課関連資料  13ページ

 

公営企業シリーズにおいて、公営企業会計の適用経営戦略抜本的改革について解説してきたところですが、本稿で実際の取組状況について考察していきます。

【参考】

2. 経営戦略の策定状況について

経営戦略は、総務省により令和2年度までに策定が要請されており、今回の取組状況調査では、要請期間における最終結果が公表されたこととなります。令和3年3月31日時点において、経営戦略を策定済みの事業は5,971事業(全事業の90.8%)であり令和2年度までに未策定の事業は603事業(同9.2%)となっています。事業別にみると、令和3年度以降の策定を予定している事業数は、多い順に下水道134事業、水道102事業、宅地造成96事業となっており、各事業の事業数に占める割合を高い順にみると、と畜場事業46.2%、市場事業44.0%、宅地造成事業37.0%となっています。

<画像2>

出典:総務省による公営企業の経営戦略等の策定状況等の調査結果に基づいて、執筆者作成

【参考】

 

昨年度の調査で令和2年度中に策定予定としていた事業は全体で1,948事業であるのに対し、令和3年3月31日時点で新たに策定済みになった事業は1,703事業であることから、245事業は令和2年度中に策定を予定していたものの、結果的に間に合わなかったものと考えられ、経営戦略策定には十分な時間の確保が必要になっていると考えられます。

また、総務省では経営戦略策定済みの団体について、より質の高い経営戦略となるよう、令和7年度までの改定を要請しています。令和2年度までに改定済の事業は531事業(経営戦略策定済み事業の8.9%)となっています。

なお、経営戦略未策定事業の策定支援や改定にあたっての見直し支援のため、「策定・改定ガイドライン」や「策定・改定マニュアル」の公表に加え、令和3年度より総務省と地方公共団体金融機構の共同事業である「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業」が開始されています。

【参考】

3. 公営企業会計の適用状況について

公営企業会計の適用は、人口3万人以上(平成22年国勢調査ベース。以下、同じ。)の団体の簡易水道、下水道(公共下水道及び流域下水道に限る)については、令和2年度の予算・決算までに取り組むことが総務省から要請されていました。令和3年度においては、要請期間に間に合わなかった事業のうち簡易水道事業8事業が適用済みとなりましたが、簡易水道事業で8事業、下水道事業で1事業が取組中となっています 。

【参考】

また、平成31年1月には、人口3万人未満の団体における簡易水道及び下水道、並びに人口規模を問わず集落排水事業等のその他下水道事業についても、令和6年度の予算・決算までに公営企業会計の適用が要請されたところです。

<画像3>
※クリックで拡大

出典:総務省「全国都道府県・指定都市公営企業管理者会議」(令和3年1月25日開催)資料1 公営企業課関連資料  26ページ

 

令和2年4月1日時点と比較した令和3年4月1日における取組状況は、簡易水道事業では、「適用済」が昨年度から比較して247事業(調査時点事業数の41.4%)から250事業(同41.9%)へと増加し、下水道事業においても398事業(同24.6%)から421事業(同26.0%)と増加しています。取組中の事業も含めると、簡易水道では406事業(同68.0%)から523事業(同87.8%)へ、下水道事業では1,101事業(同68.0%)から1,465事業(同90.6%)へ増加し、いずれも80%を超えています。

人口3万人未満の団体においても一定の進捗が見られるなか、さらに人口を細分化した調査結果によると、より小規模な団体ほど取組に着手できていない実情がうかがえます。「適用済」又は「適用に取組中」と回答した団体の割合は、人口1万人以上3万人未満の団体では簡易水道89.9%、下水道92.9%であるのに対し、1千人以上1万人未満の団体では簡易水道87.9%、下水道88.4%であり、1千人未満の団体では、簡易水道68.0%、下水道69.2%と全体の取組割合を下回っています。

 

グラフ:簡易水道事業における人口区分別適用割合(適用済+取組中)

<画像4>
※クリックで拡大

 

グラフ:下水道事業における人口区分別適用割合(適用済+取組中)

<画像5>
※クリックで拡大

出典:総務省による公営企業会計適用の取組状況の調査結果に基づいて、執筆者作成

 

なお、総務省による取組状況調査では、重点事業として位置付けられている簡易水道、下水道のみ結果が公表されていますが、平成31年1月に公表されたロードマップでは、その他の事業についても、公営企業会計に「できる限り移行」することとされていることから、公表対象とされなかった事業においても取組を進めることが望まれます。

また、公営企業会計の適用促進にあたっては、マニュアル・先進事例集の公表や都道府県による支援、地方財政措置に加え、前述の「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業」によるアドバイザー派遣が令和3年度から開始されています。

4. 抜本的な改革の取組状況について

公営企業における抜本的な改革の検討は、平成21~25年度に集中的に取り組むことが要請されていたことに加え、平成26年8月の「公営企業の経営に当たっての留意事項について」(公営企業課長等通知)により引き続き推進することが要請されています。平成26年の新たな要請による取組状況の公表は平成28年3月31日時点から毎年度実施されています。

令和2年度(令和3年3月31日時点)の調査では、「民営化・民間譲渡」、「広域化等」、「包括的民間委託」を中心に取組件数が増加しました。

特に「広域化等」については、平成30年度に、令和4年度までに都道府県による水道広域化推進プラン策定が要請されたこともあり、水道事業における取組が令和元年度の20事業から令和2年度の57事業に大幅に増加しています。主な取組内容は、共同購入など管理の一元化によるものであり、できることから広域化を進める取組が広がっていると言えます。

<画像6>

出典:総務省による公営企業の抜本的な改革の取組状況の調査結果に基づいて、執筆者作成

 

(総務省による施策に関する情報は変更される場合があります。最新情報は総務省のウェブサイトでご確認ください。)

お役に立ちましたか?